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贈り物をする日(花祭りVer) sidレセリア その日、春の訪れを祝う祭りがとある街で執り行われた。 かつて、世界には精霊がいて、四季折々の姿に変える者達が時期になると訪れ、その為に春が来て、夏が来て、秋が来て、冬が来る。そしてまた春が訪れる。 眠りという意味が強い冬から、目覚めの春の時期はだいたいどこも祭りを行っている。 とくにここ、華恋香では、春夏秋冬の四つの季節に合わせ、信仰する精霊の主へと舞を奉納する。 ちなみに、地域柄もありレセリアが冬の舞を奉納する御子としてここ数年名を連ねている。退屈だし、悪い風習でもないのでレセリアは人を演じて人の中に紛れてその舞を披露する。 凍りつくような冷たい鋭さの中に悲しさや儚さを表現し、それは見事な舞であるとあの世鷲も褒めるぐらい、実は彼女はそういったことは上手かったりした。 さて、今回の主役は彼女ではなく、春の訪れを、目覚めを知らせ祝う、舞を奉納する春の御子、シュプレインという女が主役である。彼女はレセリアが人間ではないことを知っている数少ない人間だ。結論から言えば、友人という関係だ。 どうして精霊と人が仲良くしているのか。答えは簡単だ。恋話という話題で意気投合したからだ。 実はレセリアはシュプレインの書く物語のファンだった。普段本をあまり読まない彼女が唯一読むと言ってもいい作品だ。 最近ではレセリアの世間話やありえないような不思議な話を取り入れた、不思議な話もたくさん発表されているが、それも新しい物語として楽しめるから、本当に才能があるのだとレセリアも認めている。だからこそか、今でも二人は仲の良い友人なのだ。 元々、シュプレインは他所の街の令嬢であった。だが、親に捨てられたのだ。気味が悪いという理由で。 何が気味悪かったのか、最初は彼女は理解できず泣いた。けれど、泣いてもどうにもならないことを理解すると、大人しくなった。だが、心を閉ざした彼女の心を開いたのは一人の女性だった。 この華恋香一番の信仰の為の教会とも言える建物に住んでいた彼女は、シュプレインを中へと招いた。最初は嫌がったが、これがまた、その女性はあまりにも強い女性で、豪快に拉致同然の形で招き入れたのだ。 だが、シュプレインはすぐに彼女に心を開かなかった。食事を出しても、暖かい毛布を差し出しても、名前を聞いても何も答えなかった。 けれど、ある日見られてしまったのだ。 シュプレインにとっては不思議ではあったけれど、日常でもあった、己が描いた紙の中のものが現実に出てきて動き出すということが。それこそが、親が気味悪がって捨てた理由だった。 見られたことで、また追い出されるのだろうとシュプレインはそのまま静かにしていた。けれど、彼女は驚きはしたものの、すごいと言って、可愛いといって、褒めてくれたのだ。 それからだ、シュプレインが彼女と話をするようになったのは。仲良くなったのも、彼女の勧めでその才能を生かして物語を描く事も、春の御子として春の舞の儀式で幻想的な演出を人に見せ、楽しんでもらうように考えが変わったのも。 「あら、シュプレイン。今はてっきり中で引きこもっているのとばかり思っていたわ。」 「うん。そのつもりだった。けど、折角楽しいことがあるのに、勿体ないじゃない。」 雪女と飛竜の恋物語がもう少しで書き上がるのよと、興奮気味に言われ、そう言えばこの前上巻を出していて、もうすぐ下巻を出すようなことを言っていたなと思い出す。 「一度会って確信したわ〜。彼女は絶対に気付いていないわ。いえ、気付いていても心の奥底にしまいこんで鍵をかけて忘れてしまっている感じね。その点、彼の方はつかず離れずで彼女を守る。歯がゆい。本当に歯がゆいわ。」 暴走しながら、物語を騙り続ける彼女の話しに耳を傾ける。レセリアもゆうのことは好きだが、世鷲のことも嫌いではないのだ。 さすがに、自分をネタにされるのは複雑だが、違うのなら、物語として楽しめるからいいかと、そこから始まった彼女の妄想による物語。 最近は彼女自身が愛する人が同じ女性であることから、同性同士の歯がゆい恋物語も面白いわと言いだす始末。むしろ応援するというのだ。本人達の意思関係なく、広まればいいとまでいう、少々困った性格でもあったりする。だからこそ少しだけ困りはしたが、結局レセリアは彼女が描く物語を読むのだろう。 そして、彼女を大事にしていて、彼女もまた大事に思っている相手も、最初の読者として楽しみにしていて、楽しんでいることだろう。 唯、レセリアが困ると言えば、ある特定の連中の恋話に関しては、はっきり言って本当にありえそうで怖いと言うところか。 「でも、私はせっかくだから、テンションの高いレセリアも見たいものだわ。いえ、見るべきよ。そうでしょ?」 何だか矛先がこちらに向いた。