天使と周囲の問題児達

 

その日は変わらず穏やかな空で、平和そのものだった。だが、平和というものは突然壊れるものである。

「警報…?」

突然天界に響いた警報に、部屋の窓から外を見る。他の者達も警報に気付いて騒いでいるようだが、何か異変が起こったようには感じない。どういうことだといぶかしんでいると、いきなり姉が部屋の扉を壊して入ってきた。

鍵を閉めていたから、当たり前だが部屋に入ることはできないはずだが、この姉は鍵を無視して壊してでも目的を果たすので、むしろ鍵を閉めた方が悪いのだ。本当に困った姉だと思いながら、何があったのかと聞こうとしたら、何故か問答無用で担ぎあげられ、窓から出かけることになった。もちろん、窓も破壊して、だ。帰ったら修理しないといけないなと、いつもながらそんなことを呑気に考えて違うだろと正気に戻っても姉を止めることは不可能だ。何というか、実体験に基づく諦めだ。

せめて、状況ぐらい説明してほしいところだが、きっと今の姉には何を聞いても欲しい答えはくれないだろう。ならば、きっと連れていかれる先にいるであろう、姉と同じ八人の天使の誰かに聞けばいいと、今は大人しくしていることにした。悲しいことに、これは一種の、姉との付き合いの上での諦めだ。諦めた方が楽だ。抵抗した方が面倒なことになることは確実だから。

ついた先は予想通りというか、神の神殿の側にある、八人の天使が過ごす白い建物、天空宮だった。

ただ、いつも思うが、いきなり連れてきて、付いた先で勢いが付け過ぎて勢いのまま投げ飛ばすのだけはやめてほしい。まぁ、慣れたものなので、今は壁に直撃することはないが。はっきり言って、こんなことで身体能力を鍛えたくはない。

「あ、お帰りフェルちゃん。シャルちゃん無事だった?」

「うん、問題ないみたい。奴もいなかったし。」

速攻警報鳴らして速攻連れだしたからかなと笑っている姉に、聞いてもろくな答えが返ってきそうになかったので、もう一人の彼、カルテに聞こうと思ったが、やめた。今の彼は明らかに面白がっているふしがあるので、あることないこと答えてくれそうだからだ。なら、一緒にいるエトワイトから聞きだすのも無理というものだろう。間違いなくカルテに止められる。

本当に、神の、天の守りがこんなのでいいものかと常々思う。まぁ、天に反逆する存在、魔における守りの者達もある意味にたようなものなのでつりあい取れているのかもしれないが。

「いったい、何事ですか。」

警報のせいで騒ぎだした町、警戒しても異変を感じられず、天においての守りの柱でもある最年長のゲルドルデが他の直属天使のメンバーを見つけ、状況を知ろうと声をかけてきた。

「あ、老師。」

「こんにちは。」

「ああ。それで、何事なのか知っているのか?」

「ああ、えっとね…簡潔にいうと、フェルちゃんの暴走?」

「何じゃと?」

意味が理解できんと、フェルマータの方を見る彼。

「何?老師は私の可愛い弟に何かあってもいいっていうわけ?」

成程と、少しだけ状況を理解した彼は、伊達に仲間として共にいない。というより、責任者ならこの姉を止めてくれと言いたいが、きっと不可能だと答えられるだろう。

「じゃから、状況を説明しろと言っているのだ。ワシとて、お前と同じように可愛い孫みたいなものじゃからな。」

とにかく、何かあってからではいけない。彼にとっては、暴走するのが姉であるフェルマータだけでなく名乗ってもいない親の存在もわかっているから、尚の事状況を理解する必要があった。

「ん?皆さんおそろいで。どしたの?」

そこへ、話をややこしくしそうな男、というか男なのか女なのか不明の謎の天使、イルドワーレが現れた。その瞬間、状況を理解する為に話に集中していたシャルマルタはさっとゲルドルデの後ろへ引っ込む。何気にこっちを見て笑ったのが見えて、あまりに間抜けな動きで嫌だが、それ以上に関わるとろくなことがないので無視することにした。

「だから、魔王の手先の一人が天にきて、大事な弟の様子を伺ってたから、脅してぶっ飛ばそうとしたら逃げられたから、警報鳴らして、シャルを連れだしてきた。」

「そうか。」

何となく、フェルマータ以上に今の状況を理解したゲルドルデは気持ちが折れそうだった。

「へぇ。じゃあ、僕が匿ってあげようか?」

「はぁ?お前に任せた方が問題あるだろうが。」

弟はやらんぞと威嚇するフェルマータ。何せ、彼が弟を気にいっていつも連れだそうとしているのを知っているからだ。それが、シャルマルタの望みならそれでいいのだが、明らかに違うから渡すわけにはいかない。

