◆喫茶店のある日常風景


「何すんだよ、この男女っ!」

その瞬間、部屋の空気が変わる。真代が立ち止り、振り返る。表情は髪で隠れて見えないが、後ろに黒いオーラがあり、怒っているというのが常日頃から鈍感だとか馬鹿だとか言われる司狼でもわかる。

だが、今回ばかりは司狼もまた怒っているのだ。ここはひかない。

「何ですってぇー?!もう一遍言ってみろやー!」

「だから、男女だって言ったんだよ!耳も悪くなったのかよ、このくそじじい。」

その瞬間、何かがぷっつんと切れる音がした。

そして、取っ組み合いの喧嘩に発展した。それは、白城が部屋に入るまで続けられていた。

「で、これはどういうことか、説明…していただかなくても予想はできますが。」

二人の名前を呼んだ声に、同時に動きを止めて声の主を見た瞬間、二人は固まった。それはもう、相手のことを怒り任せに喧嘩していたことなんてばからしく思えてしまうぐらい、恐れが二人を支配する。

何故なら、それはもう女性がぽっとなって惚れるぐらい綺麗な笑顔で白城が立っていたからだ。長い付き合いの三人だ。この笑顔がどういう意味を持つのかわからないほど浅い付き合いではない。

「この部屋、とりあえず、片付けましょうね?」

二人は必死に首を縦に振り続けた。

「あと、僕から二人にお願いがあるんで、片付け終わったら部屋に来てもらえますか?」

二人は沈黙した。首も固まって動かない。

「来て、もらえますか?」

一歩、近づいた白城がそれはもう、とびきりの笑顔を二人に向けてもう一度同じ質問をした。

今度は一度だけ、二人は首を縦に振った。

「良かったです。では、夕食の買い出しに行ってきますので、片付け、始めてください。あ、ちゃんと部屋に来てくださいね?」

ぶんぶんと今度は何度も首を振った。では・・・と白城が部屋を出て行ったあと、へなへなと二人はつかみ合っていたのがいつの間にか恐怖で抱き合う形になったまま、座り込んでしまった。もちろん、すぐに気付いてお互い手を離したが。今はいつものように言い合いできる余裕はない。

「…とにかく片付けるか。」

「そうね。時間かかりそうだもの。」

二人は部屋を見渡して溜息をついた。








◆ゆうと言う女


ベルセルの守り人の中で、仕事が大雑把な女が彼女、エリア10を担当するゆうだ。

ゆうは元々気分屋で、気に入らないことをすることを嫌う。そもそも、彼女は先代に無理やり守り人の地位を押しつけられたのだ。だからこそ、この仕事に思い入れも何もない。ただ、やらなければいけないことでしかなく、自分の趣味の二の次になりやすい。何より、彼女はこの仕事が嫌いだ。

守り人全員が、この仕事を好きだと思う者はいないだろう。どういうものか、現実を知っているからなおさらだ。だが、それでも誇りを持っている。使命としている。中には運命だと諦めている者もいる。その為、思いはいろいろあるが、彼女のように二の次にして放っておかない。

「お、完成〜なかなかの出来だわ。」

自分の作品のできに満足し、使い魔のぽぽを呼ぶ。

「これ、北斗に渡して。こっちが北斗宛てだから、中見たらわかるはずだから。」

「わかった。」

「ん〜徹夜続いたし人眠りするかな〜。」

だがその時、その部屋に場違いな大きな桜の木が一斉に花を咲かせ、白い花弁が赤く染まる。血のように、真っ赤に染まる。

「ん?ありゃりゃ。仕事〜。む〜眠いから、ぽぽ、悪いけど少しだけ寝るから、後で起こして。」

「わかった。」

そう言って、歪みが現れる知らせを見たにもかかわらず彼女は昼寝を開始した。

どのみち、すぐに行動を開始しても早々に原因が見つかるわけでもない。だからこそ、他の守り人達のようにすぐに出かける必要性を感じないのだ。

それに、彼女の能力は他の守り人よりも原因をはやく見つけやすいから、問題ないのだ。

はっきりいって、その能力こそが彼女にとって不愉快なものでしかないが、これのせいで先代に押しつけられたのだ。

「あ、そう言えば…ま、いっか。今度で。」

作品を身にまとった司狼の写真の一枚ぐらい、彼にお土産としてお願いと手紙に追伸で書いておけばよかったと思いながら、夢の世界へと旅出つ。