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立花に案内され、通された部屋はこの街とは似つかわない、ほとんど物のない部屋だった。雰囲気としてはエリア5の白灯達の元へ行った際に通された客間に似ているかもしれない。 ソファに座ってくつろいでいる子ども、彼がこのエリアの守り人、賢示。人懐っこい笑みを浮かべているが、凛々とはその笑みが少し違う。明らかに、わかるものには造られたものだとわかる。 姉がこういう状態だからこそ、蒼はすぐにわかった。もちろん、気付いたことを向こうも気付いたから、気を悪くしないでくれと立花に言われ、いえ、としか答えられなかった。 こういうことは口出しすることではないとわかっているからかもしれない。 それにしても、聞いていたイメージと違う賢示に少し戸惑いがある。もう少し年齢が上だと思っていたからだが、どうも、今の姿も違和感があるので、結局わからないままなので考えることを放棄した。 「や、よくきたね。冥鎌から話は聞いたよ。でも、残念ながら、今のところは鍵の消息はつかめてない。歪みもさっき姿を見せたところだ。」 まだはじまったところで後手に回り気味だけど、もう一度詳しく話を聞けるかと、賢示が紅と蒼に話しかけた。 「はい。事の始まりは…。」 冥鎌に話したことと同じことを説明する。 「そう…やっぱり、まずは魔より鍵を抑えた方がよさそうだね。」 賢示も守り人の一人だ。鍵の重要性は理解している。いくら魔を抑えられても鍵が戻らない限り、魔による歪みが起こっている時より悪化することもあるからだ。 「で、お前等は能力どれくらいだ?」 仕事をする上で、相手の能力を知らなければ信用して任せることもできない。基本が個人であるが、歪みは連鎖するものもある故に、協力することも多い。その時、相手を知らなければ仕事にならない。 そもそも、この街自体、実力主義なところがある。使えなければ客としてじっとしていてもらうつもりなのだ。 「今のままでは、実際問題としてあまりお役には立てないかと思いますが、身を守ることは可能です。」 「ああ、そう言えば、番人は制限されてたんだった。忘れてた。」 「どういうことだ、賢示。」 「そう言えば立花にも言ってなかったか。番人は門を守るのが仕事なわけだけど、資格がないといけない。それは知ってるだろ?」 「ああ。」 ある一族が代々、門の声を聞け、門を支配出来る力のあるものを選抜し、一生を守るためだけに生きることを誓う。彼等はその一族ということだ。 「資格があるということは、同時に強い力を手に入れることになる。門を守るのだからね。そもそも、門は生きているんだ。」 「どういうことだ?」 賢示は蒼を見て、教えてあげてよと催促する。別に彼等になら隠す必要はないので蒼は話した。 東西南北を守る門とは、そもそもは聖獣が人に見えるように、そして守りの地だとはっきり認識できるように門の姿をとっているだけなのだと。 つまり、番人というのは、門の声、つまり聖獣の声を聞くことができるものということだ。そして、番人に選ばれるということは、その身に代償として力を授けられる。 結果、番人の身に聖獣が宿るということ。だが、強すぎる力の為、門の一大事以外においては基本的に封印して力を外に出さないようにするのだ。 「つまり、体内に飼ってる、ってことか?」 「そういう感じで間違ってはないと思います。」 へぇーと立花は蒼をまじまじと見ながら、あまり凶暴そうな感じはしないけどなと言う。 確かに、蒼の人柄を見れば、そう思うだろう。だが、強い為に抑えるほどの力をもつものを飼うということは、並大抵のことではない。大体、そういったものほど、いくら世界の要であろうと、聖獣であろうと、変わらず大人しそうに見えて凶暴なものだ。 「さて、話を戻して…ああ、どうやら鍵は見つかったかもね。」 立ち上がり、部屋にある唯一のもの、水槽の前まで歩いて行く。 水面に手を触れ、そこから一枚の紙を引き抜いた。 「どうやら、天に凛々預けて冥鎌ってば先に探し物してるみたい。」 簡単に目を通し、その紙を蒼にも見せる為に渡した。そこには、確かに鍵の気配を感じ取ったことが記されていた。 「良かった。」 「無茶やらかす前に、冥鎌の奴を回収しないとな。」 「適当に部下に指示をだしとこうか?」 「そうだな。冥鎌に何かあった時が困るからな。」 苦笑する賢示にそう言えばそうだと立花も彼の苦笑の意味に思い当たり、複雑な笑みを浮かべる。 「何か問題があるんですか?」 いったい彼らが危惧することは何なのかと、疑問を浮かべる蒼に、理由を話そうとした時だった。この部屋に何かが乗り込んできた。 部屋の外に近づいた時点で誰かはわかっていたが、少し興奮している様子に、どうしたものかと思うのが現状だ。しかも、それを焦って追いかけてきた男にも。 「どうした?」 「けんちゃん!れんちゃんが!」 賢示も立花も、はっきり言えば、この建物の範囲なら気配を探れば誰がいるのかわかるが、乱入してきた少女、凛々程広範囲に気配を探ることはできない。 