まぁ、ブラコンというのは自覚しているし、弟が離れて寂しいのも事実だが、弟には弟の交友関係があるのだからと、弟の問題ならなるべく手を出さないようにしている。だが、この男だけは問題があるのだ。ありすぎる。あと、アンシャルテも気に入らないが。それは今は横においておく。何せここにいないから。

「とりあえず、弟連れだそうとしてるか、何か企んでるかわからないから、とりあえず匿ってほしいんだけど。」

「それなら構わん。どうせ、ここで生誕祭をするつもりだったのじゃろう?」

「あ、そっか。あいつがでてきて大事なことすっかり忘れてた。」

やっぱり、警告しないで瞬殺しておくべきだったかと、言う彼女は、天使というより正に悪魔だった。

だからこそ、姉よりも弟の方が人気というか、おかしな連中に好かれて追い回されることになるのだろうが。

女の子ということで悪い虫がつかなくて良かったことを喜ぶべきかそれとも…複雑なゲルドルデだった。

そんな彼等の様子を見ている者たちがいた。

「…何故邪魔をする。」

「邪魔とかの問題じゃないでしょーが。」

天に侵入した魔界のものこと、魔王の配下にして幹部である一人、バルレイトだった。そんな彼と今一緒にいるのはイスペイダーという男で、本来なら魔王の命令がない限り天に寄りつかないどころか動きもしない男だった。

「こっちだって好きで邪魔してない。そもそも、問題を起こすなよ。」

「何が問題だ。私は…。」

「あーはいはい。魔王様の独り言は命令じゃないから、毎回聞いてたらきりないから。わかった?」

「何をいう。配下としての誇りはないのか。」

「あのね、誇りとかいう問題以前にさ、まず落ちつけ。俺も面倒だからすぐ帰りたいし寝たいわけよ。だから、落ちつけ。でもって、俺の話を聞け。」

そう言って、必死に暴走を止めようとする彼だが、真面目で頭の固いこの男の考えは変わらない。

「今日会いたいと言っていたのだ。その願いを叶えて何が悪い。」

「だから…。」

説得に必死になっていたせいで、彼等は背後への警戒が怠っていた。

「私は魔王様の望みを叶えたい。」

「だから、無理なの。あのシャルマルタ君がちょっとでいいからとかいう理由で一緒にきてくれるわけないでしょ?」

「だから、誘拐…。」

「だー、駄目だってば。問題が大きくなるってば。」

「結局何がしたいんだ?」

「だから、帰ってゆっくりしたいけど、こいつがシャルマルタ君誘拐してもめたら面倒なことに…ってあれ?」

会話に熱中し過ぎて、第三者の会話の加入にもすぐに気付けない始末。

ぎぎぎと背後を振り返れば、そこには渦中の人物が立っていた。

「ちょうどいい。魔王様が貴様を所望している。だからきてもらう。」

「あーだから、だめだめ。」

「何がだ。邪魔するものがいないのに…。」

確かに、一番の面倒事である姉の姿がない。けれど、絶対いないとは言えない。何せ、何かセンサーでもあるのかと思うぐらい、正確に弟のことになると飛んでくる女なのだ。

とりあえず、余計なことを言わないように同じ仲間の口を塞ぐ。

「それで、結局お前等何しにきたんだ?」

気付いている者が他にもいるだろうが、フェルマータが気付いていないからこそ、シャルマルタは一人で出てこれた。まぁ、結局のところ、ここにきているのが害を成す理由ではなさそうなのと、戦場で見知っている連中だからこそ、本当に何しに来たんだと理由を知るためにでてきたのだが。

もしかしたら、神の事情を知る連中もいるから、そいつ等からすれば、理由がわかっているから放っておいてもいいと判断された結果なのかもいしれないが、生憎シャルマルタは何だかんだといってお人よしであり、自分に用があるのなら自分が出て話を聞けばいいと思っているので、姉が騒いでもこっそり出てきたわけだ。

まぁ、彼等が何故ここにいるのかははっきりいって謎だ。思いつく理由もないので、反対に気になったというのもわざわざ出てきた理由かもしれない。

「あ、悪いな。こいつの暴走で、迷惑かけたみたいで。」

「…あまり力いれると、そいつ、息出来ないぞ。」

「あ…。悪い。」

「げほっ…貴様、何をする…っ!」

へらへらしている男と激怒する男。どうやら自分に用があるようだが、はっきりいって関わりがほとんどない自分にいったい何の用があるというのか。

「それで、本気でお前等はこんなところまで何しにきたんだ?」

戦争でもしにきたのなら、本気でお相手するがと、少し構えて見せれば、怒っていた男がこちらをみて、闘う気はまったくないとざっくり言い切った。なら、本気で何しにきたというのだ。

