そこに、ただ何もない世界があった。

それを、世界を名づけ、創った者がいた。

そのものが、この世界の創造主であり、私と対なるアイツの主人だった。

ただ、世界だけがそこにあった。

その世界について、創造主は私達に言った。

私達が好きにその世界を創り、見守る神となれ、と。

私達は、世界に命をつくった。

たくさんの命を、つくった。

結果、私は大事にしたい、大事な命を奪われた。

そして私達は、世界のあり方で対立し、戦い、私は負けた。

 

 

 

ただ、独りでいたくなかっただけなのに

 

 

 

 

つくった後に、興味がなくなった主人は、私たちを置いて、どこかへ消えた。

別に、そういう人だと思い、私達は気にしなかった。ついていくという選択肢も、何故か私もアイツもわかずに居残っていた。

けれど、広い何もない世界に二人きり。面白くもないし、むしろ二人しかいない世界はむなしくて、最初にアイツが生き物を作り始めた。

私はただ、それを見ているだけだった。それだけで、私は楽しかった。

増えていく命。芽生えたそれが、生きる様は、何もなかった世界を考えると、とても興味深くて面白いものだった。だから、私も一つ、命をつくってみた。

アイツが作った人型と同じようなものを一つ、つくってみた。

元々、私はこういうことが苦手なのだろう。感情が乏しいそれは、歪で未完成だった。それでも私を主として慕ってくれていて、独りでなくなった私は思ったよりその人型を気に入っていた。

アイツと別の道を進みだし、世界も賑やかになってきたこの頃。

私はともにある子ども…『シュウレンカ』と名付けたそのこと共に、のんびり世界を見る日々を気に入っていた。時折、世界に降りては、それぞれの生き方を見ながら過ごしていた。

「ベルセル。」

「珍しいな。こっちに来てるなんて。」

時々しか出歩かない私を見かけて、珍しいなと声をかけてくるアイツ。最初は共に二人だけだった。だから、今は共にいる時間がないとしても、私はそれ程アイツを嫌ってはいない。アイツがどう思っているかは私にはわからないが、嫌われてはいないと思う。

ある意味で双子のように、互いの意識が繋がっているかのように感じる私達。だけど、別物だと感じるのは、持つ能力のちょっとした違いだろうか。

「お、そいつがお前の…。」

「そうだ。挨拶だ。」

ひょこっと後ろに隠れていたそれが前に出て、ベルセルに頭をさげて、変わらない表情のまま、名前を名乗った。

いくつかの言葉を交わせば、いつの間にか時間はかなり経過していたようで、私は子どもを連れて、ベルセルと別れた。それが、私とベルセルと同じ道に立つ最後だった。

それから、欲望が渦巻く世界の中で、人間は愚かな行いを繰り返し始めた。それが悲しいと感じるが、それもまた世界の姿なのだろうと受け入れた。だが、私はその世界のあり方をもっと考えるべきだったのだ。

買い物にと、出かけたあの子ども。感情が乏しくとも、時折見せる笑みが、私の楽しみで、お使いを行ってくるのが、それで私の為に動くことが楽しいようで、私も頼むようになった。

その結果、争いに巻き込まれ、子どもは動かなくなった。

命の終わり。つまり、死。

呆然と立ち尽くす私。動かない目の前にいる子ども。まだ、止まらない争い。

確かに、何もない世界より、命がある世界の方が良かった。だが、命を奪いあうような世界は、必要だろうか。

側により、抱きしめる子どもは、とても冷たかった。あんなにも温かかった子どもは、もういない。

やっと、私は理解した。

私とアイツを作った主は、知っていたのだ。いくつも世界を創っては次を、と繰り返す。私達以外に何も創らないのは、人がどういうものか知っていたから、あえて創らなかったのだ。ならば、この世界はいくら寂しい世界であろうとも、元のあるべき姿に戻るべきだ。

