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死者と踊る舞踏会
世界を創った『神』はいくつかの命をつくりだし、世界におとした。 その後、世界の存続にかかわる大きな争いが起こり、その命達は『神』と共に戦った。 『神』の代理として、命を生み出すシステムを動かす役割を持つ、この世界の表だっての神がその後も命をつくり、世界にヒトというものがたくさん現れた。 後から現れたヒトのほとんどは世界の歪みに気付かずに生きている。しかも、短い生涯で、中にはそれを嘆くヒトも多くいる。 そんなヒトの姿をいくつも眺めながら、ヒトの愚かさを思わずにいられない。 時々、思ってしまうのだ。 この世界にヒトは必要なのか、と。 「たしかに、君からすればそうなのだろうな。」 「…グラッサルド、か。」 黒い髪に黒い服、黒のマントを羽織った全身真っ黒の男に声をかける男。 「今日はいないのか。」 「ああ、あいつ等も仕事だ。」 「今は門に異変が起こるような障害はないだろう。」 「そうだけど、定期的に点検する必要があるんだと。」 門も生きているから、メンテナスが必要なのだと彼等が言っていると言えば、興味のない男はそれ以上聞いてこなかった。 「そう言えば、ベルセルはどうなったんだ?」 「ベルセル?」 「あぁ…組織の方のベルセルではなくて、ベルセル君の方ね。」 あいつのことかと、溜息をついた黒い男は生きていると答えた。 「生きてはいる。が、あれを生きていると言えるなら、な。」 男が言うには、あの闘いで肉体が持たず、精神だけでこの世界を放浪しているらしい。それを聞いて、彼らしいと苦笑したら、黒い男は問題も残していくからそこが面倒だと少し怒っていた。 「まぁ、それが仕事だろう?」 黒い男はこの世界にとって死神と呼ばれる存在で、もう一人の男はこの世界にとって世界を世界として維持させる四つの封印の番人だ。 最初にベルセルがいた。そこに魔神と今呼ばれている存在もいた。 だが、最初は何もなかった。この世界すら、あってないような存在だった。 その退屈な世界にベルセルは命を創った。 一つ目はこの世界に命を創り世界の規則をたてる者。 二つ目はつくられた命に繋がりと思考をもたせる者。 三つ目はつくられた命に精心という自我をもたせる者。 四つ目はつくられた命を最後に回収して循環させる者。 五つ目は傾く世界で命が生きられるように四つの封印を守る者。 六つ目はつくられた命を導くための者。 七つ目はつくられた命と似て否な存在の世界を守護する者。 八つ目は思考によって得た知識を生かすための者。 つくった命によって、世界はモノクロから色がついた。けれど、世界はあまりにも安定しておらず、歪んでいた。簡単に壊れてしまう、そんな世界。 そんな世界を壊そうとしたのが魔神と呼ばれる最初からあった存在だった。 どうしてそれが壊そうと動いたのか、聞いたことがないし、知りもしない。ただ、争いは突然起こり、終わったのだ。 黒い男はベルセルにつくられた死者を回収して、新しい命へと循環させるための死後の支配者。 もう一人は、世界を平面に保つ四つの門と呼ばれる封印を守る番人。 「あれは存在がこの世界の理から外れたものだ。あれがこの世界を認識するからこそ世界が存在するのであって、世界からはあれは認識されていない。この世界に存在しやすいように『身体』をつかっただけだ。」 はっきりいって、力に耐えきれなくて身体が壊れただけで、彼自身に何か問題があるわけではないと言ったが、そういう意味ではないがと困ったように言われ、どういう意味だと言い返したがはぐらかされた。 「そもそも、魔神が表舞台から降りた以上、表舞台に上がることがない限り、あれは動かないだろう。」 その為に、動く駒が自分達だとはっきり言い切る男に、そうだけどねと相槌を打っておく。 「でも、元々、彼は一人でいるのが退屈だったから私達をつくったのだろう。だから、いくら彼が私たちと違っていても、それを認識していても、対等でなければいけない。」 対等であるというよりも、理解者であらなければいけない。 けれど、死者と共にある君はそれが理解しにくいことなのかもしれないねと言う男に、確かに理解し難いことというより不要なものだと答えた。 「それで、今日ここへ来た要件は何だ。」 元々、彼も訪問者も、自分の領域があり、そこを守るのが仕事だ。よっぽどなことがない限り、その場から離れることはない。 かつて持ち場を離れたことがあったことがあるとすれば、魔神の終焉のための襲撃によって、持ち場より優先するべき場所を守るための時だけ。 「私一人では、確かに守ることは可能だが、身体が一つでは四つを守るのは少々出遅れることになる。」 決してうぬぼれではなく、それだけの力があることは理解しているし、だからこそ、番人だと自負もしている。 けれど、身体が一つである以上、限度というものが存在しているのも事実だった。 