どうしてか、生きていた。

俺だけが、生きていた。

大切なモノを何一つ守ることができない、愚かな『騎士』だけが生きていた。

叫んでも嘆いても、誰も答えない。ここはもう、騎士以外の命は何もない。

 

 

幻神楼の住人〜主亡き亡霊騎士(琴詠Ver)

 

 

 

報告の為に、向かうは主の部屋。

ノックをし、主の赦しを得て入れば、そこには主の傍にほとんどいつもいる少女の姿はなかった。

きっと、外で誰かと手合わせをして遊んでいるのだろう。

「何か用か、琴詠。」

「今月の我等『責任者』の予定をまとめられたので報告にきました。」

そう言って、私はいくつかの紙にまとめられたそれを主へと渡した。

「ああ、そう言えばもう月が変わるな。いつもすまない。ありがとう。」

「いえ、私共が自ら志願してやっていることですので。」

そう、ここにいる連中全て、主の為なら死すら厭わないぐらいの忠誠心はある。だが、それを主は望まないから、危ない時は全員無事で逃げる事がある意味で一番重要な仕事ではあるが。

けれど、かつて騎士であり、今も騎士である私…俺にとって、彼は再び得たかけがえのない主なのだ。

そんな主を、今度こそ守ろうと、あの日誓った。もちろん、あの日とは違い、主がどれだけ現在行っている『仕事』が危険かどうかわかっているつもりだ。巻き込まない為に、決して深いところまで応えてくれないところが主の優しさではあるが、また失う事を何より恐れている私にとっては歯がゆいものだ。

「…そうか、そういえば、そろそろだったな。」

そう言った主の言葉に、毎年、同じ日に休みを貰っている事を思い出した。丁度、今回のリストでいつもの日の休みを視て思い出したのだろう。

何せ、主は休む理由も知っているからだ。

「せっかくだから、墓参りの帰りにここへ行ってきたらだうだ。」

そう言って、何かメモに書き込んで私に渡した。

「夕輝が、丁度満開に咲き乱れる時期だと教えてくれた。」

夕輝というのは、俺が警備長という肩書を持つのなら、搬入班長といったところか。

俺がこの場所の留守の際に起こった有事で対応し、場合によっては排除する戦闘要員であるとすると、彼の仕事はこの場所への食材や衣服、生活に必要なものを入荷搬入する担当者であり、それも出入りする情報や中で分配管理するのが仕事の奴だ。反対に外へ出て情報を元に入手するのがケルテという男で、以前私もあるモノを手に入れる為に頼んだ事がある。俺より、彼等の方が外へ出入りするので、外の情報は豊富だろう。

それに、彼等はある意味、国レベルでの情報網と入荷できる能力を持つすご腕だ。そんな奴がどうしてと思うが、きっと彼等にも私と同じで『理由』があるのだろうからわざわざ聞くつもりはない。

ただ、彼等に頼めば確実で信頼できるということだけわかっていたらそれでいい。

「しかし…。」

「丁度、次の日もお前は休暇だ。休暇は個人の自由だ。そもそも、この役割だって、ないに等しいものだ。」

二日ここを空けて、己の為に使う時間があってもいいだろうと主は言う。けれど、私は怖いのだ。また、奪われるのではないかという恐れから。

私は、仕事という形で国を離れていた。その間に、国も家族も全て失ったのだ。だから、遠くへ離れることは何よりも怖い。また、同じ事が繰り返されるのではないかと、己の目で確認しないと大丈夫だと思えないのだ。ある意味、トラウマというものだ。

別に、同じ警備長をしている連中の腕を疑っているわけではない。主の戦闘能力だって知っているし、それがまだ一部であることもわかっている。

きっと、他者はそれの何が不安なのだと言うのだろう。

けれど、人では決して贖えない大きな力を前にしては、人の力などないに等しい。一瞬で全てなくなってしまえるのだ。

言葉にしてしまえば自然災害、地下に眠る地熱の爆発の結果の地盤沈下による国の崩落。そして、かつてそこに埋められて塞がれた小さな火山の爆発による炎上。誰一人、助からない絶対的な力による災害。

けれど、これは結果から言えば仕組まれたことで、国が有する近隣の山から得られる資源を狙った隣国による策略だったのだ。それを知った私はすぐに策略者と命じた王を殺した。そう、全てを失った私は人を殺めた罪人となった。

