その日、第二広間が、ジャングルと化した。

「こりゃまた、見事なもんだね。」

驚いた住人達。あくまで、大量に生えた植物に驚いただけで、どうしてそうなったかとかはどうでもいい。彼等は誰がこれをしたのかぐらい百も承知だからだ。

「でも、食べれそうにはないね。」

そういって、近くにある葉を手に取ってそう言うのは、調理長の奏鈴だ。

「奏鈴さん、こっちも食べれるものも薬になるものもなさそうです。」

「なら、仕方ないね。ほら、お前たち。あの子捜して、これをどうするつもりか聞いてきておくれ。」

とにかく、館の主が留守の間に、片づけるのなら片づけてしまうよという彼女の号令に、従った住人達が周囲に散った。

「それにしても、今回もまた、派手にやったもんだね。」

 

 

 

 

ミドリニ抱カレ、眠レ

 

 

 

 

とにかく、一部の住人を避難させ、調査する為に第二広間の入口付近に集まった琴詠とホーレイン、そして翔世。

「これはまた、見事にやってくれたもんだな。」

「植物学者とかいたら、喜んで食いつきそうな話だろうけどね。」

「いても、薬学の小生達ぐらいだからね。」

それに、日常的にこういったものが溢れたり、撃退トラップで使用されていたら、物珍しくもないが、ろくなものではないと判断することの方が多い。

「せめて、薬にできたり食べられたら良かったんだけど。」

「さすがに俺は、こんなもの食べられても食べたくない。」

そう言う、対象の植物。確かにそうだねと苦笑しながら同意するホーレイン。

その植物はある意味で人食い植物だった。消化液をまき散らして、ぐねぐねと踊るように動いている。かなり君が悪いそれは、毒々しい華を咲かせ、こちらを伺うようにたくさんの顔をこちらへ向けている。

「間違いなく、敵視して警戒されてるな。」

「そうだね。」

「そうっすね…どうする?弓で火をつけて燃やす?」

「そんなことをしてみろ。館が被害被る。」

それは、できない。そういう琴詠に、そうですねと困ったと答えを返す翔世。

「それで、元凶はどこいった?」

「それが、他のところでは、皆で探したそうですけど、どこにもいないみたいで。」

「最悪、この中心にいるんじゃないかって、奏鈴さん心配してたよ。」

はぁとため息。毎度のことながら、困った奴だと言い、剣を抜いた。

「とにかく、もしも本当にこの中心に奴がいるなら、危険すぎる。」

「そうですね。」

すっと、ホーレインも薬品の入った瓶を手に取った。

短時間での繁殖力。いまだに反応を見せないシャルテのこと。どちらも、今は大きな害がないけれど、手遅れになっては意味がない。

「さっさと片付けるぞ。」

そう言って、刃を振り下ろそうとしたときだった。

「そのまま、置いておいた方がいいヨ。」

少し片言の独特のしゃべりの男がいつの間にか彼等の背後にいた。

「お前…確か。」

「コンニチハ。」

そう言って、浮かべた笑みは、かなり胡散臭いものだが、彼等は彼のことを知っている。

この館の主であり、自分たちが守ろうとする相手の同業者、という奴だ。どういう同業者なのかはいまいちわからないところが多いが、彼のような連中が他にもいて、主は彼等とともに、何かの為に動いているということは知っている。

