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その日、事件が起こった。 「逃げろっ、とき!」 「私は…っ、兄さん、後ろ!」 視界が赤く染まる。そして私も…と思ったが、兄が飛びつき、そのままそこから飛び降りた。さすがにそこまでしてアレは追いかけてこないようだ。 だが、アレのことや自分の心配より、兄の事の方が心配だった。 「兄さん…兄さんっ!」 叫びに笑みを一度だけ浮かべ、兄は目を閉じた。そして、私も叩きつけられる衝撃で意識が途切れた。
世界を呪った魔女の罪
意識が戻った時、最初に頭をよぎったのは兄のこと。はっと起き上って周囲を見ると、自分を庇うようにしてそこに倒れた兄がそこにいた。 すでに息をしていないことに気付いていたが、もしかしたらという思いから、何度も兄の名を呼んだ。けれど、兄が返事をしてくれることはなかった。 その時、周囲を取り囲むような気配の数々に気付いていたが、その時の私にはどうでも良かった。ただ、兄を失ったことが辛かったから、無視していた。けれど、そいつ等は私達に用があるようで、姿を見せた。 もちろん、無視したけれど、彼等は山賊だ。奪うのが仕事の無法者。 「一人死んでるが、つけてるもんはなかなかのもんだ。それに、生きてる方は女だしな。」 いろいろ使えるという男に、腕を掴まれた。その時になってはじめて私は山賊共の姿を視界に入れた。 「そう怖い顔するんじゃねーよ、嬢ちゃん。」 顔に延ばされる手を払いのけ、睨みつけた。 「ちょっくら痛い目みないとわかんねーかぁ?」 本当に、こういった連中は短気で困る。私は一度兄の遺体を見て、男達に視線を戻した。そして、先に言っておいた。 「丁度いいわ。貴方達にあたいは殺されたことにする。けれど、貴方達があたいと兄さんに何かするというのなら…容赦しないわ。」 その言葉に、男達はカチンときたのか、殺気立つ。 「だけど、取引はしたいわ。」 自分が持っている一番大事なもの以外と、兄に送ったプレゼント以外のお兄がみにつけていたものを渡す代わり、仲間として、匿ってほしいと。 「そんなことで山賊が納得すると思ってるのか?」 「ええ。さすがの山賊も、死にたくないでしょう?それに、あたいは役に立つと思うわ。」 記憶力がいいから、一度見聞きしたものは忘れないから、情報も取引材料になる山賊にとっては有利になるのではないか、と。 「それは本当なのか?だが、俺達は無理やり…。」 「それは無理よ。貴方達じゃ、あたいには勝てないもの。」 その時まで、男達はこんな女に後れをとることなど、思いもしなかっただろう。けれど、一瞬で目の前から消えて見失った女の声が直ぐ側、それも己の背後にあることに、自然と得体のしれないものに対する恐怖を抱いた。 「あたいは兄さんを殺した奴を見つけたい。その為に悪魔に身を売ることだってするつもり。あ、でも、殺したのが悪魔なら、あたいはその悪魔を殺す悪魔になるわ。…だから、その邪魔をするのならあたいはあんた等を殺す。」 けれど、仲間としてしばらく匿ってくれるのなら、手を貸す。そういう条件をもう一度言った。 「あんた等も、ここら辺をシマにしてるなら、わかるよね?『魔女』という一族のこと。」 その言葉は男達を黙らせるには効果的だった。ざっと、面白いぐらい私から距離をとる連中に、鼻で笑った。 「お前、まさか…本当に?」 「ええ、あたいは魔女の一族の者。どうせ、気付いてるんでしょ?あれだけ賑やかなら、何かあったってこと。あたいはそれで兄を殺された。だから、あたいは魔女を捨てる。兄を殺した奴を見つけて殺す為に。」 邪魔するなら、先に片付けてあげると言えば、少しざわついたが、ここでのリーダー格であろう男が前に出て確認した。 「本当に、魔女なのか?」 「ええ、あたいは魔女としては魔力が弱い方だけどね。どっちかっていうと、薬学の方が得意だし。だから、生かすことも殺すことも紙一重。簡単にできるよ?」 「だが、俺達の一存では決められない。頭が優先なのは、あんたもこのあたりの決まりがわかってるなら…。」 「それもわかってる。だからこそ、先に言っておこうと思って。」 男達だって、知っていること。魔女は男と交わると力を失う。正確には弱くなるのだ。魔女はその身を捧げることで力を得ているのと同じ。だから、死ぬ時は魂を『力』の元に喰われることを覚悟していなければいけない。 「あたいを女として、道具に使われたら困るわけ。