◆魔王の仕事と勇者の仕事、そして監視者の記録+++Stage4









あれから、変わりのない数日が過ぎた。もちろん、町で待つにしても、お金は必要になるので、簡単な依頼を受けながら過ごしていた。

その間、戦争の噂は日に日に多くなっていった。

「トーカやカイトは一緒にいかなくていいのか?」

「いいんじゃない?必要なら呼ぶっしょ。」

「そうですよ。四天王と言え、いつでも魔王の側にいるわけじゃないですからね。」

「そういうものなのか?」

「そういうも〜ん。」

もくもくと食事を進めながら答える二人に、それならいいかと思って気にしないことにした。少しだけ、気になっていたのだ。魔王が動くなら、魔王の配下である二人がここにいるのは自分のせいじゃないか、と。

「で、今日の依頼って、これとってくるだけでしょ?」

「そうですね。さっさと終わらせて日が暮れるまでに町に戻れるようにしましょう。」

食事を終え、依頼の品をとりに近場の丘から森へと入った。

その森に足を踏み入れた瞬間、また、最近感じていたのと同じ、違和感を感じた。

自分にはない記憶。一瞬だけ出てきて消える。

それが何を意味しているのかわからないが、今まで以上に不安だけが大きくなっていった。

けれど、不安を感じる割に、あっさりと目的の品を見つけ、町に戻って報告しようかと、スムーズに事が進んでいた。

それでも、確かにその不安な当たっていた。

がさがさっと、何者かがしげみから飛び出してきた。

それは、擦り傷だらけで、ぼろぼろの少女だった。

「どうしたんだ?」

少し先へ行けば、あの依頼の目的地、問題となっている国がある。この少女はもしかしたらそれに巻き込まれたのかと思い、手を差し出した。

少女は助けてと小さな声で言ったかと思ったら、ある一点を見て、酷く怯え、言葉が乱れる。

だが、確かに言った。

トーカを見て、トーカの姿に怯え、トーカのことを、『魔王』だ、と。

何がどうなっているのかわからない。けれど、その言葉を引き金に、動いたトーカが手套で少女の意識を落とした。

「トーカ…?」

「今回のこと、思ったより面倒なことになるかもしれないなぁ…やだなぁ。」

とにかく帰ろう。そう言って、少女のことを頼まれ、背負って帰る道。

また、トーカがいなくなってしまいそうな不安が押し寄せてくる。けど、二度と黙ってはいなくならないといったから、その言葉を信じているけれど、何度も感じる違和感が、警告を発しているようにも感じて不安は消えなかった。

依頼の報告と一緒に、気を失った少女を道中で見かけたから保護を頼み、宿に戻った。

そこで、少しだけ嫌そうにしながらも、トーカが少しだけどうして知っているのかはわからないが、現状と戦争のことを教えてくれた。

本物が力の元を回収して何も無かったかのように国そのものを滅ぼす。その為の潜入や段取りをしていて、今こちらから連絡をつけられる状態ではないこと。そして、噂で聞いていた偽物の魔王で力の元を人体実験の結果手に入れた人形のことを、口にした。

「ちなみに、これはなっちゃんもまだ知らないと思う。けど、先日の…警告したのを聞かなかった連中に何もしないって言ったでしょ?あの当時、私は人形を見てる。」

最初は気付かなかったけど、間違いなくあれが人形にされた。そして、その人形の顔が自分とそっくりなのだと教えてくれた。

「なら、あの少女は国から外へ…?」

「だろうね。たぶん、知られたら困るから、追手がかかると思う。」

「いいのですか?」

「どうしようもない。もう、助からない。というより、あの少女はすでに『死んでる』んだよ。」

息をのむカイト。シイナもまた、驚きが隠せない。

普通の少女にしか見えないあの子が、目の前で動いていた少女が、すでに死んでいるという意味が理解できなかった。

「言葉通り、人形ってことだよ。傀儡。元々人形師やそういった類の職人が多い国ではあったんだよ。けれど、同時に傀儡師も多い国で、薄暗い闇が少しずつ光を覆い隠そうとしてた。それだけ、崩壊しかけてた国でもあったんだけど。」

