とある夏の日差しが強い日。一人の雪女の機嫌が最悪で、周囲は夏だというのに、真冬の寒さとブリザードのような冷気と雪が飛び交っていた。

「本気で、あいつどうしたんだ?」

「知ってたら、どうにかするよぅ。もしくは、俺が原因だとわかったら、こんなとこいないよぅ。」

ひそひそと言葉を交わす世鷲と田所。

ちらりと、伺うも、話が聞ける状態じゃない。

「どうする?」

「どうしようねぇ?」

お手あげの二人。とにかく、刺激しないように遠くから待つことにした。

 

 

 

吹雪時々暗闇、後にくもり

 

 

 

 

少し時間を遡った、とある場所。

こんなに日差しが強くなる季節に出てくるのは珍しい雪女のゆうが、出歩いていた。彼女を知る者なら別人じゃないかと疑う程レアな状態だ。

だが、外へ出ている理由を知ったら誰もが納得するだろう。

現在まだ日が高く昇る前だが、暑いには違いない。だから、少しばかり急ぎ足で進むゆうは目的地に辿り着いた。

そう、ゆうが毎年この暑い中であっても、外に出る理由。彼女が好きなアイスの店だった。

彼女は冷たいアイスやお菓子が結構好きだ。その中でも、この店のアイスは格別に好きなようで、彼女を知る連中からしたら、怒って手に負えない時は手土産に持っていけば多少話を聞いてくれるぐらいには大人しくなるということを知っているぐらい、良く知られているものだ。

そう、そのアイスが今回の不機嫌の原因だった。

何でも、今回目的にしていた限定アイスが売り切れていたあげく、次に楽しみにしていた、彼女お気に入りのアイスが、どこかの馬鹿によって材料が手に入らなくなり、一時的に販売不可になっていたのだ。

せっかく暑い中楽しみにしていたアイスの為に出てきたゆうはもちろんがっかりしたし、その馬鹿に対して殺意を持ってもしかたない。

そんな状況で帰ってきたところ、田所がやってきたというのだ。

「その為、これからお出かけになるようです。」

勿論、楽しみを邪魔した連中を倒す為に、とのことだ。簡潔に彼女の使い魔であるぽぽから状況を聴き、苦笑する。

彼女の機嫌をよくする最終手段でもあるアイスを取り合あげ、彼女の機嫌を直らないぐらい悪化させた者達がいたことにだ。

知らないことかもしれないが、彼等はきっとこの世の何より後悔することになるだろう。

どんな悪さを企んだのか知らない。もしくはただ騒動に発展しただけで何もしてないのかもしれない。

けれど、敵に回すと面倒な奴を怒らせた代償は身を持って知ることになるだろう。

「でも、それって人間が起こした騒動でしょ?番人が干渉することじゃないんじゃないの?」

「いえ、それが、禁じ手が使用された形跡もありますので、これ以上の阻止及び回収を女王から命じられているので、無関係と言うわけではありません。」

さらに説明を聞くと、どうやらここ最近この世界にとってよくない禁じ手の一つが使われた形跡があり、その調査の為にゆうが仕事を引き受けたが、その合間の楽しみの際、それに纏わる連中のごたごたでアイスを奪われ、仕事の邪魔もされ、キレたのだという。

「あらら〜そりゃだめだわね。」

もし、ただ人間がしでかしただけのことなら、強制的に他の連中が止めることもできた。けれど、今回はきっちりと理由が存在する。つまり、手加減無用ということだ。

「ご愁傷様ってやつだね。」

「それで、俺達も付き合う羽目になりそうだけどな。」

こっちを見て、悪そうに笑うゆうが近づいてくる。逃げられないと二人は早々に諦め、今回の仕事の手伝いをすることにした。

 

 

 

 

