|
何でもないけど特別な日々
何でもない日万歳。毎日お祭りだ。 いつだったか、読んだ物語に書かれていたフレーズだ。確かに毎日お祭りなら楽しいだろう。 けれど、現実はそう簡単ではないし、苦痛だらけだ。 だからか、忘れていたのだ。何でもない普通の日常こそ、何よりも大切な時間であり、何気ない日々の積み重ねなのだと。 昔から頭が良かった俺は、はっきりいって毎日が退屈だった。本当に何もない、退屈な日々の積み重ねがイヤで仕方なかったのだ。 何か楽しいこと、大きな出来事は起こらないかと思った。 けれど、それが起こった時、俺は何もできないし、死をも覚悟した。 だってそうだろう。戦争なんて経験しないただの市民だった。確かに、頭がいいからいろんな提案や開発事業の手伝いでアイデアを出したりして、街の発展への貢献をしてきたけれど、戦いには慣れていない。そもそも、戦いに慣れている民なんてほとんどいない、平和な町だったのだから。 けれど、街の発展の裏で、別の街や村が貧困に苦しむことになっていたなんて知らなかった。気づこうともしなかった。 何を言っても信じて貰えないだろうが、確かに何でもできたからこそ傲慢なところはあっただろうけれど、街の発展で他者が喜んでくれることが嬉しくて始めたことだった。 それが、いつの間にか何でも上手くいきすぎて退屈になってしまった。そして、俺の提案したものでどういう影響がでるのか、結果どうなるのかを知ろうとしなかったし、誰も教えてくれなかった。 だから、気付いたときには反発した周辺の街や村の住人の襲撃を受け、街は大きな被害を受けた。しかも、今まで俺に媚を売っていた連中全員が、俺がやれと言ったのだと嘘を並べ、敵意の矛先を全て俺に向け、逃げた。 もう、誰も俺の言葉なんて聞かないだろう。それぐらい、彼等は殺気立っていた。 だから、俺はもうこれで終わりだと思った。だってそうだろう。退屈な日々を覆す大きな出来事が起こらないかと思ったこともたくさんあったが、こんなこと、俺には対処できない。 どんなにいろんなことができても、人の心を操ることはできないのだから。 ここまで、敵意をむき出しにした彼等の前に、俺は降参してその場で目を閉じた。 けれど、何時まで経っても俺の意思はあるし、痛みが襲うこともなかった。 目を開くと、たくさんの人間の前に立って、俺を庇うように立つ影があった。 「邪魔をしてしまい、申し訳ない。だが、急を要することだ。もし何かあるのなら私が後で話を聞こう。」 そう言って、彼は民に一時的に攻撃をやめるように言ったのだ。けれど、そんな簡単に止まると思っていなかったが、現実は止まった。彼が言うのなら、と。 ありがとう。彼はそう言い、俺の方へ向き直った。とても、綺麗な顔をした男だった。 「お前が開発した防御装置。覚えているか?」 「あ、ああ。二年前、盗賊の被害が多くて困ってるからって依頼があって…。」 「そうだ。それでしばらく平和だったが、盗賊共も馬鹿ではない。商人だと偽り中に入り、壊してきた。」 そのせいで、今は昔のように荒らしたい放題。だから、修理して今度は管理できるスイッチか鍵を作って、特定の人間しかできないようにしてほしいそうだ。その為、力がいる。そう、彼は言った。 「確かに彼の発案によって、貴方達が受けた被害も大きい。そして、彼は傲慢にも、結果までに興味を持たないからそのまま放置してしまった。けれど、彼はこの街がかつて貴方達と同じで貧困に苦しんだ時に、豊かになれるように行動した。だから、彼だけを責めないでやってほしい。」 それでも彼に文句があるのなら、彼に今度は貴方達が苦しまないで済む方法で、発展する為のアイデアを考えてもらえばいい。一緒に考えればいい。彼に協力してもらえれば、この街の馬鹿供のように悪用しなければ、いい街に、いい村になれるだろう。彼はそう言って、しばらく借りると言って俺の手を取って彼等の前を横切った。 誰も何も言ってこないし、攻撃を仕掛けてくることもなかった。 彼等もまた、反省した。だから、俺も反省して見直さないといけない。こんな力で訴えるやり方では何も生まれないこと、奪ったとしても結果何かを得ることはないのだと互いに知ったのだから。 その後、俺は連れ出されるまま、『依頼』である防御装置を修理をし、代表者に思い切り感謝されてお礼を何度も言われた。