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贈り物をする日(年明けVer) その日、新しい年を祝う宴の準備をしていた。 「手伝うのはいいが、邪魔はするなよ。」 「わかってる。凛々はお手伝いする!」 そう言って、元気よく部屋から出ていった少女に、ため息一つ。確かに目立つ破壊活動はしないから大丈夫なのだろうけれど、心配はつきない。やはり、普段が普段だからだろう。 だけど、今日ぐらいはいいかと思ってしまうのも、毎年のことだからだろうか。 「それにしても、人が増えたもんだ。」 最初は本当に二人だけ。そこに寧蘭が増え、琴詠、ホーレインが増え…シャルテや晴香、賑やかな奇蝶や母のように迎えてくれる奏鈴が増え、人の気配がほとんどない大きいだけの館は人のぬくもりで溢れた。 「そろそろ、建物を増やすべきか…。」 何もなく、荒れない程度に草木の手入れをしている入口付近に居住区を作るのもいいかもしれない。あとは、書庫のようなものを作るのもいいかもしれない。 医学や薬学をはじめ、料理のこと、言語のこと、他国のこと、様々なことを知るための場所が、そろそろ必ようかもしれない。今は責任者としている警備長の五人や奏鈴など、何人かは個別の部で、己の荷物を持っていられるが、他の連中はそうでもない。 「子どもも増えたことだし、学校のような学ぶ場所にしてもいいか。」 日毎で内容を変え、護身術で星架を呼ぶのもいい。怪我や危険な植物の知識としてシャルテや水浪の講義としての時間をつくるのもいい。料理は奏鈴と翔世がいるし、他国の地域情勢は夕輝がいる。 ホーレインだったら言語学もできるか。そう考えると、少し楽しくなった。ある意味、自分は歴史を語るのもいいかもしれない。彼等が生まれた場所がどんなところなのか、知りたい者に語るのは悪くない。 ヴァーティエとイミタンドを呼んで歌と楽器を学ぶのもいいかもしれない。そう考えると、やろうかと立ち上がる。 皆が正月へ向けて用意をする中、一人だけ座っているのも申し訳ないと思っていたところだ。 すっと、目的の館から離れた場所にある、何もない場所に降り立った。 「ここなら日当たりも悪くない。」 後で、シュプレインに娯楽の為の書物をいくつかもってきてもらおう。イミタンドには音楽に関するものを。白灯は面倒だと怒るかもしれないが、きっと白城に頼んでいろんな種類の料理や作法の本を用意してくれるだろう。 ロンなら、他ではなかなかお目にかかれないような歴史や薬学、医学の本をまんべんなくそろえてくれそうだ。ゆうならいろんな民族や宗教に関するものや祭りといった行事ものの本を用意してくれる。 知り合いに、頼みがあると、紙を飛ばし、地に手をついて、集中して想像した建物をつくりあげる。 最初に守り人となった後、ここに立った自分は、あまり考えず、大きな建物を造った。自分と凛々の二人だけ。だけど、広い場所の中に小さくあるのは、寂しかった。 どうせなら、凛々はいつも何もないところにいたから、広い庭や池があり、天界にいた時のような、大きな建物だったら、しばらくの間いろんなところを見て飽きずに遊べるだろうと思った。 ただ、それだけだった。 広いだけ。人の気配もない庭や池、建物の中。天界にいたころは、人が少なくても、ここまで何の気配もないということはなかったから、思った以上に寂しいものだと当時は思った。 「でも、今は足りないな。」 きっと、不便なところはたくさんある。出来上がった建物を見上げて冥錬は考える。 先程送った紙で、返事がきたロンからは、言われた通り移動術と共に空間を繋げると、ついでだからと運び込む手伝いをするついでに机やいすをいくつか持ってきてくれた。水鏡を通し、白灯からも本が届き、中の整理をするだけだ。しかも、白灯は文句を一筆書いておきながら、他の連中に頼んだものもついでに水鏡で届けてくれるのだから、本当に素直じゃないけど優しい人だと思う。 もし、望むのなら町へ出て、学校へ行けるようにしてもいい。その為の場所が必要になってくる。だから、ちょうどいい機会だろう。 