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気が付けば、一人で知らないところにいた。 「何だ、これは…。」 とにかく状況整理の為、覚えていることを順番に思い出すことにした。 そうしたら、そんなはずないのに、記憶として残されている異常な事を知ったことになった。 「何故、俺はシャルテとホーレインを祖父母だと認識していて、あいつらが鬼退治に行かせるんだ?」 おかしな力で記憶までいじられている現状にげんないする琴詠は、とりあえず目の前に立って楽しそうにこっちを見ている奇蝶に話しかけた。 「もちろん、勝負といいたいところだが、一緒に鬼退治行くためにわざわざきたんだ。」 さっさと行くぞ。そう言って名乗った彼女は、琴詠の部下でサルだと言った。 まさかだが、これは自分も知っている民謡の世界なのではという疑いが濃くなった。 鬼と剣士の物語 どうしてこうなっているのかはわからない。ただわかるのは、間違いなくここが幻神楼がある今までいた場所ではないということ。そして、知っている民謡通り、鬼を退治する為に鬼が住む島へ行かなければいけないこと。 道中で出逢った、キジだという凛々とイヌだというホーレインと、どうしているのかわからないが、船漕ぎのセイレと道案内人だというネルタが共についてきた。 「結局警備長五人と凛々が一緒と言う時点で、俺は仕事する必要性を感じないが。」 「まぁまぁ。もしかしたら、とても鬼が強いのかもしれないだろ?」 「そうっすよ。今から楽しみっす。勝てばご褒美っす。」 「ネル、頑張る。」 「よし、どっちが多く倒すか勝負だ!」 「凛々もやるー!」 まとまりがあるようでない連中はとても自由だ。どうして自分が彼等を率いる立場なのだろう。それは間違いなく主である冥鎌のはずだ。 「そう言えば、主様がいないな。」 「そう、だな。」 「嫌な予感しかないんだが。」 もし、鬼がいたとして、誰も倒せない程強い奴なのだとしたら、もしその正体が想像した相手であれば、間違いなく自分たちであっても勝てるはずがないのではないか。 「もし、もしだ。鬼が、俺たちが考えている方だとしたら…どうするつもりだ?」 「どうしようか。物語としては倒すべきなんだろうけど…あの子が許さないでしょ。」 そう言って、前を進む凛々を示すホーレイン。確かにもし本当にあの人が鬼であるのなら、全員寝返るし、そもそも凛々が物語を進めることを拒否するだろう。 「ま、行ってみるか。」 ということで、一行が船に乗ってやってきた島。かなり静かなその島は所々、幻神楼に似ていて、嫌な予感が現実味を帯びてきたなと思っていたら、鬼が住むと言う社の本殿についた。 中へ入ると、そこにはやはりといっていいのか、予想通り主様である冥錬がいた。 「あ、れんちゃん!」 予想通り、嬉しそうに刃を向けて振り下ろした。もちろん、ため息をつきながら、簡単によけた。 「いきなり何事かと思えばお前達か。」 「主様。お客さん。」 「頼まれた通り、案内してきたっす。」 すでに寝返りというか、はじめから味方じゃないという事を暴露する二人。 「凛々もれんちゃんと一緒がいい!」 「子どもに後れを取るつもりはない!」 結局、鬼退治なんかこの面々でできるはずがない。 「やっぱり、こうなったね。」 「そうだな。そもそも、俺たちだってできないだろう。」 「そうだけど、これからどうするかが問題なんだけどね。」 そう言う二人に、今回の状況を簡潔にわかりやすく冥錬が教えてくれた。 結論からいうと、これは夢らしい。それも、全員の意識を繋げた、人為的につくられた夢世界で、こういうのが得意なシュプレインの暇つぶしらしいから、適当に付き合って朝がくれば、勝手に目が覚めるという答えを教わった。 「あの女…やはり次会ったら殺す。」 「まぁまぁ。落ち着きなって、琴詠。原因がわかったし、害はないし。」 「存在が有害でしかない!」 