◆神様と魔王様と女神の話







世界には、いくつもの『世界』が存在し、それぞれを統べる王という存在がいた。

地上には地上の国をそれぞれ治める王が存在し、天には天の神という存在があり、霊界には霊皇という者が存在し、互いに干渉し、だが必要以上には関わらず安定を保つことでそ こにあった。

元々、天には三人の神が存在し、その三人が統治する世界だった。だが、あることがきっかけで、一人が天を去り、魔界をつくって王となり、一人が天を統べる王となり、一人は 命を落とした。

そのことを、知るものは天にも魔界にも今はほとんどいない。側近でもあるそれぞれの王を守る八人の存在だけが、本当の事情を知っている。

が、代替わりした者もいて、今では それぞれ八人全員が知っているわけではない。

だから、誰も知らない。何故神に天使は絶対の隷属の立場で疑問を抱かないのか。どうしてそんなシステムが成り立っているのか。

本当は、確かに隷属傾向にはあるが、個人の意思や自由は残っていて、天に仇名す行為さえしなければ問題はなかったはずだった。

だが、神の一人の死によって、微妙に歪んだ天 の理が神にとっても修繕不可能になり、今の形になっている。

そのことを知る者達はほとんどいない。天にも、もちろん、魔界にも。

そもそも、どうして神の一人が魔界をつくって敵対する魔王という存在になったかというと、はっきり言って馬鹿らしい理由だ。

一緒についていった天使達も馬鹿らしいとは思っていても、神も魔王も人を惹きつける魅力があったため、慕われていたので綺麗に当時の側近が半分に分かれたのだ。

そのせいで、まったく決着がつかないのが問題でもあるが。

元々は全て他と同じ、天使だった神も魔王も、もう一人の神だった天使に恋したことから始まる。

天使というものは少々変わった生き物で、互いの力を混ぜて子をつくれるのだ。もちろん、自分の力だけでつくることもできる。

だが、それは強い力を持つものでなければ身を滅ぼすことになるが、彼等は力が強かったのでその辺は問題なかった。

だが、天使、つまり神なので女神ということになるのだが、彼女は二人のことは幼馴染のような腐れ縁のようなものとしか思っておらず、そういう感情を一切持ってなかった。

何より、誰に対しても慈悲深い美しく優しい憧れの女神なのに、結構面倒くさがりだったりする。

なので、二人のアプローチも笑って断ってそうすること何百回。いい加減面倒になった彼女は聞いた。

後継ぎとか後輩とかが欲しいのかと。つまり、親になりたいのか、それとも子どもが欲しいのかと聞いた。その時二人は思い切り吹いた。

いきなり何を言い出すのかと。

そう言った行為自体、神聖なもので、天使にとっては子どもを成すということは、自分の全てを与えてもいいという覚悟の上で、儀を交わすもの。

何せ、一歩間違えれば消滅するのだ。それを、事もなしげにいきなり言いだすのだ。二人でなくても吹くだろう。

というか、普段の女神様としての姿しか知らない者達は彼女の言った言葉を理解できず止まっていただろう。そのへんは彼女と付き合いの長い彼等だからこそ、突っ込み返せると言うもの。

まぁ、はっきり言えば二人よりも彼女の方が強いというのも、彼等が彼女に踏み込みきれないところがあるというのも理由だが。

変なところで抜けている彼女はあまりにうるさい彼等がもしかして神という立場から、次の世代を育てたいと思っているのかとふと考えついて聞いたのだ。

何せ、神と言えども絶対という存在ではない。自分が託してもいいと思 える存在に会えることは低い。だからこそ、託すのはやはり同じ『血』の繋がりというものかと思ったのだが、二人の反応から彼女は違うのかと首をかしげて、変なの呼ばわりだ。

はっきり言って、そんな彼等のやり取りを見さされている、守護天使達、14名ははっきり言って今日もため息が止まらない。

確かに後継者という存在は彼等にとっても三人の神を慕うが故にうれしい知らせだが、何せこの三人の側にいすぎたせいで、反対に子どもがかわいそうな気がして複雑だから困ったものだ。

間違いなく、女の子なら溺愛して親馬鹿になるに決まっている。

「確かに、子は欲しい。だが、誰でもいいわけではないのだぞ。」

「うん、そうね。神様の後継者になるんだもの。私ぐらいの強い天使じゃないと駄目よね。」

「いや、その、そういうことではなくてだな。」

まったくそういうところを理解してくれないこの女神様は、乙女心というものが存在していないのかもしれない。

「我とて、誰でもいいわけではないし、何より力が強いことは関係ない。」

「ん?でも、いろんな子に声かけてるじゃない。あ、誰かれ構わず声かけて本命にふられるようなことになったら恥ずかしいから、落ち込んでもこっちこないでね。」

ずさっと一刀両断。その思い人がこんな調子なので、本命にふられているようなものだが、その辺彼女の性格を理解している彼等は諦めない。

そんな彼等をひそかに頑張れと応援 するのが半分、いい加減くっつくかふられるかはっきりしてくれと思うのが半分。今日も守護天使達ともに平和だ。

だが、いつまでも平和が続くことはなかった。 魔神という存在のせいだ。

かつて、彼等三人はベルセルと共に魔神と闘った。だからこそ、あれの危険性は彼等はよく理解している。

だからこそ、天という存在をつくり、そこを治める王として君臨し、有事の際に動けるように14人の守護天使を育て上げ今にいたるのだ。

魔神は確かに封印されて動けない。だが、欠片として残った魔から、魔人という存在が生まれた。下等な魔人なら何の問題はないが、いつしか自我を持ち、魔神に続く力を持つものが現れたら世界は再び不安定なものになる。