それなのに、今こうして平和な日常を、あの頃のような何気ない日常を過ごせることは私の心を穏やかにさせるし、此処にいる連中のことは嫌いではないし楽しいから満足はしている。

だが、罪人であることには変わりない。いつか償わなければいけない罪。だが、この罪を人に裁かれたくはない。

もし裁く相手がいるとすればそれこそ神か、私が守れなかった国の王と民…そう、死者達だけだ。

この世界の国の法律なんてあてにならない。その法律が国を壊し、私から全てを奪ったのだから。そんな奴等に裁く権利などないはずだ。

公平に罪を裁くという法律が、無差別に残酷な程、多くの命を簡単に切り捨てて、それが仕方がないという言葉で終わらせ、誰にも知られないようにかくしてなかったことにしてしまう。

「どうかしたか?」

「いえ…ただ、どうやって休みを過ごせばいいのか…それに、長い時間そうやって過ごすこと、なかったですから。」

「ああ…そうか。なら、奇蝶と行ってきたらどうだ。あいつも丁度休みだろ。」

「それは丁重にお断りしたい。」

「くくく…何を迷っているかと思えば、意思はしっかりあるようだな。」

「あ、えっと…。」

即答したことに笑われ、かぁと顔が熱くなる。取り乱さないように気をつけているのに、本当にあの男女はいてもいなくても迷惑な存在だ。そもそも、あんな奴を女として認めるつもりもない。あれはそういう種族として独立したものだ。

「なら、お前さえ問題ないのなら、シャルテを途中まで一緒に連れて行ってくれないか?」

丁度、欲しい道具や苗がその手前の街まで行って買い出しに行くのだと言っていたから、護衛替わりにと言えば、問題など初めからないので引き受けると礼を言われた。

そもそも、礼を言われるようなことをしたつもりはないが、律儀な主だと思う。

次の日、俺はシャルテと共に幻神楼を出た。主の好意を無駄にするのも申し訳なく、それに妻との思い出の花をゆっくり見るのも悪くないと、一泊あけて帰ることにした。

その間、部屋にある大事な鉢植えが枯れては困るので、丁度同行者だったシャルテに水やりだけを頼んだ。

普段ならその鉢植えに誰かが触れるのすら嫌なのだが、彼女だけは例外だ。本気で植物を愛しているから、悪いようにはしないし、そもそもその道のプロだから、俺も安心して任せられるのだ。

そもそも、仕事の為にきちんと水やりをやれない時間というのも出てくる。その際にも、彼女は俺がいないのなら水やりをしてくれるし、危険なら安全な場所に移動もしてくれる。

主以外で、あの鉢植えに触るのを許せた例外。その彼女の任せてという言葉を聞き、安心して街で別れて目的地へ向かった。

その後、年に一度だけ訪れるその場所は、今も変わらず荒れた大地が広がるだけだった。

この場所から、かつてあった国を見下ろせる。ここでよく彼女と未来を語った。どうしようか。こうしたらきっと楽しい。そういう会話の数々が、ここへ来るとより鮮明に思い出せるから、複雑だ。

普段も忘れるつもりはないのだが、やはり、この場所以外では、ここまで鮮明ではない。まるで今もいるように、会話を実際しているかのように脳裏に蘇る思い出の数々が、苦しい。

「私は愚かです。王が祝福して下さった婚儀。最後まで共にあり、守る騎士であると誓ったというのに。王のことも守れない駄目な騎士でした。」

並んだ、中身が空っぽの手造りの墓が並ぶその場所。何一つ残らなかった国の為、唯一残った俺が作った国があったということを忘れない為のもの。

妻のもの、王のもの、王が愛した民のもの、俺と共に闘ってきた騎士達のもの。そして…あの時共に魂は死んだ○○○○○○のもの。全部で五つの墓が、今日も風を受けて、かつての王国の跡地を見下ろす。

「今年は持ってこれた。あの世で見てくれ。王よ、申し訳ありません。今年はまだのようで、捧げる花が今日はありません。」

少しでも魂が休まるようにと思ったのに、申し訳ない。そう言うと、きっとあの人は笑いながら気にするなと言いそうだなと思い出して苦笑する。

本当に、ここにいると過去に囚われてこのまま消えてしまいそうだ。

その日、近くの街で夜を過ごし、教わった場所を目指し、彼女が大好きな花の数々をしばらく眺めていた。

しばらく眺めた後、新たに彼女に決意を告げた。新しい主を見つけ、今度こそ守るのだと。毎年言っている誓いを捧げる。そして、思ったより最近は死にたいというより生きていたいと思うようになったのだと告げた。

