黄金の箒と洞窟の番人

 

 

その日、ある意味とんでもないことに巻き込まれ、ふらふらになるなんて思いもしなかった。

確かに毎日がいろんなことがあって、主も仕事仲間のメイドもなかなか個性的で賑やかではあるが。

それが今回のことを引き起こした。

「お嬢様〜。」

ばたばたと慌ただしく私室に飛び込んできたメイド、レイチェ。

「落ち着け。そして、ノックぐらいしろ。」

主への報告を中断し、注意をしたが、ごめんごめんとあまり反省の色はなく、主に飛び込んできた理由を勝手に話し出した。

「聞いてくださいお嬢様!何と、噂の伝説の黄金の箒の情報が入ったんです!」

それはもう、喜びに満ちて、興奮したように言う彼女に、ヒュオルはまたかと思った。彼女は病気なほど、箒を集めるのが趣味だ。むしろ生きがいで命をかけているぐらいだ。

時折、こうして騒いで周囲を巻き込む。それがなければ優秀なメイドであり、主のボディガードなのだが…。

「それで、どうしたの?貴女がそれだけ興奮してるってことは、箒関連かしら?」

「そうなんです!先程コーラン殿が教えてくれた情報なんですが、何と黄金の箒というものがあるそうなんです。」

場所はこの先にあるレイスティロークの山のどこかにある洞窟に祭られてるのだとか。明らかに曖昧で怪しい情報だ。しかも情報元がコーランというのも頭が痛い。

何故そんな情報を箒狂いのこの女にしたんだと、内心舌打ちをする。こうなったら、休みをもぎ取ってでも、数日捜索の為にいなくなってしまう。そうなると、警備が手薄になる。

何度もいうが、実力だけは認めているのだ。これでも。

「なので、しばらく休暇をいただきたいんですっ!」

それを黙って聞いていた主は、わかったと答え、喜んだレイチェに条件を突きつけた。

「私もそれに付き合うわ。面白そうだし、何より本当にあるのなら、私はその洞窟を調査したい。」

私は情報を武器にしてるんだから。そう言って、悪そうな顔をした主に、ヒュオルは肩をがっくりと落とした。

今日から、ヒュオルも主付きなので、付き合って箒探し決定が決まった。

 

 

 

 

さて、場所が変わって、レイスティロークの近くにある村にやってきた。

ここで、洞窟がどのあたりにあるか知っている人がいるかの情報収集だ。ついでに、前々から探っていた案件のことも調査しながらなので、ある意味仕事もしているのでいいのかもしれないが、やはり複雑だ。

箒で完全に浮かれている、この同僚の扱いに困っていた。完全に目がキラキラして、邪魔するやつを味方であってもぶっ飛ばす勢いだ。かなり危険物だ。

だから、先程から近づかないように少し離れて二人の様子を伺っていると、ふと見覚えのある姿が視界に入った。

「こんにちは。買い物ですか?」

声をかけると、向こうもこちらに気づいたようで、挨拶をして、食料や足りない素材をそろえにきたのだと、教えてくれた。

「それにしても、グレンさんも外出しているのは珍しいですね。」

「ああ。さすがに、まだ職人としては見習いの見習い。目利きがまだまだなので。」

一人で買い物も任してもらえるように、今修行中なのだと彼は言った。もちろん、先に行っていると、すでにグレンは歩いて行ったのだが、そんな後姿もあの人らしいと思えて苦笑する。

「では、僕もこれで…。」

「ああ。」

そういって別れるつもりだったが、こちらに気づいたらしい主が飛んできた。どこからその元気がでてくるのか知りたいぐらい、朝から動きっぱなしであるのにまだ動きのキレはいい。

「久しぶりね。元気そうで何よりだわ。」

「こんにちは。そっちも元気そうで何より。」

「そうそう、最近は『平和』だから目新しい情報はないわ。」

「そうですか。こちらも僕の担当するエリアでおかしな点はないですし…エリア4も平和みたいですし。」

エリア4と聞いて、主の目が輝く。以前聞いたのだが、そのエリアを担当する守り人が、主の恩人であり憧れの天の御使い?らしい冥錬という男だ。

「何でも、人が増えたから包丁や果物ナイフ、園芸用の草刈り鎌など、いろいろご注文いただいたんです。」

もしかして会えるのかと問いかけると、先程出来上がった品を引き取りに来られて、もう帰りました。そう言った彼の言葉に、あからさまにがっくりとうなだれる主。このままやる気をなくして帰る方向にならないかなと思ったのだが、どうやらそれは無理のようだ。