「何かあったわけ?」 「それがその、いきなり…。」 天の言葉に嘘はないだろう。乱入の仕方からいって、間違いもないだろうし。 「とりあえず、わかりやすく話してくれないかな。」 腰をおろして目線を凛々より下にして、見上げるようにして問いかける。 「けんちゃん、大変なの。れんちゃんが、れんちゃんが…。ない、なんもないの。」 「冥鎌に何かあったのか?確か、来てすぐ出ていったと思うが。」 「はい。彼女を預かった後、出ていかれたはずです。建物内に気配はありませんし、匂いもありませんから間違いないかと。」 泣きそうになりながらうるうるする凛々の言葉を待つ面々。 そこへ、紅が近づき、凛々の頭にそっと手を触れた。 「姉さん…。」 「そう言えば、南の番人は触れた対象の意識を見ることができる、って言われてたな。」 「成程。」 賢示と立花の言葉に全員が紅の言葉を待った。 ふっと触れていた手で頭を撫で、離した。 「…冥鎌の意識がなくなった。」 その言葉に息を呑む。 「この感じ…魔。」 ちっと舌打ちする賢示。守り人の中で、冥鎌が一番魔に弱い。魔と逆に位置する力を持つからこそ、魔に強いのだが、弱っている時には滅法弱くなる。きっと、何かトラブルでもあったのだろう。そこへ、魔の気配にあてられて動けないといったところか。 だが、意識がないというのは問題かもしれない。 「凛々、れんちゃんの気配、いつもわかる。でもね、今れんちゃんの意識が途切れて、探しても見つからないの。真っ暗でなんにもなくて、れんちゃんが見つからないの。」 泣きそうになりながら、紅の言葉に続けて言った。天はそうかと言って頭を撫で、抱き上げてあやす。 本格的に泣きだす前に冥鎌を見つけないといけないかもしれない。 「面倒なことになったな。」 「大丈夫でしょうか。」 「まぁ、問題はないだろうが、ややこしくなったら手を出しにくくなるからな。」 賢示は立花に冥鎌の行方を捜す指示と、冥鎌が伝えてきた場所への監視の指示を出した。立花はすぐに自分の部下へ指示を出すべく部屋を出ていった。 「凛々ちゃん、冥鎌の奴が最後どこにおったかわかるか?」 「れんちゃん?あのね、ここからずっとまっすぐ先。」 部屋から窓もないのにまっすぐ指さす凛々。 「でもね、そこにれんちゃんの『字』が残ってるからわかる。でもでも、そこかられんちゃんがわからないの。」 字というのは、普段彼が使う魔術のことだろう。服の装飾にも守りの字を入れたものをつけていたはずだから、それが落ちたのだろう。 「天、悪いがその場所へ凛々ちゃんと行って、『字』を回収してくれ。あのまま残っているといろいろ面倒だ。」 「わかりました。凛々、行こうか。」 「うん。凛々もれんちゃんの、誰かに持ってかれちゃいやだもん。」 そう言って、天に自分を抱き上げていない、空いている右手を出すように言い、それに自分の左手を重ねた。 「契約せし主の元へ我を運べ。」 その言葉こそ、凛々にとって冥鎌との繋がりであり、約束のような言葉。意識があり、冥鎌の居場所さえわかっていれば、そこへ飛べる。なのに、今は装飾の元へしか飛べない。 今の凛々には認識できないからだ。 「さて、とりあえず、鍵もまとめて仕事はじめようか。」 「そうですね。」 二人が姿を消した後、残った三人も仕事を始める。 「あの二人はすぐ戻ってくるだろうから、とりあえず鍵の方先にどうにかする。」 「ありがとうございます。」 「仕事だから気にすんな。それに、急がないといけないしな。」 確かに歪みは処理が早い方がいいが、そこまで彼を急がせる理由が蒼にはわからなかった。 「さっきも言っただろう。冥鎌がこのまま見つからない状態が続いたら、まずいことになるんだ。」 「そう言えば…どうなるんですか?」 「凛々ちゃんがな、暴走するんだ。普段はただの子どもだが、力は俺達よりはっきり言えば上だ。」 解放したお前達ともはれるかもなと言われ、少しだけ蒼はぞっとした。蒼自身、その身の宿る力を制御しきれる自信がない。それが暴走した時の被害を考えると、同じことをおこしかねない凛々の力に少なからず恐れを抱く。 「最初はかわいいもんだ。だが、止まることをしらない力はエスカレートする。まさに、恐ろしい凶器そのものだ。でも、それを制御できるのが冥鎌なわけだ。」 冥鎌も弱くはないが、姿が見えないだけならまだいいが、気配がわからなくなったら、もう駄目だ。そういうところ、まだまだ凛々は子どもだということだろう。 「このフェレッタがなくならなきゃいいがな。」 規模が明確に出されれば、はっきりとわかる強い力だ。ごくりと唾を飲み込む蒼に、さ、いこうかと手を差し出す賢示。 「賢示、鍵の確認とれた。確かに冥鎌の言う通り、あそこにあったが、少しばかり面倒なことになった。」 「ま、鍵はこの二人がいればどうにでもなるだろ。」 いざとなれば、目に見える距離なら、呼べば引き戻せる。契約というものはそういうものだ。切っても切り離せないものだ。 「とにかく、鍵の回収先にするか。」 「そうですね。」 「厄介事は道ながら話せ。」 「わかった。」 四人は部屋を出て街に降り立った。 |