彼女なら喜んで背中を押してくれるだろう。だから、もう少し逢うのは先になりそうだと報告した。

あまりに遅いと文句を言って待ってくれないかもしれないけれど、その時は彼女の自由にしてほしいと。そう告げてその場を後にした。

予定より速い帰宅準備。幻神楼に近づくにつれ、耳に入る数々の情報。次第に足を速める。

幻神楼を狙う輩がいる。噂でしかないが、今夜きな臭い集団がいくつも目的されている。そう聞けば、自然と足が速くなるのは仕方ない。もう失いたくないのだから。

 

 

 

もうすぐで戻れる。それぐらいの距離になった時、周囲に感じた気配に足を止める。この気配の元が噂になっていた襲撃者であるのなら、ここで始末する方がいい、と。

「誰だ。」

すっと、姿を見せたのは、まだ若い男だった。まだ他に隠れているようだったが、後でも片付ければいいことだ。

「あんた、シュウファンだな。」

「…懐かしい名だな。だが、生憎シュウファンは死んだ。」

確かに懐かしい名だ。かつての俺の名。人殺しの亡霊の名だ。

そう答えた俺に対し、男は狂ったように笑った。

「嘘だ。あんたはシュウファンだ。知ってる。王国騎士の隊長の一人だったあんたのこと、国で知らない奴はいないからな。」

「…そうか、お前はあの日の生き残りか。」

「そうだ。姉に頼まれた買い出しで丁度国を出ていた。そして、知った。あんたが国を陥れたと!」

憎しみを真っ直ぐ向ける男。成程と俺は思った。確かに生き残った俺は、そう思われても仕方ないだろう。しかも、その後行方をくらましているのだから尚更だ。

「なのに、俺を助けてくれた人を、また殺して俺から大事なものを二度も奪った!」

どうやら、国を陥れた策略者の中で殺した誰かに拾われたようだ。それは申し訳ないことをしたが、俺にだって譲れないものがある。彼がどう思おうと、人を殺した罪は消えないから言い逃れをするつもりもない。

だが、それとこれとは違う。

今目の前にいるのは、俺が新しく見つけた主に害を成そうとする敵だ。

「何故だ。あれほど王に大事にされていたのに。目をかけられていたのに。姉も…あんたを本当に愛していたから、諦めたのにっ!」

そう言えば、妻には親の再婚相手の連れ子で、弟がいるのだと言っていた。普段は別に住んでいるらしく、結局俺は逢う事がなかったが、彼がそうだったのか。

「そうか。お前はあいつの義弟か。」

「そうだ。だからこそ、許さない。王を、姉を殺したお前を許さない。」

そう言って向けた剣。人を殺せるもの。

「それを俺に向けるという事は、殺される覚悟もすでにできているのか?」

「当たり前だ。だが、俺は負けない。お前を殺すまで、何度も、死んでも、それこそ死後も呪ってやる!」

とんだ八つ当たりだ。せっかく過去の思い出に浸った一日が潰れたものだ。苦笑すると何を笑っていると怒鳴る男に、俺は一つだけ教えておいてやることにした。

あの国の崩落は、隣国の策略によるもので、俺は策略者を復讐者として殺したのだと。

「つまり、今のお前と同じわけだが…ただ違うのは、俺は真実を見つけたが、お前は真実を見つける目がなかったということか。」

残念だ。そう言って、俺も剣を抜いた。

「先に言っておく。もう、主の元へ面倒なのを送ったかもしれないが、それは今の仲間が倒すだろう。そして、俺はたとえお前が妻の弟でも、主に牙をむいた敵を容赦するつもりはない。」

そう言って、冷酷な騎士が顔を見せる。きっと、男が知らない、俺のもう一つの顔。何度も、王がそんなことをしなくてもいいと言われても、王を守る為に俺がやってきたこと。

「俺にとって、大事なのは王と妻だけだ。その意味、お前はわかるよな?」

今の王は、新しく俺が定めた主のことだ。確かに今も『王』のことを敬愛している。だからこそ、今も俺は騎士なのだ。しかし、騎士は主がいなければいけない。騎士は主の為に存在する。それが、俺という騎士だ。