だから、特定のここに訪れる連中は主の客として認識しているので、どれだけ胡散臭かろうが攻撃しないのが鉄則だ。

けれど、今回はこの騒動の中で、タイミングが良すぎるから不信感を持っても仕方ない。

「これ、原因を知っているのか?」

「勿論。冥鎌から聞いてるからネ。気づいたから、冥鎌もすぐ戻るヨ。」

だから、さわらぬ神にたたりなし。そういう男に、それでも、留守を預かる身として納得できないので、話を聞こうとすると、面倒くさいとばっさりと斬られた。

「だが、本当に何かあった後では…。」

「何もないさ。だって、これは、彼女が生きて行く上で、どうしても必要なこと、ダカラネ。」

そう言って、男は植物に手を触れる。

「ほら、説明してくれる適任者、キタヨ。」

そう言って、奥にいる人影を差す。そこには、先程まで誰もいなかったのに、何かがいた。

「誰だ?」

「あれが、この原因である彼女が抱える問題。聞いたら教えてくれるヨ、きっとネ。」

どこか、シャルテと面影が似ているその女は、まったく違う声で、話しかけてきた。

『妹が…私のせいでご迷惑をかけてしまったみたいで、ごめんなさい。』

あの女に姉がいたことも驚きだったが、こんなにも人の気配の薄い人間に出逢ったのもはじめてだ。

「琴詠さん、あれ、間違ってたら失礼かもしれないけど、人間じゃない。」

人ではないものが見え、人ではないものとのトラブルを解決する祓い屋である翔世がいうのだ。人ではないのだろう。どこかで納得する琴詠とホーレイン。

そこへ、主である冥鎌も帰宅した。

「主様、お帰りなさいませ。」

「ああ。すまないな。こうなる前にどうにかするつもりだったが…。」

「いえ、私共も、何もできず…。」

主の手を煩わせた。その事実が琴詠の気持ちを重くする。留守を守り、安心して出かけられるようにと心がけていたのに、この様である。

「久しぶり、というべきか。変わらず息災か。」

『あまり、よくはない、わ。妹に負担だけがかかって、そろそろ諦めるべきなのかもしれないわ。』

そう言う女は、悲しそうだった。

「琴詠、ホーレイン、翔世。ここは問題ないから、他のところの警戒及び住人の点呼安全確認を頼む。」

「御意。」

「わかりました。」

「はい。」

まだ、言いたいことはきっとあった。だけど、彼が来たのなら問題はないだろう。そして、ここから離れるように言われているようだったので、三人はそれに従った。

「すまなかった。」

「いや、大丈夫ダヨ。こっちとしても、迷惑かけちゃったカラネ。」

二人は、改めて彼女の方を見て、言葉を交わした。

『本当に、ごめんなさい。』

「気にするな。お前達をここへ引き取ってから、わかっていたことだ。だが、だんだんと期間が短くなった挙句に眠りも長くなったな。」

そのことの意味、悪くなっている事態に彼女もわかっているのだろう。

「とにかく、中にいるんだろう?案内してくれ。」

「ええ。」

「ロン。こっちはもう大丈夫だ。凛々のこと、頼むな。」

「ハイヨ。戻る頃には連れてこれるようにするヨ。」

そう言って、冥鎌はロンと別れ、植物の中へ足を踏み入れる。不思議なぐらい、彼女が進むところには、避けるように道ができるから進むのは楽だ。

ただ、進んだ後は閉じていく為、帰るのも彼女がいないと無理なので、もし何かあったら閉じ込められることになるが、それを知ったら琴詠とかはうるさいだろうから席を外させた。

「まったく、こうやって寝ているとふつうなんだがな。」

そう、眠っていると、こんなおかしな植物の生態をつくったりすることもない。

だが、彼女達が葬華である限り、華というものはついてまわる。

華の呪いに付きまとわれる一生を送る一族。

「そっちの調子はどうなんだ?」

『私は、何も問題ないわ。反対に、あの子の命を食べているんじゃないかって心配になるぐらいよ。』

「そうか。」

冥鎌はシャルテの側により、頭を撫でる。

「そろそろ、起きろ。」

そう言うと、言葉に反応するように、冥鎌の腕にまとわりつく、彼女の周囲の蔓。

「いつも、ごめんなさい。」

「気にするな。」

生物の生きる気を食べる蔓。

彼女達は、互いを食べることをやめた。だから、中途半端になった彼女達は、己を維持する為に大地からいつも吸収する。そのために眠るのだ。

だが、ただ眠るには危険が伴う。その結果、守るように大量の植物が繭をつくる。そして、見張りに、消えるはずだったが今も生きて、一番維持する為に疎外する原因である彼女が起きてそこにいる。

