これは、少しだけ昔の物語

ヴァーティエが守り人となって少しした頃、冥鎌を訪ねて来た時のちょっとした出来事。

彼女は悩んでいた。いつもなら相談相手であるイミタンドのことで悩んでいた彼女は、思い切って恩人でもあった冥鎌に頼みに来たのだ。

いつもなら冥鎌のことでイミタンドに相談していた。だからこそ、彼女にとってははじめてのことでパニックになっていた。思った以上に、自分は人との関わりを望んでいて、それでもどうしたらいいのか知らないということに。

昔なら、こんなことすら思いもしなかっただろう。

彼等との出逢いで、彼女の心は変わり、動き始めていた。

 

 

 

 

贈り物を貴方に

 

 

 

二度のノックと共に、入ってきたのは、館内での案内人寧爛だった。

誰かきたのだろうかと思っていたら、すぐ感じた気配と、続いて入ってきた姿を見て納得した。

ここ最近は、知り合い全て来ては寧爛の案内なしに好き勝手やってきて、好き勝手して帰っていく。嵐のような存在ばかりだ。だから、誰が来たのかと最初はわからなかったのだ。

けれど、相手を見たらすぐに納得した。彼女ならどうしたらいいかとあたふたしてここまで来れない。それを以前の訪問で知っていたから、最初から寧爛がここまで連れてきたのだろう。

「ありがとう。仕事に戻ってもいいよ。」

「それでは、私はこれで。」

そういって出て行った寧爛。本当に真面目だなと思う。

「さて、今日はどうしたんだい?」

声をかけると、かなり不安と動揺でいっぱいいっぱいになって涙目になっていて、言葉がでてきそうになかった。

きっとまた、いろんなことを考えすぎてどうしたらいいかわからず、それをいつも側近であるイミタンドが話に付き合うのだろうけれど、それができずにこうなったんだとわかった冥鎌は、とりあえず席を勧めた。

なんとか席に座って、少し落ち着きだした彼女に、今度は質問を変えて聞いた。

「イミタンドのことで何かあったのかい?」

彼女がここへくるのは、大抵彼と一緒にだ。むしろ、何か話があれば彼にしてからここへ来る。

なんとか自立しようと頑張る彼女は、最初に冥鎌に頼るのをやめ、少しでも自分でできるなら先に自分でしてから、無理だったら助言をもらいにくる。そうやって、仕事もこなしてきたはずだ。

けれど、そうでないとするなら、彼のことで何らかの悩みがあり、それは自分ではどうにかできず、彼を飛ばして自分の所へきたということだ。

「あ、えっと、その…。」

「ゆっくりでいいから。一つずつ言ってごらん?」

「あ、はい。あの、その…私、いつもイミタンドに助けてもらって…。」

言葉はつまりながらも、イミタンドのことでの話だということはわかった。

「今度、町で大事な人に贈り物するって…だから、いつものお礼に…。何かしたい。でも、イミタンドが何が喜ぶかわからなくて…。」

長い話の末に、理解したことは簡単だった。

世間では、地域によって様々なイベントや風習がある。しかし、人からの迫害を受け、人から離れて生きてきた彼女にとっては、そういったことを知らないことが多い。けれど、この仕事をはじめ、いろんなことを知って行く過程で、今度ヴァレンタインというものがあることを知った。だが、それの意味など正確に知る人はいない。

彼女もその日を大事な日に贈り物をするという日だと思っている。

それをあえて訂正するのもややこしくなるので言わないが、とにかく普段から感謝しているイミタンドに贈り物をしたい。今度大事な人に贈り物をする日があるのなら、彼に贈りたい。けれど、そのことを相談するには、日ごろの相談相手では意味がない。

