学園内に踏み込めば、ぞろぞろ出てくる、魔に堕ち、魔人もどきとなったたくさんの影。

「ここは任せて先に行って。」

「わかった。無茶はするなよ。行くぞ二人とも。」

白灯は白城と司狼を引き連れてすぐにその場から先へ進んだ。

「さぁ、こっからは私たちが相手するよ。」

「お相手させていただきます。」

「大人しくしていただけるのでしたら、こちらから手出しはしません。ですが、歯向かわれるのでしたら…容赦はいたしませんのでご了承願います。」

そう言って、三人はなりそこないの、だがこのまま放っておけば魔人に成り果てるそれを解放する為に倒す。

長い夜の第二幕の幕開けだ。

「この先右です。奥にある旧第二校舎の元保健室に入口があります。」

「了解っ!」

白城の指示を聞き、司狼はこちらへ向かってくるいくつかの気配に向かって飛ぶ。通り過ぎる勢いのままで爪で引き裂いていく。道を作るように進む司狼の後を白灯と白城は追いかけて行く。

「守れ、痛みは返せ。」

人差し指で宙に字を描き、即座に発動させる結界のような壁。横からきたそれを弾き飛ばした。

しっかりした術でなくても、これぐらいの相手なら、言葉で縛ることも攻撃することもできる白城なら簡単なことだった。

「司狼っ!そこを上にあがれ。その方が効率がよい。」

「了解。さーって、道をあけてもらうぜ。」

階段の上から下りてくるものを全て切り刻み、そのまま軽やかに飛び上がって先へ進む。白城は翼を出して白灯を抱え、上の階へ一気に飛んだ。

どうやら向こうも馬鹿ではなかったらしく、飛ぶ勢いのある者たちが即座に追いかけてくる。

「面倒じゃな。」

白城は進めていた足を一度止め、壁を作り、そこまで追いかけてきたものを後ろも封じて閉じ込める。

「眠れ、心亡きものよ。汝が記憶の中へ、消えろ。」

光の矢が降り注ぎ、全てを貫いた。そして、原型すらもあやふやになっていたものも含め、元の人だった姿にもどったそれらがそこに倒れていた。

この、元に戻った瞬間が、いつも後味の悪さを感じさせる。

「行くぞ。」

「はい。」

すぐに先へ進んで雑魚の片付けをしている司狼を追いかける。

そして、目的の場所、元保健室の前で最後の邪魔する相手を倒した司狼に追い付いた二人は、目で行くぞとアイコンタクトし、扉に手をかけた。

中は静かだった。人の気配はない。だが、ここにある隠し扉の先に、『敵』がいる。

「この先、援護はないものと思え。どうせ、邪魔されてあるす達は間に合わんじゃろうからの。」

「わかってます。」

「ああ。」

司狼は唾を飲み込み、気合いを入れなおす。この先は何があるかわからない。そして、何があっても倒す。それが元々人であったものであっても、迷いを持ってはいけない。

迷って攻撃の手を緩めた瞬間、主である白灯に危険が迫る。それを理解しておかないといけない。

「我の名のもと、真実を晒し出せ。」

偽りを暴く魔術が得意な白灯だからこそ、できる魔術。どれだけ隠されようとも、彼女の言葉からは逃れられない。

よっぽど強い力を持たない限り、どれだけ隠しても見破られる。今回も、すでに強い結界能力がある相手がいるということはわかっていても、まだ白灯の力があれば隠すことはできない。

