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sideヴァーティエ 降っていた雨があがり、空から雲が切れ、蒼空が顔をのぞかせる。 「午後は外でお茶ができそうですね。」 そう言うと、彼女は嬉しそうに空を見上げ、外でやりたいと答えた。 「最近落ち着いているから、あの方のところへ行きたいけど…。」 「そうですね。幻神楼は大抵忙しいですからね。」 会うことすらできないかもしれない。こことは比べ物にならないぐらい、人が多い。 人と接するのがまだ怖い自分達にとっては、ここでの生活は苦ではないのだが、彼と会うことが難しいことだけは不便だと思う。 「ヴァーティエ様。せっかくですから、お茶の後に、外へ出かけてみませんか?」 「そうね。綺麗な虹が見れるかもしれないわね。」 クリムアートも呼んで、一緒にゆったり過ごすのもいいかもしれない。 晴れ空の下で―sidestory-SpringVer side紅 チリン―― 静かなその場に、響いたのは凛とした鈴の音。門が刻む時の音だ。 昔から、この音が好きだ。変わらず続くこの音を聴いている間は、この世界が無事だと言う証明で、好きだった。 この世界は好きではない。矛盾しているが、大切なものと奪っていくこの世界を好きにはなれない。 けれど、大切な人が今を生きているこの世界を壊すことはできない為に、今日もこの世界の平和と維持を望んでいるのだ。 全てはそれだけの為、だ。 「姉さん。」 「…蒼。」 門への安定の為と、強固な封印の為に、門番である自分たちは、ここ数日ここに籠って門に魔力を捧げていた。 あれからどれだけの月日が過ぎたのかは知らないが、弟である蒼がきたということは、目的の日数分は籠っていたってことだろう。 この世界のことを大事な人が生きている為に維持を望む私にとって、それ以外がどうなっていうようと興味がない為に、やりだしたらいつまでもここに籠りっぱなしになる私を弟はいつでも迎えに来る。 だからこそ、安心して籠れるということもあるが。 「今日はどうしてたの?」 「空、見てた。」 あの青い空。どこまでも続く、どの空とも続く蒼をひたすらみていた。 もしかしたら、もういない友人がいる場所にも、この空は続いているのじゃないかと、少しだけ思ったから。 「そっか。…最近はよく晴れてるもんね。」 ここから出よう。セイファも食事を用意して待ってると、ここから連れ出す。 「せっかくだから、庭でお茶にしよう。」 きっと、気持ちいいから。そう言って連れ出す弟。私が、守りたい最後の砦。 どうか、奪わないで下さい。 もし奪うと言うのなら、今度こそ世界ごと終わらせてみせる。 私が歪むことを友人も弟も望まないから、それだけはわかるから、そうなる前に、全て壊して終わらせる。 その時は同じ場所へ還れないから、二度と会えないかもしれないが、大切なものを奪い続ける世界なんて、私はもういらない。この門を守る理由もない。 「マスター。」 「…紅。それでいい。いつも言ってる。」 「はい。でも、私にとっては恩人であり、姉の大事な友人であり、自慢のマスターですから。」 「…。」 私をいつも負の感情にまみれた世界から引っ張り出す二人。 空を見上げると、やっぱり綺麗な青空が広がっている。この同じ空の下に、もうしばらく一緒にいたいと思う。 sideレニル 空が明るくて、少しだるい身体を起こして、店を出た。 今日は臨時休業だ。 「今日こそ!!」 意気込みは十分。今日こそ呪いを解くために、呪いのことを調べて答えを見つけてやると、気合を入れた。 今日は久しぶりの休み。店長も留守にしている。 この日にどこにいるのかは知らない。彼が彼であるための必要な用事であるのなら、私が口を出すことではない。 いくつか借りた本の山を制覇する為に、調べ物を開始する。 