そして彼にも、娘を連れていかれた時はもう駄目だと思ったのに、助けてくれてありがとうと何度もお礼を言った。 つまり、まとめるとこういうことだ。彼はここで起こった盗賊による人攫いを助け、防御装置が直らないとまた同じことが起こると知って、製作者である俺を探しに来た。そのタイミングで彼が来たことで俺は助かったが、久しぶりに言われた純粋なお礼の言葉に、忘れていた何かを思い出した気がした。 最初こそ、喜んでくれたあの連中のこと。嬉しかった。けれど、何でも上手くいきすぎて、彼等もまたお礼を言う事もなく、次を次から次へと求め、必要以上のことをやりすぎたのだ。 すぐには無理な発案もあった。けれど、それは俺が考えているより早い段階で運用されていった。それによって、苦しむ街や村があったことに俺は気付かなかったし知ろうとしなかった。それが今回の俺の問題点。 けれど、それは半分は嘘だ。 俺は昔から頭が良かった。だから、すぐに人間が嘘をついていることにも気付いた。本心を知る為にこっそり盗聴器などをたくさん仕掛けた。 そして、知った事実は俺には信じられないものだった。俺の事をよく思っていない連中がいることはわかっていた。けれど、俺を褒めてくれた先生や依頼してくる顔馴染みに知人、彼等ならと思っていた奴等も皆、俺の事を目障りに思っていた。そう、俺以外は敵だったのだ。 それを知った瞬間、外の世界との壁ができた。けれど、結果として全て言い訳でしかない。実際被害を受けた彼等にとっては、俺の事情なんてどうでもいい。だって、知らないし、俺も言うつもりはない。それに、言ったところで彼等が俺を許せるかというと、それは別問題だ。 家が壊され、状況が状況なので、彼が家に招待すると言ったので、少し考える時間も欲しくて俺はついていった。帰り道で、俺は様々な、俺によって被害を受けた人達のことを聞いて、悔しくなった。 さっきの人は、あんなにも俺に真っ直ぐ向き合ってくれたのに。いくら俺があの連中に疑いを向けて嫌悪しても、外の連中には関係のないことだったのに。それこそ、俺は外の連中のことをもっと大事にするべきだったのに。 思い出す、過去はあたたかい。退屈だと言っていた日々こそ、毎日輝いていた。 「なぁ…あんた、名前は?」 「ああ、そうだったな。名乗るのを忘れていた。俺は冥鎌だ。」 ほら見えた。そう言って、彼が目の前に現れた建物をさした。 「あそこの主だ。」 そこは、俺でも知っている有名なところ。絶対の要塞とも言われる、守りの堅い、聖域。 「まさか、そんな…。」 知らないとは言え、敬意を払うべき相手に、何という失態だろうか。俺の街でも、ここのことは有名だった。国以上の力を持つ聖域。その主に対し、助けられてまだ礼もろくに言えていない。 どうりであれだけの殺気立った民が引いたわけだ。彼等もまたここの参拝客が多くいたのだろう。 「別に改まる必要はない。そもそも、俺はそんな偉いものになったつもりもない。」 俺達と同じ、ただこの世界に生きる生き物の一人でしかない。彼はそう言った。 「だが、お前さえよければ、屋敷の中の灯り、直してくれないだろうか。」 元々、通る所だけ、灯りを魔術で代用していたが、住みつく行き場のない者達が増え、それでは灯りがたりなくなったのだと彼は言った。 夜はいろいろ彼等に苦労をかけることになって、しばらくすることもなくて暇なら、依頼として出すから、手伝ってくれないだろうかと彼に差し出された手を悦んでと俺はとった。 俺は、その日からここの住人になった。何でもない、ただ普通の日々を毎日特別なその日だけの一日だと思いながら。 彼にこれ以上、俺の失態で何の文句も言われないよう、徹底的に過ごしやすい環境を作る為に考えた。もちろん、他者の誰もが苦痛になるほど酷い労働をしいることのないように考えて。 「夕輝、頼んでいた奴きたか?」 「ああ。今朝ケルテが持ってきた。ちょっと待ってろ。」 俺は、ここで情報を扱う、物品をそれぞれの者達に配布する作業の責任者になった。 「ついでにネルタの分も持っていくか?」 「お、それもきたのか。ああ。悪かったな。思ったより遅くなった。」 「いや、問題ないさ。ケルテの奴だけの時より、はやいし、分配の効率よくなっただろ?」 だって、お前は入ってきたものと渡したもの、頼んだ依頼と終わった依頼、全て覚えていて、紙に遺さなくても頭の中だけで正確に整理できているんだからな。