出かけた先で、耳にした噂。

普段なら気にも留めないことであったが、彼が屋敷の主に仕えるようになってからは、そういった情報も必要になるため、聞き流さないように常にしていた際に聞いたもの。

『最近あの村…。』

『聞いた聞いた。なんでも化け物がでるんだとか。』

小さな話し声。ここより少しはなれた場所での会話。聞き耳を立てるのは失礼ではあるが、化け物という言葉から、また仕事がらみかとそのまま何気ない振りをして足を進めながら、会話を聴き続けた。

結論から言うと、この先にある人の少ない村で、化け物がでるようになったということ。それは、人にはない力があるということ。

それだけを聴いたら、この仕事をしていると、そう言う連中がたくさんいるので、こちら側に関わらずに生きている者達がいるのかと思っていた。けど、そうではなさそうだった。

人を攫って行くと言う言葉が続いた為、見過ごせない内容だと判断した。

そして、主に報告した後、現地へと足を運んだ。

その結果、現状に至っているのだが…情けない話、捕まってしまった。

 

 

 

 

おかしな連中のおかしなお茶会

 

 

 

 

話は少し遡る。

現地で先に正確な情報を得る為、主の命令もあって緊張感を持って赴いていた。

普段なら緊張感を持つのが馬鹿らしい位、ろくな用事ででかけたりしないからだ。

それをいうと二人ほど苦情がでるので、あえて言わないが。

足を運ぶと、確かに普段感じるものとは違う、異質さがそこにはあった。それが何なのかは、専門外なので、こういったことにはレイチェの方が良かったので、失敗だったかもしれないと思った。

今日がとある箒の譲ってもらう為の商談日でなければ、間違いなく彼女が調査にきていただろう。本当に運がない。そう思わざるえない。

「それにしても…この匂いはなんだ?」

違和感と同時に嗅覚を刺激する匂い。甘い、お菓子の匂いがかすかにするのだ。

こんな場所で、確かにこの先に村はあるが、こんなお菓子の匂いがここまでするほど盛んにお菓子作りをしているわけでもない。

「この辺りでは珍しい香料も混ざってるな。」

どんなことになっているにせよ、普段ないことがあるのなら、知らないものからすると異常であり、それを見聞きした状況によっては何でも化け物に視えてしまうかもしれない。

かつての職業病のごとく、気配を消し、警戒を強めて奥へと進む。

進むにつれ、感じる違和感は大きくなり、次第に確信へと変わる。

ここには化け物なんて可愛いものがいるんじゃない。それ以上の得体のしれない恐怖の塊そのもののような存在がある。

「まずいな…。」

得体のしれない、強い力の塊がこの先にある。それが原因で、間違いなく化け物の噂がでている。確認しなくてはいけないが、経験からか、足がいう事を聞かない。

それが油断に繋がったのかもしれない。

ハッと気づいたときには、背後にいた。まさしくゴーストと言うに相応しい、白い布を被ったような生き物が現れ、飛びかかってきた。

それを避ける為に動いた先に、別の何かがあった。そして、そこから意識が途切れた。

完全なる失態だ。

「縛られていないところを見ると、捕えるつもりはないようだが…。」

見知らぬ場所で、これ以上の油断は命に係わる。それこそ、ここには得体のしれないものが存在している。

そっとその部屋から出て様子を伺うと、森の中よりも強くお菓子の香りが充満していた。

間違いなく、ここが目的の場所で、自分はその対象に囚われたと言っても過言ではない。けれど、縛られていたり、鍵が閉まって出られないと言う形跡がないことから、悪意はなさそうである。

「何がでるか…。」

違和感の気配は強くなっているし、明らかに異質な存在はある。けれど、悪意や殺意といった負の感情は存在していない。そんな奇妙な違和感から、敵の状況がつかめずにいたが、すぐにフリーズする羽目になる。

