◆魔王の仕事と勇者の仕事、そして監視者の記録+++Stage6








町に到着すると、魔王が持つ能力のせいで、すぐに理解した。

この町に対象がいて、確かに消失した。そして、今までとは比にならない危険なものが存在している。

「リュマ達は町の周辺をみてきてくれ。ドルハは宿にいるはずのカイト達と合流してくれ。」

「承知した。」

「紹介。じゃ、後でね。」

そういって別れた後、対象の元へと急いだ。そして、近づくにつれ、見知った気配があることに酷く動揺していた。片方に関しては、やはりという気持ちがあるが、もう片方に関しては説明がつかない。

けれど、どっちにしてもこのままでは二度と会えなくなることはわかった。きっと、それがずっと感じていた違和感だったのだろう。タイムリミットへの自身の警告。

「トーカ…シイナも…。」

名を呼び、相手がこっちを見る前に、手に持つ得物から記憶が廻る。

「なんで、それ…。」

それが答えを示している。けれど、疑いがあったとしても信じたくなかった。そして、魔王を継承することによって、かつてあった出来事を歴史として読み込まれている。その記憶から、一致する事柄に戸惑いを隠せない。

「呼んできたよ。」

「宿に二人がいなくて、そっちで合流できていたようで良かったです。」

四天王を名乗るだけあって、行動力がはやいのが今回だけは恨めしい。

「トーカ…?」

「トーカ、それは…。」

二人も、魔王同様に気づいた。彼等は大方の事柄に関しての記憶のリセットがされていたとしても、以前の魔王にも仕えていたのだから、その得物を所有すること意味を知っていた。

「魔王の誕生と消滅を見届ける唯一の存在、世界の管理者…。」

最初に会った。違和感はあったけれど、本人ではないかと今まで疑いを持つこともあった。

けど、どこかで違うという想いもあった。本当に管理者であるのなら、ラウナが魔王としてギリギリ…本当に最悪の事態になりえるギリギリまで見守り、少しでも改善の余地があれば触れないようにしていたことに関して、確実に管理者は無情にも手を出してくる。そういう存在だった。

