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女王陛下という存在
かつて大きな争いが起こり、世界は滅亡の危機に瀕した。 女王陛下は守り人に指令を出せる唯一の存在であり、必ず女性でなければいけない決まりがあった。 それも、魔女として人から忌み嫌われた一族の中で、魔の浄化が行える能力を持つもののみとされていた。その為、必ず能力を失わない為に誰か一人を選び契りを交わすことを禁じていた。 だが、女王といっても一人の女性であり、初代も二代目も大切なただ一人の相手を選んでしまった。 その瞬間、女王は死ぬ。残った魂を次代の女王が取り込むことで即位の儀式が完了する。この儀式を行うことで、先代の記憶を知り、世界のことを知るのだ。 だが、二代目の死の際、事件が起こった。彼女を愛した使い魔であった男が、次代の女王を手に掛けた。 男にとって、女王ではなくただ一人の愛する女性であり、愛したというだけで死ぬというこの女王の体制も、死ぬだけでなく肉体も魂も奪われるということに我慢ならなかったのだ。 こうして、女王は死に、次代を受け継ぐ女王もまた命を落とし、儀式は中断された。もちろん、男はその場にいた儀式を進行する儀式場を守る番人達に始末された。 だが、このままではベルセルは機能しない。 「お主が、継ぐのじゃ。」 儀式の見学を許可された、三代目女王候補であった彼女の弟を指さす、ローブで顔も全て隠した老人。 「お主は女王と同じ血が流れ、同じ力を持つ。性別だけが問題なだけじゃ。」 今から次の候補を見つけることもできない。 「…でしたら、姉の亡骸、返していただけますか。」 ここにきて初めて口にした言葉。女王の身は女王となった時からベルセルという機関のものであり、死後も家族の元へ戻ることもない。そもそも、女王になってしまえば面会すらほとんどできなくなる、そういうものなのだ。 だから、彼は姉の返還を求めた。 「よかろう。好きにするがよい。」 頭をさげる。そして、彼は名前を誰からも呼ばれず女王として生きることを義務づけられた。 「姉さん。僕は大丈夫だよ。」 小さいけれど、ちゃんと見晴らしのいい人の出入りのないこの場所に墓を建てた。ここで眠る姉を思い出す。そうしたら、自分は女王陛下ではなくただのコクレイに戻れる。 「女王陛下。」 「ジルバか。どうした?」 「エリア10とエリアX3にて歪みが確認されました。」 「そうか。」 振り返り、城へと戻るための一歩を踏み出す。 戻れば、また女王陛下にならなくてはいけない。 「セルバは城にいるのかい?」 「はい。」 「じゃあ、戻ったらセルバにはエリアX3の確認と守り人の報告聞いてきてくれるように言わないとね。」 そして女王陛下はジルバと共にエリア10へとこの後飛ぶことになる。 「やぁ、久しぶりだね、ゆう。」 「おんや?もう来たわけ?」 よっこいしょっとぐてっと机の上でぐだぐだしていたゆうは身体を起こした。 「はい。『女王陛下』からの伝令ですから。」 「へー。で、今度は何?」 「エリアX3に違法に侵入した者がこちらに来て問題を起こしているようです。」 「あらま。まったく、X関連のはいろいろ面倒だってのに。」 だからこそ、エリアXに指定される場所への立ち入りを禁止している。それでも人は誘惑に負けて足を踏み入れてしまうためにこのようなことが起こる。 「ま、仕方ないけどね。なっちゃったもんは、さ。」 面倒くさいーと文句をいいながらも、ぱっと彼女の正装に着替え、準備を整えた。 「では、ご武運をお祈りしております。」 「じゃーね。適当にやってくるよ。」 そう言って、彼女の姿はそこから消えた。変わりに彼の側にジルバの姿が現れた。 「せっかくだから、エリア5へ遊びに行きますか?」 今頃向こうは物語の結末を迎えようとしているころだろうから。 自分の事を知られない限りは、自由に行動する。 女王は決して人に姿をみせてはいけない。正体をさとられてはいけない。そして、一人孤独に生きる魔を浄化する力のある魔女の一族の女性でなければいけない。 魔を浄化する力で、エリアX1に封印された魔が再び世界に出てこれぬように大地を清め続けなければいけない。 そう、その魔こそ、人を魔にそめかつての大戦を引き起こした元凶であるから。決して女王に自由は存在しない。 女王というのはトップに君臨する飾りではなく、本来の存在意義は生贄なのだ。 |