そして、人の欲望をかき消せばいい。

「すまない。お前を、死なせたのは、私のせいいだ。」

ベルセルと一度話をしなければいけない。この世界をもとに戻し、ただ、存在するだけにするために。

もう、私は誰かなんて望まない。心もいらない。どんどん歪んでいく心なんて、いらない。育たない心も、いらない。全部、いらない。そう、いらないんだ。

次に会った時、私は言った。だが、ベルセルはこの世界の現状維持を望んだ。私はどこかでわかっていた。アイツは必ずそう選ぶと。だから、アイツもわかったはずだ。私が本気でこの世界を一度白紙に戻すつもりだ、と。

終わりのない戦いの始まり。一人きりの戦い。おかしなものだ。

争う為に、奪われる命がある。その結果私は世界にいらないものを排除するつもりなのに、私自身も歪んだ人間と同じように争いを始めた矛盾。もう、私は何が正しいのかわからない。

ただ、私が言えるのは、この世界は失敗作だったということだ。

私は影を引き連れ、世界を覆った。けれど、アイツが作った八つの魂はとても強く、眩しい光だった。

けれど、ほころびは何処にでも存在する。あの八つの弱点は一つ。あの女神、だ。

別々の意思を持った確立した存在であるが、どれもがあの女神に関わる魂の系列となっている。つまり、崩すなら女神をまず消すことが第一優先事項だ。

続く長い戦争。女王は様々な種族を率いて、神は天界の軍を率いて、冥王は死者を率いて、霊皇は異界の住民を率いて、機械王は知恵を与え、番人は道を示し、奴等は皆私に向かってくる。

私は、続く戦いの中で、ある方法を思い至った。私を私としかみていない彼等から標的をずらすことを考えた。

大事に守るように傍にあったあの子どもの器。私は意識だけを入れ、人形を作った。今度はもう命を創るのはやめた。

相手をだますための私の意思で動く人形。あっさり騙され、女神を手にかけた。それで終わるはずだった。だが、女神はこの世界に希望を置き土産として残していた。私の予想外のそれが、崩壊をする前に命綱として世界を繋いでしまった。

そして、私はベルセルの手によって、封印された。私の嫌いな、独りきりの世界へと。

 

 

 

 

気が付けば、私は『私』だった。名前はない。だが、不便だからヴァルと名乗ることにした。

残酷で無邪気な子ども。それが『私』だ。新しい仲間を迎え、力を温存するベルセルに対抗するべく私は動いた。

まだ世界に残る女神の福音。本当に、私にとって女神は相手の弱点であると同時に、対処に困るものだ。

闇になる私の力は、光のように眩しい女神の魂は毒でしかない。せっかく壊して、世界も終わるはずだったのに、女神の光を受け継ぐ魂があった。それが誤算だった。

残りの七つの魂は、崩壊することなく、ベルセルと共に私に向かってきて、私を倒した。そして、また繰り返されないように私を監視する為の動きを見せていた。

それを、私は『私』として見ていた。

もう一度、この世界を戻すために動くのならば、あの女神の光を壊さないといけない。つまり、力を持つ子ども、双子の片割れを狙うことにした。

もちろん、狙っていることを、残りの七つの内いくつかは気付いていて阻止する動きを見せていた。それでもいい。

残り少ないこの世界を、必死になって守っていればいい。そうしたら、理解するはずだ。この世界がいかに不要なものが多いかを。

「この世界を生かすか殺すか。その命運を握っている君は、最後には何を選ぶんだろうね?」

遠く離れたこの地で、暗い闇に染まったその場所で『私』は女神の光である片割れに向けて問いかける。だが、聞こえるはずのないその声に返事がくるはずもない。

「私は私。同じであって、別の意識。だけど、結局同じ。だから、余計に憎く思えるよ、ベルセル。」

私がただ一つ、守りたいと思った命。きっと、ベルセルは守られるなんてこと、ないだろうし、そういう意味で力を信じていられる関係だったから、あの子どもだけだった。

そんな私から、この世界は奪った。それでも、飽きずに奪い合い続けるこの世界と生きる命の数々。

「もう、触れることができない光。今では忌々しいだけの光。」

目の前に、闇に囲まれながらも光を失わない欠片。女神の魂の欠片がここにある。仲間となった元天使で、女神の配下だった奴が魔に堕ちながらもそれを集めるために生きている様を見て、たまたま見かけたこれを手元に置くことにした。

