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あれから、どれだけの月日が流れたのか。数えるのも面倒になってきた。 それでも、まだ諦めずにトーカを探していた。 「どうだった?」 「いや、まったく。本当に困ったぐらい、完璧に消えているよ。」 「なら、やはり条件が上手くいく最後のチャンスだけだな。」 「確かに、そうかもしれないね。」 あれから、魔王は情報屋としての仕事を続けながら、他の勇者という職業の者達の訪問も多くなったために相手をする為に城で缶詰になってることも多くなった。 「けど、本当にびっくりするような作戦だよね。確かに、一番の近道かもしれないけど。」 「まぁ、引きづり出したとしても、トーカに仕事をさせるつもりはないけどな。」 「ま、それが魔王の仕事だから。俺としても仕事を取らせるつもりないから。」 そう言って、二人して空を見上げる。 本当に、長かった。それでも、あと少しだ。 あと少しで、魔王の仕事が始まる。 期限を越えた歪みの元を回収し、全てをなかったことにする、この世界のリセットのような作業が、始まる。 けど、それを期限を越えても行わないことで、それを知った管理者を引きづり出すのだ。 「準備は全て整ってるよ。」 「さぁ、魔王様。」 一人、また一人と、部下が姿を見せる。 「そうだね。始めようか。勇者が魔王を手助けするのもおかしな話だけど。」 「元々が魔王ならば、結果は同じだろう?」 どちらも、元々していた作業は同じ。時の流れの中で微妙に変わっただけ。 「トーカが姿を見せたら、全力で捕まえる。本来の仕事はその後でいい。責任は魔王がとる。さぁ、行くよ。」 最後の歯車が動き出した。まさに、そんな表現が正しい。 だからこそ、悲しくなった。 すでにトーカは彼等の近くにきていた。それこそ、彼等の思惑通り、成されない排除のことを懸念してだ。 「急がないと。」 期限は絶対なのだ。その意味を彼等は理解していない。 魔王が聞く世界の壊れる音とは違う、別の引き裂かれる痛みのような強い音が今もトーカの頭に響いている。 正真正銘、世界があげる悲鳴。世界が壊れる悲鳴。 元から少ない猶予が、削れていく音がトーカを急かせる。 「シイナもなっちゃんのことも、皆のこと、失いたくないんだよ。」 だから、猶予がある間、彼等の生きる時間がまだある間は、この世界が壊れてしまわないようにしないといけない。 そうしないと、本当に終わらせにくる。 この世界に興味はなくても、壊れた後のことにすら興味はないのかもしれないけど、創った以上は最期に世界の破片の回収をしに主がくるはずだから。 猶予を越えた世界を主が待つはずはない。すぐに手を下して終わらせるにきまっている。 長い付き合いだ。行動はだいたいわかる。姿を見せないように、先回りし、排除作業を進めていく。 勿論、何度も追いつかれそうにはなったけれど、この仕事に関しては誰よりも長いのだ。そう簡単に捕まえられはしない。 「あと少し…。」 最期の仕上げが残っている。それさえ済めば、期限のカウントダウンは止まる。 「そんなに必死にならなくてもいいんじゃないか?」 自分に気づかれることなく、突如現れた、ここにあるはずのない気配。忘れるはずがない、遠い記憶の中にあるだけのものが鮮明に蘇ってくる。 「まさか…まさか、もうっ?!」 はっと振り返ると、そこには記憶と変わらない姿のこの世界の本当の主が立っていた。 「だめだろう?お前もこの世界の登場人物だが、今は役割が違う。」 「けれど、私は…。」 「まぁ、好きにしたらいいよ。けど、僕はこの世界のこと、大方見終わって興味はないから、片づけてもいいと思ってるんだ。」 「そんなっ?!」 まだ、この世界は生きている。この世界で生きている多くの命は、変わらない日々を送っている。 