それは阻止しないといけない。

「少し行ってくるわ。後よろしくね。」

「しかし…。」

「君だけいかせるわけにはいかんだろう。」

「大丈夫よ。あんた達より強いもの、あたし。」

それを言われてぐさっと刺さる男二人。世界のトップなのに情けない。

彼女もトップなので仕方ないのかもしれないが。

「もし、余波で何かあったら困るじゃない。あたしも楽しみなのよ。どんな子が生まれるか。」

あの後、彼等はそれぞれ彼女と子どもをつくりだした。そもそも、天にある生き物全て神がつくりだしたものだ。けれど、あくまでつくっただけで、それぞれ個人の意思は神がつ くるものではないから、どうなるかわからない。

だが、今回は自分達と彼女の遺伝子情報の上でつくった、正真正銘自分達の『血』を分けた子だ。

彼等はお互いがライバルでライバルに子どもがいることが不本意だったりするが。

「今まであまり考えたことなかったけど、お母さんっていうのも、ちょっと憧れてたから。卵、ちゃんと守りなさいよ。頼んだわよ。」

そう言って、彼女は出ていった。

そして、二度と帰ってくることはなかった。






七日も続いた戦いの果てに、決着はついた。

だが、相撃ちだった。

彼女は誰かに看取られることなく息を引き取り、消えた。

天使というのはそういうものだ。死というものが存在しない。あるのは消滅。

もしくは、違う生き物に生まれ変わること。

彼女は生まれ変わることなく、このどこの世界からも消 えたのだ。

もちろん、そのことに二人は唖然とし、悔しくてしかたなかった。けれど、そんなことをしている余裕はなかった。

違う魔人と、その成り損ないが襲撃してきたのだ。

彼等は怒りにまかせて迎え撃ち、全て倒した。だが、魔によってけがれたそれらの血肉が、天を汚し、天使から力を奪っていった。

「相変わらず、しぶといようだな。」

「お前もな。」

彼等も闘う術を持っていないわけではない。どちらかというと、補助能力や遠距離に強いので、接近戦が得意な彼女より戦闘になった際に迎え撃つ立ち位置が違うだけで劣っては いない。

「お前達も、無事なようだな。」

「はい。ですが、このままでは…。」

そう、14人の危惧することは二人にわからないはずがない。このままではいけないのだ。

残った二人の神はお互いやるべきことを理解した上で頷きあい、行動に移した。もちろん、半分は彼女の死によって互いを繋ぐ糸が切れたということもあるが、半分は以前からの意見の対立、半分はこのままでは天そのものの存続が危ういから。

そして、一人は神として残り、一人はその魔を引き受けて堕ちたのだ。

その際14人の守護天使のうち7人がついていき、それぞれ一人足して八人の天使がそれぞれの直属配下と して君臨することになった。

この時、天の機能が停止しかけ、天の理そのものに歪みを生じ、今でこそ安定をしているものの、神に隷属する存在として成り変ってしまった。

ある意味コンピューターのエラー状態のようなもの。だが、神にはどうすることもできない。

何故なら、天使と言う存在をつくることができるが、中身は彼等自身のもので、干渉できないからだ。

そのおかしな状況に誰も疑問を持たないことにも神も八人の天使も困り果てたが、それ以上に八人の天使が困り果てることになったのは、あの女神が残した二人の子どもだった。

無事に生まれたものの、神の力を持った方は女の子で、元々悪くはないのだが、魔王の力を持った方は男の子で、見事予想通り親馬鹿ぶりを発揮し出したことだった。

だが、それ以上に彼等にとって予想外だったのは、女の子はあの女神以上におとこらしい性格で、男の子の方はあの女神の人を惹きつけるあの魅惑的な魅力を強く受け継いでしま ったことだった。

しかも、女の子の方は女神より神の方に似ていて、男の子の方が女神に似ていたから問題だった。

次から次へといろんな女も男もつれてしまう男の子。しかも自覚なしときた。周囲が慌てることになる。

女の子の方はある意味破壊王だ。誰に似たんだと思うぐらいのそれに、くたくたになる。

だが、それ以上に問題なのはこの二人の親権について争うあの二人だった。

馬鹿らしいと思っていても、わからなくはない。何せ、女神の残した者であると同時に、彼等の『血』を受け継ぐ存在だからだ。

しかし、問題がありすぎた。女の子は確かに可愛い。だが、それ以上に魅力をふりまく弟が女神に似すぎていたことだ。

魔王は自分の子どもだと主張しても、娘より女神そっくりな 彼を神も簡単に手放さないし、何より姉が無茶苦茶なブラコンだということが判明し、引き離すのは難しいし、だからといってどっちが引き取るということも決着がつかず、そこから天と魔界との争いが始まった。

