「好きです。愛してます。嫌われていなくても、愛してくれないこともわかっています。ただ、愛してます。」

抑えきれない感情が、壊した結果に起こる悲劇の始まり。

「この命は貴方の為に。…今だけは貴方の命もまた、俺に下さい。」

それで、嫌われて突き放されても構わない。きっと優しいから拒絶しきれない人だとわかっていてやっている俺も相当性質が悪いのだろうけれど。

誰かに先に奪われてしまうぐらいなら、先に俺の手で壊して奪ってしまいたい。

ただ、それだけ。

 

 

 

幻神楼に来る人達2−あくまで敬愛しているだけです2

 

 

 

その日も平和な日常が繰り返されるだけだと思っていた。

「おい、女。」

「何よ。」

「何よじゃない。これは何だ。」

そう言って、示した紙の束。女はあっさり、俺と主様の悲恋物語だとぬかしやがった。いったいいつ、俺が主様と恋仲になったというのか。

「主様に対する冒涜だ。今すぐやめろ、他にもあるならとっとと出せ。」

「何?やっぱり好きなの?興味あるの?」

「違う!」

即答で否定するが、うすら笑いで気持ち悪いだけ。しかも反省する気もなく、また書くつもりなのがありありと顔に出ている。

「全て処分するに決まっているだろ!」

出せと言うが、どうしようかなと言いながら、どうせ頭の中で構成できているし、そもそも文章にまだおこしてないからないとか言った彼女に、ぶちっときれた。

「やはり、貴様は…っ!」

「こら、やめないか。」

ぽすっと剣を抜こうとした手の上に冥鎌の手が添えられる。

「そういえば、先日生誕祭だったようだな。」

「ああ。そうね。」

急に、今までのテンションと違い、静かになった。むしろ、不気味なぐらいの空気を醸し出している。

「彼女は本当に嬉しそうに祝っていたわ。」

そういったかと思うと、舌打ちした。いったい何だと思っていると冥鎌に説明された。彼女が思いを寄せるシスターが神の生誕祭の為に神を祝う姿とまつわる話をさんざん聞かされて不機嫌なのだと。

そこで琴詠は先日のことを思い出した。彼女は報われぬ恋をしていて、相手が一生を捧げているのが適うはずもない神様だということを。

「本当に嬉しそうで、私も彼女が嬉しいのなら嬉しくて…けど、むなしかったわ。」

確かに、私も彼女も幸せなひと時かもしれない。報われることのない神への想いを向ける彼女を愛する自分の愚かさを同時に思い知らされるのだ。

彼女はそれが幸せ。だけど、いるかいないかわからない相手にとられて、絶対私がどうしても届かない想いが歯がゆい。

だから、シュプレインはいつも教会のしきたりは嫌いだった。

「だから、たまりにたまった想いを吐き出すためにきたんだろ?」

「本当、貴方は何でもわかってる顔して聞いてくるから、楽だけどムカツクわ。」

「主様に何を言うか!」

彼女のことを思い出して戸惑い、おとなしく聞いていたら暴言だ。やはり琴詠にとってこの女も迷惑な例の男同様ブラックリスト入り上位の客だ。

「琴詠も今日は勘弁してやってくれ。先日も五大奇蹟と言われた行事の後でイライラしていたから、こういう態度なだけであって、普段はもう少し『まとも』だ。」

「あら、私はそうなるといつもまともじゃないみたいじゃない。」

「そうだろう?どこでも誰かいるのも構わずお前の妄想を吐き出す程非常識ではないだろう?」

誰より、そのタブーのことで苦しんで知っているお前が、普段から誰彼かまわず、どこでも話して回っているわけじゃないだろうと言われ、口を閉ざす。本当に何でも知られていてムカツクと不満を漏らしながら。

「年に何回か…ここへ来る日の7割程が不満が原因だが、3割は普通だから許してやってくれ。」

そもそも、ここは悩みを抱えた連中が悩みを吐き出す場所でもあるのだからと言われ、琴詠はわかりましたとだけ答えた。

「で、今日はそれ以外の話もあってきたんだろう?」

「…そういうところが本当にキライ。けれど、助かるのも事実だからムカツクわ。」

そう言って、むすっとしながら、だけど、嬉しいことがあったことを報告しにくる子どものようにそわそわしながら彼女はそれを取り出した。

「今年も、彼女は私にくれたの。また、たくさん『描いて』って。」

「そうか良かったな。」

「ええ。私の存在を認めてくれて、嬉しかった。今も現在進行形で嬉しい。だって、私のことをしる人は、これをくれたりしない。むしろ遠ざけて、おかしなものを動かせないようにするもの。」

