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死者は何の夢を視るのか
この世界は常に続いていくなんていう、絶対の保証はない。 だって、世界は気付かない間に壊れていき、そして歪んでいく為に常に背後まで迫る悲劇に人は呑みこまれていくのだから。
sid-コウ いつも、二人一緒だった。二人で一緒にいることが当たり前だった。 だから、二人が二人でなくなるなんて未来を、僕達は考えたことがなかった。 けれど、実際その未来が起こった時に、僕が思ったことは、『視た』通りの未来になってしまったという事実確認だけだった。 あれだけ一緒にいて、大好きだったのに、悲しみはわいてこなかった。 きっとそれは、失うという事実とは別にもう一度二人一緒にいる姿を『視た』からだろう。だからこそ、いつかまた二人一緒にいられるという確証もない自信があった。 ずっと、一人きりの間、二人一緒に戻れる日を夢見て待ち続けた。 禁忌と呼ばれる魔術に手を出してでも、必ず帰ってくるであろうその日を待つ為に無理やり命の長さを歪めて、とうとう僕は『ボク』になった。 それでもまだ、ボクは会えない。
sid-コウリン いつも、二人一緒だった。けれど、時々一人で、時々違う『二人』だった。 私の父は力を持っていなかった。だから、一族を出ても何一つ文句もなく、ただ、二度と戻れないという制約だけだった。けれど、父の母…つまり、私の祖母はとても強い力を持っていた。 魔女という一族がいて、魔女は集まって一カ所で生活をしているらしい。けれど、祖母はその魔女の一族とは別の、どちらかというと占い師に近い一族で強い力を持っていた。 だから、それを知った一族の連中は私を手に入れようとやってきた。あくまで、その力を欲してのことに、父は抵抗し、殺された。私は大事な半身を守るために奴等を殺し、そこから逃げた。 けれど、奴等はしつこかった。とうとう、私は逃げることができなくなった。それでも、大事な半身だけは逃がせたからこれでいいと思った。 だって、彼等は知らない。 私はあくまで『過去』の存在であり、重要な『未来』は持っていないのだから。本当に愚かだ。狂ったように笑った私を無表情な奴等は捉え、儀式の生贄として差し出した。 そう、私は死んだ。奴らに殺され、本当の意味で『過去』になった。 このまま消えてなくなると思ったが、どうやら世界はさらなる悲劇を重ねたいようだ。 大事な半身は光の中から闇へ堕ち、『死神』となってしまった。 sid-コウコウ 大事な人を失ったあの日、奪った連中を全て殺しつくした。ただ何の感情もなく、ただただ、切り捨てていった。 辺り一面は紅い色で染まり、近づいた大事な人の身体に触れた時、僕はボクになった。 そう、奴らがやりたかったまじないの誤作動に巻き込まれ、不死に近い身体に変わってしまった。これはもはや一種の呪いだ。けれど、これで良かったのかもしれない。 おかげで、必ずくるであろうあの日『視た』再会の日まで確実に生きていられる保証ができたようなものだ。 うれしくなって、けれど、また同じことを繰り返して奪われないように殺した奴等の所持品から様々な魔術を学んだ。 そして、使い魔というパートナーを得た。名前は『紅灯』とつけ、大事なあの人とボクとおそろいの『紅』という字をつけた。なかなかいい名前だと思う。 出会った死神に勧誘され、死神として自由にこの世界を歩き渡れるようになって、始めて知ったこの世界の不安定さと気付かれないままに闇に葬られる事実の多さに愕然とした。 何ということか。はじめからこの世界には『幸福』なんてものはない。絶対という保証なんてものすらない。常に絶望と隣り合わせで、闇が呑み込もうと直ぐ側にいる悲惨な世界だった。 死神になったおかげで、人であった時よりいろんなものが視え、愕然とした。 こんな世界に大事な人を呼び戻したくない。戻ったら、また奪われる。 だから、仕事を必死にこなした。次から次へと人の魂を刈り取り、はやくこの世界を終わらせようと思った。そうして誰もいなくなったら、はじめて二人一緒に戻れる。どうしてかそう思った。 「さぁ、行こう。仕事だよ。」 差し出した手に手をのせる笑わない彼女。きっと笑えば大事なあの人のように、姉さんのように…『紅琳』のように、可愛いのに。けれど、彼女は一度も笑わない。それがどうしてなのかボクは知らない。そして、彼女がどうして笑わないのか、泣きそうなほど悲しい思いをしているのか、ボクは知らない。 『ただ、私は自由に生きてほしかった。守りたかった。それだけなのに。』 彼女の心の言葉は今日も届かない。 そして、『彼女』はさらに罪を犯し続ける。 魂を奪い続けるという、心を引き裂かれる程の辛い仕事を『主』の命令を実行するために手を下す。
sid-傍観者 仕事で出ていった二人と入れ違いに戻った彼は、一度彼等の方を振り返り、そのまま中へ入った。 「本当に、バカだね。彼等も。」 元から、この世界は壊れていた。それでも、この世界を維持したい連中によって維持されている不安定な世界だ。 「大事なものはちゃんと視ないとすぐに失うのに。」 一度経験していながら、もう彼は『視えていない』のだ。哀れなことだ。 「何だ、戻ってたのか。」 「うん、ただいまー。」 「相変わらず陽気なもんだな。」 「アリガトー、褒め言葉!」 「…。」 しれっと冷たい視線を向けて天霞が去っていく背を見送り、くつくつと笑う。 「本当に面白いよね。」 彼等の場合は、壊れても、大事なお互いへの思いは残っている。まだ、手をしっかりつかんでいる。なのに、今しかないこの大事な時間を無駄にする彼等の行為に笑ってしまう。 「確かに『君』が言うようにこの世界には『幸福』なんてものは存在しないだろうね。」 だって、この世界は世界に生きる全ての命、それこそ『神』や『魔王』という存在にすら優しくないのだから。 誰に対しても平等に優しくない世界の中で、それぞれが感じるささいな『幸福』を見落とすような奴は、決してハッピーエンドを迎えることはできない。 「ま、『俺』はちゃんと『彼女』と話ができたから、『ハッピーエンド』ではあったけどね。」 彼らがちゃんとハッピーエンドを迎えられるかは、彼が彼女の言葉に耳を傾けることができるか否かにかかっている。 「かわいそうにね。」 一番伝えたい相手にだけ、伝わらない。こんなにも、周囲の連中には『聞こえている』というのに。 「ま、気付かない限りわざわざ教えることもないけどねぇ。」 さて、次の仕事まで休憩だし、誰かのとこにでもいこうかなと、誰もいない廊下を『傍観者』は歩いて行った。 コツコツと響く音が、どこか不気味に響き、彼女の嘆きのように悲しくも聞こえた。 |