出来上がったのは、部屋が三つある建物で、中はそれぞれ書庫、教室のような部屋、休憩したり個人で何かする為の机といすがあるスペース。 「今日は助かった。」 「お安い御用っすよ。何せ、お得意様っすからね〜。」 「そうだネ。それに、いろんな知識ある人間が増える方がこっちも商売やりやすいカラネ。ほな、行くわ。」 そう言って、もう一度空間を繋げて、ロンとファンラの二人は帰って行った。 「利用者がいなくても、ホーレインと翔世あたりが書庫として利用しそうだな。」 手伝いをしてくれる者達に見せる使用作りにも、ここを利用するかもしれない。なら、それでもいい。 部屋に戻ろうと歩いていると、こちらへ飛んでくる凛々の姿があった。 「れんちゃん、何かあった?」 強い力、感じた。敵なのかと、訪ねてくる凛々の頭を撫で、違うよと答えておいた。 「ホーレインと翔世は向こうか?」 「うん。皆向こうだよ。ソウちゃんの料理もショウちゃんの料理もおいしそうだよ。セレセレもおいしいお茶用意してるよ。」 「それは楽しみだ。」 本当に、あの頃を考えると、楽しい場所になったものだ。 年明けを祝った日。館の主である冥鎌から嬉しい贈り物を貰った。 短時間で、知らない間に行われた作業。知っていたら手伝っていたのに。 きっと、皆がそう思った。けど、贈り物として喜んで受け取る方が彼が喜ぶと思って、お礼を言って喜んだ。 「琴詠か。」 「ホーレイン。そっちは薬の調合配分表の作成か?」 できてから利用する、複数の医学書や薬草、薬や調合法などの辞典が揃う書庫。その隣にある、机と椅子で作業できるスペース。 元々本を読むのを好きであったらしい琴詠も、いろんなジャンルのものがあるので、ここで手が空いているときは読んでいるようだ。 「ま、奇蝶とネルタはここで昼寝はあっても、書庫には行かないだろうな。」 文字と無縁の世界で生きてるからな。そういう琴詠に、ホーレインも想像が出来て苦笑する。 「そう言えば、お前は10日に一度、言語の講義、ここでしてるんだろ?」 「ああ。けど、人に教えるのも、結構面白いし、コミュニケーションスキルが増えると、外で何かあっても対応できる力が身につくから、いいと思うし、街へ出かける連中には元々そういうことをしていたしな。」 「そういえば、そういうこともあったな。」 今では、日が決められて、自由参加できっちり様々な授業が行われる。やりたいことをやる為に。学校で学ぶために。本来教わるはずだったのに教わることなく生きてきた為に関わり方を知らない連中が多い中、外で生きようとする彼等の手助けになるようにと、主がはじめたこと。 「でも、年明け最初の授業が、年明けの挨拶や着付けや正装といった古風なものになるとは思わなかったな。」 でも、何かあった時、改まって服装を整える時、着られないと困る連中だってでてくる。その為のもの。 「でも、奇蝶には困ったもんだ。」 「あくまで、体術と棒術、受け身を教えるにしても、あれじゃ、星架に頼む基礎やったあとの実戦と対して変わらないよな。」 だが、身を守る術、判断する能力は大切だ。 「そう言えば、奏鈴が楽しそうだよな。」 「そうだな。料理の授業をしてからやってみたいと手伝い子が増えたり、片づけの手伝いをしてくれたり、いい子ばっかりだと楽しそうだったな。」 「一番の利点は危険な植物を指導するシャルテが、改造植物ださずに、実際の物を紹介することか。」 あれは、医者にとっても、役に立つ。植物やその遺伝子に関する知識はホーレインも超える。 「おや、二人ともここにいたんですか?」 そう言って、現れたのは翔世だ。 「授業、終わったのか?」 「はい。今日は栄養学の方で。」 先日はホーレインと共に応急処置の一部をやったところだ。状況によって対処が変わる為、いくつかにわけてやることになっている。 「そう言えば、来週ですよね。先日の続きは。」 「ああ。また、ご協力願いします。」 「こっちこそ。」 では、夕食の仕込みがあるのでと、出ていった翔世。 「そのうち、生きる知恵として、いろんなジャンルで授業しそうだな、あいつ。」 「確かにそうだね。基本はできそうだし。」 専門的になっていけば、それぞれ得意分野がある為に変わってくるだろうが、基本の授業をできるのは彼がダントツだろう。 