「ストレインを真似ようかと思ってね。」 「あの男の真似、だと?」 「あの男は、いくつもの身体と意思がある。独立した存在としてあるからこそ、違う場所で同時に違う行動をとれる。それが常々うらやましくてね。」 守らなければいけない場所が四か所ある。それがそれぞれ移動することは可能でも、一瞬でもタイムラグが生じる。それに、力だけで操作することはできても、反応が遅れだす。それが、この先いつか大きなミスを犯してしまうかもしれない。そうなったとき、後悔だけはしたくない。 「だから、四か所あるのだから、番人が四人いたらいいと思わないか?」 「たしかにそうだが…簡単な問題ではないだろう。」 「わかってるよ。あいつ等も私だから契約してくれたのだろうから。」 だからこそ、己が四つになり、それぞれの契約を引き継げばいい。その言葉の意味を理解しているのかと問われ、ただ静かに頷いた。 「だから、私は近いうちに消える。私の魂は四つに分かれ、確かに存在するが、私の意思は死ぬだろう。そうなると、困る問題もある。」 だから、今日はその問題の方で頼みがあってきたのだと、男は言った。 「これを、預かっておいてほしい。」 「っ、これは…お前…。」 「偶然、だけどな。」 見つけた以上、放っておくわけにいかず封印術を施して保管していたのだとそれを男に差し出した。 「どうやら、女神の死後、魂は消滅しなかったようだ。」 「これがあるのなら、それは事実なのだろうな。」 彼は死神だ。それが何であるのかということ位、わからない愚かなものではない。しかも、その魂の波動は見知ったものだったからこそ尚更だ。 「いったい何が起こっている?」 「さぁな。ただ言えることは、魂がいくつかに分かれ散った。その魂の欠片が力を持っている故に何らかの影響を与えることは間違いない。」 だからこそ、見つけたら回収していこうと思ったが、自分の意思が消えれば引き継ぐものがいない。きっと番人達では女神を知らないからできないだろう。 「だから、おかしなことになる前に、そして、もしかしたらという希望の元に、頼みたいと思ってね。」 きっと、死神はこの先も世界がなくならない限り存在し続けるだろう?と言われ死を司る己に死が存在しないことに複雑だったが、今は文句を返さずそれを受け取った。 「じゃあな。あまり長く空けるとあいつ等がうるさいからな。」 そう言って、男は帰っていった。 「本当に、お前達は皆して嫌いだ。」 好きで、こんな自分であるわけではないのに。 せめて彼等の為に魂の流れ着く先が苦痛でないようにと整備しようにも、何も残さず消えていく。 ただ愚かな人間共のうるさい声がそこにあるだけ。まるで楽園だと言って、騒ぐ彼等は気付かない。現実が何一つ見えず、ただそこで笑っている。 人が生前描く天国とはまったく違う世界。しかも天という世界とも決して違う死者を集めるこの場所が見せる幻影に惑わされる人達は幻影に惑わされ、その錯覚に踊らされる。 だから、惑わされている間は決してここから出られない。ここに縛られたまま、出られない。それはつまり、人へ与えられる罰そのもの。自由を奪い取り、閉じ込めるという罰。 愚かな愚かな、偽りだらけの舞踏会が今日も続いて行く。そんな舞踏会を死神は覚めた目でただ見ているだけの毎日。それだけが仕事。 抜けられた者だけを、天へと回し、再び人としての命を貰い受け、地上に還る。それの繰り返し。 ある意味、疑問に思わずそこにあるそれは、女神の損失から歪んでしまった天の天使共と似ているかもしれない。そう考えると滑稽だ。何と壊れた世界か。 きっと、初めから世界は歪んでしまっていた。そんな世界を守る為に自分達がいる。けれど、歪みは歪んだまま変わらない。 ここはいつも偽りの舞踏会で賑やかだ。覚めた心で死神に見られていることすら気付かずに、夜な夜な踊る彼等を愚かと言われている。 罪を重ねた者ほど、この幻影から逃れることはできない。 その規律を変えることができない。けれど、大事な仲間のためならと、いつも思っても、それこそ無駄なことだと首を横にふる。 彼等は決してここへはこない。あるのは自分も含め、消滅という道だけ。 だから、時折愚かな人間共が羨ましくなる。何も知らずにそれだけ愚かにも騒げる人間が。 何と死神という存在には何もないのだろう、と。嘆いてもその言葉は無意味でしかない。 「結局、残るのは…神と魔王、そして霊皇か。」 順番に消えることを選ぶかつての仲間。死神は望んでも選びとれないそれが、今は少しだけうらやましい。 女王は生きる時間が短いと言っていたが、男にとっては変わらない繰り返しこそ、無意味でしかないのだから、とっとと消える方がいいと思った。 だって、女王は終わりが見えない長い未来の中で、どんどんいなくなっていく仲間を見送ることなんて、しなくていいのだから。 「本当に、滑稽だ。」 くくくと笑う死神の声に気付かないほど、大きな声で死者の騒ぐ声がその日も止まることなく続いていた。 |