名前というもの

 

 

国にはそれぞれ外からの出入りを監視する場所が存在する。

それはどこでも例外ではないし、不審人物を入れない為でもある。

基本はただ普通に通れる。だが、この国は少々面倒なことがある。

関所として三カ所ある出入り口で、名前を名乗って向けられるライトを数秒浴びなければならない。

これは一種の魔術による識別システムで、これによって誰がいつ入国し、いつ出国したか全て記録されるのだ。

厳しいところもあるが、普通に素通りのところもある中、ここは変っていると有名だ。だが、別に其れで何があるというわけでもなく、むしろ有事の際の安全の為に誰がいないのか確認するリストとしても利用されるので、国民も外からの入国者も犯罪者でなければ文句は言わない。

「…琴詠。」

名乗れば、いつものように向けられるライト。そして、赤いランプがつく。何だと集まる警備達。そして、何者だと警戒される。毎回の事なので溜め息が出る。

実際、琴詠という名前が正式な名前であるかというと違うというのも事実ではあるが、今の俺にとってはこれが俺の名前なのだ。これ以外名乗るつもりはない。

だから、主がつくってくれた身分証明を一番近くに居た警備の奴に見せた。

「俺は幻神楼の警備隊長の琴詠。主、冥鎌様からこの国の七騎士のリュイールへの信書を届けに来た。それでも疑うのならば、七騎士の一人、ワーテルエを呼んで判断をしてほしい。彼は知人だ。」

そう言うと、数人が顔を見合わせ、上へと連絡を取った。

しばらくして飛んできたワーテルエ。彼は有翼人なので空を飛ぶことができるし、それが当たり前だとこの国では思われているので差別されることもない。そう言う意味ではいい国にいられて良かったなと友人として思う。

「琴詠!すまない。」

そう言って、他の連中に知り合いであるし、彼は例外でどうしてもこれに引っかかってしまうんだと説明し、その場を収めた。

「連絡してくれたら、私がここで待っていたのに。」

「本当は明日の予定だったが、速くなったんだ。これはこっちの都合だ。だから気にしないでくれ。」

会話をしながら、街中を通り、城へと向かう。

目指す場所は城の中にある、騎士団の宿舎だ。騎士団といっても、この国にはいくつかわかれていて、彼、ワーテルエが属するのは特別魔導騎士団だ。たった七人だけの精鋭で、魔導を扱う事をメインにしている。しかも、出動するのは、戦争ではないのだが、意見の不一致による対立で、戦いで勝った方が意見を通す権利を持つということで、その際に戦う騎士なのだ。相手も結構な手誰だと聞くが、おかしなことになってるなと最初は思って心配もした。

だが、それがこの国と向こうの国とのやり方で、人の血で争う戦争で解決することよりはいい。

あくまで、正々堂々限られた時間の中でどちらが優位になれるかが勝敗で、互いの命をとりあうものではないからだ。もしこれが取り合うことになるのなら、全力で止めていた。

「今日も、平和そうだな。」

「ああ。そっちもお前がくるぐらいだ。平和そうだな。」

「おかげ様で。」

あんな出来事はお互いにもうごめんである。だから、平和なのがいい。

「さっさと、仕事を終わらせて帰るか…しかし、いい加減あれをどうにかしてくれ。」

「でもな、やっぱり無理だと思うぞ。」

あれは、個人を指す名前と本人照合が正確だ。だからこそ、起こるのだ。

確かにシュウファンは死んだ。だが、それを証明できるものは存在しないし、反対に言えば、琴詠もまた存在しない。琴詠はあくまで、シュウファンという亡霊が名乗っている名前に過ぎない。

だから、間違っていないが、今もまだ琴詠はこの世界においてシュウファンという名前であり、それ以外の名前を書類として出していないし、認識されていない。

魔女といった、名前を隠すような連中には、そもそもこれが適応されないし、反応もしないから問題ないのだが。

「いい加減、お前があれに指示を入れろ。」

「それは私の一存ではできない。王か、隊長格…」

「つまり、リュイールか。」

その選択肢しか存在しないのなら、絶対に無理だ。何故なら、この男がシュウファンだと最初に紹介してしまったからだ。違うとも、待てとも言ったのだが、この男が紹介してしまった以上、もう訂正はきかない。

契約を大事にするあの女は最初に紹介された名前で俺を認識した。つまり、王以外では無理だ。その王が俺と会えるはずもない。そもそも、あれは人の前に出たがらない。理由は知らないが、それは人それぞれの問題だから琴詠にはどうでもいい。大事なのは帰る場所のことだけだ。

これからも、あの警報に引っかかり続けることになりそうだが、あの場所に被害がないのなら別にいいやと開き直ることにした。