あまり長くいないことを知ると姉が騒ぎだすから、早々に話を聞いて戻ることにした。

「魔王様が貴様に会いたいと言っておわれる。だから、私は貴様を連れ去りにきた。」

だが、こいつが何を言いたいのかまったくわからない。連れ去りということは、言葉の通り連れ去るということだろうか。この男は勝手についてきただけだと言う男に、嘘をついている様子はないので、もう一人の方へ視線を向ける。

すると、苦笑してその通りだけど、いろいろあってねと言葉を濁す。

何故自分なんだろう。どちらかというと、彼等とは姉を含めた八人や神との方が付き合い長いはずなのに。

「…聞いてもいいか?」

「何だ。急いでいるので向こうに行ってからでは駄目なのか。」

「いや、あの…。」

「あー、こいつのことは気にしないでくれ。それで、何が聞きたいのかな?」

再び口をふさいで黙らせ、今度は息が出来る程度にしながら、ややこしくなっては困る男がシャルマルタに聞き返した。

「お前達がここにるのは俺に用があったんだよな?」

「ああ。」

「で、お前達が俺に用があるのは魔王が俺に用があるから、なんだよな?」

「ああ。まぁ、実際は独り言をこいつが大げさにして勝手にやろうとしてるだけだけどな。」

それを確認して少し考え込むシャルマルタ。

「お前達は魔王が俺にどんな用があるのか知ってるのか?」

「えっと…。」

「だから、会いたいと言っておられると言っているだろう。」

何故そう言われるのか身に覚えのないシャルマルタにとっては謎でしかない。

「あー、えっと、話をすると長くなるから面倒なんだけど、俺はそっちのゲドルデと同じ初代なわけ。そこ、わかる?」

悲しいことに、最近ちょっかいを出してくる男、イルドワーレのせいで天にいた三人の神と何故魔王がいるのかを知ったシャルマルタは14人の守護天使がそれぞれわかれ、今でこそそれぞれ八人いるがほとんどが引退して現役でいるのは数少なく、真実を知るものが少ないことを知っていた。

この歪んだシステムに関しては何故こうなったのか知らないので、多少天にも神にも疑問を持っていることは内緒だが。

「意見の食い違いから始まった喧嘩が大きくなって、天使も悪魔もどうして争っているのかわからず敵だから倒すということになっただけで、元々天も魔界も干渉することも争う気も互いにないが、状況が状況で戻れなくなって困ってる古株連中、だな。」

「あー、何か、よく理解してくれていて助かるよ。そういうわけ。だから、魔王の命令は絶対なわけだが、だいたいはあれだ、神といがみ合いしてるだけなのよ。結論から言えば仲いいくせにね。」

「…あれは仲がいいというものに入るのか?」

一度だけ、神と魔王が対面し、言い合いをしていた姿を見ているだけに、何だかどこまで信用していいものかわからないが。絶対倒さなければいけない悪であるとは、あれを見てしまったら思えなかったけれど。

「でもさ、それどこで聞いたわけ?」

「イルドワーレだ。」

「あー、あいつね。」

納得した相手に、一応あの男が嘘をついておらず、あの男も悲しいことに真実を知る古株の一人だと認めざる得なかった。

「で、ここは交渉ね。俺もすぐ帰りたいけど、こいつが何するかわからない以上、俺もゆっくりできないわけでさ。」

そう言って、取り押さえている、そもそも今回の騒動の原因を指さして困ったように言う男に耳を貸す。

「魔王が君に会いたがっているというのは事実なんだ。君がそれを知っているということなら理解できると思うけど、君の母親がね、魔王と神と仲良くてね。」

「そう、なのか?」

「あれ?それは知らない?じゃああまり詳しく言えないけど、とにかく神にとっても魔王にとっても君は特別なわけよ。」

「…姉さんだっているだろう。」

「えっと、そこは説明しずらくて困るんだけど、わかりやすく言えば、君は母親似だけど、姉の方は父親似なわけ。どっちかっていうと、特別の意味はそういうことね。」

シャルマルタはいまいちよくわからないが、母親が仲良かったからこそ、友人?としてその子どもを可愛がるという感情に似ているのかと問いかけるとまぁそんなところだと答えが返ってきた。

「それにね、君の誕生日だからね、会いたがってるんだよ。同時に彼女の命日でもあるから、俺としても、魔王がへこんでうじうじしてるの相手するのも面倒だから、それなりに元気でいてくれたらこっちとしても平和に過ごせるわけ。」