「王が愛するから、国の民を守る為に刃を振るうことも、戦場に誰より先に出るのも怖くはない。俺を信じてくれるからこそ、俺は俺の部下を死なせずに帰還させようと努力した。俺にも帰る場所、妻の待つ家がある様に、部下達にも帰る家があるからだ。」

そんな俺から全てを奪った奴等をお前以上に俺が許せるはずないだろう?そう、笑みを浮かべながら言うと、男は少し身を後ろへ引いた。

震える手元が、男がどれだけ復讐に燃えようとも、俺のように覚悟がないことを示していた。結局、この男は当たる相手を探しただけ。一人でなにもできない無力な子どもと同じ。別に其れが悪いことだとは思わない。だが、刃を向ける相手…つまり、むしゃくしゃした気持ちを昇華するための対象を選び間違えたのだ。

「さぁ、おしゃべりは終わりだ。残念だ。お前が生きている事を知っていたら、一度ぐらい妻の墓に呼びたかったものだ。」

その言葉に眼を見開く。

「あんた…本当に、違う、のか?」

「俺があの国を壊して何のメリットがある?生涯を国に捧げると王に誓い、王の前で妻を守り最後まで共にあると誓ったのに?俺はそんなに器用じゃないからな。」

決めた絶対は守るつもりだった。守れなかった己の制御ができず人殺しの復讐者に成り下がったが、後悔はしていない。

「王に同時に誓ったからな。この国に仇名す敵の全てを払う剣となる、と。」

だから、目障りな敵を倒しにいった。その結果、国の騎士シュウファンは死んだ。ただの復讐者だけが残った。

「ほら、簡単なことだろ?言っただろ?シュウファンは死んだ。あるのは、幻神楼警備長、琴詠だ。」

その瞬間周囲から飛びかかって来る奴等を全て切り倒していく。それをただ呆然と見ている男。もう、先程の殺気は消え、ただ茫然としている。

全て切り倒したところで、最後だと剣を向けると、男は泣いた。そして、笑った。

「良かった。本当、良かった。姉を、裏切ってなくて。姉が愛した、騎士のままだった。」

だから、もういい。男はそう言った。

少しの間、俺は男をじっと見て、剣をしまった。

何故という顔をしたが、最初から死ぬつもりで立つ奴を斬る気はないと答え、俺はその場を去った。確かに男は敵だが、また襲撃を企てようが、その時は責任もって今度こそ斬ればいいことだ。それに、もう彼が襲撃しに来ることはないとどこかで感じていた。

だからこそ、何より帰る場所の状態の方が気になった。

急いで帰れば、思った以上に多い襲撃者だったようで、まだ交戦中だった。

だが、誰も入口付近から奥へは近付けないでいるようだ。さすが、俺が認めているだけの腕がある連中だ。

俺は剣を構え、背後からの奇襲を開始した。

その後、しばらくして落ちついたところで受付の寧爛に戻ったことを告げると、お帰りなさいませと、少し疲れた様子だったが、いつものように言ってきた。やはり、彼女から聞くと帰って来たなと思う。

「お、琴詠!てめぇ、いいとこどりしに戻ってくるとはいい度胸じゃねーか!」

喧嘩を売って来る奇蝶を適当に流し、ホーレイに被害の程を聞く。入り口が多少壊れただけで、中に影響はないとのことでほっとする。

まだ、帰る場所は大丈夫、と。

 

 

 

次の日、警備担当であり、けれど昨晩が忙しかったけれどその反動か暇だったので、ただぼーっと過ごしていた。

どうも、やる気になった凛々と奇蝶が手合わせしているので、邪魔されず本当に平和だ。

そんな時だった。寧爛が現れ、警備を休憩してほしいということと、客が来ているということを伝えに来た。誰だろうと思い、休憩ということを受け入れ、客が待つ部屋へと向かうと、そこで待っていたのは、あの男だった。

すぐさま立ち、頭を下げる男。突然の事で状況がつかめず固まっている俺に、男は言葉を続けた。

「昨晩はすいませんでした。…姉から、いつも貴方の事を聞いていた。だから、拾ってくれたあの人が貴方の仕業だということにすぐに信じられなかったけど、あの人を貴方が殺したと聞いて…わけがわからなくて…。」