「よし、意地でも箒見つけて帰るっ!」

意気込み新たに、帰るのが遠くなったことに、ヒュオルはため息一つ。

「何か探してるの?」

訪ねてきたミルフェに、今回ここまでやってきたメインの理由を簡単に教えると、少し考えて、もしかしてと心当たりを教えてくれた。

もちろん、主とレイチェは目の色を変えて喜び、行くぞとすでに走って行った。

「いつも賑やかだね。」

「ああ。時々困る。」

「ふふ、でも、貴方は彼等と共にいることをやめないんでしょ?」

「…そうだな。」

礼を言って、走り去っていった背中が遠くなった二人を追いかけるためにミルフエに別れを告げた。

 

 

 

 

場所が変わり、先程ミルフェから教わった場所に到着した一行。目の前には小さな入口の洞窟があった。

洞窟であるので、もちろん覗き込んでも中は真っ暗だ。思ったより奥が深そうで少々困った。

こんな危険なところに主が入るのも控えたいが、絶対に行くと言って譲らないだろう。だからといって、ここに待たせておくのも、その間に何かあっても困るから離れることはできない。

山賊のような面倒な連中はどこにでも湧いてくるものだ。主のような、明らかにお金がありそうなしっかりとした服を見たら、一応女性だし狙われる。まぁ、普通のお嬢様とは違い、手加減なく反撃してくるので、大抵の山賊は歯が立たないけれど。

だが、こちら側を知ってしまった今、はっきりいってヒュオルであっても太刀打ちできない敵がすぐ近くに存在している状態で、一人にしておくことはできない。

結局、三人仲良く中を散策するしか選択肢はないのだろう。「

「でも、黄金の箒だなんて。まるで黄金のランプとか黄金の卵みたいな、よくあるおとぎ話みたいよね。」

「ですね〜でも、噂があるだけで、実在するとは思わなかったので今までそこまで気にしてなかったんですよ〜それが!何と今回実在しているという情報を得たわけです。」

これは、箒マニアとしてほうっておけませんと意気込むレイチェ。悪乗りする主は伝説なんだから特殊スキルがついてるのかしらと楽しそうに話している。

「意外と本当に黄金でできただけの金ぴかの箒かもしれないわね。」

それでも、本物の金であるなら、価値はあるわという主にあげませんからとレイチェは必死に訴えていた。

何だか、悪巧みする顔をしているところをみると、隙を見て箒を溶かして金を別のものにしてしまいそうだ。

「どうやら、ここみたいですね。」

今までの長く続く道が開け、暗い中でもわかるぐらい、発光しているのだろう、苔や蝶のような羽のある小さな生き物が飛んでいる。切り離された、不思議な世界。その真ん中に不自然な程、きらきら光を纏う箒がある。

もう、見るからに不自然だ。だが、箒馬鹿は罠だろうが無視のようだ。

一目散にそれを取り、喜びに目を輝かせ、箒を眺める。その間にも、洞窟内は異変が起こっていたが、主も含め、二人は一切無視だった。

本当に最悪だ。

明らかな罠のような、もしくはそれを守るための仕掛けが動いて、何かがでてきた。

間違いなく、あれはこちらを襲い、こっちは倒さなければいけないのだろう。

『何者じゃ、我の眠りを妨げる侵入者は…。』

「ねぇねぇ、結局、これはどういう奴なのよ?」

「まだわからないですけど、すごいですよ。今までみたことない型ですよ、これは一大事です。」

『汝ら…我は…。』

「ほら、見てください、この…っ!」

何ということだろうか。でてきた敵のような奴相手でも無視して話を進めている。最低だ。さすがにちょっとかわいそうになってきた。

『汝ら…相応の罰を受け、即刻消えろっ!』

そう言って、とうとう攻撃を容赦なく仕掛けてきた。

バチバチと電気のような刃の数々がこちらへ向かって飛ばされる。

当たり前であるが、ヒュオルの仕事はメイカの執事であり、世話役だ。同時に、レイチェと同じで、メイカを危険から守るのが仕事だ。

中刀を素早く抜き、風を纏わせた刃で勢いを相殺して叩き落とす。もちろん、ヒュオルだけでなく、よそ見をしているといっても、戦闘慣れしているレイチェも普段から持っている仕込み箒によってそれ等を叩き落とした。

『なっ…何だというのだ。汝ら、何者だっ!?』

ただの侵入者ではないのかという相手に、相変わらず攻撃をかわしたとしても無視のままのレイチェ。端から興味がないメイカ。

はぁとため息をつくヒュオルは試に相手に話しかけてみた。

「勝手にお邪魔してしまったことはお詫びします。」

『なんじゃ。何なんじゃ。用がないのならとっとと帰れ。』

かなりご立腹なようで、申し訳ない気持ちで頭を下げる。

「あの方は私の主で、彼女は私と同じ彼女に仕える従者です。しかし少々困ったことに、彼女は箒とつくものが好きでして、本日ここにあれがあるということでお邪魔することになった次第でして…あれについて、もし知っていることがあるのでしたら教えていただけませんか?」