「…。」

「あ、もしかして命日も知らなかった?」

「ああ。」

「それはごめん。一応、天でも魔界でも君の母親のことはタブー扱いなんだよね。」

「タブー、だと?」

「そう。思い出すと、使い物にならなくなるのが二人もいるからさ。」

これまでの会話で、何となくその使い物にならなくなる二人がわかって愕然とする。何なんだろう。この天も魔界という世界も、歪んだシステムにも疑問だが、それ以上にそれを治めるものがすでにおかしいなんて。笑えない真実を知った気分だ。

もしかして、歪んだ原因は世界の主がおかしいからか。そうなのか。

「別に君の母親が悪い意味でタブーじゃなくて…もう、そこまで知ってるなら下手に隠す方が面倒だから言うけどね、神も魔王も元々一つだったこの世界の主だったわけ。で、君の母親、女神だと呼ばれてたけど、その三人がこの元々一つだった天と魔界の主だった。で、直属配下で『天』を守るのが14人の天使だった。その一人が俺ね。ベルセルと共に、魔神を倒す為に闘ったのが俺達の主である三人だった。そもそも、はじまりはそんなもんだった。が、二人は女神様に恋したわけだ。で、神との子と今俺達の主である魔王との子、二人生まれたわけだ。で、姉の方が神で君が魔王の方。だから、尚の事実子でもある君に会いたがるわけ。わかった?」

「俺は、魔王の子…。」

「あ、気を落とさないでよね。魔王っていっても、元々同じ神様だから。で、そもそも天と魔界がわかれた理由は仕方ない事情だったってこともわかってるんだよね?だから、そのことは気にしちゃダメだよ。気にされたら話した俺の首飛ぶからさ。」

面倒事はごめんだから、穏便に進めるために話してるから頼むよと言う男に、少しばかり頭がおいつかないシャルマルタ。

「でも、僕もさすがにそこまでは話さなかったのに、やるね。さすがイスペイダー君。」

「っ?!お前…!」

「貴様は。」

三人が三人とも、気付かない間に近付けてしまった、ある意味面倒な男が現れた。

「イルドワーレ…。」

「ちなみに、僕も知ってたけど、君はちゃんと天使だから、余計なこと考えさせないようにしようと思ってね。」

「それは、洗脳するという意味でか?」

「もう、違うってば。神様も仕方ないんだってば。天使を生み出すことができても、干渉できないことになってるの。ま、お飾りって言われればそれまでだけどね。だって、神様は何かをしてくれるわけではないからね。」

それが、歪んでも戻せない理由の一つ。

「せっかくだし、僕も一緒についていってあげるから、ちょっと会いにいってみる?僕も久々に魔王君に会いたいし。」

「俺としてはお前が一緒だと魔王が逃げるから困るんだが…。」

その言葉に、はたと気付いたシャルマルタ。すぐさま男の背後に逃げる。今は敵よりも身内にいるこっちの方が危険だ。ある意味、この男が魔王に近づくのも危険かもしれないと心配してしまうぐらいだから、よっぽどだ。というか、何故この男が神の側に残っているのか謎すぎる。

「僕としては、味方のつもりなのに敵である君達の後ろに君が隠れちゃう方がへこむけどね。」

「…お前とこいつの話が事実なら、はっきり言って俺はお前より魔王の方が安全だと思うからな。」

「えー、それってちょっとひどくない?」

そんな二人のやり取りに、すでに君も犠牲者の一人だったんだねと、何か納得された上に憐れみの目で見られた。何か悲しいのは何故だろう。

「とりあえずあれは置いておいて、ちょっとだけでいいから、一緒にきてくれない?もしかして何か用事ある?それなら出直してくるけど。」

少し考え、確かめたいという思いもあったからか、これまで通り…いや、一度足を踏み入れればこれまで通りではいかないことはわかっているが、表面上はこれまで通りと同じ、天使としてここにいられるのなら問題ないだろう。

「わかった。会うだけなのだろう。姉さん達が知ると面倒だから…お前も黙っておけよ。」

なら、一緒にくることには何も言わないと言えば、はーいとわかってるのかわかってないのか判別の難しい返事が返ってきた。

「血の気の多い連中が多いから、何かあったらいけないからこれ持っててくれる?」

そう言って、渡された指輪。彼の持ち物らしいが、何故それを持っていなければいけないのかわからないが、魔界には魔界の理があるのだろう。これを持つことで問題なく進めるのならそれにこしたことない。

