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天から落ちて、怪我をして数日。 世界から裏で動く組織、ベルセルで目が覚めた。しばらく匿われ、体調が戻ったころ、話をもらった。 ベルセルの一員として、守り人にならないか、と。 少し考えたいと、外へ出た。 外は、感情があふれていた。色もたくさんあった。 どれだけ天界の限られた狭い世界が、おかしなものであったか思い知らされる。 そんな時、出逢った。 一人きりで、敵の襲撃を受けている水鳥をみかけた。 冥鎌はとっさに庇い、敵を追い払っていた。 そして、声をかけようとした鳥が人の姿をした。もちろん、所々歪な彼女は、少しだけぎこちなく、ありがとうと言った。 貴方と一緒ならどこまでも 私は水鳥。だけど、特殊な一族で、人の姿をとれる。だから、物の怪とよく言われる。 そんな私達は集団で過ごすが、一年毎に違う場所へ飛んでいく。それは、人の姿の時、年を取らないから、人に不振がられるからだ。 渡り歩く一族。同じ場所へ、一生の間に何度か戻るだろうけれど、数年は確実に戻ることがない。 そんな中、私は空を飛べない。だから、仲間において行かれてしまった。 一人きり。それでも、私は飛べない代わりに誰よりも水の扱いが上手かったので、術を使えば、そう簡単にやられることもなかったので、そのまま一人で過ごしていた。 けれど、あの頃を思うと寂しく感じる。 今までは、仲間と母が支えて飛んでいた。だが、母は死に、仲間だけでは支えられなくなった。 申し訳なさそうに、友人だった仲間は飛んでいった。そんな私はあるとき、人間の襲撃にあった。 抵抗したが、捕まり、殺される。そう思った。 「大丈夫か?」 声をかけてきた人間がそこにいた。追いかけてきた奴らはそこにはもういない。 人間は恐ろしい奴等ばかりだった。だけど、こうやって助けてくれる奴もいたようだ。 「ありがとうございます。」 私は礼を言うと、どういたしましてと返し、ふと私の腕の怪我を見て、治療しようと私の反対の腕をつかんだ。 はっと、私は腕を振り解くと、あっと驚いた顔をした。 「あ、すまない。そう言えば、お前はさっき…。俺は何もしない。だから、お前が俺ときてもいいというのなら、おいで。」 ただ、その手当てをしたいんだ。さっきの奴等のように、危害を加えないから。そう言って私へと差し出される手。 少しだけ男と手を見比べ、私は私の意思で彼の手を取った。 その彼の手からは、温かさがあった。ずっと、私が求めていた、温かさだった。 連れてこられたのは、人の気配がほとんどない、大きな建物だった。 「ここは?」 「これから、住むつもりの場所だ。人はほとんどいない。だから、お前がいても、何か言う奴はいない。」 だが、と彼は続けた。文句や悪意を向けることはなくても、笑顔で攻撃してくる危険人物はいるから気を付けてくれ。そう言われ、意味がわからなかったが、すぐにそれを理解することになった。 「れんちゃんお帰り〜!でも、一人で先に出かけちゃうなんてずるい!」 そう言って、上から飛び降りてきた少女がいた。それも、男に刃を向けて、だ。 「えっ。」 危ないと言う前に、やれやれと男は持っていた剣で応対し、弾き飛ばした。もちろん、少女はそんなことにめげず、綺麗に一回転して着地する。 「あれ、それ誰?」 「散歩の時に会った。変なのにからまれて、怪我してたから連れてきたんだ。そんな物騒なもんさっさと仕舞え。」 「…うん。怪我痛い。だから、危ない。凛々いい子。だから、なおす。」 そう言ってすっと持っていた剣が髪の毛と同化して消えた。驚く私に、彼は言った。 私と彼等は、似たようなものだ、と。そこで初めて私は彼等を改めて見て、やっと理解した。 彼等は私と同じ、人間とは違う種族で、人間の輪から外される者だと。 手当てをしてくれた後、温かいスープを出してくれた。行くところがないのなら、あそこはまたろくでもないのが来るかもしれないから、私さえいいのならいたらいいと、部屋を貸してくれた。 一人でいた時より、温かいその場所。いつの間にか私は眠っていた。 私は夢をみた。あの頃、たくさんの仲間と共にあった日のこと。温かくて嬉しくて、優しいその中に、私がいた。けど、突然真っ黒に視界が遮られ、仲間の姿が消えてなくなった。 「待って…っ!」 手を伸ばしても、何もない宙をつかむだけで、そこには何もない。 また、一人ぼっち。 「夢…?」 目が覚めると、私は泣いていたようだった。ずっと考えない様にして、忘れていた。 本当はずっと、恋しかった。誰かの側にいたかった。一人でなんて、いたくなかった。 本当は、皆と一緒に行きたかった。 「どうして、私は空が飛べないのでしょう。」 悲しい。とても、悲しい。ほんの少し、脚力としての飛ぶ距離があっても、ずっと、遠くまで飛べない己の翼が憎い。 がっときつくつかんだ。 「あまりやりすぎると痛むぞ。」 はっと振り向くと、そこに彼が立っていた。 「あ、えっと。」 「また、痛めてる。