気配がする部屋の扉の前に立ち、意を決してそっと開ける。

そこにあった光景に、目が点になるという体験をした。

「いつまで付き合えば気が済むんだ。」

「ずっとこのままでも、俺は大歓迎さ。」

テンションがかなり高い見知らぬ男と、主が好意を持っている同業者の天使(絵で見せられただけで、まだきちんと対面していない)がそこにいた。

「あ、目が覚めたか。大丈夫か?」

「なんでそいつには優しくて俺にはつれない?構えー!」

「あ、もう。いいから少しそこで黙って大人しくしてろ。今日ぐらいなら付き合ってやる。それ以上は仕事があるからお断りだ。」

「やっぱりつれない…。」

よくわかからない男に絡まれながら、それを振り解いてこちらへと来た。

主がいうように、確かに綺麗な人だと思う。遠目でみたら、女性だと間違えてもおかしくないぐらい、綺麗な人だ。

「あ、あの…。」

「グレンのところの協力者、メイカの従者だろう?すまないな。ここの連中悪い奴等ではないが、遠慮というものが皆無でな。」

まぁ、人とは違う感性で生きているから諦めてくれると嬉しい。そういって、近くの席を勧めた。どうして自分のことを知っているかは今は置いておいて、状況を知りたかった。

「あの、ここは?」

「ある意味世界の狭間、だな。あっちにいるのは霊皇だ。忍びだったら存在ぐらい知ってるだろう。」

「ああ。だけど、あれ…。」

「視えないかもしれないけど、あいつにとって、姿は意味がないんだ。都度違うからな。気配で覚えた方がはやい。」

忍びはそういうのが得意だから大丈夫そうだが、主の方が問題だから、次見かけたら無視した方が賢明だと彼は言った。

「それで、狭間ではあるが…扉をいくつかあるんだ。出入りする為のな。そのせいで、抜け出した奴がうろうろしてることがある。それをお化けだとか化け物だとか騒がれてしまうこともある。」

その調査で来たんだろう?そう言われて、今回の件は問題なさそうだと判断し、少しだけ肩の力が抜ける。

「それで、実際問題、今ここはエリア13のとある奴のとある住処の一つだ。」

「…それは教えられないってことですか?でも、エリア13って…。」

「独自の文化スタイルの種族が多いところだからな。島国も多い。そのせいか、孤立していて知らない人も多い地域だな。担当者がいるが、あれもまた曲があるから、見かけたら無視でいい。」

頭はまだ混乱している。

聞いている話からすると、そんな無視をしろというような人ではなかったはずだ。

その時だった。奥の扉からがたがたという音がしたと思ったら、自分の時と同じようなゴーストのような生き物が何体か入ってきた。

『いたいた。』

『つれてきた。』

ひょいっと部屋の中へ放り投げるように動いた人影。

「災難だったな、世鷲。」

「いたた…。あれ、冥鎌…ってことは、ここはエリア5?いや、違うか。」

すぐに状況を理解したらしく、思いきり肩を落とす。

「そう言えば、はじめてか?彼は俺達と同じ、エリア区間毎の守り人の一人。世鷲だ。いろんなところへ出張も多いから、この先関わることもあるだろうから、知っておいて損はないぞ。」

「あ、えっと。グレンさんの協力者の使い、ヒュオルと言います。」

「ああ。最近正式に増えたって言ってたメイカ御嬢さんのところか?」

「はい。」

先代とは何度か仕事で関わったが、引退した後もごたごたしていて挨拶いけてなかったのだという彼に、戻ったら旦那様にお伝えしておくと言うとわざわざいいよと答えを返された。どうしてかと問うと、必要な状況の為にこちら側から降りたのに、また巻き込んでは申し訳ないからだと言った。

「旦那様とは、付き合いは長かったのですか?」

「いや、数回会っただけだ。俺の連れの方が、どちらかというと親しかっただろうが。」

「そうなんですか?」

思ってもいなかった出会いの中で、思ってもいなかった話題に遭遇し、知りたいけれど、勝手に知ってもいいのかと思考が混迷していると、問題児が動き出した。

「どうして俺だけ蚊帳の外になるんだ?!」

せっかく主催者なのにー!と騒ぎ出した。本当に面倒な正体不明の存在だ。

噂では聞いていたが、正体不明の霊皇がこんな子どもっぽいとは思わなかったし、イメージがダダ壊れだ。

「そもそも、何故一般人を連れてきた。」

「ん?何が?彼は一般人じゃないし、問題ないでしょ。」

「あるだろ。お前を知らない相手を巻き込むな、と言ってる。お前を知らない対象を俺は一般人だと言ってるんだ。」

「どういうことですか?」

「視ての通り、これは問題児だ。守り人のほとんどが、個性的な面子が揃ってはいるが、あれだけは例外中の例外なんだ。」

できれば、同じ守り人であっても、関わりないものもいるし、むしろ関わらない方が身の為であることもあるのだと、彼は言う。確かに霊皇であるのなら、元々が異界の住人であり、普通とは違う次元で生きて、違う次元の力を行使する存在だ。そんな相手とは、関係者であっても、守り人ですらない自分が会うことは一生のうちでなかったかもしれない。

