店の扉に「close」の札をつるし、一息つく。

「今日は一日お疲れ様でした。」

「本当だよ、まったく。しかもあいつ来るし、この後また来るだろうし。」

不満を顔に出す真代に苦笑しながら、お茶を出した。彼女と世鷲は仲が悪い。だから、わからなくはない。けれど、仕事なのだから諦めてもらうしかない。

「さて、夕食の用意も仕上げておきますか。」

「あいつと食事なんて嫌だなぁ…。」

そんなことを話していると、白灯が帰宅した。結構初等部の制服が似合っているが、言えばかなり機嫌を悪くするのがわかっているので、さすがの真代も何も言わなかった。言う相手をちゃんと選んでいるのだ。だが、実際のところ、マスター以外には本能のままに言ってしまうので、あまり賢い選択とは言えないけれど。

「お帰りなさい。今日、世鷲さんが店に来られましたよ。後で来るそうです。」

「そうか。いや、あいつは学園の校医をしているそうだ。今日は欠席だったらしくて顔を合わせることはなかったが、こっちにきていたのか。」

「そうだったんですか。」

「げっ、まじ?」

かなり嫌そうにする真代。本当に真代は世鷲のことが嫌いのようだ。いや、傍からみれば犬猿の仲のようではあるが、実際はお互い苦手意識を持っているのかもしれない。

「私情は挟むな。事を済ませてた後ならば、好きなだけ奴と何しようと我は一向に構わんがな。」

「んなっ!冗談!私はあいつ嫌いなんです!なんで会わなくて良くなった後まで顔を合わせなくちゃならないんですか!」

「ひどい言いようですね。ですが、それには僕も同意見ですよ。だから、そっくりそのままあんたに返すよ。」

いつの間にか、三人しかいないその空間に現れた世鷲に、振り返って睨みつける真代。

「何勝手に…っ!」

「僕は、後ほど伺うということを、ちゃんとお伝えしたつもりだったけど…?」

その嫌味も嘘くさい笑みも真代は嫌いだった。白城も確かに胡散臭いところもあるし、嘘っぽい笑みを浮かべることもある。だが、その比ではないのだ。もう、そのものが駄目なのだ。きっと。

「それで、原因はすでにわかっておるのか?」

さっさと本題に入れと言わんばかりに真代を無視して進める白灯。だが、そこへタイミングがいいのか悪いのか、司狼が帰ってきた。もちろん、あるすもつれて、だ。

「そうだな…全員ちゃんと集めてから、の方が一度で話せてよくないかい?」

「そうだな。」

目で白城に指示を出し、2階への階段を上る。それに世鷲も真代もついていく。いまいち状況が理解できていない司狼とあるすもそれに続く。白城は指示されたとおり、お茶を用意する為にキッチンへと戻った。

「我が名のもと、開け。」

扉に手を触れ、言葉とともに自動的に開かれる扉。その先には本来あるはずの部屋の姿はない。

守り人達が普段住まう場所だ。ここならば決して邪魔は入らない。白城もお茶の用意をして戻ったので、これで本題に入れる。

「それで、お主から話すのか?」

「そうですね、その方がはやいかと。」

そう言って、世鷲は取り出したものをテーブルの上に出した。それは、どこにでもあるようなブレスレットだった。

「これが、原因か?」

「はい。」

世鷲の説明としては、事の始まりは一月前に、ある男が誤ってエリアX2に足を踏み入れ、そこである鉱石を持ちだしましたことからだと話し出した。

元々、男は硝子細工を造る職人だった。住む地域はエリア7で、毎年行われるそこにある国への献上品の為に使う宝石を捜すために山へ入った。だが、うっかりエリアX2に足を踏み入れ、そこで見つけた鉱石を献上品の装飾に使うことをひらめいた。

男にとって、それは次の作品にふさわしい、求めていたもの、だった。だが、それはその石から漏れる魔の気により男の精神を持っていかれた。

「結果、献上品を完成させ、残った石でここ、エリア5に住む娘の誕生日プレゼントを作った。」

それだけを聞くと、どこにでもある家族思いのお父さんだ。だが、彼はすでに魔に触れて、魔に身体を侵されている。

「本来なら、この男が歪みの原因として排除もしくは石を取り上げて早急に浄化、そうしたら何も問題ないはずだった。」

「と、お主がいうのなら、問題が起こったわけじゃな。」

そもそも、そこまでわかっているのなら、すぐに片付けられた問題ではないのか。いったい何が起こったというのか。

「男の事を気に入らない、他の職人がいた。」

その言葉で、全員がなるほどと納得した。これも、よくあることなのだ。できれば、起こってほしくないことだが、長い間この世界を見ていれば、何度も目にする光景であり、繰り返される変わらない歴史そのものだ。