パニックになった結果、冥鎌のところへきた。それが現状のようだ。

「話はわかった。なら、贈り物ということを考えるより、何かしたいと考えた方がよくないか?」

「どういうことですか?」

全部話し終えたせいか、落ち着きを取り戻しつつある彼女は、冥鎌の言葉に問い返す。

「ありがとう。その言葉を伝えるだけでも、意味はある。下手に考え込むより、そういうことも、あいつなら喜ぶと思う。気持ちを返したい。そう思うのなら、な。」

「そう、かもしれません。」

何かが欲しい。そう望んで共にいるわけではない。確かに、お互いの過去の環境の上での理解者であり、共にいたいということこそが、望みであるためにいるのだ。

考えすぎていて、一番大事なことを忘れていた。いや、そういう大事なことを想える相手が今までいなかったと言う方が正しいかもしれないが、少しだけ恥ずかしい。

「もし何かしたいなら、言葉と一緒に、何かを贈ればいい。それこそ、自分で何かをつくってみたりしたらどうだ?」

この館には、料理を教えてくれる者も、簡単な装飾を教えてくれる者も、癒しのハーブティーの入れ方を教えてくれる者も、それこそ、綺麗な花のありかやそのアレンジを教えてくれる者もいる。

「どうだ?町へ贈り物を探しにいくのもいいが、何をしたいか決めたら、その先生にやり方と材料を教えてもらって、それを買いに出かけるのはどうだ?」

「はい。いつも入れてくれるおいしいお茶を、今度は私が彼に入れてあげたいです。」

私の為に、私を想っていつも入れてくれるおいしいお茶。今度は自分が彼の為にいれてあげたい。小さなことかもしれない。けど、彼ならそれでも喜んでくれる気がした。

きっと、彼も私同様に、誰かに何かをしてもらうことがほとんどない場所にいたから。私が嬉しかったことを彼にもしてあげたい。そう思った。

「なら、まずはホーレインのところにいくか。」

「はい。」

そして、向かった先に、ホーレインとネルタがいた。珍しい組み合わせだと思ったら、夕輝から預かった品を届けに来たのだという。

ネルタが頼んでいたものを受け取った際、丁度急ぎの別件が入り、珍しくネルタが引き受けた。

その現場に立ち会ったようで、主張が少ない彼女にしては成長したなとなんだか凛々の時同様に親の気分になったが、今はそれより別の用事があるので、思いにふけるのはあとにしておく。

「どうかされたんですか?」

「実は…。」

事の経緯を説明すると、快く了解し、おいしいハーブティーの調合を書いたレシピを受け取った。料理に関しては奏鈴や翔世の方が得意だが、ハーブティーに関してのみは医学をかじっている彼の方が得意だ。

このレシピをもとにアレンジをすることに関しては翔世の方が確かに上ではあるが。

「あと、もし時間があるなら…。」

ホーレインはこの時期この場所にならと、夕輝から聞いた情報を二人に教えた。

「成程。確かにそれはいいな。」

「はい、とっても素敵です。」

彼のかつての故郷には良く生えていた花がある。その花が、珍しくこの時期にとある森の中に生えているのだという。それは煎じてすり潰し、別の薬草と混ぜることで擦り傷用の薬になることもあり、ホーレインはそういった情報を夕輝やケルタから聞いたりしていたのだ。

「けど、場所が場所だから…。」

「なら、私もいく。」

ちょうど、仕事がないからやることもない。そう言って立候補したのはネルタだった。

「ありがとう。助かるよ。」

頭を撫でると、うれしそうに綻ぶ頬。本当に表情が豊かになってきたなとなんだか嬉しくなってくる。

「じゃあ、材料集めに町へいったあと、行ってみようか。」

「はい。ワタクシ、がんばります!」

気合を入れ、部屋を出た。すると、どこから聞きつけたのか、行くっ!と文字通り飛んできた凛々が冥鎌に飛びついた。

「わかった。だが、遊びじゃないからな。」

「うん。凛々いい子にしてるよ?だめ?」

一応趣旨を理解しているのか、ヴァーティエにお伺いをたてる凛々。彼女は一緒に行こうといってくれたので、喜んで彼女にまで飛びつく始末。

「ほら、時間がなくなるからそれぐらいで…。じゃあ、行こうか。」

こうして、4人という本来の予定より大所帯になりながら、館を後にした。

 

 

 

 

町で材料はあっさり見つかり、次の目的地である森へと向かった。

この時、ヴァーティエは思い出していた。まだ幼い、見世物としてでもいいから歌っていたいと願っていたあの頃よりずっと昔の頃のことだ。

今はすっかり忘れていたが、森に足を踏み入れた瞬間、フラッシュバックした記憶が身体を強張らせる。

この背にある翼のせいで、人の輪の中で生きられず、隠れて育ててきた母。妹にも寂しい思いをさせてしまったことだろう。

それでも、幸せだったとも思う。三人だけだったけど、三人一緒にいられたのだから。

それこそ、イミタンドと出逢った時のように、翼を狙う密猟者が現れるまでは、だ。

「どうかした?」

いつの間にか足が止まっていたらしく、ネルタが声をかけて来た。私はなんでもないといって、足を進め出すが、きっとネルタだけではなく、冥鎌にも気づかれてしまったことだろう。