今この瞬間に、突然電源のスイッチを消すかのように消えるなんて誰も想いもしない。 「実は、次の物語もできているんだ。」 この主は、またこりもせず違う世界をつくっているのだと言う。もう、見終わった物語に興味はないと遠回しに言っている。 「本当は、お前を次の世界でも管理者として置いておこうと思ったんだが…思ったよりも、お前はこの世界に愛着をもってしまったようだ。」 自分は愛着をもつことはできない。最初は楽しくても、すぐに飽きてしまう。そう、主はいって、そういう感情はうらやましいけれど、これ以上この世界に時間を費やすこともできないのだと彼は言う。 つまり、選択を迫られているのだ。 この世界と共に死ぬか、違う世界へ行き生きるか。 新しい世界でもまた、同じことが繰り返すのだろう。それをまた同じように必死になって回避する方向へ動くのは予想がつく。 結局、自分は変わらない。 何より、この世界への未練が大きすぎて、放り出すことなんて最初からできない。 新しい世界に関しては、まだ何もかかわりがないから、情も薄い。 最初から、答えは決まっているようなものだ。 どちらも捨てられないけれど、まだ見ぬ世界より、今いる世界を大事に想っている方が強い。 本当に、困った主を持ったものだ。主からすれば、聞き分けのない部下を持ったと思われているかもしれない。 「私は、この世界を切り捨てることはできない。」 「そうか。やっぱりな。」 楽しそうに笑う主。もう終わるこの世界。最後に彼等ともう一度会っておけばよかったかなと少しだけ思った。 「そう言うと思った。」 そう言って、主はこの世界を構成する格となる珠を差し出した。 それは、トーカの身体にもある、この世界の魂であり、記憶そのもの。 トーカが見聞きしたものを、主が視ていなくてもみられるように繋がっているもの。 「この世界が終わるか否かは、お前に任せることにする。」 「え?」 それは、予想外の言葉だった。 「最後まで足掻いてみればいい。でも、忘れてはいけない。お前もまた、この世界で踊る人形でしかない。それでも、結構気に入っていた人形なんだ。あまり死に急ぐようなことをされても困る。」 この世界の理から逃げられないけれど、それでも進み続けるのなら止めはしないし、先に終わらせるつもりもない。ただし、最期まで責任を持ってもらわないと後始末をするのも創造主の仕事なのだから困ると彼は言った。 「じゃあ、この世界は…。」 「ああ。それに、おまけで少しだけ結がんでいたほころびを直しておいてあげるよ。」 そこからまた、歪ませて壊すか否かはこの世界の住人次第だと彼は言った。 「ほら、お迎えもきたみたいだ。」 なんだか、睨まれて怖い怖い。そう言って、変わらず笑みを浮かべたままの主は、背をむけた。 「もし、この世界にあきたら、呼んだらいいよ。すぐに片づけてあげる。」 一度だけの我儘ならきいてあげるよ。そう言って、主は完全に姿をけした。 「トーカっ!」 とうとう追いつかれた。とうとう追いついた。 まさか、時間稼ぎをされたのだろうかと思うぐらい、タイミングがよくて気持ち悪い。 「さっきの奴は…?!それより、良かった!やっと捕まえた!」 そういって飛びついてきたラウナ。頭を撫でるシイナ。 なんだか、子ども扱いされている。 「それにしても、綺麗さっぱり仕事を片づけて終わらせてしまうなんて、困ったものだ。」 魔王の面子丸つぶれだよと冗談交じりにいうラウナに、苦笑して真実を告げた。最後は自分はしていないのだと。 「この世界の主が来ていた。終わらせる為に。けど、もう少しこの世界はこの世界のままでいいみたい。」 魔王が聞こえる悲鳴はもう聞こえないでしょうと言われ、そう言えばとラウナも気づく。 「この世界がこの先どれだけあるのかわからない。きっと、魔王の仕事のほとんどはしなくてもいい世界になったと思う。」 