戻れば、待機していたあるすが迎えてくれた。しかも、彼女の使い魔であるやよいという紳士もそこにいた。

「お帰りなさいませ。お疲れでしょう。お茶でもいかがでしょうか?」

席についた四人に言葉をかけ、いると答えた全員にお茶を出して、礼をして一歩下がった。

「あ、そろってるね。」

そこへ、田所も戻ってきた。だが、一人ではなく、世鷲も一緒だった。田所が言うにはすぐそこで会ったらしい。彼もまた、彼の仕事を終えて合流したというところだろう。

「それで、全ての元凶の居所はつかめたのか?」

「にらんだ通り、あの学園だったよ。」

「そして、予想通り、これは五年前の続きだ。」

白灯の問いかけに田所と世鷲は順に答えた。

五年前。それはまだ司狼にとっては過去になりきれていない苦い記憶だ。

「けど、もしかしたらもっと前からはじまってたのかもしれないんだよね。」

苦笑する田所に首をかしげる司狼。にらみつける白灯。

「お前の事情とやらか?」

「そう、なるねぇ。」

その言葉に、そう言えば今回の歪みの元の一つがあの男で、田所とは過去に面識があったことを思い出した。

「あの時からすでに魔に侵されて魔そのものになってた。昔は彼女だったんだけどね。今は彼だからややこしくて仕方ないけど。その時からこの歪みははじまっていたのかもしれない。」

今まで、死神の目からも守り人の目から逃れる程の結界を作り出す程の力を持つ魔人なら、ありえないことではない。

その結果五年前の歪みと今回の歪みもしかしたら他の歪みも起こしていたのかもしれない。

「五年前、手遅れだった『屍』のこと、覚えてる?」

「もちろんだ。」

「倒しても死なない面倒な奴でしょ?私あれ嫌いだったわ。」

いつの間にか女に戻っている真代を横目に、話を黙って聞く司狼。戦った司狼もあれは面倒で、あれに何かあったというのなら知りたいのだ。

「あれ、あの男が『造った』んだ。」

昔、田所を殺す為に毒を調合したように、人体を壊す薬品を考えるのが得意だった彼なら簡単なことだった。

「なんじゃと。」

「まさか、可能なのですか?」

「何それ。最悪じゃん。」

「嘘だろ?」

信じられるわけがない。魔が人を狂わすのはわかる。だが、あれはあくまで人だ。魔に侵されて魔に近くても、人なのだ。

確かに、魔に触発され、人は狂い人に害をなすようになる。だが、あれは人ができる領域ではない。

「ある意味、天才だった。人をいじって人ではないものに変えることも、『毒』を作り出すのと同じように簡単なことだったんだと思う。」

その知恵が魔人であったとしても、それを行ってしまえるあの男の異常さ。それが、かえって魔に堕ちたものではなく人としてあり続ける意思を持った。

「きっと、魂の回収はしたけど、またこっちにすぐ戻ってくると思う。」

「えぇ、なんでよ。普通は死神が回収したら戻ることなんてできないでしょ?」

真代の尤もな質問に苦笑しながら田所は答えた。数十年前も一度回収したのにまた消えて現在にいたること。それは、魔人をどうにかしない限り、あの魂はこの世に自由に入れるということ。

魔人によって魂がこの世に縛られている為、戻りたいという意思を持てば、魔人に引き寄せられるように簡単に戻ることができてしまうのだ。

「ほとんど化け物みたいじゃん。」

「その通りだよ。最初に存在を知った時から、すでに化け物だったんだよ、きっとね。」

田所の言葉にこれ以上言うのを誰もが止めた。聞けば間違いなく彼の過去に触れることになるとわかったからだ。自分達もあまり過去を知られたいとは思っていないし、彼もきっと同じだろう。

「とにかく、あの男はこの際横においておいて、重要なのはここからね。」

指を一本立てて、注目と言う田所。世鷲の真剣さから、重要なことなのだろうと意識を切り替える。

「何にしても、問題は守り人や死神の目からも隠れることができる結界を作れるだけの力を、今回の魔人が持っていること。今までもその魔人の影響で歪みが生じていた事件がある可能性があること。俺が人だった頃の事件と五年前の事件は大元はその魔人が原因だった可能性があること。」

「魔人は魔神の分身のようなものだ。今でこそ封じられて動けずにいるが、これ以上歪みが酷くなると力をつけてしまう。この魔人は力をつけすぎているから早急に対処すべきだ。何より、このままではかつての大戦と同じように歪みが引き金をひきかねない。」