「お前はなくても問題なさそうだからいらないだろ?」

「僕としては君のものを彼が持つのも嫌だけど、こればっかりは仕方ないから見逃してあげるけど、僕は君の印つけられるの嫌だからお断りだよ。」

「お前、これの意味知ってるのか?」

「勿論。じゃないと幹部なんてもの、それも最初から今までどれだけやってきたと思ってるわけだい?」

「それもそうだったな。」

シャルマルタにとっては天敵のような存在であっても、いつもふらふらしていても、何より真面目さのかけらも見せない男であっても、この天においては古株の一人だ。経験や能力が普通ではないことは確かだ。そうでないと、直属の配下の天使の一人としてこうも長く名乗り続けることなどできない。

基本は平和なことこの上ない天という世界においても、こういう階級においては甘くない。

「話終わった?じゃ、とりあえずそれつけて、少しだけ眠っててもらえるかい?」

「…。」

「あ、別に何かしようってわけじゃなくて、あまり入口知られると面倒だというのと、もし途中ではぐれたら困るからなんだ。」

空間が少し歪んだそこを通り、もし何かあったらいけないからこっちで運んでしまおうということらしい。

「あ、こっちのことが信用ないなら、そいつに運んで…。」

「いや、お前達でいい。」

意識ない時になにされるかわかったものではない。むしろ、今目の前にいる天にとっての敵より、味方であるこいつの方が危険だ。

「えー、何でそこ即答なわけ?」

「自分の胸にでも手をあてて考えろ。」

言われた通りするが、へらへらしてわからんと答える男に溜息がでる。わかっていてもとぼけるのがこの男だ。

「もう何でもいい。だが、おかしなことはするなよ。」

「それはもちろん。一応、そっちの彼が何かしないように見張っておいた方がいい?」

「ああ、頼む。」

「ねぇ、普通そういうことって味方に頼むものじゃない?」

「お前は信頼できん。」

「えー。ひどいなぁ。」

こんなに愛してるのにと言われても、その愛が迷惑なのだから仕方ない。

「女の子なら、絶対に神や魔王を敵に回してもお嫁さんにもらいにいくのに。」

「余計悪いわ。そもそも、貴様は性別無視だろうが。」

「まぁね。だって、天使にとっては性別なんてあってないようなものでしょ?人や動物とは構造が違うしね。」

だから、一応性別として区別があっても、子どもをつくる上では男も女も関係ないのが天使だと言い張る相手に、だからこそ貴様の側にいるのが問題だろうがと言い返すが笑ってごまかされるだけだ。

「何か、苦労してるみたいだね。」

敵に同情されてる。本当に泣けてきた。

「とりあえず来るのだな。」

「ああ。だが、誘拐される気はないからな。」

「構わん。魔王様の望みをかなえられるのなら問題ない。」

顔の前にすっと出された手に、反射的に構えて一歩離れたら、苦笑された。そう言えば、眠っていてほしいとか言っていたような気がしたことを思い出し、構えていた腕を下ろす。

「悪いね。こいつはいろいろ言葉が足りなくて。確かにこんなのに付きまとわれてたら警戒するに決まってたな。とりあえず、あまりここにいて目立つのも避けたいし、そろそろ引き上げたい。眠ってもらって構わないか?」

頷くと、もう一度誘拐しに来たと言っていた、確かバルレイトだったか、真面目な男が手を翳し、シャルマルタの意識は途切れた。

「だが、本当にいいのか?」

崩れる身体を抱きとめ、イルドワーレの方を見た。

一応、世界の理の上では敵であり、神にとっても大事な手札に手を出されたのだ。直属の配下である彼が手を出さないのは明らかな規律違反だ。

「まぁ、『神様』も見逃してくれるよ。だって、仲良しだしね。それに、自分だけ娘と息子と一緒にいられて、もう一人の親である『元神様』が会うことができないなんて、不公平でしょ?」

平等な平和の世界、なのだから。

「確かにそうだけど。」

「話は道ながらでいいだろう。さっさと行くぞ。」

「あのね、どうしてこうなったかわかってる?しかも君は彼運ぶ気もないし。」

「なら、こっちに寄こせ。」

「引きずったり乱雑に扱ったら怒るよ?で、怒られるよ?」

「…。」

「なら僕が…。」

「一応、責任の問題として、彼から言われたしね。断っておくよ。」

「残念。」

そして三人は一瞬でその場所から姿を消した。それと同時に姉が弟の気配が消えたことに気付き、すぐさま飛び出してきたが、そこにはいない。

「シャルー?!」

騒ぎだした姉が暴走する。それを止める為に様々なものが犠牲になったことに、シャルマルタはまだ知らない。