「ですが、彼は霊皇であって、守り人ではないのですから、関わりがないことはあるかもしれません。多少問題があったとしても、関わって生じる弊害がそこまで大きいとは思えませんが?」

その問いに、相手の二人が互いを見て、何かについてアイコンタクトをとっていた。何かおかしなことを聞いただろうかと思っていたら、とんでもないことを知ってしまった。

「こっちの関係者だから、別にわざわざ隠す必要もないよ?」

そう言って、話に割り込んできたのは、対象人物の霊皇本人だった。

「霊皇っていうのが本職だけど、霊皇は特殊でね、他にもいくつか人格と職業が存在してるんだよね。その一つに守り人がある。そして、冥鎌と知り合いなのは、彼が天使として天に属していた頃からで、天にもまた、僕は天使として彼の上司としている。だから、僕はいろんな者達とかかわりがある。けど、誰も僕のことを知らない。」

どうしてだかわかる?と、彼は問いかけてきた。

守り人や天使であもあるという、ありえないような話ですでに頭の情報量がいっぱいいっぱいになっているというのに、完璧に遊ばれている。

「この世界のこと、この世界の住人は本当に知らない。だから、霊皇の存在を知らない者も多い。それこそ、ベルセルのことすら、ね。だから、僕はこの世界が嫌いだ。それでも、異界を管理する者として君臨する。」

とても退屈なんだ。そう言った彼の瞳は陰りがあった。

「そんな時、遊びの一つだったんだ。今ここにいる自分とは別で、だけど意識を共有できる存在をつくって、別の場所でそれぞれ過ごすことができる。最初は暇つぶしだったけど、困ったことに、責任者に近い地位ばかりになってね。」

そろそろ引き上げようと思った時に、出逢ったのが、今いる仲間であり、彼等を守る為に今を使うのはいいかもしれない。そう思ったから、今のままだと、彼は言う。

「じゃあ、今の貴方は誰なんですか?」

「そうだな。今は正確にはエリア13の守り人、ゆえるという方が近い。」

「おい、繋がりはあると思ったが、本人だとは思わなかったぞ。」

「そうだね。今話した。許してよ。あ、田所はもちろん知ってるよ?けど、黙ってたって怒らないでよね。彼は悪くない。歴史を知る。歴史を残す生きた書籍だから。」

「わかった。なら、ゆうはどうなんだ?」

「彼女は知ってるかもしれないね。勘、に近いかもしれないけど。彼女は知っての通り、昔のことでいろいろ関わってるからね。」

主ですら知らないこの世界のこちら側の話を、仕えるだけの自分が知ってもいいのかとだんだん不安になる。

今日はたまたまだった。けれど、知れば知るほど、この世界に何が起こっているのかわからなくなる。

それこそ、この世界はどこへ向かっているのかさえ、わからない。

「どうして、俺に話したんですか?」

「そうだね。僕を知らない誰かがボクを知ってどう思うか。それを知りたいのかもしれないし、そうでもないかもしれない。」

どっちなのかわからない。あまりにもいろんな人格を自分として過ごしたせいで、彼自身がおかしくなっているのかもしれない。少しだけそう思った。

「それに、知られたところで、僕はいくらでも相手の記憶を奪える。そう言う存在でもあるんだ。」

だから、誰も知らないまま。そうやって生まれて死までを繰り返す。関わっても関わらなくても、『知らない』ままにこの世界から別離する。

そう言った彼に、少しだけ恐怖を感じた。今ここにいることすら夢で消えてしまう可能性を示唆されたのだ。

「なら、何故話したんです。それこそ、手間でしょう?」

「巻き込んだお詫び。でも、今回は消さないよ。この事実を安易に話すことはできないように、呪をかけておくけど。」

巻き込んだことに冥鎌に怒られて嫌われるのも、記憶を消して放り出すことに、また冥鎌に怒られて嫌われるのも嫌だから。そう言った彼に、つい俺は冥鎌の方を見た。

こちらを見ずに、のんきに紅茶を飲んでいる姿は、優雅ではあるが、話を聞いて、霊皇をここまでどうにかできる可能性の事実に別の恐れを感じる。

「あんたは本当に、冥鎌のことが好きなんだな。」

「勿論さ。この退屈な日々を生きていようと思えるようになったのも、この世界の為にどうにかしようと思ったのも、守り人としていつかくる日の為に使い魔を連れるようになったのも、彼と出逢えたからだしね。」

