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一通の手紙が届いた。 「お父様宛…誰かしら?」 国からの義務的なものは、使者が届けるし、街からのものなら、それ用の封筒で届く。だが、今届いたものは、何の変哲もないただの白い封筒だった。 誰からなのか裏面を見て、その名前に驚いた。 「なんで…?」 そこに書かれていた名前は、今は亡き姉のように慕った女だった。 20年越しの想い 渡した手紙。だが、どういうことかと問いただすメイカに、少し困ったように笑う父。 「彼女がどうして家に出入りしていたか、わかるかい?」 「この家が好きだったから、じゃないの?」 嫌いなら、出入りしない。嫌いなものを排除して、己が上にと考える連中が多い、裏切りだらけの中にいることも知っている。けど、街の人たちは温かく見守ってくれていることも知っている。 だから、この国の裏の存在になったとしても、守りたいと思ったのだから。 「彼女は、お前の母さんと親友だった。」 「ええ。聞いているわ。」 「そして、私に告白してきたんだ。」 「え?お父さんのことが好きだったの?!」 「ああ。でも、私が選んだのは母さんで、それを知っても、彼女は私達の友人であり続けてくれた。」 だから、家に出入りもした。どんな思いだったのか、本人がいない今はわからない。けど、自分が彼女の想いに答えられず、傷つけたことは確かだ。そう言った父の顔は悲しそうだった。 「それにしても、あれから20年が経ったのか。」 そう言って、懐かしそうにその手紙を見る。 「これは、ある違う守り人…お前はもう、知っているだろ?この地域はグレンが担当していること。他の地域は違う奴が担当していること。この世界で起こる異変。」 「ええ。」 「私も、かつてはお前と同じ、守り人に協力する使い魔だった。」 「何となく、そんな気がしてた。」 だからこそ、影となって、国の王より偉い立場にいたのだろう。 「そう言えば、ちゃんと話したことがなかったな。」 そう言って、初めて私の知らなかった昔話をしてくれた。 彼女に会いに行くと、そこには彼女とは別にもう一人がいた。 それが、最初の出会い。そして、未来の妻と彼女が、私同様、普通の日常にあこがれる、異常の中にいる一族なのだと知った。 鬼の一族と、狐の一族、そして葬華と呼ぶ、人の形をした華の一族。 互いが別の種族であることは私達には問題ではなかった。ただ、人と少し違うが故に距離を作ってしまい、その結果人の世と交れなくなったはぐれ者同士、一緒にいて楽しかった。 いつしか、二人は私を好きになった。私も二人のことが大事だったが、愛したのは妻だった。 その結果、三人で共にいることはなくなるかと思われた。だが、彼女は友人であることをやめなかった。 だが、かえってそのせいで彼女を死なせてしまったのかもしれない。 いつしか手伝うようになった、ベルセルの守り人の使い魔としての仕事。 怪我を負った彼女に、何度も私達はお見舞いにいった。大丈夫と笑う彼女に、私達は騙されてしまった。 次第に、私はこの先生まれる娘と妻の為、使い魔としての立場を止めることになった。 その間も、三人一緒だった。きっと、世間では不倫だとか言うのかもしれない。 けど、確かに私と妻は夫婦だが、彼女とは私も妻も、かけがえのない家族のようなものになっていたのだ。だから、三人が一緒にあることは決しておかしなものではなかった。 娘が生まれ、娘が妻の持つ力を受け継いでいることを知った。 妻は鬼の一族でありながら、力が特殊だった。普通なら力が強かったり、頑丈だったり、いかにも鬼というような力の象徴がなく、反対に天候や季節に関わるような環境を操作する力があった。 鬼にも種族がたくさんいるようで、その力は不思議なことではないが、鬼と出逢ったことがない私達にはわからないことであり、妻がそう言うのならと普通に受け入れたそれ。 狙う馬鹿がいたのだ。 娘を誘拐しようとした者がいて、それを阻止しようと妻と彼女が戦った。 彼女は葬華という、華の一族。それも、葬華では珍しく吸血鬼と似たような修正を持つ種族であり、それを外の連中に見られてしまった。 起こった疑惑、非難。困り果てる彼女に、私たちは何を言えばいいのかわらからない。私たちにとってはそれが日常で当たり前のことで、助けてくれるための好意で感謝しかない。だが、他の人間からはそうではない。 それを、もういいの。そう言って、彼女は帰ると言って帰っていった。 それが、最後だった。 彼女は、以前の怪我が治っていなかった。呪いを受けていたのだ。しかも、一族として必要な吸血を行ってこなかった為、弱り切っていた。 まるで、水を切らして枯れる華のように、彼女は静かに息を引きとった。 娘は彼女を姉のように慕っていたから、もちろん泣いた。 そして、私達も泣いた。 大事な家族の死に、私たちは最後の仕事をした。 今回のことは、国の力を王に戻すために策略した王国側の側近と馬鹿王子が原因だ。 私たちは知らしめる為、彼等を殺した。誰にも気づかれず一晩で静かに彼等は世から消えた。 元々、こういう形になる切欠を知る現在の王に一目のない場所で会い、告げた。次はない、と。 王は理解していたのか、ただ頷くだけだった。 そして、今。 「実は、お前が生まれる前、未来の自分たちにと宛てて手紙を書いた。」 それがこれなんだと手にしていた手紙をメイカに見せた。 「私達は異質で排除される存在だった。だから、こうやって過ごせる日常があると思わなかった。だから、少しでも未来に希望を持つために書いたんだ。」 きっと、誰かに死んだら後のことを頼むように言ったのだろう。 「結局私しか残らなかった。妻も、どれだけこの手紙が待ち遠しかったか。」 私達の書いた手紙が彼女に届くこともないなと呟く父は、とても寂しそうだった。 「でも、お父さんが狐だったとは知らなかったわ。」 「狐と言っても、力が弱い。ほら、こうやって指先に小さな灯をともすぐらいだ。」 そういって見せられた火はふわふわと小さい灯り。 「二人の方がずっと強かった。今のお前のようにね。」 そう言って、撫でられる頭。少しだけ、昔に母やあの人がしてくれたものと似ている気がした。 きっと、三人は同じだったんだろう。この手も暖かさも、想う気持ちも。 「さ、出かけるつもりだったんだろ?時間はいいのか?」 「あ、いけない。ごめんね。行くわ。」 「ああ。いってらっしゃい。」 少しだけ名残おしかったけど、メイカは部屋を出た。 あの手紙が読まれたのか、内容がどうだったのか。何もわからないけど、それは『三人のもの』だから、知らなくてもいいんだと思う。 「ごめん、遅れたわ。」 「おっそーい。」 「メイカ様が遅れたら意味がないじゃないですか。」 「ごめんって。さ、行こう。」 私にとっての大事な二人。それと同じように父にも一人きりではなく、大事な人がいてよかった。そう思った。 |