そう問いかけると、なかったらそれで困るが、欲しいのなら持って行ってもいいという。

『あれは『西の門番』の感知組織の媒体のようなもの。じゃが、他のモノでも構わない。』

要約すると、他の代わりになるものを渡せば持って行ってもいいということらしい。

ならばと、ここにくるまで持ってきた灯籠を渡すとこれでいいというので、あっさりとそれを拝借することができた。

「そういえば、西の門番って言ったわよね?」

今までまったく興味がなかったメイカが突然話しかけた。

『ああ。この世界の様々なことを風を通して見聞きすることができる方じゃが、飛ぶための始点が必要になる。ここはその始点の一つじゃ。』

あいにくまだグレンしかしらないので、噂では他の連中のことも聞くが、相変わらず移動手段は変わっているようだ。

『そもそも、始点が必要になるのは、同じ守り人の元へ行くための近道の為じゃ。』

この近くにも、エリア担当がいるじゃろと言われ、やっと納得した。

術にはある程度、法則や最低限の基準など、いろんな条件が必要になってくる。

世界各地を移動する彼等にとって、こういう始点は空間移動において必要なのだろう。

「でも、何で箒だったの?」

『元々箒の持ち主がいたのじゃが、そやつが西の門番に与えたのじゃ。もう使わぬからとな。』

始点を作る上で何かないかと相談した時に、使えそうな奴で、持ち主が不必要と判断したのがこれということらしい。

「じゃ、これはありがたくもらっちゃいます。そして、それをもらっちゃって下さい。」

そんなこんなで箒探しの旅は幕を閉じた。

とりあえず、大きな問題が起こらず戻ってこれて良かったとほっとするヒュオル。部屋に戻った彼女へお茶とお菓子を用意して向かった。

 

 

 

「それで、あげたんだ?」

『御意。もしかして、問題があったかの?』

「いや、ないよ。」

だろ?と西の門番が、そこにいたもう一人の人物に問いかける。

「構わない。俺ももらい物ではあるが、必要ないしな。」

『そうなのか?あげておいてあれなのじゃが、そもそもあれはこの世のものではなく、『異界』のものじゃろ?』

「ああ。あれは『異界』の『霊皇』が押し付けて行った荷物だ。」

霊皇の名にさすがに彼は驚き本当に良かったのかとしつこいほど聞いてきたが、男は問題ないと答えるだけだった。

「本当、冥鎌は物欲薄いよな。」

「お前も物欲薄いだろ。」

「まぁな。オイラはどっちかっていうと何かに執着するのが好きじゃないしな。」

自由気ままが一番さという男に、自由気ままに仕事忘れるのだけはやめろと釘を刺される。

「それにしても、荷物多いな。」

「だから、助かった。」

頼んだ刃物以外に、つい買い物をして増えた荷物。たまたま会った陣に半分荷物を持ってもらってここまできた。

ここには陣が施した世界中に繋がる移動術式組織が施されていて、ここから館の近くのとこまで移動させてもらうつもりだ。

「ま、いいや。楽しくやってるみたいで。」

「ああ。毎日賑やかで困るぐらいだ。」

「じゃ、またこいよ。来るとき言えよ。あいつ等もまた会いたいみたいだしな。」

そう言って、そこから冥錬の姿も消えた。

「それにしても霊皇の箒ねぇ…ある意味物騒な兵器だな。」

『そうじゃの。』

けれど、彼らを余所に、その箒が世に出ることはなかった。大事に彼女のコレクションとして保管されることになったからだ。結果的に、それが良かったのかもしれない。

何故なら、あの箒は黄金の箒とは違い『空間を裂く箒』だからだ。自由にこの世界の空間を切り裂いて移動し、過去へも干渉できる物騒なものだった。

冥錬は知っていたからこそ、不必要として人の手に渡らぬようにした。ここなら、守り人や関係者以外が基本的に触れることがないから、そういうことが起こり得ることはないと思ったからだ。

まぁ、今回は結局のところレイチェの元へあるが、何かあれば霊皇が勝手にどうにかするだろうとも思っているし、彼女の収集癖はよく知っているから、彼女たちであればいいかという気持ちで、今は様子見のままだが、そんなこと、陣も洞窟の番人も知らない。

そう、結局知らないままでいることが一番なのだ。