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これは昔々のお話。あるお姫様と一人の男の悲しい、けれど温かい恋の物語。 彼等がいつか幸せを掴めるよう、咲き乱れる華咲く月夜。 「また、この日が来たのね。」 一人の呟きが、夜に消える。 恋の華が咲く月夜 出会いはただの偶然で、一生恋することなく、この中で生きて死ぬと思っていた私にとって、宝となった。 「誰?」 初対面同士。外で初めて見る、『人間』だった。 「すいません。道に迷って。」 彼は、本当に迷ったらしい。確かに、ここへは簡単に出入りができないようにしている為、わからなくはない。 何せ、私を含め、ここに住むのは化け物なのだから。 けれど、出逢った彼は、私は綺麗だと言った。 普段、私と同じ化け物である仲間が言っても、一族の主の娘としての建前しか受けとめなかった。だから、何も思わなかったけれど、私を知らない相手に言われて、はじめて嬉しく思ったその言葉が、私を変えたのかもしれない。 外へ戻った後も、彼は私に会いに来てくれた。私も彼に会いに行った。 だが、それはすぐに仲間にバレ、禁じられた。 何度も夜を過ごした。何度も、彼のことを思い浮かべた。 つのる想いは、私の心を重く、そして、黒く染めた。そんな時、一人が私に彼から預かったとして、一輪の花を持ってきた。 彼等も、慌てたのだろう。私の持つ力を知っているから、その染まる黒が意味することを。 「これ…。」 出逢った時、別れの際に受け取った花。綺麗だと言ったことを彼は覚えていた。届けられた華が私の心を落ち着かせた。 けれど、私の想いは結局届くこともなく、二度と彼と会うことはできなかった。 彼は、自国で戦争に巻き込まれ、兵士として参加し、死んだのだと言う。 それを知った時の私は黒く染まる。だが、再び届けられた、もう一つの花。あの時と同じその花が、彼の笑顔を脳裏に浮かばせる。 「もっと、違う出逢い方をしたかった。」 けれど、全ては遅い。 私は誰にも気づかれず、そこから姿を消した。きっと探すだろうけれど、見つかるはずがない。 私が本気で隠れたら、彼等に見つかるはずがない。それを、彼等も理解しているはずだ。 「もう、一人でいい。もう、誰もいらない。」 一人で眠りたい。 そう望んだ私は、違う葬華の一族と出逢った。 「本当、変な一族だな。」 互い、そう笑うしかない。 華。人ではないそれ。けれど、人と同じ姿をしている。だが、その代償なのか、つきまとう制約。 「私か妹、どっちかがどちらかの命として消えて、どちらかが生きる。そのはずだった。」 けど、一緒に生きようといってくれた。いつか、普通の姉妹になろう。そう言ってくれたから、眠る妹を守る為に短い時間しかないけれど、生きているのだというその葬華の女。 「そうか。でも、お前は一人ではないのだな。」 少しだけ、うらやましく思えば、女は首を横に振った。 「貴方も、一人じゃないでしょう?」 そう言って、指した先にあるのは、枯れないように保存して玉にした彼からもらったあの花。 「そう、そうね。確かに、そう。こんなことも、忘れてしまうところだった。」 彼と過ごした思い出。彼に出逢って知った想い。恋を、なかったことにしたくない。だから、彼を忘れてはいけない。なのに。 「ありがとう。忘れてしまうところだった。彼を本当に殺してしまうところだった。」 彼が確かにいた。それを、私が覚えていないと、彼はこの世界から本当に死んでしまう。 「ね、一人じゃないってことは、とても、心強い。だから、私は妹に吸収されても一緒にいられる。それでいいとも思ってるの。」 でも、妹が怒るから内緒ねと悪戯っぽくいう彼女。私も、内緒だといって、一緒に笑った。 いつ以来か。こんなにも笑ったのは。 そろそろ目を覚ますという妹。また姿が消えるという女にまた会おうと別れを告げ、私はぼんやりと生きていた。 最近では、彼がくれたあの花でいっぱいの丘の上でいることが多い。ここにいたら、大地から気を吸って、いつまでも生きていられる。 このままでいい、そう思っていた。 そんな時に出逢ったのが、冥鎌というおかしな男だった。 どうやら、私が知らない間にこの花は物語となり、恋の華として有名になっていたらしい。 しかも、この花が好きな仲間の為に来たのだという。人の為に変な奴だと思いつつ、私のものではないので好きにしたらいいと言うと礼を言って帰って行った。 だが、その後も時々現れるその男。聞けば、この花が好きだった奴は旦那や娘に贈り物としてよくもらっていたが、二人とも死んでしまい、一時は見るのも辛い状態だったらしい。けれど、恋しい想いで、やはりこの花が好きだと再認識し、今は娘の死を受け入れ、しっかりと生きる意志を決めたらしい。 それを聞いて、私は不甲斐ないと思った。まだこんなにも心が迷ったままなのに、同じこの花を好きだといってくれる女は前向きに生きようとしている。 だから、私は男に言った。私は、この花をもっといろんな人に好きになってもらう為、語り部になると。 いつかくる迎えの日、胸を張って彼に会いに行くため、私は彼が好きだと言ってくれた綺麗な笑顔で最後まで生きて会いに行くのだと。 「そうか。それはいいな。」 そう言って、男は時々館に来て、子ども達に聞かせてやってくれと言って、別れた。 とても、綺麗な月夜。彼と死に別れたあの夜と同じ。だけど、少しだけ明るくてきれいに見えた夜空。 私は今日も、街で子ども達に物語を聞かせる。恋の花に纏わる、悲しい物語を。 時々、賑やかな植物と会話ができる娘の話や、優しい天使の話をしながら、今日も青空の下で、生きている。 |