幻神楼に来る人達2−あくまで敬愛しているだけです

 

 

その日、少し下手をうって、腕を斬った。敵は撃退したから問題はないし、利き手ではないので不便もない。

だが、こういうことを気にする方がいる。

この場所を守ることこそ俺の今の誇りではあるが、主はどうも気にしすぎる。俺と同じで、かつて大切なものを守れず失ったことが尾を引いているのだろうが。

「留守中、また賑やかな客が来たようだな。」

予定通り、戻った主に報告も兼ねて部屋を訪れると、彼は…。

「おい、やめろやめろやめろー!」

「何よ。これからいいところだというのに、邪魔しないでよ。」

突然割って入った男。語りを止めて文句をいう女。

「そもそも何だそれは!」

「何って、私のネタ用の一部公開してるだけよ。丁度本人がいるから、いろいろ聞きたくて。」

「ふざけるな。」

主の冥鎌の元へ報告することがあって部屋を訪れたら、すでに客が二人いた。一人は時々くる女、確かレセリアといった主と同業者と紹介された奴だ。そして、はじめて見た顔、つまり今回の問題の女が、ろくでもない話を主に聞かせていて、私はすぐさま止めたのだ。

奪い取ったそのメモには、あることないこと目茶苦茶に書かれている。

「そもそも此れは何だ。俺は主様のことは敬愛している。敬愛以上でも以下にもならない!」

俺が主にこんなふしだらなことをするなんて、ありえない。何を考えてそんなものを主に聴かせるというのだ。

「お前が言いたいことはわかる。だが、これはこの女の一種の職業病だ。病気だと思えば可愛いものだろう。」

適当に聞き流して諦めろ。主はそう言っていつも通り何事もなかったかのように紅茶を口にして座っていた。これは、俺が過剰に反応し過ぎなのだろうかと錯覚しかけたが、そんなはずはないと思いなおす。

「もう、既成事実つくってしまいなさいよ。面倒だわ。ネタの信憑性もあがるし一石二鳥で私が楽しいわ。応援してあげるわよ。私はそういう差別しないもの。」

「ふざけるな。主様とはそういう関係ではないし、主様をそういう目で見るな。」

「ふざけてないわ。いつでも真剣よ。そもそも、どうしてパートナーが異性でなければいけないと決まっているの。それこそ差別だわ。」

言い返す女に、確かにそれは個人の自由だろうし、他者のことなら俺も放っておくだろうなと考えたが、今はそれと話が違うと納得しかけて軌道修正する。

「そもそも、あのナイスバディな奇蝶を女と認めないなんて、それなのにこの男を女より女のように丁寧に対応するぐらいなんだから、元々そういう風に思ってるんでしょ。」

それを想像して楽しんで何が悪い。そういう女に違うとはっきり否定した。

「確かにあれを女として認めないのは事実だが、主様を女性として扱ったことはない。主様は主様で俺にとって光だ。」

むしろ神だと言い返すと、何か女が楽しそうに笑いだした。言葉が通じてない気がして気味が悪い。久しぶりにあの女以外に女と認められない変な奴と会った気がした。

「そう、神と民。身分違いの恋。いいじゃない。もっとやりなさいよ。」

「だから違うと言っているだろう。確かに敬愛はしている。好意はある。だが、それとは別問題だ!」

本当に何だろうか。この失礼な女は。しかも連れてきたであろう、いつもならうるさいレセリアが静かなのも気がかりだが、まずこの女をどうにかする方が先決だ。

あくまで主と騎士の関係なのだから。そう言うと、またよくわからない単語を並べ出して俺が…そんな考えたくもないこと言い続けられたので、よくわからないが、ろくなことではないことだけはわかったので、言い返そうとしたが、主様に止められた。

