静かに、近くまでやってくる。それは幸か不幸か、誰にもわからないし、人それぞれ。

「不幸の基準、幸福の基準。それはどこにあるんだろうな。」

「譲れない望み。それを達成できれば幸せなんじゃないですか?だから、あの時選んで今がある。そうでしょう?ベルセル。」

「そうだね。でも、『彼』も間違ってはいなかったよ。でも、僕にはできなかった。だって、君達を殺すことを選べってことでしょ?」

そういう少年は、遠くを見たまま、後ろに立つ男に話しかける。

「そう言えば、君のとこにいたよね。望む夢を見させてくれる幻獣。」

「ああ…人の世を勉強して望みにリアルさを入れたいと言いだして、放浪中ですけどね。」

「それで、この前『ゆえる』が珍しく率先して仕事してたんだ。」

「…ええ。違う『意思』であるとは言え、ややこしくされそうだったので、私では間に合いそうになかったですから。」

不本意ながら、本来霊皇の仕事をしないはずのゆえるが代行した。それを思い出し、少年は笑う。

「でも、楽しかった。あの子も楽しかったみたいだし。あとは、君。」

「…。」

「無理さえ言わなかったら、女神の忘れ形見も、聞いてくれるんじゃない?君の望み。」

「確かにそうかもしれませんね。『私』だったら。」

もうすぐ夜が明ける。目覚めの時間。少年はまた来ると言ってすうっと姿を消し、男もまた、そこから姿を消した。彼等がいた場所から見下ろす先に、人の流れができ始める。

目覚めた人間が活動を始め、今日も仕事をはじめ、今日も変わらない日々を過ごす。

 

 

 

 

 

贈り物を貴方に(聖夜Ver

 

 

 

 

sidリンテール

 

「天使に聖夜なんて、関係のないことだけど、騒ぐ口実はできる。」

だから、人形のような連中は外で、私達は中で、もうすぐ終わる一年の区切りを思い、祈り、神に感謝する。けど、昔からリンテールはこの時期がキライだった。

聖夜は、私の命の期限を一つ減らす、知らせでもあったから。

けど、彼と出逢ってから、一人でいることはなくなった。だから、思ったより、落ち込むことなく楽しく過ごせている。でも、だから少しだけ怖いのも事実。

覚悟はしていたけれど、未練ができてしまったようで。

「あら、レンはまだきてないの?」

「リンちゃん。」

ぱっと、こちらを見た瞬間に浮かぶ笑顔。よしよしと頭を撫でると喜ぶ素直な子ども。こんな子どもに、いくら刃に体を変形させることができる雷そのものであるといっても、幼い心を持ったひとつの命だ。

そんな彼女に、罪人である天使を『消す』仕事をさせるなんて、この世界はおかしい。だから、今年も、何人もの命を彼女に斬らせたこの世界の無事を祈り感謝することはできない。

でも、ともにいることで彼女の笑顔が守れるのなら、この日に彼女と彼と過ごす時間も悪くないと、最近は思う。

「あ、レンちゃん。」

相変わらず、弟優先の姉が、この日と新年の挨拶の際だけ、他の奴らが群がるのが嫌だといって、家にいるようにいうおかげで、一緒にいられるが、心配性の兄がいる身としては、同じような境遇なだけに笑えない。

あれは、一度タガが外れるとたやすく壊れる。

そう、簡単に壊れる。あの日、聖夜の出来事のように。だから、私はこの日があまり好きではない。

「すまない。少し遅くなってしまった。」

「いいの。私もきたところよ。」

「凛々も、ここにきたところ。仕事なくても、あそこにいる人が出るの許してくれない。だから、出るの遅くなった。」

なら、皆一緒だ。そう言って、笑う。あと、何度笑いあえるだろうか。

すでに壊れたこの世界で、あと何度、繰り返せるのだろう。

二人と別れ、私は部屋に戻る。胸のペンダントを握り、願う。どうか、彼等の笑顔がくもらないように、と。

「言えなくて、ごめん。」

身を蝕む、凶魔。無理矢理抑えるペンダントの効力は長くは持たない。

聖夜の奇跡が本当にあるというのなら、私が望むのはただ一つ。

私が私のままである間に、私が私でなくなるのなら、どうか私を殺して。酷なことを言っているのはわかっている。だが、私は魔に堕ちたくない。

それから数年後。私の最期の期限が迫る中、私は私のまま、彼に守られ、彼を守り、消えた。

彼等に殺され、彼等を傷つけずにすんでよかった。けれど、何も結局話せないまま、別離という傷を負わせてしまって、ごめんという言葉は届かなくても、もしもう一度めぐり逢えたら、謝りたいと思う。