けれど、彼女だけは反対に好きなだけしたらいいという。それが私と言う存在を認められた気がして嬉しかったし、今もそうやって気にかけてくれる優しさを身に染みて感じている。

「だから、これだけは彼女が最初の読者ではなく、私の好きな時に書いて好きなようにする。…今日だけは特別にプレゼントしてあげるわ」

そう言って、シュプレインが開けたスケッチブックに描かれた奇妙な生き物。蝶のような羽が生えた、手乗りサイズの猫っぽい獣。ガラス細工のように透き通るその羽は幻想的で美しい。

「長くはもたない。けど、私の作品を彼女の次に認めてくれた貴方には特別に見せてあげる。」

琴詠は初めて彼女の異能力を見せられ驚いたが、すんなりと受け入れ、今はおとなしくしている。確かに今の彼女はある意味で主が言う普通だろうから、それに口出しして水を差すのはお門違いだ。

「これでも、私は感謝している。確かにムカツクしキライだけど、貴方だけはきちんと聞いてくれる。彼女に絶対言えない彼女への想いも。」

彼女を壊したくないから、絶対に胸の内に秘めるつもりのことを、吐き出す場所がないと暴走しだす。そうなったら、間違いなく彼女を傷つけ、今度こそ一人になってしまう。

彼女だけが私の全てであり、絶対の『神』だから。

「あなたのことは彼以上にキライよ。うるさいし、理解力ないし。けど、大切なものを守るために手段を選ばない心意気だけは、私と同じだから、そこだけは認めてあげるわ。」

ありがなくない認められ方だが、もう気にしないことにした。大事なもの程、守るのは難しいのも知っているし、今をとても大事にしているという気持ちだけは今回よくわかったからだ。

まぁ、ある意味愚痴をいいにきている彼女に対してはやはり納得いかないし、反論してしまうだろうが。

「やはり俺は主様に害になるようなことを言いふらすことは許せない。だが、一生をかけて秘密を守る姿勢だけは認めてやってもいい。」

「あら、珍しいわね。生真面目で頑固頭の貴方にだけは決して認めてもらえることはないと思っていたわ。」

「だろうな。俺も、お前が本当にふざけているだけであれば容赦していない。だが、ここは主様の領域である前提がある。俺がどうこうできることではない。それに、俺は最後までその信念を貫く姿勢は尊重したいと思っている。」

だからだといって、琴詠は一礼して部屋から出て行った。

「本当、頭の固い騎士って感じね。」

「だが、悪い奴ではない。それに、理解してもらえたことに関してはお前も嬉しいのだろう?」

「…本当、だから貴方がキライ。」

「はいはい。」

決して認められない、世間から反した恋をした。一生をかけて秘密にし、一生をかけてその気持ちを大事に持ち続けたまま、一生をかけてその人を影から守る。守れなかったかつての騎士には守るものがある彼女がうらやましかったのだろう。そして、同じように失わない様にと、応援したい気持ちもあるのだろう。

「あまり、あいつをいじって遊ぶなよ。」

「そんなつもりはないわ。けど、彼の反応、好きなの。本当にあなたのことが大事で好きだとわかるから。」

他の人もそうなのだろうけれど、彼だけは真っ直ぐに気持ちをもってくるからすがすがしい。他の人は…まぁ、本音がどこにあるかわかりにくいというのが正しいかもしれない。

「私も、作者としてまだまだということね。」

「人の感情を何でも図れるものでもないだろうに。」

それで、自分を見失うことだけはするなよと釘をさされた。

「さて、今日は帰るわ。」

「そうか。…せっかくだから、これを持って帰ったらどうだ?」

お土産として、一緒に帰って食べればいいと渡したのは包装されたいくつかの焼き菓子。

「ありがたくいただくわ。…今度は、もっと面白いものをもってくるわ。」

私の趣味の妄想じゃない、役に立つ情報を。そう言って、シュプレインは幻神楼を後にした。

「シュプレインは隠すので精一杯で、『祈る乙女』の本音と葛藤にまだ気づけていないみたいだな。」

まだ、お互いきっちり答えを出せていない状態で、答えを出してしまえば、すれ違った末に悲劇が起こり得る。だから、まだ知っていても言葉にはしない。

「望む姿かどうかはわからないが、一方通行の片思いってわけじゃないことぐらい、そろそろ気づくべきだ、シュプレイン。」

独り言は、誰もいない部屋に静かに響いて消えた。