だから、男として山賊の中に入れてほしい。」 その為には、ここにいる連中以外、もしもの為に知られない方がいい。だからこその、先に交渉しているのだと言うと、困ったように男は苦笑するが、女にしておくには勿体ないぐらい威勢のいい女だと言った。 「だが、頭にだけはちゃんと説明しておいてほしい。」 「どうして?」 「俺は頭の右腕。頭にだけは絶対嘘はつけねぇ。」 それは、頭へ立てた誓いを破るようなもの。だから、どうあってもできない。そう言うと少しだけ考え込んだ私は代わりの代償をもらうと言って、周囲に仕掛けたものを発動させた。それによって、バタバタと倒れる男達に、何事かと仲間に駆け寄る男。 「眠っているだけだから大丈夫。その代わり、私の事を知っているのは貴方とそのお頭さんだけ。その代わり、他の連中には記憶をなくしてもらう。」 「…だが、こんなところに転がされたら困るんだが。」 「わかってる。すぐに用意するから…そうしたら、貴方はあたいを女として呼ぶことは許さないから。」 今日から私は『風真』だと言って、すぐに長い髪を切り落とした。 その日、他の連中が目覚める前に男、藤柳に頼んで兄を埋葬し、起きた他の連中と何事もなかったかのようにアジトへと帰還した。その時、頭と呼ばれる男、焔華と対面した。思ったより話のわかる男で、藤柳が嘘をつきたくないと言って忠義を守ろうとした理由もわかった気がした。 とりあえず、私はその日から藤柳の別れたままだった弟と再会したから保護したという理由で居座ることができた。もちろん、魔女としての力を利用して仕事をこなすことで、彼等の手助けはした。何にしても対価を払わなければいけないことぐらい、私は一番よく理解していた。何の代償を払わずに何かを得るなんてこと、いつか全て己に還ることがわからない、愚か者がすることだ。 だから、兄の死の対価を殺した奴に払わせる為、兄の名を、風真という兄の名を名乗っている。兄の事と兄を殺した奴を忘れない為に、己を捨てる為に支払う対価。 それにしても、彼等が魔女のことを知っていてくれてよかったのかもしれない。だからこそ、この待遇だ。まぁ、使えるからこそ、なのだろうが。 「それで、どうなんだい?」 「何が?」 「兄さんだっけ?殺したっていう襲撃者。」 「あ、うん。まだ見つからない。」 何だか、時折兄と似ている彼が、今の私を支えている気がする。何だかんだといって優しい藤柳もそうだけど、こう言う時私は逃げているような気がして、辛くもあった。 「俺としては見つからないままの方がいいけどね。」 「っ、…何で?」 「だって、見つかったら行ってしまうんだろう?」 「それは…。」 そうだった。最初に言ったはずだった。私の目的は兄を殺して奴を探し出して殺すこと。兄を殺したように、殺す。それがここにいる目的。だけど、山賊なのに何故か温かい家族みたいなここの連中と過ごす日々が結構楽しい私は、時折忘れそうになる。 「そう言えば、今日はあいつが来るんだったな。」 「あいつ?」 「そう、覚えてるだろ。浮浪の行商人。俺達みたいなのにも、対価を支払うなら売るって奴。」 「あ、あのぼさぼさ頭の。」 そうだと言って、男は笑って立ち上がった。 「お前が来てから、ここの連中お前のこと気にいったらしくて、出て行ったら悲しむだろうけど。」 「突然何を…。」 「そいつが言ってた。お前が探してる襲撃者のこと、知ってた。」 「っ!」 突如こみ上げる強い思い。兄へのものか、それとも襲撃者への殺意か。それとも…それとも、今のこの空間が壊れることに関する痛みか。 「どうやら、そいつは何かを探して集めているようだ。他にもいろんな連中を襲ってる。旅してるから、いろんなところでその襲撃者による襲撃の情報を知っていた。」 どうすると、焔華は言った。私は息を呑んだ。 「ここを出て、そいつ等探しにあいつと出るか?」 「でも…。」 「お前は最初に言っただろう?」 結構妹みたいで可愛がってきたから、別れは辛いけど、大事にしてきたからこそ、望みを叶えてやりたい。そう思ったから、いつも私が探しているものを同じように探していたのだと言った。 「ありがとう。」 「礼はそいつの話を聞いてから、な。」 そして、商談の場に私も入れてくれた。いつもは頭である焔華と右腕として護衛もかねている藤柳だけ。 「紹介する。こいつがロン。ロン、こっちが前話した風真だ。」 「これはどうも〜ロンって言います。」 よろしくと差し出された手をとって握手を交わした。 