| ◆田所さん 彼は、ベルセルにおいて全ての出来事を記録する者で、担当エリアのある守り人ではない。けれど、面白いからと時折介入してはややこしくしてくれる原因でもある。だが、彼の協力ははっきりいって助かる部分もあるから、プラスマイナスゼロと言って逃げられてしまう。その為に彼が引き起こした損害は今まで誰も彼に後始末させたことがない。 「やだなぁ。人聞き悪いよぅ。」 そう言って駄々こねて店に居座る大の男を覚めた目で見る司狼。いくら彼が問題起こしても優秀だと言われても、こんな大人にだけはなりたくないと思った。 そもそも、この状況はいつものように彼が店を休憩時間に訪れたことから始まる。 「でもでも、ちゃんとお役に立てるように情報という対価は払ってるわけじゃない?」 「そうですね。その点はさすが「死神」だと感心しますね。」 午後の一杯として紅茶を飲んでいた白城が、空になったカップをテーブルの上に置く。店を切り盛りしているだけあって、白城はかなり腕がいいが、こういうところは真代も意外と上手かったりする。だから、このことに関してだけは真代に白城は店を手伝うことで文句を言わない。むしろ、それ以外は余計な手間が増えるのでやるなというぐらいだ。 「あーもう、ひどいな。僕がそう呼ばれるの嫌いだってわかってて言ってるから性質悪いよね、白城ってば。」 「もう少しまともになったら敬意を持って呼んであげますよ。」 「むーひどい。」 ふてくされる田所に、呆れる司狼。本当、世の中おかしい。こんな変てこな男が恐ろしい死神だなんて。彼がどのエリアにも神出鬼没な理由の一つは死神であるからであり、だからこそベルセルにおいて世界の歴史を記す仕事を任されているのだが、こんなのにあの世へ行きますよと誘われても断りたい。断る権利があるはずだ。 「おい、今日の用事をまだ聞いていないぞ。さっさと話して帰らぬか、馬鹿者め。」 ぎろっと睨む白灯に、そう言えば忘れてたと苦笑する。だが、田所はまだゆっくりお話したいとだだをこねる。本当に性質の悪い大人だ。まるで白灯とは見た目と中身正反対だ。 「もう、仕方ないなぁ。」 文句言いながらも本題に入るらしく、今までどこにあったのかわからない鞄を取り出し、中から俗に言うメイド服なるものを取り出した。メイド服といっても、お屋敷にお仕えする奉仕者のものでおとなしめのデザインだったが、間違いなくメイド服だ。 「これが何だというのだ。」 さっさと要件を言えと言う白灯に、わかってると答えた田所は司狼の方が見てあろうことかこれを渡してきた。ぴしっと何か固まった気がした。 「あのね、これ渡してって頼まれたの。」 「誰にですか?大体想像はついていますが…。」 「そうだな。こんなことする奴は我も奴しか知らぬ。」 そして三人がそろって同じ名前を言う。 「ゆうからだよ〜。」 「ゆうさん以外いませんね。」 「ゆうの奴だな。」 「ゆうちゃんだね。でもいいな、かわいいし。」 「ならお前が着ろっ!」 その後、彼がメイド服をどうしたかは…彼等しか知らない。
彼は唯一歴史を記す為に歪みが起こった場所へ、守り人以外で自分の意思で足を踏み入れ、関わることが出来る存在だ。そもそも、彼が死神であるが故に、関わる気がなくても、魂を導くという仕事上で関わらざる得ないと言った方が正しいかもしれない。
「やっほー。」
こうやって、彼は現れる。
「何をしにきた、死神め。」
「えーひどい。泣いちゃうよ?」
「邪魔だ。泣くならあの世でやれ。」
「相変わらず冷たいな、白灯ちゃんってば。」
「…。」
しかも、子ども扱いを嫌う白灯も、ちゃん付けで呼ばれても訂正するのも阿呆らしくなって放置するぐらい、はっきりいって死神らしくない。
「ちょっとぐらいユーモアを持とうよ。そんなんじゃ退屈で嫌じゃない。」
「守り人は必要以上の干渉は禁止されている。そのようなことをしている場合ではない。」
「もう。相変わらずかたいんだから。」
不満をあらわにしながら、どこからか取り出した鞄の中から数枚の書類を取り出した。
「はい、これ。頼まれていた資料。」
白灯は無言でそれを受け取り、中に目を通す。そして、一通り見終わったあとは、それを燃やした。
「やはりな。」
「白灯ちゃんの言う通りって感じだったわけで、どうするつもり?」
「もちろん、こうなっては仕方なかろう。」
「えー、やっぱり?」
「…それが、我等の仕事だ。」
物語の一つの結末の姿。もう、変えられない。ならば、元を断ちきってしまうしかない。
その為にこの手が血にまみれようとも。
「そっか…。じゃあ、今回は…俺が後始末しておいてやるよ。」
ふっと表情が消え、冷たい声が響く。そして、またねと言って田所は姿を消した。
「こういうところは、死神なんだがな。」
あの男がやると言った以上、何事もなかったかのように後始末はされるだろう。
「おや、珍しいですね。」
「何だ、白城か。」
部屋に入ってきた白城は、お盆に二人分の紅茶とつまむためのお菓子がいくつかのせられたお皿を用意し、客へのもてなしのつもりだったのだろう。
「お前が飲めばよかろう。」
「そうですね。」
先ほどまで田所が座っていた席に腰かけ、白城は紅茶を口にした。
「…仕事、ですか。」
「ああ。あの男が言った以上、すぐに片付くだろう。」
「そうですね。」
本当に何もなく終わってしまうから反対に不気味ではあるが、それがベルセルにおける仕事なのだから、普通なのかもしれない。
そこに、決して感情は入らない。
「私はあの男が苦手です。」
「我も好まぬ。」
二人がカップの中の紅茶を飲んだ頃、世間でははじめから事件などなかったかのように、静かになった。
もちろん、被害者と殺人犯のことさえ、誰ひとり覚えているものはいなかった。
これは、少しだけ昔のお話。 |