聖夜の奇跡が本当にあるのなら、叶えてみせてよ。

何もしない、カミサマ。

 

 

 

sid星架

 

その日、街にでて、いろんなお菓子を子供と共に振る舞った。

年終わりの、神様の生誕を祝う、そして、初代の生誕と命日を祝い、慈しむ。

「ユエさんや。」

「お久しぶりです。最近見ませんでしたが、お元気そうで何よりです。」

この町で、長く過ごすと見慣れる住民たち。その中で、この老女はかなりの古株の一人で、ユエよりもこの町にも星架にも詳しい。

「今年もおいしそうだね。本当、最初に奴等が始めた時は何事かと思ったが…。」

かつてを思い出し、懐かしむ彼女。

「私も、こうやって町の人と関わりが持てる機会があって、いいことだと思っています。」

あくまで教会で、神に祈り、神の為、困る者に手を差し伸べす。だが、生きるために食べるものをお金も必要になってくる。集まるのが結局何もない親なしばかりであれば、仕事がなければ維持できない。

その結果、初代が選んだのは傭兵だ。

街や村を守ることも、大事なことだと言い、結局料理や裁縫よりも、人の急所に詳しくなり、どうすれば動きを封じれるかという知識ばかり実戦で増えていった人だった。

けど、誰にも気さくに話しかけ、嫌われることもなかった。普通なら、あんな戦いの姿を見せたら、距離を置かれるのに、彼女は違った。

「懐かしい。あれからどれだけ月日が流れたことか。本当に、悲しいことだ。」

そういう老女はいくつか言葉は交わし、人ごみに紛れて消えた。

「どうかしたのか?」

「いや、何でもない。懐かしい住人がきていたから話していただけです。」

「そうか。」

きっと、ユエ以外、あの老女を知らないだろう。本来、初代を知っている人間が今を生きているはずがない。だから、どこかでユエはわかっている。

先日、冥鎌という翼のある種族や人ではない刃に姿を変える少女とも会ったのだ。あの老女もまた、人ではないと知っても、驚きはしない。

聖夜の奇跡。その出会いに感謝を。空に祈り告げる言葉は誰かに届くのか否か。

 

 

 

sidファンラ

 

かつて、閉鎖された世界の中で、外の世界にあこがれたこともある。

その過程で、知ったこともある。その一つがクリスマスという異国の祝い事。家族と共に楽しく過ごすその日。元の意味など、詳しく調べる方法もなかったし、今も興味がないから調べていないからわからない。

けど、この日だけは、まだ兄がいたころ、一緒に一つの焼き菓子を作り、分けて食べた、思い出の日。

盗賊時代でも、年終わりもかねて盛大に騒ぐ口実として、実施された宴会で、楽しんだ日々。

今は、あの頃の誰もいない。確かに、あの時出逢った男、ロンとは今も共にあるが、大事な思い出は全て時の流れの中に埋もれていった。

だが、忘れたくない大事なものだ。この日だけは、ロンに休みを言って、墓参りをする。

もう、私しかいかない頭領と、その右腕、そして兄のもの。備えるのは、生前の彼等との思い出の菓子を供え、最近あったことを墓前に話す。

「私の大事な、この時間。邪魔しないで下さい。」

すっと、立ち上がって振り返る私。現れる夜盗。かつて、私もあそこに堕ちた。だが、今は私にとって平穏を乱す敵。

「ここへの立ち入り、サセナイ。」

復讐を誓う、呪われた魔女として、私はここにいる。

聖夜の夜には、とても似つかわしい。だが、これも私の一面だと思っている。そう、そういう危うさが魔女なのだ。だから、ファンラにとって魔女と言うものが嫌いだった。けど、魔女と言う名を背負い続けなければいけない。

それも、今でこそ離れているとはいえ、十三の一族に属していたのだ。それ以外の異端とされた魔女からみれば、迫害の原因である敵で、結局私にとってろくなことにならない。

「迎えにきてミタケド…今夜も酷く暴れたみたいダネ。」

次の仕事だよと、迎えにきた男、ロン。今の私にとって、私をある意味よく知る男だ。反対に、私はこの男のことはあまり知らない。不公平な気もするが、今はもういい。むしろ、知らない方がいいんだと思う。

