嘘から始まる遊戯の結末

 

ただ、大きな歪みが解決し、趣味の衣装作りも一段落つき、暇だったのだ。

「暇だからと言って、やることたくさんあるだろう。」

先日の凛々の服の礼だと、律儀に土産を持って現れた冥鎌に呆れたように言われる。

確かにそうだ。守り人なんて、毎日暇であればいいような仕事だ。けれど、事務作業的なことも周囲への警戒、情報収集など、やろうと思えばきりがないほど仕事は存在する。

そういうことが面倒で嫌いなのは知っているし、それでもきっちりやって定例報告での書類を期日までにやる真面目なところも知っている。

その過程で様々な周囲への被害があるとしても、彼女の在り方は冥鎌なんかよりも守り人として先を考えている。

なんだかんだと自分の甘さのせいか、大切なものが多くなりすぎた今は、時に非道なことでも決断する必要がある守り人として、それが行える自信はもうない。

「やっぱり、暇だから、これ着てよ。」

そう言って、何の前振りもなく出されたのは、細かい刺繍や装飾が施された力作と言っても過言ではない逸品だ。勿論、女性が着たら綺麗だろうと思える服だ。

「俺はそう言う趣味はないといってるだろう?」

「でも、天界人って、そもそも雌雄の存在というか、概念ないよね?どっちでもあってどっちでもないんだよね?」

「その言い方は少々おかしいが、確かに雌雄の違いに関してどうこうある種族ではないのは確かだな。子孫をつくるという概念もだいぶ違うからな。」

穢れを嫌い、清き魂を持つことが誇りであり失うと地界へと堕ちると言われる種族だ。

交わりによる子孫繁栄が存在しないため、魂の欠片をつかって『卵』をつくるというおかしな種族だ。そこに他の種族のような雌雄の関係などはないかもしれない。

けれども、だ。男型と女型としての雌雄判別のような魂の形は存在している。そこに意味がないような種族ではあるが。

「雌雄別概念が低い種族ではあるが、男としてこれでも生きてきたから、そういう趣味はない。」

「いいじゃない。似合えば!冥鎌だったら間違いなく綺麗になれる。それこそ、男か女か微妙な種族なんだから女ですと今から宣言してもいけるから問題なし。」

「勝手に人の性別をかえようとするな。」

そう言えば、今日はうそつきの日だったなと思い出す。

「女ですっていったら、女嫌いのあいつがどんな顔するか面白そうじゃない。」

「面白そうで人を巻き込むな。そもそも、アイツの場合は女嫌いでも理由が特殊だろうが。」

「そうだけどさ〜。やっぱり、偏見はよくないよ、うん。」

だから、協力して。ついでに楽しませてと本音と共に告げられる。断ったところでこうなった暇を持て余したゆうは問答無用とばかりに、飛びかかってきた。

その結果、押し倒されるような事態になったのだが、この時のタイミングが最悪だった。

「やっほー、暇してると思ったから遊びにきたよー。」

と、突然わいてくる死神、田所が扉を開けて現れた。

「ん?ゆう??」

目的の人物が押し倒すのが冥鎌で、必死に抵抗してもがいた結果、服が乱れる羽目になった。

二人して田所の方を見たが、何を思ったのか、田所は面白そうなものを見つけた時のような笑みを浮かべ、またねーと部屋から去っていった。

「最悪だ…。」

「どうして?北斗の奴が突然わいてくるのはいつものことでしょうに」

「そうだが、状況を考えろ。」

「状況?」

今も冥鎌の上に飛びかかったままで、田所から視えない方の手には服を持ち、そのままだ。

「別にいつものことだよね?」

「明らか誤解を生むような状況だろうが。」

「北斗はそんなわかりきっているようなことしないよ?」

そうだ。問題はそこなのだ。誤解を生むような状況であっても、あの男がそういう関係を誤解するような頭を持っているとは思えない。だが、間違いなく面白そうだと顔に出して外に出たのだ。