これだけ近くにいて、ずっと仕事を手伝いながら、ギリギリの期限のために、本来の契約の期限から違反していたのに何も手を出してこなかった事実が説明つかない。

最後には壊すことになっても、ギリギリまで諦めたくない想いを、彼女は誰よりも応援して背をおしてくれたのに。その彼女が、無常で無慈悲な管理者だとは思いたくない。

「時間稼ぎとしては、正しい。けど、事実が明るみに出た今、もう変えられない。それが世界の理。」

それに反することは何人たりともできない。だから、今度こそ、きっちりお別れだ。そう言って、背を向ける。

「これからどこにいくつもりなんだ?」

「さぁ?魔王を見届け、世界を見届ける。それが使命である以上、視てはいる。けど、決して姿を見ることも、言葉を交わすことも、この時代が終えるまでない。」

そして、新たな魔王が生まれ、魔王としての案内をして、また世界は繰り返すその様を見届けていく。

「楽しかったよ。いままでありがとう、『魔王様』。」

すぅっと、かすみのように、トーカは消えた。全員が伸ばした手が届くことはなかった。

「「「トーカ!」」」

周囲を探っても、何も気配をつかめない。

完全に、こちらから消えた。もしかしたら、この世界の住人では手が出せない世界の外側にいったのかもしれない。

「くそっ、言ったくせに。」

悔しそうに、ラウナは壁を叩き、握る拳のせいで爪が肌を傷つけていく。

「なぁ、ラウナ。」

「なんだ。」

「前と違って、今度はきっちり別れを言って、あいつは消えた。」

「そうだな。だから、どうやっても、取り戻せない確率が格段に高い。悔しいぐらい、あいつはいろんなことを知りすぎているからな。」

先手を打つことすらできない。それすら見越して、行動されてしまう。

「けど、俺はあいつをこっちへ引き戻したい。…ラウナもそうなら、協力してくれないか?」

「どういう意味だ?」

記憶が戻った今なら、魔王のことをも自分は知っている。そして、魔王だったトーカのことも、知っている。だから、そこに付け入る隙がないともいえない。

「非情な管理者でも、あいつには優しすぎて荷が重すぎたんだ。」

「何を…?」

「俺も思い出した。俺は、先代の魔王だった。そして、その前は初代魔王…トーカの配下だった。」

「なっ、それはおかしい。魔王が勇者になることは矛盾している。」

「そうなんだ。だから、今でも混乱してるし、思い出したことが幻で偽りなんじゃないかって思う。けど、トーカと出逢ったことは本当なんだ。あの時のトーカがこぼした想いも、嘘じゃない。」

それを証明することはできないけど、優しすぎるが故に、連れ戻す最後のチャンスは存在するのだと言うと、真剣に向き合った彼は言う。魔王としてではなく、仲間を取り戻したいと願うただの人と同じように。

「きっと、この旅の始まり…トーカとの出逢いは必然だったんだ。偶然のの重なりを繰り返して得た、必然の出会い。」

どこかで、トーカ自身もこの世界を変えたいという想いが強く出たのだろう。

「俺は、あいつをこのまま逃がすつもりも、一人にするつもりもない。ラウナはどうなんだ?」

「そうだな。俺も、結局あいつを拾ったのも一緒にいたいのも事実だからな。」

部下である以上、勝手なことさせない。そういって、互いの手を取った。

その姿を、気づかれずに見ている影があった。

その影のことに、誰も気づかない。

「本当、すぐに閉じるかとおもったけど、まさかあの人形がこの世界を気に入るとは想定外だった。」

この世界を本当の意味で管理する者としては、その想定外が面白いから、やめられないのだ。

「けど、そろそろこの物語も終わりだな。」

結果がどうであれ、人形の存在がばれた挙句、本来の目的からそれた魔王と勇者がいたのでは、物語は終わりへと向かえないし、始まりもしない。

何も動かない、ただあるだけの世界では意味がない。

「いっそのこと、人形を回収したら、この世界はあっさりと壊れるかな?」

元々の物語のはじまりが、あの人形による魔王としての行動ならば、その消滅が物語の終わりになるかもしれない。

「どちらにしろ、時間がないよ。足掻くなら足掻けばいい。その姿もまた、見苦しいけれど、美しい。」

いろんな姿を見る為に世界を創ったのだから、役者は観客を楽しませるものだ。

「トーカ、君もその役者なのだから、逃げられはしないよ。」

 

 

 

 

幕間

 

物語のはじまりは、いつでも唐突だ。

物語のおわりも、同時に唐突だ。

この世界に縛られ、繰り返される世界を見続けてきた。

創造主はいったい何を望み、何をこの世界に込めたのか、今もわからない。

そんな世界でも、少しだけこの世界のことを好きになってもいいと思った。

何度も、この世界を終わらせようと思った。

こんなにも悲痛な叫びが響き続ける世界は、悲しいし、空しいし、終わることが幸せなんじゃないかと何度も思った。

何度も何度も想いながら、それでも諦められず、何度も魔王の誕生と消滅を見届けた。

どうあっても、管理者として見聞きすることが強いられるのなら、このままこの暗い世界の中で眠りながら聞いていればいい。

関わらなくてもいい。

関わるせいで知る哀しみも、怒りも、そして人のぬくもりも、いつか失うことになるのなら、はじめから知らないままでいい。

記憶を失くして、人として生きてもみた。

結局思い出したけど、悪いこともあったけど、楽しいこともたくさんあった。

だから、もう終わりにしよう。

魔王に関わることも、この世界に干渉することも。

ただ、自分以外で起こる悲劇の連鎖で世界が終わるその日まで。