「私が消えれば、あの子は普通に生きられたのに。」

「だから、それが嫌だから選んだのだろう。…あんたの分の生命維持に必要な気を吸収する為に。」

「…わかってます。」

いつまでつづくのかわからない。いつか別の個として生きることができるのかもわからない。その結果、はやく気を集め日常に戻る為に彼が渡す気によって維持される平穏。

「姉さんは、何でも心配し過ぎ。」

目を開けたシャルテ。泣きそうになる女に、苦笑する。

「迷惑かけちゃった。主様。」

「気にするな。」

まきつく蔓が離れていく。

「で、結果的にどうなんだ?」

「主様の想像通り。大分、よくなってる。でも、そのせいで間隔が短いのかもしれない。」

「そうか。」

『どういうこと?』

二人の会話が理解できずおろおろする彼女に、ため息をこぼすシャルテ。

「私達はお互いのどちらかを食べて生き残る。そうしないと生きる為の命が足りないから。」

「うん、そうよ。だから、大地の気を食べて、その間眠って。」

「だから、私達はお互いを食べなくても違うものを代用して、一人になれる。つまり、二人は別々の一人になれる。それが近いっていってるのよ。」

大地を枯らさない様に、少しずつしか得られない日々と違い、強い光の元である冥鎌の気は一度に吸収できない程大きなその力が、長くて途方もない時間をはやおくりした。

「それって…。」

「だから、私は姉さんを食べなくても生きられる。姉さんは私に食べられることなく生きられる。ずっと望んでいたことが叶う目処が見えてきた。そう言ってるの。」

嘘っと、その場に崩れるように座り込む女。

「そういうことだ。だから、あまり悲観する必要はない。」

「そっか。そうなんだ。…あの子やっと…良かった。」

やっと見えてきた希望。毀れる涙。

しばらく話はできそうにないなと、冥鎌はシャルテの方を見た。

「起きたなら、そろそろこれを片づけろ。仕事ができない連中がいるだろう。」

「そうね。次はもう少し場所を考えるわ。」

パチンとシャボン玉が壊れて消えるように、夢から覚めた合図のように、たくさんあった緑は視界から消えた。

「そろそろ、あいつ等にも説明しとけよ。」

「そうね。巻き込まない為に。」

おやすみ、目覚めれば反対に眠りにつく姉に言えば、笑みを浮かべ、そこから消えた。

「眠っている間に、いろいろ整理して、次にまた話してくれるわ。」

「だろうな。さっきの状況だと頭の中、いろんなこといっぱいでわたわたしてたからな。」

「でも、主様のおかげ。こんなにもはやく目的が見えてくるとは思わなかった。」

だから、主様が何者なのかは聞かない。その方がいいのだろうから。そう言って、彼女は謝って説明してくるとそこから去って行った。

「人の心配するのは君らしいけど、君が無茶したら駄目でしょ。」

「…ゆえる。」

「今は違うよ。」

ふらっと崩れかける彼を支える腕。

「凛々ちゃんの昔の環境と彼女の死で、時々不安定になって雷の力が暴走する。それを抑える為に君が力を与えて強制的に眠らせる。その後がどれだけ疲れて動くのも辛いのか知っている。」

だから、あの守り人も、タイミングが悪いから君より先にきて最悪の事態が起こらない様に割って入った。

「君の性格だから仕方ないのかもしれないけど、もう少しだけ頼って。」

じゃないと、本当にいつか君が死んでしまいそうで怖い。そういう彼に、すまないとだけ謝る。

「お前も少し眠れ。」

「だが…。」

「駄目だ。」

そう言って、眠りの言霊が誘う眠気に身を委ねる。

「凛々ちゃんのことと、この館の住人への説明、頼んだ。」

「わかったよ。でも、あの女の子が説明したら、一日位休んでるという理由でどうにでもなると思うケド。」

「でも、何も言わずに消えたら『人間』は困るだろ。」

「それもそうダネ。」

任せておいて。どっちも。同じ守り人として手を貸すだけだし、ゆえるに対しても、今は同じ守り人だからそっちを任せるだけだと釘をさす。

「わかっているさ。ゆえるは守り人で、冥鎌ともロンとも、ただの同業者だっていう立場を忘れるつもりはない。」

すうっと消える二人を見送りるロン。

「ゆえるは仲間やさかい、信用してるんやで。」

だから、ゆえるじゃなくなったら、容赦なく殺している。あの日、誤解の元受けた呪い。原因の一つであるあの男が、ゆえるの別の姿だと知っているから。

「さて、オイラもお話しにいかないといけないネ。」

いないと騒ぎだすと、ここの連中はなだめるのが大変だ。

「本当、『アイ』は幸せよりも重くて不幸が積み重なった黒いものダヨネ。」

次の日、一部の者達がシャルテのことを知り、今後は対策を考えるといってくれて、少しだけ隠し事がなくなってほっとした彼女と、目を覚まして元気になった凛々が戻り、同じくいつの間にか戻っていた冥鎌がいて、幻神楼はいつもの日常に戻った。









あとがき
微妙に凛々とロンのことがでてくる、シャルテの始まり物語その2です。
シャルテというより、シャルテの姉についてのお話と言う感じです。
もう一つの方は、出逢いで改めて自分らしく生きる道を見つけた始まり物語です。
短編の恋の華が咲く月夜に出てきた始点から見た女と出逢った同じ葬華が、シャルテの姉です。
もし、互いに自由になれたら、改めて彼女は幻神楼の住人となって、シャルテの助手になることでしょう。
おかしな植物を造らないためのストッパーになるだろうけれど、まだまだ時間はかかりそうです。