何か、心に別のものがあって、それを気にしているということに。

それでも、私が言うまでは私の判断に任せてくれるところにはほっとしている。今聞かれても答えようがない。

それこそ、少し動揺していて今頃どうしてと思うのだから。

あの日の悲劇から、ある意味で始まった。それでも歌いたいから生きていた。それを奪われて、死ぬことも考えた。

けれど、今も生きている。あの頃とは違い、生きていたい目的も見つかったからだ。

そして、あの頃とは別に一緒にいたい人達もできた。それが、大きく変えた。

だからなのかもしれない。ずっと考えないようにしていて、忘れようとしていたあの出来事を思い出したのは。

気になっているのだろう。ちょうど、こんな森の奥で暮らしていたから。

進んでいくと、ひらけた場所にでた。

そこに、大きな池と目的の花が咲いていた。

「綺麗…。」

「あれを摘めばいいの?」

「うん。これぐらいの花瓶に入るぐらいでいいから。」

「わかった。」

凛々に手で大きさを言うと、笑顔で返事をして走って行った。

ヴァーティエも今は忘れようとして、花を摘むことに専念した。誰かと何かをすることが少ないヴァーティエにとって、凛々といろんなことをしゃべりながらすることは楽しくて、悩むのを忘れかけていた。

その時だった。

突如変わった周囲の気配。すぐに凛々も周囲に警戒を始める。

「主様…。」

「ああ。この辺りも多いと聞いていたからな。本当に出るとは思わなかったが。」

「何がですか?」

確かに周囲に誰かがいる。それも複数だ。こちらを伺っていて、明らかに味方というよりも敵である。

「この辺りは人攫いや密猟者も多いんだ。」

「だから、私ついてきた。きっと、私が来なかったらホーレインか、奇蝶がきてた。」

ヴァーティエは館の主の大事な客だから、いくら身を守る術があろうとも、安全のための保障は必要だ。そう言った彼女に、また自分はそういうところの考えの甘さを思い知った。

きっと、これから一つずつ知っていけばいい。そう言われるのだろうけど、自分もまた、誰かの為に何かをしたい。そう思って行動したことが、また周りに迷惑をかけてしまっている。

「ごめんなさい。」

「気にすることはない。」

「そうだよ。ティティは悪くない。誰かのために何かしたい。それはいいこと。凛々もれんちゃんにたくさんたくさん、何かしたい。でも、その為に皆の力を借りる。それ、悪いことじゃない。そうでしょ?」

「誰かの為に何かをしたい。そう言う気持ち、大事。」

「できないことなんて一人だとたくさんあるんだ。だから、助け合って生きていく。」

そうしないと、暴走した想いや力がこの世界を壊してしまう。それを止めるのが自分達の仕事であり、それをするための協力する仲間がいる。だから、困ったことがあれば頼ればいい。今はもう、仲間がいるだろう。そう言われて、涙がこぼれる。

仲間がいる。それはわかっている。けど、あまりにも世間を知らな過ぎたから、一人でもある程度できるようにとがんばろうとしていた。なんでも一人でと気負い過ぎていた。助けてということを考えもしなかった。

