目を覚ませば、そこは見知らぬ場所だった。まぁ、最後の記憶を思い出せば当たり前の結果と言えばそれまでだが。

身体を起こそうとするが、しびれているのか動けない。しかも、ご丁寧に縛られているようだ。

だが、すぐにそれだけではないことに気付く。

「これは…何故これが…っ?!」

こんな拘束ぐらい、力を使えば簡単に抜けられる。だが、力が使えないのだ。これは、冥鎌のような天使の動きを封じる呪がかけられた特殊なものだ。

見た限りでは、あの男達がこんなものを用意できるとも思わないし、自分が天に所属していた者だとわかるはずもない。なのに、使われているこれを見る限り、何かあるなと疑わない方がおかしい。

そこでふと、冥鎌は最悪の事態を想像してしまった。

「まさかっ…そんな、嘘だろ。」

そう考えれば、辻褄は合うかもしれない。元々、門の鍵自体、簡単に持ち去ることができるものでもない。いくら守りの一族の中に魔に堕ちたものを紛れさせていたとしても、隠しきれるものでもない。

「最悪だ。」

もし、自分の考えが正しければ、門のこと以上に、今回は大きな問題だということだ。

どうやって賢示達に知らせるかと、何かないかとあたりを見ながら考えていた時、はっと凛々の存在を思い出した。

「まずい…。この状態じゃ、意識が戻っても、凛々が俺を見つけることが出来ないっ!」

そうなったら、不安定になった彼女が何をやらかすか、身を持って知っているからこそ、尚の事急がないといけないと焦る。

その時だった。街で会ったあの男が姿を見せた。

「お、目が覚めたみたいだな、兄ちゃん。」

近づいてきて、しゃがんで冥鎌を見下ろす男を睨みつける。

「そんな顔しても無駄だぜ、兄ちゃん。恐くも何ともないしな。…それに、まさか有翼人だったとは思わなかったぜ。」

その言葉に、少なからず翼を持つものであることは知っていることを知る。だが、この男は天使と有翼人の違いはわかっていないようで、かえってそれはこちらに今は有利かもしれない。

「有翼人はなかなか手に入らないからな。それに、これだけ綺麗だったら、いい値で売れそうだ。」

勝手なことを言ってくれる。だが、この男から感じた魔の確認と、賢示達の状況、そして鍵のことを調べなければいけない。脱出方法も考えないといけないが、この男を放っておくこともできないから考えものだ。

きっと、この男の背後に予想が正しければ『あの女』がいるはずだから。

「さて、とりあえず、拝ましてもらおうか。」

一枚の札を取り出し、それを冥鎌の背へと手を伸ばす。すぐに、その札が何なのか理解し、避けようと必死に身体を動かす。

「へぇ、薬きいててもそれだけ動けるってわけか。」

楽しそうに言う男に、本気でやばいなと感じる。実際、結構無理やり動いているのできつかったりする。けれど、あの札だけは避けなければいけない。それにしても、その札が出てくることが、すでに後ろにいる存在に確信を持てて嫌になる。

「生憎、そこまで軟な鍛え方はしてないからな。」

「そうかい。だが、結構ぎりぎりみたいじゃねーか。」

大人しくしていた方が楽だぜと言われても、わかりましたと言うわけない。その時、いきなり部屋中に魔の濃度があがり、充満した。

冥鎌にとっては毒のようなもの。息を吸うのもつらいそれを吸いこまないように慌てて口をふさぐが、間に合わない。がくりと膝をつく。なんとか立とうとしても、立てそうにない。

腕をぐいっと掴まれ、背中に衝撃が走る。

男が札を持った手で背中を叩いたのだと、どこか冷静に考えている自分がいたが、意思を保つのがやっとの状態で、呼吸が乱れる。

これは、無理やり封印を一時的にこじ開けるようなもので、強制された強い力によって体中に走る電気のような痛みで、音としてなりそこねた悲鳴が空気を揺らす。

少し呼吸は乱れたままでもなんとか落ち着いた時には、背中に人にはない、冥鎌自身人前では出さない白い三対の翼があった。天を去った身でありながらも、光を失わないその翼が部屋を明るくする。

「なかなかのもんを持ってるじゃねーか。」

背中に張られた札のせいで、翼をしまうどころか、同時に拘束する呪によって動きを抑えられる。

完全に籠の中の鳥状態だ。

「主は兄ちゃんに興味があったみたいだが…こんな上玉なかなか手に入らないし、仕事だしな。」

今晩店に出してやるという男に、おしゃべりな奴だと思った。今ので、背後に冥鎌に興味がある奴がいることがわかった。何よりここまでできるのは、天を知るものでなければならない。

「あんなところにいた自分を恨みな。」

そう言って、男は部屋から出ていった。

「最悪だな。…凛々の奴、暴れてなければいいが。」

どっちもこっちも、最悪な状況だ。

「動けないし、だからといって商品にされるわけにもいかないし…立花が動いてくれればいいのだが。」

もし、ここが当初の目的の場所なら、難しいとわかっていても、無事だと言うことを向こうが理解してくれればいい。とにかく、凛々が暴走しないのが先決だ。

こんな時でも身内の心配をしてしまうところが、彼が大分親馬鹿なにりつつあるというのに、彼はそのへんは自覚してなかった。






あとがき
キリが悪いので短いですが今回はこれで。
次で、同じときに凛々達がどうしているか、で合流します。
冥鎌と凛々と背後にいる人との因縁云々はsidにて。