姉を信じたらいいのか、あの人を信じたらいいのかわからなくなっていたところで、襲撃の話しが出て、そこに貴方が居るのだと知って、怒りがこみ上げたのだと彼は言った。

「姉のこと、忘れて幸せに…あの日の悪夢をなかったことにしてるんだと思いました。」

「俺も調べるのなら生き残りも調べるべきだった。悪かった。」

敵を探す為の真実しか求めなかったから、気付かなかった妻の大事な家族。

「あの、もしよければ…姉の事、いろいろ教えてくれませんか?」

姉はいつも、貴方のことばかりで、姉を好いていた俺は複雑でしたが、今では彼女の思い出で笑顔の元。だから、ちゃんと貴方のことを知りたいし、貴方からみた姉の事も聞いてみたい。

刃を向けた失礼があるから、無理は言わない。そう言った彼に、ほとんど話せることはないと前置きをして、付き合っていた頃にあった、彼女のエピソードをいくつか話した。

其れを聞いて、姉らしいと笑う彼に、敵ではあったが、斬らなくて良かったと思った。

「なら、お前に頼みがある。」

「俺に、ですか?」

「敬語もいらない。昨日はそうだっただろ。」

「あれは…それで、何なんですか。」

「墓守。俺が勝手に作った墓だが、見渡す限りは森と荒れ地。時々逢いに行ってやってほしいんだ。」

そう言うと、即答で承諾した。

「俺はここが今の場所で大事なんだ。だけど、あの場所も大事で、それでも年に一度だ。」

だから、手入れを出来ないから妻が好きな花で周辺を埋め尽くして毎日見れるようにすることもできない。

「王も花が好きな人だった。だから、お前に墓守してもらえないか?」

本当にあの国を愛する者でなければ任せられない。あの鉢植えを、花を愛するシャルテでなければ託せないのと同じ。

「やります。やらせて下さい。貴方を疑い、姉を信じられなかった俺の罪滅ぼしです。いえ、罪滅ぼしというのは失礼ですね。」

俺の意思で、守らせて下さい。そうはっきり言う彼に、明日休みだから一緒に行こう。そう言い、今夜は主に頼んで彼を幻神楼に泊めた。

「せっかくだから、送って行こう。」

そう言う主に断ったが、遠慮するなと腰をあげ、行くと凛々までついてきて、四人で主の転移魔法で一瞬で移動した。さすがに驚いていた彼は、すぐに悟る。実力差がありすぎる相手に喧嘩を売っていたのだと。

「ここだ。…数日で、花は供えてもすぐに飛んで行ってしまうな。」

「俺がこれから、飛ばないように華で埋め尽くして見せます。」

来年来る頃には驚くぐらいですよ。そういう彼に、楽しみにしている。そう言うと、いつの間にか背後でがたがた大きな音がすると思うと、周辺の樹を斬り倒す凛々の姿があった。

「主様…何を…。」

「ああ、彼がここを守るのだろう。ならば、ここに休める場所があればいいだろう。」

それこそ、作業をするための道具を置く場所もな。という彼にありがとうございますと礼を言った。

非常識な力により主に言われた通りに斬り倒し、木々の形を整える凛々。風の魔術によって小屋の形に組み上げていく主。

「さすがに簡単に固定はしないとな。」

これは手動だ。そう言って、道具を渡す主に、俺も彼も顔を合わせ、すぐに手伝った。

夕方にはそれは立派な小屋ができた。一度は街に戻って道具をそろえると彼は言ったが、きっとこの小屋に彼は住みつくだろう。

本当に、来年にはここは様変わりして、人が住めない土地から人が住んでいる土地に変ることだろう。

「主様、本当にありがとうございました。」

戻ってから改めて礼を言うと、大事な家族なのだろう。そう言う彼に違うとつい応えたが、彼は苦笑しながら言った。

「大事な、故郷の欠片。お前にとっての家族という宝だろ?」

しばらくは様子見時々行ってやれと言い、彼は部屋に戻って行った。

次の年、同じように墓参りに俺はきた。まだまだ手を入れる必要はあるが、いくつかの花が咲いていた。

彼が言うには、結構難しいようだ。けれど、シャルテに頼んでいろいろ書いてもらった資料が役に立って、野菜はそれなりにできて、花も近いうちにできるそうだ。ならば、本当に来年は妻とかつて見た花畑のような光景が拝めるかもしれない。

そして、彼と別れた後、街により、かつて国で栄えた装飾と似ているそれらを購入した。今いる大事な家族の為、家族の証しとして。そして、今はちゃんと復讐者でも亡霊でもなく、騎士として生きると改めて意思を持つ為に。