「で、話をすると…確か、魔女の一族なんだよね?」 どうしてと彼の方を見ると、大事な話だから話したのだと言った。 「もちろん、オイラがそれを誰かに洩らすことはしない。だが、魔女であるということは大事な意味があるんですヨ。」 そう言って、男はもう一度名乗った。今度は行商人ではなく、きっと男の本質に近い方なのだろう。この私でさえ感じる、得体のしれない、何か。 「オイラはベルセルに属するエリア8の守り人、ロウディアータ・ロンチェン。以後お見知りおきを…刻鈴の第一候補の姫君。」 基本的に名前はロンで通してるから、礼儀として名乗るだけだから今後忘れてくれた方がうれしいと本気なのかふざけているのかわからないことをつけたした男。だが、そんなことより、刻鈴の名を知り、私が何であるかわかってる相手であることに何よりも驚きを隠せなかった。 「…っ、ベルセル…成程ね。だから、刻鈴のこと知ってるんだ。」 「そそ、だから、そこは大事な意味がある。オイラも一般人に守り人のことを名乗るわけにいかないからネ。ちなみに、彼等はオイラの使い魔みたいなもんだから。正式に、ってわけじゃないけど、一般人の誘導とか頼んだりする協力者的なものだから知ってるわけネ。」 だから、彼等のこと責めないであげてと言うので、はじめからそのつもりはないと答えた。だって、私の問題なのに、ここまで真剣になってくれて、しかも、私が探しても見つからない手がかりを見つけてきてくれたのだから。 まぁ、魔女との契約の上で違反を犯すことはまずいけれど。 「それで、オイラ達守り人も、守り人に殺される事件が起こったヨ。そいつの名はミナト。仲間である守り人を殺した後、様々な場所で何かを手に入れるために襲撃し、殺してる。きっと、魔女の一族のことも、たぶんそうだったのだろうネ。」 水鏡の当主と話ができたから、この前話してきたと男が言い、私は自然と体中に緊張が走っているのを感じた。ずっと切り捨てて忘れたつもりで、だけどまだその重圧が縛っているのを感じた。 「水鏡は古から預言者としても有名だった。たまたまこの前会って話をした。あの襲撃は、予言として知っていたことだった、と。」 「そんな…。」 「けれど、全てが見えるわけじゃない。だから、襲撃者のことを知っていたけれど、求めるものが何かを知っていたからこそそれを手放すように進言したが、それは叶わなかった。」 「どういうこと?」 私はあの日の真実を、第三者を通して、こんなにも詳しく知るなんて思いもしなかった。 何でも、力を手にしたが故にそれを手放そうとしなかった刻鈴当主から、その元を奪い取る為にあの日の事件が起こったのだと言う。しかも、それを知った水鏡当主は阻止するためにした進言を無視し、その結果私は兄を失ったのだと知った。 元々力に囚われ、冷めきった家族関係だったが、まさかその母が原因であの日のことが起こったなんて思っていなかった。確かに他者に興味がないどころか、子どもである自分達にすら興味を持たない、最悪の母親だったが…そのせいで兄が死んだと言う事実は衝撃的だった。 どこかで、無関心だった母親であってももしかしたらという期待があったのかもしれない。それを打ち砕かれた気分だ。 「襲撃者の目的は、ある『もの』としかわからナイ。それは力を宿す。どうしてそれを集めているのかは知らない。が、それは襲撃者が天使であることが重要だと思ってるワケ。」 そう言って、彼はわかっている範囲で説明をしてくれた。 ベルセルというのは魔神という存在と戦った者の名からきていること。そこからはじまり、部下として魔人と呼ばれる存在があり、襲撃者はそれであるということ。だが、元を正せば、ベルセルと共に戦った者の部下の一人であるということ。 最初に魔女であることを確認したのは、こういった内容ははっきり言って外へ話すわけにはいかない話題だったからだと言われ、確かに魔女としてあの閉鎖された規律の中にいたときと同じで、その意味は嫌なほど理解できた。 「話を続けるけど、天使は一種の習性みたいなもので、簡単に主を裏切るような奴ではない。今は昔より統制されてるみたいだけど。」 そう言って、仲間の天使から聞いた話をしてくれた。天使がいったいどういうものであるか、ということを。 「つまり、その天使が魔人なり、守り人になった。だが、忠義はなかなか消えないだろう。ある意味呪いに近いようなものだよね。それも、かなりの古株であるなら尚の事。なら、魔人になってでもどうにかしたい理由。