それでも、争いが世界から消えることはきっとない。その度に人の記憶は変わり、魔王が悪いという答えにいきつくかもしれない。そのせいで、魔王は何度も命を狙われるかもしれない。 それこそ、今度は何もしていないのに。 「そんな世界だけど、なっちゃんはどうする?魔王、まだ続ける?」 もし、嫌ならば、今ならかわれる。魔王と言う肩書だけなら、自分が引き継いで自由に皆過ごせる。 けれど、彼は首をよこにふった。他の皆も馬鹿だなと言う始末。 やっと、この世界の鎖から解放されるのに酷いいいようだ。 「それこそ、魔王であろうとも今までとかわらない。仕事が減って楽になるだけだ。だから、今まで通り。トーカも一緒の今まで通り。あ、勇者が一人増えるけど。」 「そうだぞ。仕事が減ったらそれこそ皆で世界の旅ができるんだから。」 また、一からすればいい。そう言って、彼等は迎える。トーカは再び、彼等の手を取った。 最後に… 真っ暗な中、迷うことなく進む影がある。 「でも、いいのか?」 「良いも悪いもないだろう?あの世界を気に入ったというのなら、別の世界の管理者にするのはかわいそうだ。」 影に話しかける別の存在はそこにはない。けれど、確かにそこに何かはあった。 「今まで、言われた通りに世界を監視していた人形があそこまで変わるなんて。だから、面白いんだ。」 いくつもの失敗作があった。それでも、世界を創ることをやめられない。世界を創る事こそ、彼にとって生きることと同意だった。 「それにしても、悪趣味だよな。」 「何がだい?」 「同じ人形をつくって、どの世界にもその人形を試すみたいにおいて…そんなに忘れられないのなら、なんで殺したんだい?」 ぴたりと、彼は足を止めた。 「私は彼女を愛していたし、今もその想いは変わっていない。それに、私は殺してもいない。」 殺したなんて言い方は心外だというと、心の籠っていない謝罪がかえってきた。 「確かに、彼女を求めているのは事実だが、仕方ないだろう?つくるだけでは、感情のない能面と同じ。だから、いろんな世界で試してるんだ。私が愛した彼女のように育つのをね。」 「本当、悪趣味。」 「まぁ、自覚はあるけど。でも、いいだろう?世界が彼女を殺したんだ。なら、その世界に代償を払わせればいい。」 「成程。やっとわかったよ。君は狂ってる。」 声はうんざりしたように、返してきた。 「けど、彼女を愛した想いは本物みたいだ。」 「今更だな。」 「彼女が大事だから、彼女の我儘を聞いて、あの世界を維持させた。本当に、悪趣味な神様だ。」 「どの世界でも、神様っていうのは助けてくれないものだ。その点では、私は寛大だろう?」 彼女の願いならば、例え彼女本人とは違っても、その世界で得たものを大事にしたいという気持ちは彼女と類似するところがあるから、聞いてあげてもいいというぐらい。 「で、新しい世界の彼女はどうしたんだい?」 「ああ。今度は試に性別を変えてみることにしたよ。」 「は?」 「彼女は結構男らしいところもあったからな。ま、実験のようなものだが。きっと、面白い物語をみせてくれるだろう。」 声は返事を返さなかった。呆れかえっているようだった。 「彼女以外の登場人物は、もう少し手を加える必要がありそうだけどな。」 まったくもって、不愉快なぐらい、争いを繰り返す連中は、何度も彼女の身を危険にさらす。 どんな世界をつくっても、そこにいきつく。ならば、彼女がそれに負けない強さがあればいい。 きっと、そんなところに惹かれたのだろう。誰にも屈しようとしない、輝く魂に。 <END> あとがき 長い間お付き合いくださいましてありがとうございました。 これにて、この物語は完結です。 最後の最後で見知らぬ人達がでてきてますが、この先も勇者と魔王と魔法使い達は面白おかしく世界を旅しながら生きていくと思います。 |