そうすれば、決して魂がそろうことがない。

「その時、タイムリミットがくれば、君は選ばないといけない。いや、その命は終わるから、選ぶこともないか。」

女神の魂の代用品として、同じ力と魂の輝きを持つ彼が、世界のために死ぬことになる。そんな世界を、彼等は果たして守りたいと思うだろうか。

きっと、姉はそう思わない。そうすれば、こちら側になるだろう。それはそれで面白い。

「ヴァル…もう少しだ。もう少しで、全てが終わる。」

私は、あの子の姿のまま、あの子に話しかける。答えはいつも返ってこない。わかっていても、癖のように話しかける。

「もし、終われば…私はヴァルに会えるんだろうか。」

静かに消える音。近づく気配。

「ヴァルか?珍しいな。こんなところにいるなんて。」

「ああ、セロンか。何か用?『魔神』は今ぐっすり『お休み中』だよ。」

子どものような、けど、決してヴァルが見せない無邪気で、それでもどこか不気味さを感じさせる笑みを向ければ、私は私で、彼も私として対面する。

「今日も天使の片割れが地上にきてたけど、何かしたのか?」

「いや。でも、セロンにとっては、あれらは孫や甥っ子みたいな存在だろ?本当は僕がすること、気に食わないんじゃないの?」

「いや、世界が嫌いなのはあんたと同じぐらい、いや、あんたの生きてる時間の長さを考えると、あんたの方が大きいかもしれないが、俺は結局あの人とあの人と共にいた女神とその子どもである彼等にしか興味が持てない。」

彼は言う。まだ迷いが残っている部分もあるが、この世界と己の不毛な命の時間は憎いから、今を選んだのだと。

「奪い奪われる世界。そんな世界、俺はもういらない。あんたもそうだ。だから、利害が一致した。ただ、互いに同じ対象がどうしても気になってしまっているってだけ。」

それ以外には、何があろうと興味は持てない。そんな世界を守ろうと必死になるあの子どものことも、理解できない。

「くくく…本当、お前も面白いよね。だから、結構気に入ってる。湊もクレハーチェも、結局魔人はあの子どもの動き次第。そう、あの女神の思うつぼってやつだ。」

笑える。そして、笑えない。何の為に、この世界を憎み、壊して綺麗さっぱりなくそうとしているのか。それを邪魔するのは、いつも『女神』だ。

「「結局一人が嫌で、独りであることを望んだ。」」

お互い、その為、この世界を維持することを望んだ者達と対立することになった。

「僕が悪か。それとも、彼等が悪か。世間では僕でも、僕はわかってる。手に取るように、僕が少しだけ悩むように、アイツもまた、現状維持で守ることの必要性に悩んでる。」

「それって、ベルセルか?」

「そうだよ。セロンも一度あったことあるでしょ?アイツは責任を感じてる。人をつくったことの責任をね。」

その結果、大事なものが奪い奪われることが起きた。それでも、アイツは人が好きだ。だから、守ることを選らんだ。

「僕だって、人が好きだ。好きだけど、嫌いだ。だから、アイツと意見対立した結果だ。後悔はしてない。後悔するつもりもない。その結果、僕がアイツに殺されても、アイツを僕が殺しても、お互いその結果を受け入れるだろうから。」

