そういえば名前を聞いていないし、名乗っていないと思い、ボクは彼女の名前を聞いた。

「そういや、ちゃんと名乗るのを忘れていたわね。」

もう、私ったらいやだわぁと言いながら、彼女は名乗った。

「私は奏鈴。ここの料理長をしているわ。」

ボクはどうしてここにいるか理解したが、名乗れる名前がないし、その理由もわかっている。だけど、心配させたくないから今までのように答えた。

「何も覚えてなくて、…けど、フィーレって言葉だけ覚えてる。だから、もしかしたらそれが名前なのかもしれない。」

そういうと、彼女は素直にボクをそう呼んだ。

「さて、それでこれからどうするつもりなんだい?」

「えっと、ボク、行くところないし、それにわからないし。」

「そうか。ならここにいたらいいよ。主様も、悪意を持ちさえしなければ自由に出入りしたらいいっていうしね。」

「え、いいの?」

「ああ。それとも、フィーレは主様を殺したいのかい?」

彼女の物騒な言葉に全力で首を横に振る。

「なら、大丈夫だよ。あとで会えるように言っておくよ。一応、一言ぐらい挨拶しておかないとお前も居づらいだろ?」

そんな彼女に礼を言い、このスープについていろんなことを聞いたりしていたら、誰かがやってきた。

「おや、セイレじゃないか。今日もかい?」

「ああ。…で、それは新顔?」

「そういえば、紹介しておくべきだね。」

そういってお互い自己紹介をした。それでわかったことは、彼はセイレという名前でここによくきて料理をすること。けれど、彼女のように料理長といった料理に関する担当にいるわけでなく、この場所を守る警備長という担当なのだということ。

「今日は何を作るんだい?」

「そうっすね…主様は何でも食べてくれるからいつも迷うんっすよね。」

「まぁ、そだね。何を作ってもおいしいといって食べてくれるからね。」

たとえ、失敗したまずい料理であっても。彼曰く、相手の為にしてくれた好意に失礼だとのことだが、申し訳なくなる。

「まぁ、辛い物はあまり得意じゃないみたいなんで、それ以外っすかね。」

料理という共通点で、楽しく交わされる会話。うらやましく思うが、ボクは料理に関して知識がまったくない。だから、彼等の会話に入れない。それが少しさみしく思えた。

「おや、どうしたんだい?」

しょげているボクに気づいた彼女が声をかけてくれる。

「えっと、その…。」

言おうとして口を閉ざす。その繰り返しの中、男がボクに話しかけてきた。

「もしかして、料理したいのか?」

突然の申し出に反応が遅れたが、やってもいいのかと聞き返すとおもちろんだと二人から返事がきた。

それから、料理のことをたくさん教えてもらった。

楽しい時間はあっという間で、夕食の時間になるからと彼女とわかれ、男…セイレと廊下を歩いていた。

「ここにいるのか?」

「いてもいいなら。」

「そうか。じゃあ、会えた時に主様に挨拶ぐらいはしとけよ。」

その言葉に頷く。

その日からボクはここにいる。主様って人に逢った時、正直に言うとそうかといって、いたいと思う間はいくらでもいたらいいと言ってもらえた。

どうやら、ボクが言わなくてもあの人はボクがどういう存在なのかわかっていたみたいだ。

とりあえず、ここにいてもいいと言われたボクは最後の時間がくるまで、二人と一緒に料理をしていきたいと思う。

 

NormalEnd4

 

幻神楼で料理修行End