「技術において、男に敵う者はいなかった。だから、王への献上品としての責務を任されていた。」

それをねたんだ者達による、悲劇。

「男と仲がよい奴がいた。名をエンドール。奴は男と親友という顔をする裏で、妬み、そしてとうとう殺した。」

世鷲としても、最初から可笑しいと思ったのだ。迷い込むには、少々おかしな点がある。何人たりとも立ち入らせない、その為に排除行動をするのが自分の仕事の一つだ。だが、あまりにも可笑しいためにそのまま帰した。

「わざと男を迷い込ませ、事故に見せかけてはじめから殺そうとしていたのだとその時わかった。」

泳がせてみたものの、少しばかり遅かった。その結果、男は死んだ。いや、殺された。

すでに魔によって侵されて心をなくした奴によって。魔は負の感情に反応し、とりつくものだからだ。

「エンドールは男の作品を自分のものとして王へ献上し、娘へのプレゼントである試作品も含めた五つのペンダントを売りさばいて金にした。」

「これがその一つってわけか。」

司狼は話を聞いてテーブルの上のものに手を伸ばす。

「これを含め、二つは回収した。後三つがこのエリアの誰かの手元にある。」

それが、このエリアに起こっている歪みの原因。

「でしたら、それを排除すればここのエリアにおいては問題は解決、ということですか?」

「まだ、調査しないといけないところがある。だが、概ねそんなところだ。」

白城の問いかけに少しだけ濁して答える世鷲。その答え方に、まさかというある仮定が浮かぶ。

「まさか、そのエンドールって奴がこっちに来てる、なんて言わないでよ?」

無言。それが肯定しているようだった。えーやだーと真代が嫌そうにいう。それに対し、世鷲も貴方には任せたくはありませんねと言い返す。

そんな二人の言い合いの最中に、ふとその場所に気配が増えた。

「何しにきた。」

「ひどいな、白灯ちゃん。」

「田所さん?!」

「うわっ、田所っ!」

「こんばんは、田所さん。」

四人それぞれの反応を楽しんでいるような田所北斗が話に混ぜてと、割り込んできた。

彼もベルセルの関係者であるし、関わるのは仕方ないが、ややこしくなるので遠慮したいのが白灯と白城の本音だ。真代は結構ノリが楽しいので嫌っていないし、司狼はあまり田所の本性を見たことがないので変な人止まりだ。

「あ、ついでにこれ。」

そう言って、お土産と称してエリア10の守り人のゆうから渡されたものを出されない限り、司狼は田所を邪険にすることはない。

「わーありがとー。」

きゃーと一人テンションがあがる真代を横目に少しばかり現実に泣きそうになる司狼が、渡されたものをどうしたものかと考える。

何が悲しくて、男である自分が女ものの、それもこんなひらひらレースを使ったゴスロリと呼ばれる服を着なくてはいけないのか。これで喜ぶ真代が司狼にとっては謎すぎる。

「お土産の件は後にしてください。」

「話が進まぬ。邪魔するのなら出ていけ。」

真代にも同じように言えば大人しくなる。田所も首をすくめ、話の元である世鷲の方を全員が再び見た。

「話を戻しますよ。…今のところ、エンドールが行方不明です。」

「なっ、なんでだよ。歪みの元になるなら、わかるはずなんじゃ…?」

司狼の疑問も尤もだ。その為の守り人なのだから。

「おおよその位置はわかりますが、力が強すぎて、確定にはいたらない。」

話を戻した世鷲が言うには、献上された後にそれは王の身体を蝕んだ。予言師だと名乗るコクランという人物が原因がそれだと言い、製作者のエンドールは国を追放された。もちろん、それを持ったままだ。

「何、コクランじゃと?」

コクランというのは、ベルセルの関係者で田所と同じように守り人ではないが、全エリアを自由に行き来する者で彼の役目は女王からの指令の伝達及び、必要ならば人世に原因に関するものに対する干渉が許されている存在だ。ちなみに、田所はベルセルにおいて世界の歴史を記すのが仕事の生きた歴史書のような存在だ。

「王城と街に関しては浄化された。ですが、元々の原因が排除できたわけではない。」

そう、エンドールは追放されてエリア7外へ出てしまったのだから。

「元々、今回のことはエリアXと関わりのない歪みから始まりましたが、原因の男によってエリアXの危険因子の関わる大きなものに発展し、現在、エリア5全域にわたり魔が充満している。」