こちら側のことを知れば知るほど、本当にいろんなことがあり得る不安定な世界だという事を知ることになった。 それと同時に、強大で絶対的な力の存在も知る羽目になった。 けれど、私にとって大事な店長の為に呪いを解きたい。いつも助けてくれるお返しをしたい。 その為には、私はあまりにも知らないことがまだまだ多すぎる。その為に、様々な本を借りたのだ。 調べていけば、それに繋がる糸口が必ずあると信じて、今は進む事にした。 いつか、一緒にこの綺麗な空の下を隣で歩きたいと思いながら。 「あれ?」 店長が戻ると、机の上で眠るレニルの姿を見つけた。調べ物をしながら疲れて眠ってしまったのだろうと、辺りをつけて上着をかけてやる。 「本当、いい子だよね。」 ほとんど諦めつつあるこの呪いのことを、自分よりも必死に捜そうとしてくれる少女の気持ちが嬉しかった。 「きっと、本で調べてもの、これは答えに辿り着かない。とても、複雑なものだ。」 それをわかっているからこそ、半分以上諦めているのだ。チャンスさえあれば、それにかけはするが、今のところそうなる気配は何ひとつない。 それでも、探そうとして、けれど、足りない知識を補うために必死で勉強する。 「いつか、大物になるかもしれないね。」 まだまだ力の弱い吸血鬼ではあるが、この先は誰よりも厄介で強い吸血鬼になるかもしれない。 「夜の闇より、君の笑顔はあの空のように晴れ渡って美しくて、時々俺には眩しいよ。」 羨ましいのかもしれない。年甲斐もなくないものねだりとは、みっともない話だ。 けど、本当に彼女ならこの呪いをといてしまうのではないかと少しだけ思ってしまう。 「無茶だけはしないでよ。」 店長は、そっと部屋から出て、自分の執務室へと向かった。 side真代 使い魔としてではなく、ただ、暇を持て余して出歩いていただけだった。 こんなにも綺麗な晴れていると、じっとしていたら眠気に襲われて、そういう時に見る夢に、悪夢が混じってろくなことにならない。 気持ちがいい時ほど、悪夢は前触れなく姿を見せる。 第六感に近いような、曖昧な予知夢。それが大事な仲間に危害を加えるものではないことを祈りながら、いつも夢を視る。不思議なこの感覚は、今も好きではない。 ふと、足を止める。見覚えがある場所にでたからだ。 「最悪。」 ぼやきたくもなる。災厄の悪夢ではないにしろ、ここは、つい数日前に夢で視た未来と被る場所だ。つまり、今から先日視た光景が起こるということだ。 このまま通り過ぎても良かったが、知っている以上、やはり見て見ぬふりはできなかった。 本当は、枷を外し、本来の力を開放した方が楽だ。けれど、今の主としている白灯との約束があるからできない。 力は、時に悲劇を招く。だから、使い方を誤ってはいけない。その為、強すぎる力を気軽に使えないようにしているのに、いくら気になることがあったとしても、使ってはいけないのだ。 でも、火が対象なら、火が起きないように、風を上手く使っても得ない様にすればいい。もしくは、さらに強い火で飲み込めばいい。 多少の騒ぎにはなるかもしれないけど、この町が燃えて赤く染まるのは、あまり見たくない。 「せっかくの化粧もセットも乱れてしまいそうだけど、人助けって柄でもないけど、やっぱり私は心無い化け物にだけはなりたくないし、後悔もしたくない。」 その日、誰にも気づかれることなく、放火事件は収束した。それ以降、おこることもなく、犯人を誰も知らない。 「でも、迷子の火の精霊が泣いてたって理由だとは思いませんでした。」 「…あの日だけは、火の回りがよくて、逃げ遅れた奴がでるから。仕方なく、だ。」 「でも、良かったです。最初の頃を考えると、他人のことを想えるようになって。」 「それはあんたもだろ。」 お互い、人ではない者同士、人との距離を取りかねていた。