確かにレセリアは裁縫が好きでひらひらしたものを作ることがある意味で生き甲斐のようなものだ。あと、植物の成分研究や毒や薬の調合とかが好きだ。同時に、ゆうに飛びついて世鷲に嫌がられようが無理やり着せるのも、生き甲斐ではある。 だが、自分以上のいい性格した奴がいる前では、そんなことできるわけがない。反対に飲み込まれるのがおちだ。 だから、どうしてか彼女の前だけは大人しくなり、ゆうも以前変な感じだとお墨付きを貰う程度には。 けれど、やっぱり彼女に対してのみ、私は大人しくなる。自覚はある。だが、それはきっと彼女が同じだったからだろう。 決して報われぬ恋をして、報われるつもりもなく唯傍に居ることだけが幸せだと思うこと。時にそれが辛く、その思いを消し去りたいと思うが、結局大事な想い出を消したくなくて振り出しに戻るのだ。 そして、また何くわぬ顔で大切な人と顔を合わせ、変わらない日々を過ごす。それで満足するように言い聞かせる。 ある意味、彼女が恋物語を楽しむのは、己の恋を暴走させない為に昇華させる手段の一つなのだろう。 そして、わかっているからこそレセリアも彼女の話しに付き合うし、彼女が描く物語に惹き込まれる。 「もう、ケチね。だめよ。でも、いつか必ず見るんだから。そしてネタになるわ。」 「だから嫌なの。」 「そう?楽しいわよ?」 「私はきっと楽しくないから。」 「そうかな。飛竜から雪女を奪うライバルになれそうじゃない。」 「…。」 日常会話をそんなものに例えないでほしい。だが、脚色された物語はあくまでも空想の中だけのお話だ。現実にはないもの。 「さて、そろそろ戻るわ。」 そう言って踵を返す。 「彼女、心配したら申し訳ないもの。」 彼女の涙は綺麗だけど、見たいけれど見たくないから。矛盾した想い。そう言ってシュプレインは去っていった。 「今年は悲恋を描いた舞かもしれないわ。」 せっかくだから、ゆうを誘おうかと考えてやめた。きっと、冬が終わることであの冷たい中に引きこもって、春らしく寝ていることだろうから。 sid冥鎌 もうこんな時期か。ふとそう思う。 普段人が入らない、彼の仕事部屋でもある建物の奥、広間の更に奥にある私室。そこにある窓から、外の景色が見える。 この景色は、建物の壁と山に囲まれ、本来人が目にすることのない湖と言ってもいいぐらい大きく広い青の池があった。この池の波紋で、エリア内に歪みが発生したか感知できるすぐれものでもあるが、水鏡の魔女のように、鏡として映すこともある。 四季折々の景色を意思を持って映しだす池は、冥鎌にとって月日を感じさせるものだった。 「そろそろ、レセリアのところで花祭りがあるころか…。」 春を知らせ、喜びを分かち合う宗教的行事。ここもある意味で神殿のようなものでもあるので、そう言った行事があればいいのだが、生憎そういうつもりで建物を作ったわけでも、集団を組織したわけでもないので、集まった人間が勝手に祝う行事が勝手に増えて勝手に行われているだけだ。 それでも、仲良くやっているようなのでそれでいいのかもしれない。 今日も花を見ながら春を祝おうと好き勝手騒いでるはずだ。賑やかな声が聞こえてくる。その時、コンコンとニックする音が聞こえ、私室から広間の方へ戻り、入るように促した。 「失礼します。」 そう言って入ってきたのは、表情のない室内に似合わない赤い色の傘を差した少女と、キッチリと動きにくそうなスーツっぽい制服を着込んだ笑顔の男だった。 「どうした?交代で警備しながら皆で騒いでるのではないのか?」 「うん。皆騒いでる。」 「そうそう。賊とか入ったらイチコロ〜ってなりそうなぐらい、目茶苦茶な騒ぎっぷりですよ。まさに花より団子!」 楽しけりゃ何でもいいんですけどねと言った男が、御盆を持ってこちらへと近づいてきた。 「これ、主様にも。」 「ああ。ありがとう。」 そうやって、気を使わせたくはないが、毎度のことながら気持ちがうれしい。 「ねぇ、主様。」 「何だ?」 「少しだけ、ここにいてもいい?」 「…ああ。構わない。どうせ凛々も外で騒いでいるから、中にこないだろうしな。」 お前もそうなのかと男の方にも聞くと、もちろん御一緒しますよと乗り気だ。というより、最初からその気だったのだろう。冥鎌一人の分にしては多すぎる料理やお菓子と、三つのカップ。 「だが、いいのか?向こうにいなくて。」 「うん。ネルは主様と一緒がいい。セイ兄もそうでしょ?」 「ああ、もちろんさ。滅多にゆっくりできないしな、主様となんて。これでも、感謝してもしきれないぐらいの感謝でいっぱいいっぱいになってるんですから。」 そうかと言い、今日だけなと続けて私室の方へ二人を呼んだ。 私室と言っても、三か所あり、使い分けている。こういった客を相手する時のテーブルや簡易キッチンに本棚がある部屋と、完全に『仕事用』のものと、眠る為の部屋だ。 あくまで広間は謁見する場であり、広いし、テーブルなどもあるが、こじんまりとやりたいときはこっちへ呼ぶ。 