それが、その力を宿した何かにあると思うわけだ。それを魔女の一族も、聞いたことあるんじゃないかな。形は違えど鴉天狗の連中も持っていた。だから、狙われたワケ。」 思い出すのは、鴉天狗が襲撃された事件。そういえば、少し類似していた部分があったのに、どうして調べようとしなかったのか。こんなにもヒントがあったというのに。 「実は、その天使は今、守り人なんだ。あまり天使のことを語ってはくれないけど、天使がいた場所でも問題はあったらしいヨ。さっきのはその話を聞いてオイラがたてた予測でしかないけどネ。」 その問題に、関わってる奴だとしたらどうすると言う真剣な真っ直ぐなその目に見られ、ごくりと唾を呑み込む。 「真実全てを知っているわけではない。が、あれが元々守り人をしていたこと、天使であったこと。含めるとここにいるよりこちらにいた方がミナトに追い付くことはできると思うが、どうする?」 「…私、ベルセルに、その天使に一度会いたい。」 その言葉に、今まで黙って聞いていた二人は顔を見合わせ、私の頭を撫でた。そして、行っておいでと言ってくれた。それがすごく嬉しかった。なくしたものが、ここにある。そう錯覚する優しい空間が、少しだけ悲しかった。けれど、これで兄を殺した奴へ一歩近づく。それもまた、私を生かす強い理由。 私はその日、彼について行き、ベルセルへと足を踏み入れた。そして、私は風真からファンラという名に変えた。あまりにも山賊として風真は有名になりすぎていたからだ。昔の呼び名で風月でもいいかと思ったが、あまり漢字だとどこの出身か感づかれそうなので、音は近いけどカナ文字にした。その方がロンと一緒なこともあり丁度いいと思ったのだ。 そもそも、有名になりすぎたのは結構武術も基本はあったので、薬品やナイフを使えば、ある程度のことは回避したりできた。それが目立ったようだ。口調も魔女にバレないようにさらに変えた。しかも、眼鏡をかければ目が見えないから、さらにバレにくくなる。そうやって過ごしていた時だった。 「次はこれっスね。」 最近では行商の仕事にもなれ、オリジナルの薬を出す許可も貰って、充実した生活を送っていた。時折、風に乗せて焔華達に手紙を送っている。 その時、歪みを知らせる合図が届いた。ロンが持ち歩いている瓶詰めのようにされている中にある花の変化。それが、ここのエリアの歪みの知らせ。 「知らせがきたっスよ。」 使い魔として、ロンをサポートするのが仕事だ。普段何もない時は暇だが、忙しい時は忙しい。けれど、そのおかげで今の自分が安定しているのも感じていた。 けれど、その歪みは私を再び壊すのには十分なものだった。 調査し、歪みを修正していく上で、ひっかかったそれ。 「どういう、ことっすか?」 歪みで壊れた人間達が、山賊を狩り、ほとんど全滅したと言う知らせを聞いた。そして、慌ててかつての温かくて優しいその世界へと向かったが、静まり返っていた。 「お頭―!藤兄―!」 叫んでも誰も返事をしてくれない。時々転がっている人の遺体に、まさかという思いで、足を進める。 ちょうど、その扉を開いた時だった。 山賊を取り締まるとしてでてきた討伐隊のリーダー格がそこにいて、何かを叫ぶと同時に焔華を打ち抜くところだった。 スローモーションのように、私の視界で倒れる焔華の姿。動いて欲しいのに動かない身体。耳触りな笑い声。 あの日以来の、誰かへと向かう殺意。 騒がしい周囲の雑音の中で、耳に届いた兄の名前。 「まさか、風真かっ!」 はっと、やっと動いた私が声のした方を向くと、右腕を抑えて膝をついている藤柳の姿がそこにあった。 「藤兄…お頭…どう、して…。」 「何でこんな時に来たっ!くそっ、さっさと逃げろっ!」 こちらへと近づこうとする一歩を止めるように、怒鳴る彼の声。 「おや、風真というと…私は運がいい。お前もまとめて死ね。」 私に気付いたそいつがうれしそうに笑う。それが、私にとっては目障りだった。そして、そいつが私を焔華を殺した時と同じように、焔華を撃った銃で私に狙いを定めて撃つ。 「風真っ!逃げろっ!!」 藤柳が助けようと手を伸ばすがその手は届かない。だが、それが私に届くことはなかった。 「何っ?!」 銃弾は私の目の前で凍りつき、地面へと落ちた。小さな落ちる音が合図であるかのように、私は眼鏡をはずす。 被っていたマントのフードが落ち、かつて斬り落とした時に近いぐらい伸びた髪が外気に曝される。 「違反者…いや、私の大事な『家族』を殺した敵。