静かに怒る彼に、苦笑するホーレイン。 「だが、実際どうしたら戻れるかはわからんからどうしたものか…やはり、こっちのシュプレインを探すか…。」 そんなことを考えていると、聞いた琴詠はとっ捕まえると出ていくし、ゲームかと興味を持ってよくもわからず凛々と奇蝶もでていった。 「飽きたら向こうからでてくるだろうに。あいつも真面目だな。」 「ま、それが彼のいいところですし。悪乗りするのが奇蝶と凛々で困りものだけど。」 「そうだな。」 そんなことを話していたら、誰かがこっちへやってくるのが見えた。 「噂をすれば、ですね。」 「そうだな。シュプレイン。あとどれぐらい付き合えばいいんだ?」 「冥鎌…わかってるからって、そうやって冷静に話を見て物語を進める気がないのあ面白くないわ。」 「悪いな。私はあまり話をしらないからな。」 「そう。それは悪かったわね。」 ちょうど、この話を教会で読み聞かせをしたのだという。だから、ちょうどいいということでこの話にしただけだが、次はもうちょっと内容を考えるわといった。 「そもそも、これってどういうことなんですか?」 「あら、説明したんじゃなくて?」 「簡単にな。」 「でも、普通はそういうこと、できないだろ?」 そう言うと、そうねと答えたシュプレインが己の能力について簡潔に説明した。 普段は絵をかいて、それを現実世界に実体化させて、それが命を持ち、意思を持ち、動くということ。だが、時々強くなりすぎる力は、文字で書いた物語をも、他者を巻き込んで夢世界で現実であるかのように進ませる力を持ってしまう。これは本人が意思してやることもあれば、意思を無視して力が自動で発生することもあるのでどうにもできないことなのだと。 「つまり、今回は事故ってことでいいんですね?」 「そうね。いえ、違うかもしれない。危なくなることが近いうちに予想はできていたから、命に係わる物語だと危険だから、事前にいくつか巻き込まれたとき用の物語を用意しているんだもの。今回だって、今日あったことでも、これなら危険度が低いからと候補にした一つだったもの。事故ではあるけれど、この物語になったのは私が選んだものだと思うから。」 「でも、過去の経験から、最悪の事態の回避の為の行為なら、やはりこれは事故なんですよ。」 それ以上何も言わなくなった彼女に、冥鎌は少しだけ苦笑して、これはどうしたら戻れるのかを聞いた。 物語である以上、いくら夢であっても、終わりが何であるか知らないと最悪の場合、目覚められないことになりかねない。 あくまで彼女の能力で夢でしかないが、現実さを大いに含んだ彼女の能力は、時に危険な刃と化す。だから、彼女は物語を選んでいるのだから。 「そうね。…鬼退治が物語の終わりね。そして村に帰る。でも、あなたが鬼である限り、死んだら貴方は現実では死ぬことになるわ。」 死ななくても、重大な負担が体にのしかかり、命に係わる大惨事になる。 「あら、それなら問題ないわよ。」 そう言って、ふっと降り立った人影。 「ゆう…白灯も一緒ですか。」 「確か、主様の知り合いですよね?」 「ああ。…それで、どういうことだ?」 一度だけシュプレインの方を見て、冥鎌に向きなおした白灯が答えを告げた。 「鬼を退治してめでたしめでたしになればいいだけのこと。確かにお主も鬼かもしれぬが、鬼は他にもたんとおるであろ?」 そう言って、今まで頭である冥鎌がいるからでてきてなかった鬼が周囲から伺うようにこっちを見ている姿があった。 「鬼はたくさんおる。一人だと誰が決めた?」 集団でやってきて村を襲うから問題視されていた。退治もできずにいた。だが、今なら人でも力も申し分ない。ではやることはというと、一つだ。 「成程。確かに鬼を退治すれば物語は終わる。物語が終われば夢は覚める。そうしたら、この世界から脱出できる。確かに簡単なことね。」 ただ、この世界において、自分は創造主ではあるが、一切の干渉ができないので、物を書いて攻撃するということができない為に見ていることしかできないし、周囲の者達任せになってしまうので申し訳ないが。 