一緒に悩んでくれる人がいる。本当に自分は馬鹿だなと思う。

その為に、自分は日ごろの感謝の為に何かしたいと思えるようになったのに。その結果、結局巻き込んでしまっているのに。

巻き込んでも、最後まで付き合ってくれる仲間がいる。なら、迷惑をかけると言う遠慮は彼等の好意に失礼だ。

「もし、攻撃してくる敵なら、ワタクシも戦う。彼の為にしたい気持ちは嘘じゃない。だから、ここで邪魔されたくない。助けてくれますか?」

「勿論だよ。」

「そのためにきた、ですから。」

「たまには人に頼って次の機会に助けてあげたらいいんだから、気にするな。」

そう言って、彼等は全員気配のする方へ向いた。

「どっちにするのか知らないが、さっさとでてきたらどうだ?」

「どっかいくなら、どっかいってほしいヨ。」

こないなら、こっちから行くけど、どうする?そう凛々が言うと、気配のいくつかに動きがあり、こちらへと姿を見せた。

明らかに、ガラの悪いごろつき集団だ。

「俺達に気づくとは恐れ入った。」

「悪いことはいわねぇ。大人しく金目のものと、そっちの天使の羽をくれりゃあ、何もしねぇ。」

悪い話じゃないだろう?そう言ってくる相手に、やはり自分がまた狙われていたのだと、そのせいでまたあの時のようにと、フラッシュバックが脳裏をかすめる。

けど、あの時と違うのは、共にいる仲間がいて、その仲間は自分なんかより強い存在だということ。

「れんちゃん。あいつ、嫌い。倒していい?」

「ああ。後々面倒になるから、ある程度手加減はしてな。」

「ネルも、あの人たち嫌い。一緒。」

「好きにしていいが、加減だけはちゃんとしろよ?素人なんだから。」

あまりにもなめられている発言の数々に、さすがに相手もキレたらしく、隠れていた他の連中も姿を見せ、一斉に得物を抜き、襲い掛かってきた。

「今回は、アイツ等に譲ってやってくれ。」

「え?」

「ストレス発散もかねて、腹立つから潰すみたいだから。」

「でも…。」

「もし、君が言われたことで怒って、自分の意思で戦うのなら止めないけど。」

たまには何もせずにいるのもいいんじゃないか?そう言われて、どうしたものかと考えている間に、二人がどんどんごろつきを仕留めていく。本当に、自分の出番なんて必要がなさそうだ。

「でも、いいんでしょうか?二人に任せたままで…。」

「いいんだよ。大事な仲間であるヴァーティエのことを物のように言ったことにも怒ってるんだから。」

その気持ちに甘えておけばいい。そう言われて、こんな時なのに嬉しくなった。

彼等にも、仲間だとちゃんと思われていたこと。最後の最後で何度思うようにしても、自身がもてずにいたのに。

あっさりとその壁を壊して手を差し伸べてくれる。

「ほら、終わったみたいだ。今日の君の仕事はその花を持ち帰ることだ。君が戦いに加わったら、その花を守れない。だから、こういう日があってもいいんだ。」

そろそろ戻ろう。そう言うと、倒し終わった二人も了承し、館へと戻った。

 

 

 

 

奏鈴からポットを借り、レシピにそって淹れる練習をし、その後、お茶の付け合せとしてチョコクッキーを教わって作り、自分の帰る場所へと戻った。

すると、出かけてくると一人出て行ったことで酷く心配したイミタンドが出迎えてくれた。

「本当に心配したのだから、次は止めて下さいね。」

「でも、それは聞けない。だって、ワタクシは貴方の為にしたいことをするんだもの。」

その為にイミタンドの手を借りてはいけない。

仲間として手を借りるのは、間違いではないのだろう。けど、自分がしてあげたいことを、その間の手を借りるのは違う。だから、違う誰かの手を借りる。その代り、今度その誰かが困っていたら助けてあげる。

その繰り返し。そういうあり方で人ともっとかかわっていきたい。そう思えるようになった。

「ねぇ。聞いてくれる?」

いろいろあった、今日のこと。ちゃんと話すから、また一人で出かけることを見逃してほしい。

ちょっとした冒険みたいで、楽しかったのだと言えば、彼ならわかってくれるだろう。

それに、心強い仲間が一緒なのだから。

「今日は、ワタクシがお茶を入れるわ。それと、貴方に食べてほしいものもあるの。」

だから、少しだけ部屋で待ってて。準備ができてから、ちゃんとお迎えしたい。

「わかりました。その好意はありがたく受けます。でも、もし問題が起きたらちゃんと呼んでくださいよ?」

「わかってるわ。」

たくさん話したいことがある。そのことを考えながら、お茶とクッキーを用意する。

そして、最後に花を飾り付ける。

少しだけ、彼が私の為にお茶を入れてくれる時の気持ちがわかった。

次から、時々私もお茶を入れさしてもらおう。そう思って笑みが浮かぶ。