範囲を拡大し、館周辺も探りを入れたが、異変はなさそうだ。

「それで、今日はもう出てこないと思ったが…どうした、凛々?」

いつの間にか、音もなく部屋に現れた凛々。普段のような明るさも何もない少女はかつて出逢った当初の感情がかないあの頃と似ている。

「…皆、いない。れんちゃん、大変。凛々…。」

「大丈夫だ。…そう言えば、あの日からお前は、いなくなると同時に、周囲に出会う頃以上の警戒を持ってたな。」

忘れていたが、姿を見せなくても、誰よりも周囲に気を向けて、休もうとしなくなった。

それが最初こそ心配していたが、それで本人の気が済むのならと好きにさせていた。

「絶対…そう、約束はできない。」

何があるかわからない。多少思うことがあっても、彼女とてあの終わりが本位かどうかは今ではわからないが、望んでなるものではない。

そう言う意味では、この世界は平等で、非情で、歪んでいる。

「凛々、もうやだ。大事なもの、なくしちゃうの。だから、守る。…守る。」

かつては、守るという意思を持つことがなかった。それこそ、言われるままだった。

たとえ、どれだけ嫌だと思っても、それを口にしても、変わらない現実に、彼女はずっと心を閉ざしてきた。

そんな凛々が、大事にしたのは自分と彼女で、守りたいという気持ちが執着のように酷く強くなったのは、彼女の死から。

いつか凛々が堪えきれなくなって壊れてしまうんじゃないかと心配になる。

「街に出かけた連中も、援護に出た連中も大丈夫だ。」

「…。」

「生き残るための逃げる術を知っている。助けるということの意味を知っている。そういう連中だ。」

もし、失う事になるのなら、その原因には心から後悔する生き地獄を返す。ただ、それだけ。

この世界は死んで消えるよりも、生きている上での地獄の方が恐ろしい。

死ねば、消える。ただそれだけの者もいるが、大半は死者の世界で、何もかも忘れて楽しく過ごす幻覚の中で囚われて過ごすことになる。

そう、死んだ方が、気づかない愚かな宴の中で出られないという制約はあるものの、楽と言えば、楽なのだ。

それを、許すつもりはない。

「失ったからこそ、痛みを知った。それはもう、取り返しのない深く付きまとう痛み。」

痛みを知らないままでは、幸せや喜びがささいな日常の中にもたくさんあることに気づけないことも多い。

表裏一体。

けど、辛い中にいた凛々には、もう少し楽しい思い出を作ってほしかったし、あの頃以上の強い殺意や負の感情を濃く持ってほしくなかった。

「痛みは死と同じく付きまとう。それこそ、幸せのすぐとなりにある。そのことを理解する前に、理解せざるえなかった。だから、今もそれが引っかかっている。」

「凛々、嬉しかった。だから、悲しくて、つらくて、あいつが憎い。」

同時に、あの頃以上に命の重さも知った。そして、命を簡単に奪う側にいた時分のことが前以上に嫌いになった。

いろんな感情が、凛々の中で渦まき、今も整理がつけず、前に進めずにいる。

こうやって、またこの日が来るたびに思い出し、また後退する。

そんな凛々を見てきたからこそ、自分が落ち込んでいられない。余計にそう思った。

あそこからここへ連れてきてしまった原因は自分なのだから。

「あいつらが帰ってきたら、ちゃんと出迎えてやれ。」

帰る場所があること。出迎えてくれる人がいること。それが自分にとっても、凛々にとっても、日常の中の喜びの一つになっている今、

あの日、出逢い、学んだ凛々ならわかっているはずだ。

凛々の帰る場所と出迎える喜びを最初に教えたのは彼女なのだ。

だから、ここができて、人が増えて、時々出迎える凛々は、ちゃんと彼女がしてくれた幸せを知っている。

「お前がいつまでもそんなんじゃ、いつまでもあいつにいい報告ができないじゃないか。」

中身のない、彼女へ報告する為だけにつくった、自己満足と呼ばれても仕方ない墓標。毎年、あったことを報告していくが、引きずる凛々が暗いままでは、彼女も気がかりを残したまま、ゆっくりできない。

「ごめん、れんちゃん。憎むこと、命を奪う事。リンちゃん嫌い。けど、凛々はどうしてもあいつだけは恨むことも命を奪ってでも倒すことを諦められない。」

「…そうか。」

「リンちゃん、怒るかな?」

迷子の子どものように、不安そうにこちらを見つめる瞳。

「怒りはしないだろうが、困ったように笑って、好きにさせてくれるだろう。だが、状況次第では全力で止める為に邪魔するだろうな。」

「うん、リンちゃんならそうだね。」

今も尚、忘れる事のない、もう一人の大切な存在。

ここが大切な場所になっていけばいくほど、薄れるどころか深く影を残す彼女のこと。

「凛々、やっぱりあいつが嫌い。だけど、それで今ある大事なもの、失いたくないから、もう隠れない。」

あの日のことを忘れるつもりはない。けど、戻らない日の、どうすればよかったと後悔することは卒業する。

「ここは、凛々の帰る場所。れんちゃんがいて、皆いて…大事な場所。だから、凛々のできることで、凛々は皆とこの先を一緒にいる。」

仲間だと言ってくれた人達を、肝心な時に助けられなかったら、またあの日のように後悔する。

それだけは嫌だ。

「じゃあ、これからは今日が『記念日』でリンテに報告会にしようか。」

「うん。」





<END>


リンテ報告end+++