目的の仕事そのものはあっさりと片付いた。

確かに世界にとって良くない禁じ手を使用されていたのは確かだが、使用していたのは何の知識もないただの人間で、使いこなせていなかったのだ。

あのアイスの騒動に関してのみ、偶発的に発動したのだという。

対象の記憶を操作し、禁じ手の品を回収した後、戻った三人は首をかしげる。

少しばかり暴れて冷静になったゆうも、さすがにおかしいと思ったようでほっとした。このまま終わりだと思われたら、後始末は自分達がしなくてはいけなくなる。

「すでに何度か禁じ手が使用されていた。けれど、アイツ等はあの忌々しい事件の発端に関して、偶発的に一回だけ。」

「そうだよねぇ。女王からの依頼書でも、数件すでに起こっていることが記されているっていうのに変だよねぇ。」

「…確か、これを持っていた奴は拾ったと言っていたな。」

「そうだね…あ、そっか。別の奴の手から離れた。」

だが、それではそれまでこの禁じ手を使用してきた奴はどこにいるのか。

「そう言えば、これってどういう効果があるわけ?」

ちゃんと説明もないままだったからわからないんだけどと説明を求める田所に、そう言えばそうかとゆうが説明を始めた。

「これは占術で使用される術盤。それも、呪いに近い効力を偶発的に持ってしまったことで、回収保管してたわけ。もちろん、人間の国で、ね。」

そうしている間は害もないので事を荒立てる必要もないので、女王はそのまま監視することで済ませていた。

「けど、つい数年前、その国が襲撃を受け、滅んだ。その際に、これも紛失。けど、すぐに使用された魔術の波動を感じたらしく、回収の依頼がきたってわけ。」

どういう呪いかは簡潔に言うと、何らかの代償を払うことによって願いを叶えるというものだったらしい。最初こそ、願いを叶える為だけのものだったが、その代償が歪みの元になりかけた。願いを言う者の命や何十人もの人の命を犠牲にすることもあったのだという。だから、危険な呪術として回収されたものが世にでて、すでに使われた。それがどういうことか分からないほど番人が愚かではない。

「そう言えば…あったな。」

「でしょ?」

何度か、いきなり小さな村での失踪事件が起き、神隠しだと騒がされている噂を知っている。その原因がこれだというのなら、早々にどうにかしなければ、神隠しは続く。

「ま、これを回収したから神隠しは続かない。けど、犯人がまだ見つけていない現状では、絶対とは言えない。」

偶発な発動以外、これを理解して使用していた可能性があるからだ。

「で、知識がないと故意には使えないんだろうし、使えるとしたら知識がある連中だとすると…これを作った張本人や保管してた国の関係者とかは今どうしてるんだい?」

皆死んだ。本当にそうなのか。その問いかけに、難しいと言葉を濁す。

「元々、魔女の十三の一族の出だった奴が、外に出て、趣味で始めた占いが悪い方に発動した結果、なんだ。」

その元を作ったやつはすでに死んでいることは確認済みだ。それこそ、最後まで呪いが人の命を蝕むことがないよう、奔走し続け、永い眠りの旅に出た。

元々は、願いを叶える手助けとして、背中を押すためだけだった。そうすることで、前に進める希望になるのならと始めたことが、悪い方に大事になった。この世界の歪んだ悲劇に巻き込まれただけの人。

「だが、悲劇に巻き込まれただけと言うには、問題が問題だ。」

「きっと、自覚はなかったけれど、強い魔力が潜在的にあったんだろうね。」

「魔女は最初から強い力を持つ子もいるが、後に覚醒する子もいる。だから、最初に力がないとしても、後にどうなるかわからない子もたくさんいたようだしな。」

縮小化する現代、最初から力がないものは排除される。何故なら、絶対にその力に覚醒する保証もないからだ。しかも、現代において力の大きさも弱まる一方で、一族を維持しようとする古い仕来りが邪魔をする。

「でも、意外と、このまま神隠しが続かないとしたら、犯人はもういないかもよ?」

あっけらかんと言ってのける田所に、何故そう思うと言うと、簡単なことだと彼は言う。勿論、ゆうや世鷲とて考えなかったわけではないことだが、事実が不明のままでは確証も何もない。

確証がないことを早合点することは、悪化させる結果を招くことになりかねない。そういう立場にいるのだ。不条理で、悲劇の連鎖は確実に止めない限り終わらないことを、長い間に何度も見聞きしてきたのだから。