だから、範囲は特定できても、どこにいるのか正確にわからなくなっているのだと言う。

「厄介だな。」

新たな問題を起こさない為に残りのペンダントの回収もしなくてはならない。だが、同時にエンドールの捜索もしなければならない。

「そこで、世鷲から依頼されて調べたのを俺が用意したわけだ。」

そう言って田所からどこからか出した鞄の中から数枚の紙を取り出した。それを白灯に渡すと、白灯は目を通して白城に渡した。

今思えば、世鷲から頼まれたこれのために来るのが遅れたのだろう。空気が読めていないのか怪しい男ではあるが、結果はきっちりしている男だ。

「間違いはないんだろうな。」

「もち!死神にできないことはないのだー。」

えっへんと胸を張る男を不審な物をみるような眼を向ける司狼。本当に、これのどこが死神で恐れられるのだろうか。謎だ。

「で、ここの子。大分魔に侵されてるけど、今行動したら大丈夫だと思うよ。」

「そうか。」

「明日あたり来るんじゃないかな?」

そう言って、少し先のコンビニで店やってるから、そこのお客さんだから会えるよ〜とか言いだす。

本気でコンビニに死神がいるということに眩暈がした。こんな死神、嫌だ。なのに、誰もそのことを不思議にも思っていない。やっぱり、自分がおかしいのだろうか、そんなことを最近つくづく感じる。

「というわけで、一応こちらの情報はこれが全部、というところです。」

初等部と中等部に入り込む理由は、このリストを見ればわかった。持ち主に初等部在学の者と中等部在学の者がいた。つまり、気付かれずに回収するのが白灯と司狼の仕事だということだ。あとは、影響があるのなら学園内の浄化作業、といったところか。

「エンドールの奴はたぶんこの家で間違いはないと思うけどさ、問題があるんだよね。」

再び資料にあるエンドールの居場所として特定された場所を確認する。

「ここで、少し前から予定外の死者リストが出てる。」

それはつまり、予定にない人間の死亡者がでているということだ。

「しかも、魂の行方が不明状態。この意味、わかるよねぇ?」

かつての大戦において世界を脅かす敵であったもの。何故奴等が敵とみられたかというと、魂を食らうからだ。

動植物に宿る魂も根こそぎ食らい続けるブラックホールのような存在。生き物全てこの世界からなくなれば、この世界を食らうだろう。そういう存在。しかも、魂を汚し暴走させる危険を持つ魔を持ったもの。

それをベルセルでは魔神と呼ぶ。魔神は一つ。けれど、手足として動かすのに効率がよいように分裂した存在を魔人と呼ぶ。それをエリアXと呼ばれる大地の祠に封じている。だから、その地は立ち入り禁止区域にされているのだ。魔に侵されて心を持っていかれないように。

「目覚めた方か?それとも…。」

「外で生き残った方、ですよ。」

世鷲の言葉に、それで今回は始まりがエリアXからの歪みでないにも関わらずややこしいことになっている原因かと悟る。

「とにかく、明日初等部のこの子と中等部のこの子を見つけてペンダント回収して〜お店に来た子のを回収して〜他に影響がないか調べた上で対処ってことでどう?」

「そうだな。」

田所の言葉に頷く全員。これでとりあえずは今日はお開きということになる。

「あ〜お腹減ったよ。」

鳴るお腹に悲しくなる。

「では、僕はこれで。」

「じゃ、何かあったらまた来るね〜。」

と、世鷲と田所はさっさと帰っていった。

「せっかちな人達ですね。」

「いいじゃん。あいつは嫌いだ。」

「仲良くしろとは言わん。だが、仕事の時は私情をはさむなよ。」

「わかってるってば。」

白灯の忠告にむくれたまま答える真代。

「それで、あるすは…ずっと黙ったままだったけど?」

そう言えば、彼女は何一つ話さず黙ったままだったことを思い出した。

「世鷲様が説明して下さいますので、私は間違いがない限りは口出す必要はないかと思いまして…。」

「そっか。」

昔より、彼女は表現豊かになったと聞いた。けれど、こういう義務的なところは考え方が機械っぽい。確かに彼女は人に作られた自動機械人形ではあるが、ここに確かに存在して生きているのにもののように扱われるのもそう考える彼女にも不満で、そして対応するのにどうしたらいいかわからない自分がもっと嫌いだ。

「夕食にしましょうか。あるすも食べて行くでしょう?」

「はい。」

白城に話しかけられ、少しだけ笑うあるす。こういう時、ただの女の子のように見える。

慕っているらしいが、本当に素直に好きなんだろうなと思うと、やっぱりちゃんとこの世界に生きている存在なんだと思う。

確かに白城は自分達の中ではお母さんのような立ち位置にいるし、尊敬するべき点も多々ある。だが、そこまで盲目的に慕うには少々厄介な相手だと思うので、彼女は少し趣味が悪いのだろうかとかつては思った。