そうじゃなきゃ、とっくにこの世界に見限りをつけていた。そう言った彼は、本当に世界のことはどうでもよさそうだった。つまり、この世界と異界に関する召喚術や技術が維持されてきたのは冥鎌のおかげということだ。

もし彼が見限っていたら、忍びは呪を使えなくなる。それこそ、魔女や他の異界からの力を借りて力を扱う者達全てが一瞬でなくすのだ。

そうなれば、忍びの里での歪んだ組織形態はとっくに崩壊して滅んでいたかもしれないし、ごたごたで人がたくさん死ぬこともなかったかもしれない。

どっちが良かったのかはわからない。けれど、どっちにしても多くの命が消えて行ったことになる。

「さて、今日はそろそろお開きにするかな。」

「もういいのか?」

「だって、あんまり引きとめると、冥鎌怒るだろ?」

会いに行っても門前払いされるし。そういってめそめそする姿は、どうみても霊皇だと思えなかったが。

「なら、先に二人を元の場所へ案内してやれ。世鷲、また、時間があるときにな。ヒュオル殿、本日は本当にすまなかった。もし次があれば、適当にこの暇人の話し相手になってやってくれ。」

「さっさかいくよ〜。」

冥鎌の言葉を合図に、突然空間が歪む。そして、気づけば気を失う前にいた場所にいた。そこには霊皇も世鷲と名乗った守り人も、冥鎌もいない。

不穏な気配もぱったり消えてなくなった。

とにかく戻り、異常はなく、守り人の一人による、守り人を誘うための魔術で人が消えたのを目撃されたことが原因だと報告した。

「あのお方に会うなんて?!私も行けば良かった。」

当然、全てを報告するわけにはいあかないが、冥鎌がいたことを話せば、主はがっくりと凹んだ。ある意味平和である。

「いっそのこと、次は会いに行くってことでどうっすか?」

無責任なメイドの発言に、行くと何故か意気込む主に、ため息が零れる。

いろいろ知った事実でいろいろ聞きたいこともあるが、当分は関わりたくないなと思う事実もあり、複雑である。

とにかく、問題が何事もなく良かったと思うことにして、執事としての仕事に戻った。

 

 

 

 

 

「それで、見つかったのか?」

「いきなり仕事に戻っちゃう?」

「元々、その為にきたのだからな。」

「そうだね。…とりあえず、あった。けど、アレはもうだめだよ。」

本当の、神隠しの原因にして、ゆえるのもとにきていた、守り人としての仕事。

「魔人が関わってるとなると、彼を巻き込むわけにはいかないからな。」

「だから、すぐさま引っ付構えて回収したでしょ?」

ほっといても良かったけど、関係者だから仕方なくだし。そう言う彼に、ちらりと見れば、言い方悪かったと素直に謝った。

「世鷲まで来るとは思わなかったな。」

「きっと、ある程度は気付いてるよ。」

「だろうな。けど、今はあいつ自身がエリア外に出ている場合じゃない。」

ここだけではなく、彼の担当エリアと、ゆうの担当エリアが今回不穏な気配を漂わせているのだ。

「そうだね。近いうちに、必ずくるよ。大きな歪みが。」

「そうだな。警戒が必要だ。」

逃がした大物が、何をしていたのかはわからない。けれど、愉快なことにならないことは事実だ。









あとがき
世界のことを詳しく知る者とそうではないものの対談。
完全に巻き込まれて放り出されるヒュオル君の災難話でもあります。
一応、本編の大きな歪みの話の前ふり話として書いたものですが、霊皇が好き勝手するので、こんなことに。
なんだかんだといって、付き合ってくれる冥鎌と、構ってほしい変人。
そして、いつか出逢った時に確信へと至る物語。