今日は12月24日。クリスマスイヴである。

 私、大沢雪魅はする事も無く、外をぶらぶらと歩いていた。

 その時、かわった子供に出会った。泣いて、見つからないと小さな声で言う子。

 その子供は、『雪』がないと泣いているようだった。








  ホワイトクリスマスにしよう








 雪魅はコンビニでホットコーヒーを一つ買い、外に出た。外は雪が降ってもおかしくないほど冷えて寒かった。

「寒い…。」

吐く息は真っ白で、まるで雪のようである。

 雪魅はコーヒーを手に持って、家までの道を歩き出した。これといって、家に帰ってもやる事が無いが、外にいても寒いだけなので、帰ることにした。

 少し歩いていき、電灯の明かりがぽつぽつとある、寂しい暗い道の隅に、何かがいた。何かと歩きながら少しずつ近付いていくと、それは暖かそうな、綿でできているような蒼っぽい服を着た小さな子供だった。

「どうしたの?」

雪魅は肩を震わせて泣いている子供に話し掛けた。その子供は、寒い中こんな場所でうずくまって泣いていたのだ。顔が涙でぐしゃぐしゃになり、何時間泣いたのか、目が赤くなっていた。

「どうしたの?誰かとはぐれたの?」

見捨てていくわけにも行かないので、とりあえず、子供を保護者のいる場所まで連れて行こうと考えた。

「ねぇ、お母さんは?それとも、別の何かで泣いているの?」

子供は泣くのを止めて、小さな声でこう言った。

『雪が、雪がないの…。』

雪魅にはこの子供がどうしたいのかさっぱりわからなかった。

「あのね、今は雪が降っていないから、雪は無いよ?」

言ってみるが、違うという。

「ねぇ、何が違うの?」

子供は泣きながらこう言った。

「明日、雪を降らすのに、降らすための雪がないの。」

何を言っているんだ?雪魅は思った。誰だってそう思うだろう。

だが、この子供が嘘を言っているようには見えないし、子供の考えている事で理解できないこともあるので、別の方向から子供の言いたい意味を考えてみた。しかし、思いつかなかった。

「ねぇ、どうして雪を探しているの?」

まず、探しているという雪のことを聞いた。どうして雪を探しているのかがわかれば、この子供が言いたい事がわかるかもしれないと思ったからだ。

「雪、明日ね、クリスマスだから。冬に雪を降らすのが仕事なの。それで、今年はクリスマスに雪を降らす事になったの。私、この地域の担当なの。だけど、だけど…、雪が無いの。雪を降らすための雪がないの。」

子供は泣きながら消えるような声でそう言った。

「クリスマスに雪を降らす?それが仕事?どういうことか、教えてくれる?でないと、私にはわからないから。」

聞けば聞くほどわからなくなっていったのだった。だが、このままほっておくわけにもいかないので、どうしたいのかを聞いた。

「明日、雪を降らすのが私の仕事なの。でも、ボトルに雪を集められていないの。もう時間が無いのに…。私が仕事をしなかったら、冬が通り過ぎて、春がきちゃうよ…。」

さらに話がわからなくなってしまった。

「そう言えば、まだ名前を聞いていなかったよね?私は雪魅よ。あなたは?」

ふと、お互いが自己紹介をしていないことに気づいた。

「私…、私はウィリー。ウィリー・フェルレン。」

「変わった名前ね。ウィリーでいい?」

本当に変わった名前だった。ウィリーでいいかと聞いた時、子供は小さく頷いた。

 雪魅はもう泣かないでよ?と頭を撫でようとした時、顔を少ししかめた。

「…ウィリー、あなた、人間じゃぁ、ないよね?」

先程、頭に手を乗せた時感じたウィリーの体温。氷のように、とても冷たかった。人のように体温は無かった。

 これで、話が通じる。ウィリーが言いたい事。

「ウィリー、クリスマスに雪を降らすのが仕事なんだよね?ウィリーが仕事をしないと、冬が通り過ぎて春が来るんだよね?」

ウィリーは小さく頷いた。

「そっか、じゃぁやっぱり、ウィリーは冬の妖精なんだね?」

言い当てられて、ウィリーはびくりと肩を震わせて、恐る恐る顔を上げて雪魅の方を見た。まるで、正体を知られてはまずいかのように、怯えていた。

「別にね、妖精だからどうってわけじゃないのよ?人と妖精とだったら、今の話を理解するにあたって、わかりにくいだけだから。それに、妖精だって事、知っても知らなくても、ウィリーはウィリーだし、私は私。」

そして、優しく微笑んで、頭を撫でてやった。

「妖精だったらわかるよ、思い出したのよ。昔、今はもういないけど、祖母が言っていた昔話。妖精とであった少女の話ね。その少女が私の祖母で、出会ったのは、秋の妖精だったらしいけどね。よく『雪魅は私の孫だから、いつか妖精と出会うよ。』ってね。そしたら、手伝いをしてあげなさいって。」

そう言って、立ち上がって暗い高い空を見上げて伸びをした。

「ウィリー、妖精が季節を操ったり、大気や自然を操ったりするでしょう?それはね、あるものが必要なのよ。祖母が、秋の妖精と出会った時も、ウィリーと同じように『秋風の素』が見つからなくって困っていたんだって。」

雪魅は話を続ける。ウィリーには、もう悲しい顔は消えていた。話を真剣に聞いていた。

「妖精は、初めての仕事の日、何も知らされず、簡単にしか説明を受けないの。それで、見つからなくて困っていると、だいたい人と出会うの。心の思いを分けてくれる人にね。祖母が言っていたんだけどね、人の心の思いをもらって、初めて渡されたボトルに妖精の力の素が現れるんだって。」

そう言って、雪魅はしゃがんだ。ウィリーと視線の高さを同じにして。

「ウィリー、あなたは私に出会うようになっていたんだよ。あなたに妖精の力を目覚めさせる為に思いを渡す人として。人の心の思いを受け取って、妖精の本当に一人前の試験合格なんだよ。いちよう、試験を突破して、最初の仕事でしょ?」

ウィリーは小さく頷いた。それを確認すると、ウィリーの冷たい手を掴んで、お互いの両手がお互いの胸辺りまで持ってきたとき、白い光に包まれた。

「仕事、頑張ってね。明日、ホワイトクリスマスにするんでしょう?それまで、仕事は終わらないんだから、試験も続いているんだからね。」

ウィリーの両手には小さなボトルがあった。綺麗な薄い蒼のボトルで、小さな羽がついていた。

「……が…と…う…。本当に、ありがとう。」

泣いていたウィリーではなく、笑顔の可愛い冬の妖精が雪魅に笑いかけて御礼を言った。

「もうすぐ、クリスマスだよ。」

腕時計を見て、今が12時10分前だということを確認した。

「ウィリーが降らした雪、見ながら、これからもずっと忘れないからね。」

 ウィリーはもう一度お礼を言って、その場から初めからそこにはいなかったかのように消えた。跡形も無く、消えた。その場には、雪魅と、暗い夜と、降り始めた冬の知らせの雪だけだった。

 時計は12時を過ぎ、クリスマスがやって来た。

 雪がぽつりぽつりと降り、ホワイトクリスマスに変わっていった。






 冬が来るたびに、雪が降るたびに思い出す。あの日の小さな妖精のことを…

 クリスマスイヴにはいつもあの時間、あの場所へ行った

 また、あの可愛い小さな妖精に会えることを願って………