「それとも、今回のことで北斗は何か知ってるのか?」

疑問に対する問いかけ。変わらない笑顔が毎度のことながら腹立たしい。

「知らないよ。今回ばかりはそういう報告も入ってないからね。」

「なら、何故そう断言する?」

その問いかけには、説明しにくいから面倒だと嫌がりながらも、口を開いた。

「元々、それを作ったやつ。平等に回収するのは俺達死神でしょ?今も冥界にいるんだけど、本人から聞いたからね。その呪術の特性について。」

何か知っているというより、その話によって仮定ではあるが、ほぼ確証に近い程度でそうだろうと思える内容だからだと言った。

あれは、強く、それこそ複雑で必要な犠牲が大きくなりすぎるのだという。

身の丈に合わない願いは己を滅ぼす。それこそ、願いの代償が本人の命であり、願いが叶う瞬間死んで終わる者達も多かったのだと当時のことを教えてくれた。

「つまり、何度も使われた形跡があった。さっきの奴らはそれを拾ったと言った。その場所で何らかの願いの為の犠牲として本人の命が持っていかれた可能性はかなりある。だから、もういないんじゃないかと思ったわけ。」

確かに二人が思う様に、不条理で悲劇の連鎖が続くこの世界において、そんな確証のないものでは終わりとしてはいけないかもしれない。

「だから、犯人探しより、それをどうするかのほうを考えるべきだと思うよ?」

それ、本人も処分しきれないから残ったものでもあるのだからと言われ、試しにゆうは壊そうとしたが、壊れなかった。

「なんで?」

「呪具として力を持ったせいで、一定の願いと犠牲を得ないと消滅しない。面倒なものになったから、彼は生涯をかけて本人が思うよりも広がったそれを回収することに力を入れて、心残りのまま命を落とした。」

だから、その以来、それに纏わる対象があれば回収するという指令が女王からおりるようになったのだと今更だが、口を開いた。

「つまり、お前は知ってたのだろう?」

「でも、ゆうが依頼されてたとは知らなかったし、今日来て、その処理に出かけて付き合うことになるとは思わなかった。あくまで、アイスの恨みかと。」

「ほぅ…殴られたいのか?」

「滅相もない。」

慌てて首を振ると、とりあえず振り上げたこぶしはおろしてくれた。

「だいたい、知ってるといっても、そういうことがあってそうなってるというだけで、ゆうが最初に思ってたように、俺だって確証がないから知らないって答える方が正しいんだってば。」

まだ不満そうではあったが、とりあえず納得して話はこれで終わらせることにした。

「つまり、今回は回収したということで報告して、今後不審な様子があれば随時調査するということで終わるのがいいと思うよ。」

きっと、女王もまた、他にも仕事がある中でこれにばかり構ってられない。それこそ、歪みが発生すれば、自動的にそれに繋がることもあるだろうから、事前にできることだけはして、後は時の流れに任せる今までと同じ。

「ま、とりあえず仕事終わりってことで、これで機嫌治してよ。」

そう言って、差し出されたそれにゆうもとりあえず納得することにした。何故なら、出されたものは、今回の騒動の元でもあり、今も苛立ちが治らない原因である。

「なんでこれ?」

なかったのにと言うと、解決した後、材料をぽぽに届けさせ、作ってもらったのだ。

「わかった。今日はこれで終わりにする。」

荒れていた冷気は、本日収まり、しばらくは吹雪くこともない。

きっと、同じことがあったとしても、こればっかりは仕方がないのだと死神がいうのなら、繰り返される度に阻止すればいいだけの話。

他のことでもそうしてきたのだから、それでいい。

そして、再び物語は繰り返す。そういう物語。





あとがき
ゆうとゆかいな仲間達の日常編。
事件に関しては、こういう時こういうことが起こるという彼等の日常の為にあまり深くやる気がなかったので変な感じに。
やりだすと本編筋みたいに長い事件になりそうだったので強制終了の結果なわけですが。
特性アイスで機嫌がよくなるお手軽雪女は、ただそれだけで賊を殲滅することもよくあるので他の連中も当たり前のように受け止めるのが彼等の日常な状態。それでも胡散臭い死神はこの先もこんな感じでいつか背後から刺されそうだけど