そう言う彼に、そんなことないと言うが、謙遜するところがまたむかつくとセイレはいった。 「馬鹿にされてるみてーだな。ま、馬鹿なのは認めるけどな。けど、馬鹿にしていいのはネルと主さまだけっす。」 だから、天才だから文句あるかと堂々と構えとけ。そう言う彼に、馬鹿って自分で認めてたら意味ないじゃないかと言うと笑って、勉強してこなかったから仕方ないと言い、そろそろ交代時間が来るからと、渡した品を持って立ち去った。 「堂々と、か…。」 確かに、昔なら何故こんなことができないのかと疑問だった。そして、彼のような奴を馬鹿にしていたかもしれない。けれど、今はそんな気持ちはおきない。 ここでは、それぞれ役割分担がある。セイレにはセイレのそれこそ、同じ輸送班長であっても、ケルテにはケルテのシャルテにはシャルテ。そして、俺には俺の役割があって、得意分野は違う。個々の得意なところを生かすやり方はなかなかこういった規模の集団で確立していくのは難しい。俺にはあの街は合わなかった。 「あ、いたいた。昨日届いたって部屋に連絡残してたみたいだから来たんだが。」 「ああ、届いてるよ。これでいいか、確認してもらえるか?」 現れたのはセイレと同じ警備長の一人、奇蝶。 家事全般が苦手な彼女だが、お守りとして石や糸を組み編んで作りたいとのことで、作り方の本と材料を依頼してきたのだ。武器の剣以外、適当にある棒や己の体術で戦う彼女は依頼してこないので珍しいなと思ったけれど、彼女なりに今いる仲間を大事に思っているようで、静かに応援したくて実は材料をいい物をたくさん用意したのは内緒だ。人数が人数だし、このご時世だ。だいたい一カ月に一人が依頼できる金額上限はある程度決められている。それを上回った金額になったのだが、それは俺が立て替えておいた。どうせ、俺は現地で欲しいものを手に入れるし、基本的にこのシステムの金額を使う事がないからだ。 「どうだ?できそうか。」 「うー…思ったより複雑だな。」 「けれど、何度か基本を繰り返したら、あとは書いてある通り出来ると思う。」 それでもできないなら、また教えるから来たらいいと言えば、そうかと嬉しそうにした彼女に頷けば、ありがとうと言って去っていった。 きっと、今から部屋にこもってやるのだろう。先日土産だと彼等に配った男がいる。それは装飾品なのだが、今までいろいろ役割をしていたが、あくまでそうだと主張したことはない。けれど、これからもこの場所を守る仲間としてと、警備長全員には紅色の主様には黒色の凛々という共にいる少女には橙色の、そして、俺達には緑、清掃班には紫色、調理班には黄色、案内受付の寧爛には水色の色違いでおそろいの装飾をくれたのだ。 つまり、俺なりにお礼でもある。あまり口数の多い人ではないので、俺から何か話しかけることはそうないし、改めて言うのも変なので結局このままだが。 けれど、仲間だと言ってくれたようで、嬉しかったのだ。腰のベルトに付けた装飾に手を触れる。 「そろそろ、用意しておくか。」 もうひとつの、お礼もかねて。彼はきっと主に何を贈ろうかと考えて悩むことになる。もうすぐ、彼が主と出逢った日がくる。感謝の気持ちをこめて、いろんなことをしているようだ。 けれど、毎年考えすぎて実行できずに一日終わる時もあった。今年はアイデアとして、彼が好きなリリアの苗を用意しよう。それを彼に渡そう。 主ならきっと、貰えば部屋に飾るだろうから、いそいそと彼は通って水やりをするだろう。 何だかんだといって、理由がないと入れない真面目男だから。理由を作ってあげることにする。 けれど、そんなことを考えたりする何気ない毎日。あの頃と違って退屈ではないのは、反応が返って来るからだろう。それも、好意の感情とともに。それが、俺も嬉しくて、ついつい必要以上に仕事をしてしまう。また、仕事のしすぎだとケルテに文句を言われそうだ。そもそも、奴こそ外を飛び回るようにでかけて仕事のやりすぎだと思うが、じっとしていられない性格なのだろう。それも面倒な奴だなと思うが。 毎日が楽しそうだから、それはいいことなんだと思う。そう、毎日何気ない日々を楽しむことが、大事なのだから。 今日も何事もなく過ごせた一日に感謝して、部屋に戻る。それの繰り返し。もう、退屈なんて思わない。 退屈なんて思わないぐらい、此処の連中は変った連中が多いから、そんな暇もないのかもしれないけど。 |