ただ、魔術を使わない限り他の者ではなかなか見つけることはできないだろうが。

「確かに、これでは探す意思を持たない限り見つけられませんね。」

ぼんやりと姿を見せたゆがんだ扉。そこからこの学園の地下にある原因へといける。

「常に警戒は怠るな、よいな。」

白城が保険として簡単な守りの言霊を三人にかけ、白灯が扉を開いた。

一気に感じられる強い魔に、意識を強く持ち、司狼がまず足を踏み入れた。それに白城と白灯が続く。

そして、中に入った三人の姿が部屋から完全に見えなくなった頃、音もなく一人の男が姿を見せた。

「確かに厄介だね。ま、今回は頼まれただけだしな…。」

複雑そうな顔をして、男は呟く。

「とにかく、これは今回で終わりそうだし、そろそろ帰っていいか?」

男は誰もいないというのに、誰かに問いかけるように言葉を発した。そうすると、どこからともなく返事がかえり、さらに男は苦笑していた。

「そもそも、俺も確かにお前と同じ魔人で、魔神の為に魔人増やすのが仕事なんだろうけどさ。面倒くさいんだよ。ほら、今回だってあの子、かなりの力持ってる子だし、俺の結界なんてあっさり見破られるしさ。」

やる気のない男の愚痴を聞いて、溜息をつく何かが姿を見せた。そこに現れたのは、まだ幼い少年だった。

「あのさ、曲りなりにも俺もあんたも幹部なんだぜ?いい加減そのやる気のなさどうにかしたら、湊。」

「そう言うけどさ、俺元々興味ないからさ。ヴァル少年程魔神様とやらにも関心ないしさ。」

「なら、せめてもう少し手伝ってほしいもんだね。」

「だから、今回手伝っただろ?育てる時間がほしいって言うから、結界で保護してただろ。」

そろそろ、終わって帰って寝たいという男に、少年は呆れかえる。

「ま、いいけど。今回はそろそろ潮時だし、あれは確かに『強い』けど『使えない』しな。」

そう言って笑う少年はとても不気味で残酷だった。

「じゃあ、俺帰るから。あと、これにはもう手を引くからな。」

「ああ。まぁ今回はいいんじゃない。僕もそろそろあれはいらないからね。だって、使えないものほど邪魔なものはないし。」

クスクス笑う少年は、窓から外を見て、戦う守り人達を見る。

「でも、彼等も哀れで滑稽だよね。」

男も少年と同じように、外を見る。必死になるものがあるのはいいことだと思うが、男にとっても守り人という存在には複雑な思いがある。

「結局、僕等と同じで、彼等も世界にとって都合のいい駒で使い捨てで替えがきくものでしかないのにね。」

そんな世界、守る価値があるのか、存在するなら世界を作った奴に聞いてみたいものだと、相変わらず笑みを崩さないまま少年は言う。

本当に、可愛くない子どもだと思う。しかも、自分の前でそれをいうところがまた、可愛くない。

「じゃ、今日は帰ろうか。彼等が気付く前にね。」

少年はそう言って姿を消した。もう、ここにはいない。

「でもま、確かにどっちも都合のいい駒だっていうのは事実だよな。」

だからこそ、やる気出さず適当に生きている。かつては彼らと同じ守り人でありながら、魔に堕ちて魔人となった自分は、この先何をするのか、今はわからないけれど。

もう、自分から何かを変える為に動く気はないが、『彼等』が諦めていないのなら、まだ変化はあるかもしれない。かつて、自分が諦めたそれを突き進めるのなら。

いや、あまりに上手くいかない状況に諦めたふりをするようになったと言う方が正しいかもしれない。

「それにしても、あの時の白天狗が元気にしてるとは聞いていたけど、会うとは思わなかったな。」

誰にも聞かれることのないその呟き。もし聞こえていたら、何かかわっていたかもしれない。だが、そろわぬ舞台の上で踊る者達は歪みと同じようにズレていく。

「いつになったら、本気で殺しにきてくれるか…なぁ、愚かな『守り人』と『神様』よ。」

はやくしないと、本気で壊すよと言っても、返事は返ってこない。

「さて、次の予定考えながら帰るとするか…。」

男の姿も少年と同じように、そこから消え、残った何もないその場所は、元の状態に戻って静まり返った。

誰かがいたことすら気付かないように、跡形もなく、形跡すら消して。