あまりに胡散臭いこの男は、時折真面目に戻った時、私ははじめて男が怖いと感じた。だから、この男は危険だ。今のまま知らないままの方がきっといい。

それこそ、男が自ら話さない限り。

「まだ、話したりナイ?」

「…いえ…大丈夫っス。いけるっス。」

けど、ここの掃除だけしたいと言えば、それぐらいの時間はあると言ってくれた。

人も、この世界の理の一部。持っていた薬品をばらまけば、溶けて、大地に沈み、消えていく。

ある意味、聖夜の奇跡のような光景。緑なき、墓標が並ぶその場所に、緑が生える。

「行くっス。次は何処っスか?」

 

 

 

sidゆう

 

雪女にとって、冬のイベントには特に興味はない。

もっと言えば、暑くて出歩くの辛くなる夏なんてもっと興味がない。

そもそも、雪女は人の世に嫌われ、迫害された一族だ。人の世の行事になど興味がない。雪女だけの行事があるだけ。

毎年、毎日、同じ繰り返し。雪山の世界だけの狭い世界の中に閉じこもった連中の集まり。

「でも、聖夜ってある意味呪いだよね。」

そう思わない?と、聖夜ににつかわしくない黒い影、死神に問いかける。

「まぁ、そうだねぇ。聖夜に限らず、こういう想いが強くなる時期っていうのは、出やすいからねぇ。」

白い雪に散らばる赤い色。転がる骸。雪女の一人が、堕ちた。だから、広がる前に始末をした。それだけの話。そうしなければ、何も知らない人間が一人、その人間の周囲も巻き込んで悲劇が起こっていただろう。

「顔見知りではないとはいえ、同じ雪女を手にかけるのは、どうも変な感じがするよ。」

やだやだと、背を向け、男の方へ向く。

「でもさ、北斗は元々、ただの人間だったんでしょ?聖夜に特別の想いとかあったの?」

「さぁて、昔過ぎて忘れちゃったよ。そもそも、聖夜より、殺された日の思い出の方が強いしねぇ?」

強烈な殺意。残していくことになった、特別な日になるはずだったあの日。それ以上に強く感情が動く日なんて、そうそうない。ずっと変わりなく、世界を見て記録するだけ。

「でも、人間が楽しんでいる姿を見るのは楽しいよ。」

憎しみや殺意でまみれた姿を見るよりは。それもそいうだなとゆうも同意する。

「世鷲でも呼んで、騒いで夜明かすか。」

「本当、突然だよね。」

「ま、人生なんて、いつでも突然だ。だろ?」

「そうだね。お互い様。」

くすくすと笑う。

二人にとって、命が突然終わることは、よく理解している。そういう人生で死んで戻った者達だから。

 

 

 

sidゆえる

 

「やぁ。」

「…。」

「さすがに、無言で無視って、傷つくんだけど。」

「…何しに来た?」

「とくに。逢いに来ただけじゃだめかい?」

「…。」

甘い。彼は本当に最後の最後で甘い。だから、付け入られる。けど、優しい彼を傷つけることをわかっててやるものはほとんどいない。だから、自分もまた、甘いんだろう。

「それで、同じ守り人がこんなとこまで何しにきた。最近は歪みは出てないだろ。」

「つれないね。今日はゆえるというより、『ストレイン』としてきてると思ってくれた方が嬉しいんだけど。」

そう言うと、じっとこちらを見る二つの目。真意を伺うように、じっと見るそれが、しばらくするとすっと細められた。

「なら、何の用だ。ベルセルのことか。それとも、神のことか。」

「気が早いね。」

だが、あんまりごまかしたりし過ぎると、彼は帰ってしまう。それは困るので、本題に入る。

「この世界、好きか?」

唐突な問い。だが、俺には重要だ。そして、どうせ聞いているであろう、ベルセルにとっても、重要な答えだ。何せ、彼の言葉なのだから。

「何を突然。」

「俺はこの世界のこと、あまり好きではない。だけど、お前と出逢ってから、少しだけ好きになれた。」

「…。」

「嘘じゃないさ。お前がいない、以前は退屈だったからな。」

ただ、神の元にいるだけ。霊界を監視するだけ。それだけ。変わりない日々。退屈な日々に色をつけたのは、そんな俺に話しかけたのは、彼だ。

「お前と出逢った日、俺は嬉しかったんだ。」

だから、お前は嫌だろうが、俺はお前が好きなんだ。すでに、誰が本来の人格であったのか、何が正しいのか、好みや癖もごちゃごちゃになって曖昧になりつつあるあの時、私の人格はしっかり安定した。