守護天使達からすれば阿呆らしいことだが、二人はかなり真剣で、命令違反はできそうにない。

あれから何百年経ったか。成長した女の子は立派に隠密活動に励み、男の子は戦闘よりも知識を得るために勉学に励んでいた。

あの真実をしる天使達が隠居する中、女の子、フェ ルマータは八人の天使の一人となり、弟のシャルマルタは断りながらも彼等と同じような仕事をこなし、相変わらず戦いは続くものの平和だった。

何故か他の天使と違い、八人に 選ばれる天使は自我が濃いので、どこかシステムのエラーにさらにエラーでもでたのかと神は思っていた。

でも、そのエラーは悪い意味ではないのでそれはいいと思っていた。 けれど、悲劇は続く。

娘と繋がりはないが息子を可愛がる親馬鹿な神は、普段はそんなことを見せないので、二人からは親と思われていないことを知ってへこんでいたりするが、そんな息子に恋人ができたということを知った。

本当ならいいことだが、愛していた彼女とそっくり似てきた息子を溺愛する親馬鹿な彼は複雑な思いだった。

下手に別れさせようと何か言うことも反対することも、だからといって賛成することもできず悩んでいた。しかも、魔王も魔王だ。

魔王にとっては正真正銘の息子なので断固反対し、お父さんは許しませんという勢いで、こっちも悩んでるわと神の反撃で争いが続いていた。

はっきり言って、巻き込まれる者達によってはいい加減にしろというものだが、真実を知っているものは今はほとんどいないから性質が悪い。

けれど、だからこそ気付くのに誰もが遅れたのかもしれない。

「どういうことだ、ゲルドルデ。」

神に報告に来た直属天使の一人にして、かつての14人の守護天使の一人だったゲルドルデは急ぎ神への報告で玉座へときていた。

「クレハーチェの反逆です。リンテールが死亡。フェルマータも負傷。ドルティーマとアンシャルテが周囲への警戒に飛んでいます。」

「何ということだ…。」

りによって、八人の一人の死亡。それもシャルマルタの思い人だとは。

しかもフェルマータまで負傷するとは、いったい何があったというのだ。それほど強い力を持った天使は神すら把握していない。

「それで、シャルはどうした。」

でてこない名前に尋ねる神。ただならぬ事態に、返答を待つ間も最悪の事態かもしれない答えに聞きたくないと考えている自分がいた。

「カルテとエトワイトがクレハーチェのあとを追いかけています。」

「だから、シャルはどうしたというんだっ!」

「っ…シャルマルテは…負傷し、穴から地上へ落ちました。」

「何っ?!」

玉座から立ちあがった神から、少しだけ視線を反らして報告を続けた。

「クレハーチェがリンテールを手に掛けた後、気付いたフェルマータが攻撃をしかけましたが、反対に負傷し、止めをさそうとしたクレハーチェからシャルマルテが庇い負傷したとのことです。」

「…それで、シャルは無事なのか。」

「まだ、無事だと思われます。ですが、力が弱っているのと地上に落ちたので、捜索に時間がかかります。ですが、クレハーチェも向かったとの報告を受けましたので、急ぎ二人をシャルマルテの保護に差し向けました。」

「そうか…。」

どうか、無事でいてほしい。

親らしいことなど一度もしたことがないし、親だと名乗ったこともないが、大事な子どもだ。それに彼女の形見でもある。

失うわけにはいかない。

「あと、もうひとつ。」

「何だ。」

「処刑執行を務める剣、雷龍が地上に落ちました。」

「どういうことだ?」

「…報告では、リンテールとシャルマルタはあれと仲が良かったようで…たぶん、この事態を知って追いかけていったのかと。」

どうしますかと、主の返答を待つゲルドルデに指示をだした。

「リンテールの葬儀の手配と、クレハーチェの捜索を引き続き続けろ。あと、フェルの手当てを急げ。」

「御意。」

「シャルのことは、雷龍が向かったのなら問題ないだろう。だが、監視だけは続けておけ。…最悪、ベルセルに連れていけ。」

ある意味、シャルマルタを狙うのが同じ天使なら、天よりベルセルの方が守りやすいと判断したからだ。

「クラスタータ。私は、あの二人を守れるだろうか。」

きっと、彼女が生きていたら、弱音はいてるんじゃないと背中をはたき飛ばされることだろう。

それが、ひどく懐かしい。

「あいつにも、シャルが地上に降りたことを伝えておかないといけないな。」

三人で、あの二人の親だから、平等でなければいけない。

世界にとって闘う敵として認識されていても、彼女と言う二人を繋いでいた糸が切れたとしても、今も神にとっても魔王にとっても唯一無二の絶対の信頼をおける相手がお互いの存在だから。








++++++++++
凛々はシャルを追いかけ、神は地に降り立つ息子を思いながらも安全優先のために他へ動きを固めることを決断する
そして、また神は魔王と言い合いになる…