絶対にあげません

 

その日、たまたまの出会いが、頭を悩ますことになった。

かつての知人であるワーテルエが、幻神楼へ乗り込んできて数日が経った。

あくまで心配して無事を確認したかったことと、新しい場所で大丈夫かと心配した彼が、事を大きくして暴走した結果だったが、主のことも理解してもらい、俺が幸せならそれでいいと帰っていった。

それで終わるはずだったが、彼と共にきていた七騎士の一人が、主のことを気にいったのが問題を引き起こすことになった。

「ベルティエールを知らないか?」

珍しく尋ねてきた騎士長であるリュイールに、今日は視てないと答えると、そうかと言っておかしいなとつぶやきながら去っていった。

その時はまったく状況を理解していなかったから、呑気なものだった。

だが、一歩間違えれば戦争になりかねない事態になっていたことに、俺はまだ気付いていなかった。

しばらくして、門番からリュイールにベルティエールが戻ったという知らせが入り、客が一緒だということで俺も出迎えることになった。

そこで視たのは、睨みあうベルティエールと幻神楼の最年少に見えながらも最年長の『少女』にして、警備長の一人ネルタとその館の主、冥鎌だった。

「何がどうなって…。」

まったく状況が理解できない俺とリュイールはとにかく彼女に話を聞こうと話しかけると、同時に二人から睨まれた。

「ネルタ。主様を困らせるのなら、お前とて容赦はしない。」

むっと少し眉を顰めながら、少女は冥鎌から少しだけ離れた。そして、リュイールの睨みに、ベルティエールもそっと離れた。

「それで、何があったんだ?」

口に出た疑問に、知人であり、事情を知っているであろう琴詠が口を開いた。

「先日。お前が来た時にそっちの隊長さんとこの騎士が来ただろ?」

「ああ。」

あの時は、勢いで乗り込んでしまい、本当に申し訳なかったと言うと、もういいと答え、琴詠が言うにはそれが原因なのだと言った。

「わかりやすく結果からいうと一目ぼれ。あれから何度も足を運んでは主様の傍にいて見ているから、主様を慕うネルタが彼女の存在を気にいらなくて喧嘩になった。」

しかも、少女の兄だという同じ警備長の一人と、同じ警備長の女も加わり、騒ぎが起こったので、とにかくこっちへ来たのだと彼は言った。その際に、ネルタだけはついていくといって聞かず、他の連中も来たがったが、留守を手薄にすることは主に対する裏切りだと思っている彼等だから大人しく残ってこのメンバーなのだと言った。

とにかく、また彼等に迷惑をかけたことだけはわかった。

「すまない。」

「いや、いい。個人の感情は個人の自由だ。」

だが、主様を取られることだけは困る。そう言うと、どうやら、喧嘩の元はこの国へ彼を連れて行きたがったベルティエールが原因のようだ。

確かに、あの時襲撃のような状態で乗り込み、彼と話をして、彼とそこの住人との関係を知って、失えない存在だということは理解したし、守りたいという気持ちだけなのだということも知った。

その大事な宝である彼を横取りしようとするものは、彼等にとっては敵でしかないのだろう。

少女がこちらを睨んでくる理由も理解できた。

「主様、私達の光。貴方達にあげない。」

取るのなら、許さない。小さな、けれどはっきりとした意思を持って伝えられる言葉。

「ネル。俺はあそこから去るつもりはしばらくないし、お前達をおいていくつもりもない。」

だから、とりあえず落ち着いて人形をなおしなさいと言う彼に、いつの間にか少女の手に人形があったことに今気付いた。彼女は人形遣いだ。それは攻撃態勢になっていたことを示す。しかも、騎士でありながらそれに気付かない失態に、彼女の実力の高さが伺える。

「ベルティエールと言ったね。ネルが失礼なふるまいをして、すまない。しかし、私はあそこが帰る場所なのだ。君にとってここが帰る場所であるようにね。」

だから、一緒にお茶をすることはできても、共にこの空の下で生きることができても、この国に属することはできないのだと言うと、しゅんとしたが、一緒にいることは許されたことに気付き、今は良しとすることにしたようだ。

「それで、本当はこういった形で訪問するつもりはなかったが、王の方はどうだ?」

冥鎌がリュイールに問いかけると、効果は多少あるようだが、夕がただけが限界だと言っていたと答えると、そうかと少し考える冥鎌。

「こちらでもまた他の方法を考えておく。もし、効力で異変があればすぐに知らせてくれ。」

「わかった。王に伝えておく。」

仕事の邪魔をしてすまなかったなと言い、ベルティエールにも別れを告げ、冥鎌は二人を連れて幻神楼へと帰っていった。

「私、諦めないから。」

何故か私にそう宣言し、仕事に戻らないといけないと城へ向かうベルティエール。

琴詠の苦労がこれからも増えるだろう。そして、彼の新しい主に面倒を増やしてしまえって申し訳ない気持ちでいっぱいのワーテルエだった。