「いっそのこと、冥鎌も一緒に戦えば、敵である鬼として認識されずに終われるかもしれないな。」 なら、とっとと片づけるかと、始まる大掃除。 いきなりのことに逃げ惑う鬼たちはいい迷惑だっただろう。全員倒し、終わらせて村に戻れば、確かに物語は終わった。ちょうどどこかへ行っていた琴詠達とも合流できて、そのまま目が覚めた。 あの後、お詫びに来たシュプレインに言わせると、鬼を退治したのに、鬼より性質が悪い盗賊じゃない集団が暴れて盗賊をとっつ構え、有名になっていたらしい。 「あいつ等らしいな。」 「そうね。でも、こんなにも物語が滅茶苦茶になって追加されるなんてこと、はじめてよ。」 「まぁ、いいじゃないか。どうせ、これは悪夢の欠片でしかないんだから。」 「そうね。」 現実とつながる夢物語。死ねば死んでしまう仮想現実でありながら、影響力を持つ悪夢のような世界。 「知り合った人が、強くて良かったわ。」 絶対、物語が暴走しそうになっても、彼女だけは巻き込まないように注意している。そのせいか、他の知り合いが酷くランダム性を持って巻き込まれることになってしまったが。 「ゆうも白灯も…それこそあのシスターだって、夢世界へ引っ張り込んでも、お前を責めたりはしないだろう。」 「そうね。でも、私が嫌なの。」 最初は他人なんてどうでもよかった。私に興味もなく気味悪がる連中のことなんて、どうなろうとどうでもよかった。 「彼女に出逢ってからよ。そして、あんた達と関わるようになって、私は変わったわ。」 「良かったじゃないか。」 「よくないわ。そのせいで、辛いもの。」 この力が、いつか大事なものを壊してしまうんじゃないかって。怯える日々が始まったのだ。 「まぁ、いいわ。…巻き込むことは悪いと思う。それでも、私は彼女だけは守りたいの。」 その結果、彼女と同じ長い髪の知り合いや、上に羽織るものを着てる者や上から下までつながっている服を着ている者が変わりに必ず巻き込まれる。それに、一番合う彼が巻き込まれることは必然といっていいかもしれない。 だから、少しだけ悪いと思っているのだ。でも、彼女だけは巻き込めない。そこだけは譲れない。 「気にするな。これはこれで楽しいからな。」 それに、なるべく危ないことがないように最善の注意をしてくれているのだから大丈夫だと言われ、彼女はお人よしとだけいって、日が暮れるからと帰って行った。 「せっかくだから会っていけばいいのに。」 「嫌。こういう時だからこそ、面倒だし。」 「薄情な奴だな。」 「何とでも。それに、彼女が私が何かいうことをそもそも望んでないし。」 むしろ、互いに言葉を交わさない方がいい。 「だいたい、私達が巻き込まれる原因があのシスターっしょ?」 「そうだな。」 「あのシスター、よくよく様子みたらわかるもんだろうにね。」 「言うな。それは本人たちの問題だ。」 「ま、いいけど。守られている程大人しい奴じゃないけど、守りたいならいいのかもね。」 同じ異端の化け物同士。そう言って、ゆうも帰って行った。 変なところで遠慮してはっきり言わないあの二人のことをどこか嫌っている…いや、苦手にしている彼女はあまり深くかかわろうとしない。 「言いたいことは言わないと伝わらない。別れてからでは意味がない。それを知ってるからだろうけど。」 確かに、ゆうのようにもう一度この世界に戻って巡り合える可能性は低い。そう考えると、そろそろあの二人もどっちか決めるべきなのかもしれない。 「とにかく、まだやってる豆まきを止めにいくべきか。」 賑やかな外で行われる行事。最初は住人全員だろうが、今は凛々を筆頭に攻撃的な奴らのパフォーマンスショーみたいになりかわっている。 そろそろ止めないと片づけもできないし、夕食の支度もある。 あの夢もそうだったが、最近は鬼に縁のあることが多いなと思いながら部屋を後にした。 |