「あまり言い返すと、ネタにされて楽しまれるだけだ。その辺で落ちつけ。」

ほら、これでも飲めと紅茶を出された。俺とした事が主にお茶を入れさせてしまうとは。これも全てこの女のせいだ。

「もう、堅物の真面目はいちいち面倒ね。なら方向を変えるわ。じゃあ、セイレでもいいわ。軽くみえてぐちぐち悩みながら…それで、暴走して最期にはあんたを…!」

キャーと何か一人想像して騒ぐ女に、お茶を飲むのに必死で聞いていなかったが、どうせろくなことではないに違いない。

「よし、次の話は亡国まっしぐらな国の王と騎士、そして参謀兼身の回りをこなす執事との三角関係。楽しそうだわ。」

ね、そう思うでしょとレセリアに聞く女。適当に相槌をうつレセリアがそろそろ帰ると言うと、私もとあの女も動いた。

とっとと帰ってくれればいい。

「次来るときは連絡してからにしてくれ。」

いろいろ回りに迷惑だという主に、俺としては来ること自体が迷惑だと思ったがとりあえず抑えて口にはしなかった。

「それで、少しは落ち着いたか?」

何か用があったんだろう。何の用件だったんだと、聞かれ、あの女達が帰った後になってやっと俺は本来の仕事を思い出した。何ということだ。

あの女のろくでもない妄想劇のせいで、本来の仕事を怠ってしまうなんて。

とにかく、今日の報告を済ませ、主の部屋を退室しようとしたが、主に止められた。せっかくだからお茶でも飲んでいけと。

その言葉に甘え、一杯だけもらうことにした俺は、独り言だという彼の言葉に耳を傾けた。

「彼女、シュプレインは人から理解されない力があった。そのせいで、親に捨てられて人間不信になった。そんな彼女の心の支えになった女性がいた。彼女はその女性には心を開き、今では普通に生活できるぐらいに人間不信は軽減された。だが、シュプレインはその女性をいつしか愛してしまうようになった。口にはしないし、態度にもださない。だが、愛している。現在進行形で、だ。だからこそ、彼女は報われない恋を応援したがる。そして、異性がパートナーであるという普通の常識が嫌いで仕方ない。だって、彼女の気持ちは間違っていると世界の決められた理で否定されているようなものだからだ。」

シュプレインというのがさっきの女で、その女が報われない恋をしているのはわかった。だが、それと俺が主様とそういう関係でどうとか言われるのは不愉快だ。主様に対しても失礼だ。

「シュプレインはその女性が大切だ。その女性は彼女にとってどんな作品に対しても最初の読者である、最高の作家を目指している。だから、時々いろんなことを想像する。もちろん、その女性に対しても、いろいろと、な。」

苦笑しながら話す主に、態度に出さないわりには妄想だけは常にしている迷惑さなのかと考えていると、主が言葉を続けた。

「その女性は教会の住人だ。一生を神に捧げたシスターだ。だから、決して誰のものにもならない。けれど、いるのかわからない神のものではある。それがシュプレインには許せないのだ。女性の幸せと笑顔が彼女の幸せだが、その幸せが神のものであることなのが、彼女にとって不幸せだった。」

主が言うには、神は確かに存在しているが、この世界において神が何かをしてくれることはないし、教会なんて一種の宗教的信仰があるというだけで、形式だけであって決して神のものというわけではない。だが、彼等にとっては神に仕え神が生涯の相手と定め、それが当たり前であることを認識していては、幸せを壊すことになることなんて、言わない。

「俺とお前がそういう関係でないことはシュプレインもわかっているだろう。まぁ、時々怪しいけどな。それでも、彼女は常に考えていないといけない。余計なことを考えると、彼女の幸せを壊してしまいそうになるそうだ。」

だから、何を話しても適当に相手して内容が不愉快ならば適当に席を離れて欲しい。主はそう言った。

「すまないな。お前を巻き込むつもりはないんだが…。どうも彼女は同性に対して好意を持つ相手がいたら何でもかんでもそういう方向に結びつける設定を作って話を作ろうとするんだ。」

もちろん、同性だけではなく、この前きていたゆうと世鷲のこともネタにして遊んでいたからなというと、思い出す二人の姿にあれは間違ってはいない気がすると納得したので、すぐに忘れることにした。

「それにな、毎日いろんな話を考えて、帰って彼女に話すのが日課で彼女の日々の楽しみなんだ。」

だから、できれば許してやってほしいと主に頭をさげられては、怒っている俺が悪いみたいだ。

「まぁ、いいです。主様が、俺は貴方を敬愛しているのだと理解してくれているのなら。」

どんな時も必ずお守りする騎士として。そう言うと、そう言う事を言うからネタにされているんだがと苦笑する主に意味が分からなくて首をかしげるが、気にするなと言われて俺は今日あったことは綺麗さっぱり忘れることにした。

やはり、主を汚されたようで不愉快だったからだ。

だが、主が言った言葉の意味が数日後には理解でき、やはりどんな境遇だろうと、あの女は敵だと再認識することになった。そう、一冊の冊子に掲載された短編の話しが、明らかに俺と主様と、あろうことかセイレの奴まででてきて、叫んだ俺に、珍しく何か察したのか、今日はやめておくと奇蝶の奴が戦いを挑むのを止めた。

今日も今日とて、あの女を主に近付けないように気を配る日々。とりあえず、今日も幻神楼は騒がしくも平和です。