だから、排除する。」 静かなその声と共に、間合いを詰め、そして通り過ぎた。 きっと何があったのか誰もわからないだろう。本気でキレていた私は、あの一瞬で10本のナイフで男を指し、毒薬を投げつけていた。 見下ろす冷たい目を、男は倒れながら見る。まるで悪魔のようだと、もはや言葉にならない羅列の音を口からはきながらあがく。 「苦しい?速攻性だけど、すぐには死なないの、それ。」 「あ…おま…あぁ…。」 「苦しみの果てに堕ちるがいい。」 倒れた男に興味を無くした私は、すぐさま焔華の元へかけよる。だが、すでに助からないというのが薬学の延長でやった医学によって嫌でも思い知らされる。 「おかえり、風真。元気そうで何より…せっかく来たのに、悪いね。」 「そんなこと、ない、です。…遅くなってすいません。あたいは、あたいは…。」 「泣いたらせっかくの可愛い顔が台無しじゃないか。…藤柳、無事か?」 「ああ。俺は何とか…風真、こいつは…。」 首を横にふって、泣きじゃくる私に、困ったように頭を撫でる藤柳の手がさらに辛かった。きっと泣きないのは私より付き合いの長い彼なのに。 「先にいくみたいだ。…他の連中のこと、頼みたい。」 「ああ。安心しろ。」 「お前が一緒で良かったよ。本当に。」 「そう思うなら…簡単に諦めるなよ。」 少し滲んだ彼の目。何もできない私は悔しくて仕方ない。これは罰なのでしょうか。 兄を失った時、世界を呪った。兄がなにをしたというのか。私が何をしたというのか。 その為なら誰を殺してもかまわない。そう確かにあの時思った。ここにいる彼等を殺しても、と。 だが、仲間として仲良くなった後では、あの日の言葉を取り消したい。もし取り消せたら、彼は死ななくてもよかったですか? 「嫌…嫌だよ。兄さんもお頭も…何で私をおいていくの?」 「大丈夫だよ。藤柳がいるからね。それに、あの人もいるだろう?」 「でも…。」 「俺は、君の幸せを願っているよ。」 兄ではないが、兄のように私を大事にしてくれた人。離れて過ごすことになっても、気にかけてくれていた、私にとって兄と同じくらい大切になっていた人。 また、私は守れなかった。 泣きじゃくる私を抱きしめてくれていた藤柳。いつの間にかここへ合流したロン。 守り人としての仕事は終わったが、私は大切なものをまた失うことになった。 その後、しばらくぼんやりしていたが、私は改めて目的の為に前へ進むことを決めた。 藤柳達は残った連中と山賊を続けている。正確には、山賊というよりも小さな村の用心棒のようなものと、ロンの好意で行商人のようなことをしている。相変わらず臨時の使い魔として藤柳は私達の協力者としていてくれている。 もともとあんな場所で生活していたのだ。普段人の行かない場所にある薬草や素材を商売として出して生計を立てることは思ったより簡単だったらしい。 相変わらず兄を殺した奴の情報はいいものがない。ただ、湊と名乗る魔人であることはわかった。そして、襲撃で生き残った白城のことを知ったり、天使である冥鎌と話ができたりと、少しだけ前には進んだ。 そして今年も、ちょうど同じだった兄と焔華の命日にこの場所へ訪れる。 「やっぱり来てたか。」 「そういうそっちこそ…。」 いつも、この日だけはロンは何があっても休みをくれる。そして、藤柳と一緒にただ思い出にひたりながらぼんやりと過ごす。 「本当、時折お前等がうらやましいよ。」 「どうして?」 「見てわかんないか?」 月日は残酷だ。あれからどれだけの月日が経ったのか。私とロンだけでは気付きにくいが、毎年藤柳と出会う度に思い知らされる。 魔女といった特殊な種族の寿命と人間の寿命の違い。 「また、あたいは置いていかれるんっすかね?」 「俺はおいていきたくはないが…そうなるだろうな。」 出会った時はまだ若かった彼は、いい歳だ。一見の主の座を譲ったとこの前聞いたぐらい、身体がゆうこと利かなくなってきているのだろう。 「化け物みたいでしょ。」 「いや。焔華もきっと言うぜ。お前は自慢の『妹』だってな。」 あんましいらんこと考えるなよと頭を撫でられた。自然と零れてくる涙に、彼は何も言わずにただ側にいて私が泣きやむまで抱きしめてくれていた。 本当にこの世界は酷い。大切な人と同じ時間を生きることを許してくれないこの世界が憎い。 けれど、この世界へ向けた憎しみが、私の罪なのかもしれない。 決して人と同じように成長しないこの身が、彼等とは別のものだと知らしめる枷のようだ。 |