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「お忙しい中申し訳ありません。」 そう言って、礼をして中に入った男にボクは続いた。 「彼は…?」 「迷い子のようでして、今後のことも決めかねているようなので、主様に一度会うべきかと思いまして…。」 じっとボクを見つめる男。 「ありがとう。その子どものことは俺がどうにかする。だから、もう戻ってもいい。」 「御意。」 そう言って男は退室し、ボクは主様という男と二人きりになってしまった。 「それにしても珍しいな。」 「えっと、何が?」 「ああ。あまりに気にしなくていい。それで、迷い子のようだということだが?」 「あの、その、ボク、どうしてここにいるのかわからなくて、ボクが何者なのかもわからなくて。」 「そうか…そのことすら忘れさ迷い歩いていたわけか…。」 難儀なものだと言って、何かを考える。 「知りたいのか?お前が何であるか。」 「知ってるんですか?」 「お前の記憶についてはわからん。だが、お前が何者なのかはわかる。それでも知りたいか?」 「はい。わからないままなら不便ですし。」 そういうと、彼はボクが死人だと言った。世間で幽霊という存在で、迷い子という言葉のとおり、この世をさまよう死人なのだと。 「別にあいつはお前のことをただ単に迷子だと思ってそう言ったのだろうが、俺にとってお前のような奴も迷子だと思っている。だからそういった。」 そういう彼は、知った今はどうするつもりだと聞いてきた。 「あんまり実感はないですが、本当に死人なんですか?」 「ああ。それに、死人というのはいくつかパターンがある。お前の場合は、何らかの条件下においてこの世を彷徨う時間をもらえたってところか。だから、永くその身体はもたない。その意味、わかるな?」 「つまり、近いうちに死ぬってことですか?」 そういうと、迷うことなく男は頷いた。 「そう、ですか。」 時間はないが、それが事実なら、ボクは近いうちに死ぬのだろう。 「ボクはどうしたらいいんだろう。…何か望みはあったみたいだけど、それを忘れたから。」 「なら、時間がある間ここにいたらいい。」 「いいの?」 「ああ。死人であろうと、害をなさなければ好きにすればいい。元々、ここにいる連中はお前以上に癖が強い者も多いからな。」 そう言ってくれた彼の言葉に甘え、ボクはここで最後のときがくるまで過ごすことにした。 きっと、ボクの望みを思い出せる気はしないから。なら、最後まで楽しく過ごそうと思った。 その後出逢ったここの人たちは確かに個性的だった。 主様がボクのことを不治の病で近いうちに死ぬことを伝え、病が治っても、死ぬことは絶対であるから治療はしないのだと、詳しく言わないがそう説明し、了承したここの幹部らしい者たちが、ボクにその日がくるまでいろんなことを教えてくれた。 そんなある日、見かけた主様とは違う黒服。 「やぁ。君は満足したかな?」 「え?何のこと?」 「忘れても、期限は絶対。だから、満足してなくても、悪いけど回収はさせてもらうよ。」 そう言って男が取り出した、大きな黒い鎌。不気味なそれに連想させる死。 はっとボクは思い出した。そして、抵抗する気もなくなった。 ただ、彼に礼を言ってボクは二度目の死を迎えた。 「おい、ここで仕事をするな。迷惑だ。」 「ちょっとーそれはないでしょ?」 文句をいう死神。 「俺、君の頼み聞いたでしょ?今日の朝、彼が育てた作物の収穫ができるから、一日回収を待ってほしいって。」 「ああ。だから、お前は一日ずらした。」 「そうだよ〜ま、一日ぐらいいいけどさ。これでも結構良心痛むんだから、あんまり言わないでよ。」 そう言って、回収した魂とは別に、足元に転がる作物を一つ手に取った。 「これも一つもらっていい?」 「ああ。そいつに手土産として渡してくれるならな。」 「えー俺にはなし?」 「どうせ、食べる気はないだろう?」 「ま、ね。…死神も所詮、死人だから食事要らずだし?」 そう言って笑った男がそこから消えた。 「…フィーレ、望んだ世界をみれたか?」 彼のつぶやきは誰にも聞かれることなく空に消える。 <BadEnd5> 望みを思い出せないまま日常を生き、期限で田所による回収End |