◆魔王が生まれた日

長い戦争が終わりを告げた。

両者の主と多くの命を代償に。

そして人が手に入れたのは、暗い闇の世界。

「綺麗に全部壊れた。本当、人って馬鹿だよね。」

そう思うだろ?と、首だけで後ろを向いて、相手に問いかける。

「なに、が?」

「まだ、目覚めてすぐだから状況が理解できていないんだね。ま、すぐに嫌でもわかるよ。」

くるっとこちらを向いて近づく人影が笑っていた。

「はっぴーばーすでー、新しい番人さん。人からしたら魔王様って呼ぶべきかな?」

すっと頬に触れる温かい手のひら。これが他者の温もりだと理解する前に離れた手を目で追い掛ける。

「先代はね、この戦争を終わらせるために両方の主の魂を食べた。そして、最期の力を使ったから消滅した。結果、主を失い戦争は終わり、魔王は死に、新しい魔王…つまり君が生まれた。」

とりあえず、今の状況わかったかい?と言う言葉に頷く。

「じゃあ、これからは君が好きにしたらいい。神が定めた法に反する者達を裁く。ただそれだけ。仲間をどうするかは君次第だ。」

そう言ってくるりと背を向け、反対側へと歩き出す人影に声をかける。すると、一度止まって振り返った。

「あなた、は、どこに?」

「そうだね。先代に仕えていた四天王を束ねる長。だけど、私も主をなくしたからね、すぐに消滅する。何とか部下は残せたけど、今は眠りについてる。だから、彼等を仲間にしてくれるとうれしいかな。皆いい奴だから。」

ただ、記憶がなくなるから、真っさらだし君にとって不都合がおきることはないだろうと言った相手の表情は笑っているけれど、少しだけ悲しそうだった。

「あなた、どうして、消える?」

「そうだね。…説明難しいからなしでいいかな。ま、魔王としていたらそのうちわかるよ。」

ま、先代みたいにまた誘ってくれる気があるなら見つけてみてよ。そう言った人影はすっと影が薄くなった。

「私はね、何代も魔王を見守る使い魔みたいなものだから。記憶を残す為に代償を支払う羽目になるんだよ。」

もしかしたら、記憶がないまま人として一生を終えてまた人として生まれる繰り返しが続くかもしれないけれど、魔王様が私を欲しいというのなら捕まえてみればいい。そう、影は言った。

「ばいばい。新しい魔王様。」

今でも強く覚えている記憶。だが、曖昧で靄がかかったようで、決して思い出せない、笑みのままそう言って消えた影の顔。けれど、最近になってもしかしてと気付いたことがある。

「あ、なっちゃん。」

こんな仇名で呼ぶのは一人しかいない。

彼女こそ、あの影の主ではにかと最近思っている。だが、断定できないのは、彼女が過去の記憶を継承していないことだ。

影は言っていた。記憶を継承するために人に転生し続ける代償を支払うのだと。もしかしたら、その転生過程で何か別の代償を支払っているのかもしれないが、そのあたりはわからない。

結局、影に言われるままに眠る四人の目覚めを待ち、彼等を四天王として魔王の仕事はスタートした。

彼等は何も覚えていないが、何か思うところはあるようで、時々不思議な感覚に陥るようだ。その不思議な感覚が彼女に感じるものと同じなら、自分も魔王の記憶の一部がどこかで眠っているのかもしれないなと時々思う。

でも、あの悲しそうな笑みを向けられるぐらいなら、記憶がない今のままでもいいのかもしれない。そう思った。

かつて神がいて、神は人の世に干渉できる番人をおいた。

人々は強い力を持つ番人に恐れを抱き、いつしか魔王と呼び悪とした。

誰一人、短い生であるが故に歴史の真実を全てしることはなく、魔王が消える日と生まれる日を知らないまま、魔王をただ『魔王』として視て、恐れ続ける。

そして今日も、魔王は仕事をする。たとえ恐れられても、理解してくれる仲間が居る限り、魔王は一人にならず仕事は無情にも続けられていく。







あとがき
誰かと新しい魔王、ラウナとの会話。
誰かは、中身読んだ人はほぼわかるあの人。