綺麗な羽なのに、もったいないだろう。」 そう言って撫でてくれる優しい手。いつもなら、うれしいはずのそれ。 「でも、飛べないこんな羽、私はいらないっ!」 そう言うと、頭をそっと撫でてくれた。 「ただ、飛び方を知らないだけだ。それに、飛べない分、違うことができる。それを応用したら、飛べるかもしれない。…いろいろ、試してみたか?」 諦める前に、試してみたかと問われ、私は答えられなかった。 飛べなくて、諦めていた。どうせやっても飛べない。そう思っていた。けれど、もしも努力をしたら、飛べたかもしれない。その可能性は最初からなくしていた。 「ま、お前は脚力とその魔力を生かした方が、飛ぶだけよりもいいかもしれないけどな。」 差し出された手。それをとる私の手。 「それでも、私は一度だけでいい。もう一度、あの頃仲間と共に支えられてだったけど、飛びたい。」 そうかと言った彼は、私の手をとったまま、歩いた。部屋から出て、中庭に出た。 「あ、ねいねい。もう、大丈夫?」 そう言って、外で体術の型をやっていた少女がこちらに気づき、近寄ってきた。 「今から、彼女は飛ぶ練習だ。」 「ねいねいも練習?」 「そうだ。お前が手加減を練習するのと一緒だ。」 「わかった。じゃあ凛々も一緒に飛ぶ。」 ねーっといって、せーのっと勢いをつけ、私が驚くぐらい綺麗に、羽があるように軽やかに空へと舞いあがった。 「あれも、脚力だ。それと、元々持ってる雷の資質から、電気の粒子を利用している。」 だから、私の場合は、周囲の水気をもっと効率よく利用したら、いろんなことができる。そう教えてくれた。 「さて、飛ぶか。」 「でも、私。」 「支えがあれば、飛べるのだろう?」 そう言って、彼の背中から私のとは比べ物にならないくらい美しい白の翼が広がった。 「あ…。」 「お前は水鳥で、俺は天使。どちらも、翼をもち、空を駆ける一族だ。」 私の右手は彼の左手に、左手は右手に重ね、ふわりと空へ舞いあがる。 「あ、れんちゃん。ねいねい。」 宙に浮かんでいる、正確にはそこに地面があるかのように歩くように足を動かして、近づいてくる少女。 「どうだ?空をもう一度飛んでみて。」 「はい。忘れていました。空がこんなにも広くて気持ちがいいことを。」 ずっと、下から見上げるだけで、森の中に切り取られた空があるだけで、焦がれても手の届かない狭い世界だった。 「確かに、飛び上がることができたら、いつでも見れるはずでした。」 いつから、見なくなったのだろう。いつから、諦めてしまったのだろう。いつから…いつからこんなにも弱くなっていたのだろう。 まだ、母も仲間もいたころは、遅れても、必ずついていこうとしていたのに。 「ありがとうございます。」 「どういたしまして。…で、どうする?もう少し見てるか?」 「いえ、もう大丈夫です。今度は、私の力で、この場所から見たい。」 「そうか。」 彼は少女に声をかけ、私をつれて二人は降り立った。 しっかり繋がれた手は、足がついた後、離れた。少しだけ寂しかったけど、気にしないことにした。 「あの、よければ、教えてもらえませんか?」 「どうした?」 「私は何も知りません。使える魔術しかわかりません。どうすればもっとよくなるのかも。だから、教えてほしいんです。」 そして、これからも彼と一緒にいたい。だから、閉鎖された仲間だけの世界とその後の一人きりの世界しか知らない私ではこの『世界』でいきていくことは難しい。だから、知りたい。この世界のこと。そして、彼の役にたつためのこと。 「いいよ。だけど、俺が知っていることもそう多くない。だから、一緒に知って行こう。」 「はい。」 それから、私は彼と共にいる。水に囲まれたこの場所において、私も彼も、周囲に何かがあれば感知できる力がある。だから、私はこの館の入口に出入りする連中の見張りをしようと思った。 彼等ほど強くないにしても、少しでもたった一つの入口をしっかり見張っておけば、彼等だって休みことができる。 はじめて、誰かの為に何かをしたい。そう思って、私自らやりはじめた入口の番人。 あれから、ここに出入りする人も、住みつく人も増えた。いつしか、絶対要塞の聖域とも呼ばれているようだ。少しだけ、主とした彼の実力を褒められているようで嬉しかった。 ここにきて、いろんなことを覚えた。少しだけ料理やお茶の入れ方も覚えた。後から来た連中の方が上手いので、あまり積極的にしないが、それを飲んでおいしいといってくれる主の為にまた次もと隠れて練習しているのは秘密だ。 「ただ今戻りました。」 「ただいま。」 「戻りました。」 「帰還しました。」 「たっだいまー。」 そうやって、帰ってくる住人達を出迎える。それが、最近の楽しみだ。私にとっても彼等にとっても帰る場所であるこの場所を守ることが誇りだ。 そして、私はこの場所で敵を足止めして追い返したり、仲間を出迎えるのが役目だ。 「おかえりなさいませ。」 「ああ、ただいま。」 何より、主である彼を出迎えるのが一番うれしいこと。これからも、私は貴方のお傍にいたいと思います。 |