「そのうち、先生になってたりしてな。」 「そうだね。」 それも、ありえる未来だなと話していると、そこへ女が現れた。 「あら、こんなところにいたのね。」 「出たな、女!」 きっとすでに戦闘態勢のようになった琴詠。そんな彼に苦笑するホーレイン。 「こら、駄目だろ。」 「本当、貴方は失礼な男よね。私は頼まれたこれを持ってきたのに。」 そう言って、鞄から取り出したいくつかの本。娯楽として、楽しむための物語だった。 「あと、これは貴方に。あの男から頼まれたけど、本当に貴方読むわけ?」 恋愛もので、興味なさそうなのにという女に、何をと反撃しようとして、その本を見て、動きを止める。 「これは…。」 「だから、頼まれたって言ったでしょ?」 タイトルと作者で間違ってないはずだけど、本当に貴方でいいの?と聞いてくる女に、ああと適当に答え、その本を受け取った。 「興味なさそうだと思ったのに。意外ね。」 「うるさい。これは私の趣味ではない。」 「なら、誰かに、かしら?」 「ああ。妻が好きなんだ。」 だから、墓で内容を聞かせ、最後に供えてくるのだと答えると、それ以上シュプレインは言ってこなかった。 「でも、奥さんいたのね。こんなとこであの男にずっとくっついてるから一人身だと思ってたわ。」 「いたよ。だが、妻になる前に死んだけどな。」 「ま、いいわ。じゃあ、貴方じゃなく奥さんの為に、必要ならその作者の他の作品も用意してあげるわ。」 「…何企んでる?」 「別に企んでないわ。」 疑い深く見てくる男にシュプレインはふぅと一息。ホーレインが、助け舟として言葉をはさんだが、それが、琴詠に衝撃を与えた。 「その作者、彼女のことなんだよ。」 「な、何?!」 もう一度、本と作者、そしてシュプレインを見る。 「私は作家よ。だから、いろんなジャンルの話を書くわ。でも、得意なのは恋愛もの。だからといって、貴方が思ったる程、知り合いのことを出す非常識なことをしているつもりはないわ。」 多少、類似したところがあるとしても、あくまでフィクションであることは守っている。そうでないと、紙の上に書かれた文字が、いつか力を持って人に影響を出したら怖いからだ。 彼女の能力は、紙の上に描いたものを生き物のように現実に出して動かせる、命を一時的に吹き込めるものだ。その異端から親に捨てられた経緯から、極端にこの力を見せるのを嫌う。ただ、一人を除いて。 「私は貴方が嫌いだけど、真っ直ぐな思いを持つ間は、嫌わないであげる。それに、私はファンを大事にしているの。」 だから、次から、新作がでたら持ってきてあげるわ。そう言って、彼女は帰って行った。 「良かったじゃないか。」 「…。」 「これで、街に出た時に本を探さなくて済むだろ?」 あくまで、今は亡き彼女の為に、探して買い、読んでいただけ。楽しそうにしていた彼女への手向けとして。だから、いつも探すのに四苦八苦していたのを知っている。 「もしかしたら、そこも、主様は知っていたからかもしれないな。」 「そう、だな。」 気づかれないように何でもやってしまうあの人。いつになったら、隣に立てるのか。 きっと、いくらでも隣には立たせてくれるだろう。けど、追いつくことはできそうにない。 「あ、いたいた。」 「こんなところに珍しいですね。」 「でも、お前等だったらここにいるだろうって主様が。」 そう言った本と無縁でいそうな代表例であるセイレ。確かに、主様ならアドバイスとしてここを教えるだろう。 「それで、何の用ですか?」 「翔世と寧蘭、シャルテが少しだけ周辺の警戒しておくからって、警備長の五人そろって、せっかくだから新年最初の集まりでもするかって主様が言ったんだ。」 お茶とお菓子、新年の挨拶と、改めてゆっくり過ごす最初の時間。きっと、常に誰かが警備としてついているから、五人そろうことはそうそうない。その為に時間を作ってくれたのだという。 「なら、急いでいかないとな。」 「おう。でも、今回凛々も警備だから、お菓子を横取りされる心配はないっすよ。」 そう言って笑うセイレ。つられて笑う二人。 今年も平和な日々が続きそうだ。 |