それでこそ、白城は主と定めた白灯以外を、敵であれば容赦なく排除する傾向にあった。 自分だって、最初は彼等と共に生きることを選んでいたわけではないので、敵意を向けられていたのだから、生きた心地がしない。 あれは、暗い闇のようなものだ。簡単に、堕ちてしまう。それぐらい、危険なものだった。 それを変えたのは、いや、信頼を勝ち得たのは白灯であり、付き合いの中で、自分達もまた、仲間としての信頼を得たのだ。そう思うと、昔の自分が馬鹿みたいに思えるが、あれもまた必要だったのだ。 あの昔があったからこそ、つぎはぎのような自分たちが出逢えたのだろうから。 「でも、私達はあなたの予知でとても助かっているんですよ。」 忘れないで下さい。そう言って、彼は戻りますと、仕事の下準備の為に席を立った。 「今日は晴れると教えて下さったので、久しぶりに布団を外へ干せました。」 最近は雨と仕事が続いて、白灯にも申し訳ないと思っていたので助かったと、彼は言って部屋を出て行った。 「本当、今も変わらずあの人はあの御嬢さんのこと優先みたいだし。」 けど、気味悪がられて、けど回避できない事態においてこの力を呪いだと罵られた日々を想うと、少しうれしかった。 「また、今日みたいに晴れる日がわかったら、教えてもいいかもな。」 そうしたら、きっとふかふかの布団でいい夢を視られることだろう。 彼等の想いが、悪夢を和らげてくれる気がした。 sid誰かの記憶 いつかの話をしよう。 こうやって、争いが続く世界が、終わったら、何をしようか。 それこそ、世界が終われば、何もできないだろうけど、未来がどうなるかは誰にもわからないのだから、未来を夢みてもいいだろう。 たとえ、戯言のようなものであっても、願うのは自由のはずだ。 そうでしょう? 今の私達には、敵がいて、その敵との戦いで、たくさんの命が消えていくのを見ていることしかできないかもしれない。 終わりがあるのかさえ、わからない。何故こんなにも争いが続いているのかさえ、わからない。 はじまりがなんだったのかさえ、知っている者達がいなくなっていく。 理由も分からず、戦うことが当たり前になる世界は少しだけ嫌だ。 だから、もし子どもが出来たら、争いなんかない世界だといいな。 だから、今はまだ子どもが欲しいとは思わない。 だから……そう思って、いつかを夢みた話をするのは楽しい。 いつか、私がいなくなっても、できれば悲しむばかりではなくて、笑っていてほしい。 思ったより、大切な人達がいるから、そういう世界であってほしい。 そう望むのは、悪いことなのかしら? 今となっては、私はこの世界から切り離されてしまったから、何一つ彼等に言えないし、手を貸すことすらできない。 願うことはただ一つ。 何もできない私が願うのは、彼等の安息。 幸せだって願えるかもしれないが、彼等は決して不幸だとはいえない。この世界で必死に生きている彼等に願うのは、争いで疲れた彼等を癒す安息の日々だろう。 優しい光が、風が、温もりが、彼等を癒してくれるように。 いつか世界が壊れて、終わりを迎えたとしても。その時にまた会えたら、最期まで言えなかったことを伝えよう。 そして、お疲れ様と彼等を迎えてあげよう。 もし、本当に逢えるのなら。 sid最後 春の日差しが、冬の終わりを告げる。 芽吹き、青々と草花の匂いが風に乗る。 壊れかけながらも、まだ必死に生きようとしている世界の上で、今も生きようと多くの者達が葛藤しながら前を向いて進んでいく。 それぞれの思いが繋がる先に何があるのか、きっと誰にもわからない。 今はただ、同じこの空の下で、同じこの大地の上で、同じ時を刻んで生きている。 さまざまな繋がりが、いつか未来を変えていくかもしれない。 そんな期待を乗せて、始まりの春は唄う。 また、再び春が始まることを。そして、次もまた春が廻ることを望みながら。 |