誤解をふりまくことでややこしくなる可能性のあるところへ、今見たことを伝えに行く気なのだ。それが問題なのだ。

「本気の竜を相手にしたくないんだが。」

「世鷲はそんなことしないよ。どちらかというと、本気の冥鎌と凛々の方が厄介じゃん。」

「凛々に関しては否定はできないな…。」

「でしょ?だから安心してこれを着て。」

そう言って、諦めていないゆうとの攻防の結果…事態は最悪な結末へと転がろうとしていた。

「ゆう、いったい何のよ…う…ゆう?」

間違いなく田所に理由もなく呼び出されたのだろう。世鷲が現れた。

こんな恰好を見られるのもだが、相変わらずのこの状態もまた最悪だ。

「いったい何して…。」

「ん?ほら可愛いでしょ、冥鎌。世鷲きてくれないから冥鎌にした。」

悪気もなくいうところが彼女のいいところであり欠点だと思う。本当に悪いと思っていないところこそ、最悪だ。

「また、服か?」

「そう。世鷲は嫌だっていうからさ。面白くないし。」

とりあえず、いつものことだという説明を本人からしてくれたので、最悪な状況でありながらも、まだ世鷲は冷静のようでほっと一息をつく。

「またゆうの趣味に巻き込んだようですまない。」

「いや、こちらこそ、不手際で田所をそっちへ行かせたみたいで…。」

「…やはりあの死神…次会ったら一発殴るか。」

「できればお互い合わない方が平和だろうから、怒りはもうおさめておいてほしい。」

とりあえず、暇を持て余したゆうによる、誤解からの惨劇が起こらなくて良かった。この時はそう思っていたが、まだまだ甘かった。

田所が話を持って行ったのが世鷲だけではなかったのだ。

すっかり忘れて、着せられた服のままの帰宅途中。例によって例の如く、もう一人の問題児の襲撃にあった。

「大丈夫か?何もされて…されてる?!でも、それも似合うし綺麗!じゃなくて、それ以外は大丈夫?」

そう言って現れたのは霊界の皇。

死神にとって、この世界も霊界も天界も、行き来するのは冥界の扉を使えば簡単だ。そんなことをすっかり忘れていた。

こうして、嘘つきの日はくっついて離れなくなった霊界の皇をなだめるのに潰れて終わった。

 

 

 

 

 

皆のお母さん

 

 

ふと感じた気配で、さっとよける。

寝起きでこのやりとりは久々だなと思いながら、ゆっくりと体を起こす。

「朝からどうした、凛々。」

「おはよう、れんちゃん。」

悪意ない笑顔が、時々辛い。最近は大人しかったのに、今日に限ってどうしたんだと思うと、目の前に出された花に言葉を止めた。

「どうしたんだ?」

「れんちゃんにあげる。今日はれんちゃんにお花あげていつもありがとうっていう日だって、皆が教えてくれた。」

満面の笑顔で渡される花。そして、今日という日にありがとうと言う言葉。今日がこの世界においてどういった行事があるのかは知っているつもりだ。今まででも、そういうことをしている子どもを見かけたことはある。

だが、その行為に自分が当てはまるとはどうも思えない。

しかし、好意でしている凛々に対し、冥鎌が受け取らないという選択肢はない。

せめて、母への感謝の日ではなく父への感謝の日にしてほしかったと思う。

けれど、この時はまだ事態を理解していなかった。

凛々が最初に皆が教えてくれたという言葉を、凛々から受け取ることですっかり忘れていたからだ。

「おはようございます。これをどうぞ。」

「おはようっす。これお花っす。あと、新作っす。」

「おはようございます、主様。あの、これを受け取っていただきたいのですが…。」

「おはようございます、主様。今日のデザートはコレなんですよ。」

「おはよう、主様。あの、これ…どうぞ。」

「おはようございます。今日はきっとたくさん受け取ると思うので、活けられるようにこちらも一緒にどうぞ。」

「おはようございます。これ、主様に受け取って欲しいです。」

次から次へと渡される花。そして感謝と労りの言葉の数々。

嬉しいやら気恥ずかしいやら。少々複雑である。

あっという間に立派な花束になり、受け取った花瓶に活けても、見栄えが華やかだ。

「皆、れんちゃん大好きだって。嬉しい?」

「ああ。嬉しいよ。ありがとうな、凛々。」

「うん。れんちゃん嬉しいと、凛々も嬉しい。」

幻神楼の皆のお母さんは、今日も平和で賑やかな一日を過ごして日付をまたいだ。










あとがき
エイプリルフールと母の日の小話。
暇をしていたゆうと暇に乗った死神に巻き込まれた被害者達の話。
もう少しトラブル内容の会話とか考えてたのですが、キャラ崩壊しそうだったので削除しました。
母の日はある意味皆のお母さんと思ったら奏鈴さんだったけど、やっぱり全員が最初に感謝を伝えると言う意味では冥鎌かなとこの結果に。
どっちも短いので一緒にあげることにしました。