「そうじゃな。あの大戦の元々の原因は魔神であったからの。」

力が強大過ぎて、封じることでしかあの時点で抑えることができなかった。そして、今は監視し、歪みが出来るたびに修正することで危うい均衡を保っているに過ぎない。

そう、原因の元はまだ、この世界の地で眠っているにすぎない。いつ目覚めてこの地を再び混沌の中に落とすかは、時間の問題だ。

魔人も魔神の分身といっても、魔に侵され、魔を支配する元は人なのだ。このまま今回の魔人が力をつければ、新しい魔人を生みだされかねない。それは絶対に阻止しなくてはいけない。

そもそも、その為の守り人なのだから。

「とりあえず、二手に別れて…魔人の封印、もしくは消滅にとりかかりたいと思います。」

にっこり笑顔で言う田所。言っていることと言動がまったくあっていない気がする。そもそも、この男は今回かなりおかしい。いつもより雰囲気が一定に保てていないせいかもしれない。

普段のあの飄々として掴みどころのないのが彼であるのに、明らかな押さえつけているが自分でもわかるほどの殺気が漏れているのだ。

それだけ、何かに対してかはわからないが、彼の感情を刺激するものがあるのだろう。

「で、二手といっても、裏方と魔人処理なんだけど、裏方はまぁ、わかると思うし、これは俺が引き受けるね。世鷲が手伝ってくれると確立あがるんだけど、どうする?」

「別に、ここのエリア担当ではないからどっちでもいい。」

「そっか。」

紙に何かを書きながら話を続ける田所に白灯が言葉をかけた。

「また、お前の『上司宛』か?」

「そうなのよね。まったく、毎度のことながら仕事いっぱい押し付けてきて困っちゃうんだよね。」

泣きまねしながら、書きあげたそれを折りたたみ、ふっと息をかければふわふわと浮いて、それはどこかへ飛んで行った。

「死神はまだ『携帯』ではないんですね。」

「まぁ、携帯の奴もいるけどね。昔からの風習みたいなもんだし?」

そう、携帯というのは、今では耳飾りやペンダントなどの小型の連絡手段だ。通信機のようなもので、互いに会話やメッセージを届けることが可能な代物だ。これはエリア7、つまりあるすの担当エリアであるジルマータで造られたもので、数十年前から他エリアにも普及し、守り人も利用している。

元々、白灯は繋がりによって連絡する手段はあるが、司狼や真代は白灯と白城への連絡する手段、つまり能力がない為、携帯を四人とも持っている。もちろん、どこにいるか不明な田所のものも記録されている。

今回のように他エリアからの発生した歪みの場合、連絡手段として携帯を用いる守り人もいるが、やはり基本的にあっても利用率は低い。

そのあたりは守り人が『人間』ではないからなのかもしれない。

「一応、調べた結果、魔人は学園地下にいます。」

「そうなんだよね。あいつってば地下で危険な『ペット』飼ってたみたいなんだよね。で、『ペット』は一匹じゃなかったんだよね。」

「それはつまり、魔人以外にもいる、ということですか?」

白城の問いかけに田所は頷いた。

「だから、戦力的に考えて、魔人倒すのはもちろん白灯ちゃんだけど、攻撃と防御のサポートを考えると白灯ちゃんは白城と司狼君と一緒がいいと思う。で、あるすちゃんはやよいさんと真代の三人いれば雑魚の片付けできると思うんだけど、どう思う?」

「別に異論はない。」

「そうですね。私も問題はありません。」

「俺もないぜ。」

「問題なしです。」

「元よりあるす様の手足ですから。」

と、五人は答えたが、真代だけはうなっていた。何故なら、彼はあるすとやよいと一緒に『仕事』に関わったことがないからだ。つまり、味方の能力を知らないからこそ、どこまでサポートしてどこまでサポートしてもらえるのかという距離がわからないのだ。

「まぁ、なんとかなると思うけど…行く前にとりあえず簡単に二人のこと教えてよね。」

「了解です。」

「承知しました。」

二人の返答に、こっちも問題はないと田所の答えをかえした。

「じゃあ、そろそろいって『掃除』を始めようか。」

今回は敵がたくさんいるみたいだから、朝までに片付くといいねと言って、世鷲と共に田所は出て行った。

「白灯。」

「問題ない。あいつがやると言ったのだ。言った仕事は必ずやる。そういう男だ、あいつはな。」

ただ、その過程が時折魔に堕ちた連中と同じなのではないかと疑いそうになるところがあるが、あの男は間違いなくこちら側だ。

「真代、そっちではあるすの指示に従ってくれ。あるす、頼んだぞ。」

「はい。」

せっかく完了した仕事が再び広がらないように、あの男がこちらへ戻る前に魔人を倒す。向こうも気付いているだろうから、あまり時間もない。

「今度こそ、五年前の諸共片付けるぞ。いいな。」

白灯の言葉に全員が頷いて、その場所から最後の戦いの場、学園の敷地内へと足を踏み入れる。