出逢った時、言われた言葉が今も私を繋ぎとめる。

『退屈そうだね。面白くない?』

『そうだな。退屈でおかしくなりそうだ。』

『じゃあ、手合せ、してよ。危ないから駄目だって、僕はやらせてもらえないから。』

『面倒くせぇ。』

『でも、強いでしょ?いろんな相手と手合せして、いろんな癖を、技を見てきた。だから、知らないものがないぐらいたくさん見たから、退屈なんでしょ?でも、僕はすごいと思うよ。だって、普通じゃそんなにたくさん見れないし、それを力に変えることもなかなかできない。』

だから、その努力とその結果今を生き残っていることに誇りを持つべきだよという幼い子どもの言葉と笑顔。

誰からも理解されない、近づかないそんな私に話しかけ、当時恐れられていた私に手合せを言いだす子どもが面白くて興味を持った。

最初は女神なんかと比べ物にならないくらい弱い存在だったそれが、いつしか毎日見ていて、成長を楽しみに想えるようになった頃、ブラコンの姉が詳細を知って邪魔しにきたこともいい思い出…いや、あまりよくない思い出だが、退屈だった頃を思うと、楽しかった。

確かに、女神がまだ生きていたころは神と魔王もこんな感じで賑やかで楽しかった。きっと、そういうことだ。

私は変化のない日々、争いばかりで変わらぬ日々、減らない人の欲望。飽き飽きしていたのだろう。

「で、お前は結局何の用なんだ?」

つれなくても、結局私を気遣う彼は、変わらない。けど、愛しいものだ。

変わらないものも、退屈だと思わず、いいものだと思えるようになったのは、彼のおかげだろう。

「ただ、本当に、この世界は救いようのない世界だけど、お前と出逢えたことだけは、この世界を守る理由に値してもいいなと思った。それだけだ。」

だから、ベルセルに対しても、同じように答えるだろう。この世界で良かった、と。

「よくわからんが、あんまり悩みすぎるなよ。お前の場合、無駄に頭が良すぎるし知りすぎている。そのせいで、ろくでもないことにしかならんことはわかりきっているしな。」

お前が敵であったら、対処が難しくて大変だから敵になるな。そう彼はいった。

「でも、私が敵になったら、その時はお前が殺してくれればいい。」

「こんな日に物騒なことを言うな。」

「こんな日だからだよ。」

神の生誕祭。私にとっての希望でもある光への誓いにちょうどいい日だ。

 

 

 

sid誰かの聖夜のエピローグ

 

誰もいないその場所で、呟きを続ける。誰にも聞かれることのない、本音が、夜の闇に吸い込まれていく。

「魔神…彼のこと、今もまだ、嫌うことも憎むこともできない俺は…いや、やめておこう。」

あの時互いに違う道を選らんだ。その時点で、もう違えた道が繋がることはないし、この世界は誰も彼を許せないだろう。

それだけ、たくさんの命が奪われ、混乱を与えた。それも事実だ。

「俺も軽率だった。あの日、あの子ども、奪われることになったのは、俺がこの世界の命をつくりすぎた結果だ。」

たくさん増えた。様々な営みが見ていて楽しかった。けど、たくさんの中では、歪みを生じてくる。歪みは争いに、醜い人の心が怒り、憎しみ、様々な負の感情が吹き荒れ、巻き込まれたあの子ども。

あれも、起こり得る日常の一つになりつつあったが、仕方ないと言えるものではない。本来あってはいけないこと。

「それでも、私は…またお前と共にこの世界を見て歩きたいんだ。」

もう、きっと届くことのない彼への言葉。







あとがき
今回は、始まり物語がまだ出てない人たちのそれに関わる短編集みたいな感じになったのですが、いかがなものでしょうか。
リンテとファンラ、ユエと出逢った老女が書きたかったのではじめたのですが、ゆえるとベルセルがやたら前にでてきたのにびっくり。
リンテールの始まりの物語は書かない予定です。今回のとフェルマータと凛々あたりでほぼ出てますので。
たぶん、冥鎌を書く機会があったら、その時にもうちょい出るし、ほぼ二人の話になりそうですし。
あと、ベルセルの魔神に対する思いが少しだけ。ベルセルより魔神の始まり物語の方が先にできそうなので変な感じですけど。