もちろん、最後まであがいてあがいて…結局二人ぼっちで一人っきりになるだけの話。

「セロンはどっちになってほしい?」

「俺はどっちでも。ただ、あの人が大事に思っていた親友の子ども…生きてほしいとはおもうけどね。」

そして、死を与えてほしい。死と言う概念から外れた自分を。それを、魔神である貴方もベルセル、もしくはあの子どもに求めているのだろうと聞くと、『少年』は笑った。

「そうかもしれないね。私も『私』も、少しだけ疲れたのかもしれない。」

少しだけ、人を創り、人のことばかりの相方に嫉妬して、寂しく思ったのかもしれない。だから、真似してみて、自分が一人にならないようにしたかった。

二人っきりの中に邪魔した奴等全てが、結局嫌いなのだろう。

でも、あの子をつくったことで、私も彼以外に目を向けてしまった。そこがダメだったのだろう。

二人で一つなのに、二人が別々に動いた結果、招いた事故。

「そろそろ、仕上げだね。タイムリミットはすぐそこだし。」

「それで湊の奴焦ってたってわけか。」

「そうだよ。魔人なのに、天使としての忠義が今も抜けない。だけど、やっぱり魔人だ。その歪みが歪みを呼ぶ。」

その歪みが湊を殺す。そうなっても、彼は受け入れてしまうのだろう。全ては忠義と、過去の後悔を清算するために。

「こんな世界に命をかける価値があるのか。いつも思う。セロンも湊も、クレハーチェも。なのに、この世界で生きて行く以上、結局この世界を望む。悲しいことだよね。」

逃げられない。だから、解放する。そして、私自身も、そろそろこの子と別れ、この子も私と別れて新しい人生を歩ませてあげたい。

私のせいで、私の器として私になったせいで、いつまでも囚われたかわいそうなこの子。

「さて、行こうか。次の歪んだ仕事へ。」

「どうせ、お前は見学だろ?」

「当たり前だよ。あくまで魔人で魔神だと、ヴァルの亡霊で操り人形だとベルセルに想われないといけないからね。」

本当にこの世界を望むのなら、殺されてもいい。だけど、知られたらきっと、手が鈍るぐらい、アイツは私と同じで一人なのが寂しくて嫌いだから、必ず殺せるように。

簡単に殺される気はないけれど。

 

 

 

『主様、この世に生かしてくれてありがとう。』

言えなかった言葉。最後に抱きしめてくれたぬくもりを忘れない。

『主様、泣かないで。心がずっと泣いてる主様を、もう抱きしめてあげられない。』

悲しそうに、だけど、いつも泣かない主様が心配だった。

『主様、傍にいさせてくれてありがとう。死した今も、傍にあれることが喜び。』

きっと、悪いことをしたと思ってる主様に、もう伝えられない。

『主様、少しだけ、私よりあの人と一緒であることを楽しんでいるのをうらやましく思いました。』

きっと、お互いわかっている。それでも、譲れない矛盾した想い。

『主様、主様、主様…大好きでした。これからも、大好きです。』

きっと、今度こそさみしくない日々がくるように。

今はまだ、私は眠り、夢として主様の行動を見る。

主様を一人にしないため、私は…

 

 

 

ただ、独りでいたくない。ぬくもりある誰かと共にありたい。

少年も、二人っきりの『神様もどき』も、根底は同じで、すれ違う。

それでも、始まった物語は、続いていく。

結果がどうであれ、違う道を選んだ三つは最後まで物語を進める。

それがよいことかそうでないのか。もう、誰にもわからない。

そう、二人っきりの彼等もまた、物語の登場人物に過ぎないのだから。

「いくつ物語を創っても、結局巡る先は同じ。だから、『私』はもうこの世界はいらない。だから、好きにすればいいさ。」

――なぁ、ベルセル。アステル。

それでもこの世界が好きなら、選べばいい。








あとがき
ベルセルや他の守り人、本編としている長編より先に出来上がる魔神の始まり物語。
そして、やっとでてきた、ベルセルと魔神こと、アステルをこの世界において行った人。
別名、物語の種をまく人です。他のシリーズなどの、世界を創り、最初の設定だけおいてどこか消える、ある意味無責任な人です。
他作品でも、つながりがあったりするのは、こういう裏設定の為だったりします。
さて、物語についてですが、魔神は結論からいうと寂しいという感情がわからないけど寂しいからいろいろしてみて、結果キレたわけですが。ベルセルは感情が育ち、彼にはそれが育たなかったというか、育つ前に、喜びより哀しみと怒りが先にきてしまったので、大戦争になったわけです。
ヴァルの中から見ているようで、実は意識の一部があるほぼ同じ意識を共有する分身みたいな感じになって、だんだんヴァルなのか魔神なのか分からな感じになってたりしますが、もう、ひいてはくれないので、今後話が流れていけば、ぶつかることになります。
それでも、できれば嫌わないであげてほしい奴なので、皆様、よろしければ最後まで彼のやることを見届けてあげてください。