まぁ、呼ぶ相手は限られているが。 「主様。いいの?」 「この部屋、入っていいんすか?」 冥鎌がこちら側に人を入れることをあまり好まないことを理解している二人は、少し不安そうにしていた。けれど、かまわないといって席を勧めたら、嬉しそうに座った。 何が嬉しいのかは冥鎌には理解し難いが、彼らが嬉しいのならそれでいいと思った。 本当に、留守が多い自分にとって、彼等の働きは大きなものだからだ。これぐらいの持て成しをしても罰はあたらない。 「主様。これ、今日一番の俺の自信作っす。」 そう言って、セイレが綺麗に飾られたケーキを皿にのせて差し出した。そしてネルタも表情が変わらないままに見えるが、少しだけ笑みを浮かべながら花弁茶を出した。 「ありがとう。いただくとする。」 そう言って、ケーキを一口頂き、お茶を飲んだ。 「さすがだな。相変わらずこういうことは上手いみたいだな。奏鈴が警備長やめて調理長に来ないかと言っていたぞ。」 「ありがとうっす。そう言ってもらえるとうれしいっす。あ、でも!俺はこの場所を守ることが誇り見たいなもんなんで、大人しくはしてられないっす。」 「そうか。奏鈴が残念がるな。…ネルタもお茶を入れるのがうまくなったな。」 笑みを向ければ、先程以上にわかるぐらいにうれしそうに表情が変わった少女に、冥鎌も自然と嬉しくなる。 表情が乏しい彼女が、笑ってくれるのが最近うれしい。出会った当初なんて無表情かむしろ殺意を向けてきたので、少々困ったのも今ではいい思い出だ。 その後、しばらく和やかな時間を過ごし、お開きになった。外ではまだ騒いでいるが、彼等にだって仕事があり、その仕事が誇りだと言ったのだ。その誇りの邪魔をしてはいけないという配慮だったが、少し残念そうだったのが気になった。 まぁ、こういう機会がそんなにないだろうからだと思い、またこれからも守りを頼むと言うと、二人ともしっかりと応えた。 「当たり前っす。俺や皆、主様の帰る家っすから。」 「当たり前、なのです。私達の帰る大事な家だから。」 ある意味、そう言ってくれるような家であることが、冥鎌にとっては嬉しいことでその『家族』こそが誇りなのかもしれない。 嬉しい、暖かな春を迎えたある日のお話。 sid田所 ふと、仕事の後目にとまった樹。大きな一本だけの樹が満開の桜の花をつけ、舞い散っていた。 それは幻想的でとても美しく、儚い夢幻のようであった。 かつて、彼女は向日葵が似合うような暖かく明るい人だったが、儚く美しいこの桜のことを綺麗で好きだといっていたことを思い出していた。 同時に、儚く散る姿が、いつか簡単に消えゆく人と同じで、嫌いでもあると言っていたことも思い出す。 確かにその通りかもしれない。 とくに、この桜は魔の要素が強い。魔といっても、歪みといったものとは違い、想いの力というか、桜の樹そのものが力を持ち、周囲に影響を与える可能性があるものになっていた。 だから、正真正銘、どこかの風習であったか、童話であったか…桜は人の血を吸う。その色で赤い色になるのだと。 まさに、この桜は死体がないけれど、異常なほど、だけど残酷な美しさのような真っ赤に染まった花弁を散らしていた。 まるで血の海のように地面にひらひらと散り積もるそれらが、先程までの仕事を思い出させる。 真っ赤にそまった…真っ赤な紅い血の色。 「やだなぁ…。」 人であった頃、死の瞬間を思い出させる色。そして、この世界で唯一田所が憎み嫌い、負の感情を全て向ける対象の、己の帰り血を浴びながらも笑っていたあの光景。 「まだ女は見つからない。でも、クイナもサレイもこの世界に戻って、俺のことを忘れて今を生きている。平和に生きている。だから、今はそれでいい。」 覚えていなくてもいい。あの時ちゃんと覚えていてくれたから、それでいい。 きっと、今年も春の訪れを知らせる雪桜を育て、花屋で元気に笑顔でいるだろうから。 「クイナ、サレイ…まだちゃんと覚えてる。だから大丈夫。」 二人が田所を忘れてしまっても。『○○○』のことを覚えていなくても、幸せであるのなら。笑っていてくれるのなら。それ以上には何も望まない。 もう、自分の手はあの時とは比べ物にならないくらい、他人の血で赤く…いや、真っ黒に染まってとれないぐらいの罪を背負っているのだから、知らない方がいい。 そろそろ戻らないといけないか、と田所は桜の樹を背にして後にした。 今度、客として一度ぐらい花屋で何か花を買おうかと考えながら。そして、今も残る、自分の私室にある彼女と彼の生きた証しとして残した墓標でもある鉢植えにお供えしようかと考えながら。 今日も、ある街の小さな花屋は何事もなく、可笑しな騒動に巻き込まれることなく平和に過ごしていく。 そして…ある場所にいるとある人物も、それなりのハッピーエンドを迎え、いつかの再会の日へのカウントダウンを始めた。 |