ある人形師が人と同じように操者もなしに動いて回れる人形を作ったことから悲劇が始まった。

「自動人形。それだけなら良かったけど、人の魂に干渉して影響も与えてしまう力を持った…魔王が回収するべき力の元を利用して作られた人工人間のようなものは、自動人形とはまた違う。そこから、国の方針が大きく変わり、魔王の力もしのぐ、死んだ人間を材料にした禁忌に手を染めてつくりだしてしまった。」

これは、人が越えてしまった一線。だから、本物の魔王が動く。そのことに人間は気付かない。

「どうして、私と同じ顔なのかはわからない。けど、今あの国の王と共にある、戦争の引き金でもある兵器ともいえる人形はこれからも命を奪い続ける為だけに動いていく。」

あの少女はその人形と同じように実験に会い、死んだという事もわからないまま、生前のままと勘違いして外へ逃げてきてしまった哀れな魂だとトーカは言う。

「でも、なんでそんなに本物も知らない情報すら知ってるんだ?」

「さぁ、ね?私は聞かれたことを答える。聞かれないことまで答えない。それをなっちゃんもドルハさんだって知ってる。そう、カイトも。そうでしょ?」

「そうですね。トーカは時にまるでこの世界の図書館そのものみたいだと、オルドールも言っていましたし。」

「図書館?何だそれ。」

「私達にとって薬士としても凄腕の方がいるんですけど、やはり長いこと生きているだけあって、知識も豊富なんですが、それを越える重要なことからくだらないことまで、トーカの『辞書』に書かれている事柄は図書館のようだとラウナ様がいつもおっしゃっていました。」

「こいつ、そんなにすごいのか?」

「ええ。」

それこそ、全て答えが返ってくるから、トーカがいて、トーカに答えを聴けば、考えることを人間は面倒で依存してしまうぐらい、何でも知っているし、トーカの言葉は全て現実になる。

「だから、ラウナ様は基本的にトーカから情報を聴こうとはしない。だから、自分で見聞きして知ることを選んで、情報屋をやっているんです。」

そう言われて、魔王が情報屋をやっている理由を知った。

「とにかく、私達は結局手出しできない次元の話。そして、関わらないでいなくてはいけない話。」

もしかかわるなら、それこそ本物の魔王と戦うことになる。そう言ったトーカの顔は真剣で、それが真実だと理解できた。

「どんなに悲しんで悔やんでも、もう走り出した歯車は止まらない。それこそ、最終駅に到着もできずに通り過ぎた列車は、誰がどう望んでも戻れないし、手出しできない。」

過程のことを考えると、いろいろ思うところは確かにある。けど、手遅れなのだとトーカははっきりときった。

「助けることは不可能なのか?」

「もし助けようと思うなら、それこそこの世界と共に心中することになるよ。」

それはつまり、世界が滅びる。そうトーカは言うのだ。

「だから、言ったでしょ?人間は好きじゃないけど、いろいろ思うところはあるんだって。だから、警告を何度かした。それでも駄目だった。だから、私は関わることを下りた。」

それだけなんだよと言ったトーカは少しだけ悲しそうだった。

何だかんだといって、もしかしたら思ったより人間が嫌いではないのかもしれない。そう思った。

 

 

 

 

幕間

本当は、少しだけ嘘を混ぜた。

最初は、創造主側で、この世界を客観的に視るための存在でもあった。

だから、この世界には確かに存在している。創造主が予定外に世界に散らばった歪み以外に、私に関わる厄災の欠片もまた、存在している。

つまり、今回は私がこの世界に居続けるために不本意ながらこの世界に落ちた厄災の欠片が引き金になった。だから、私と同じで違うものになったのだ。

そう、この世界を見て、歪みを回収しやすくするため、一番最初の『魔王』は『私』だったのだ。

新しい魔王に代替わりする際に毀れた欠片が、今になって現れた。

もっと早く気づくべきだった。それこそ、人間が手を出す前に回収すべきものだった。

けど、間に合わなかったから、警告した。それでも、人間は改められなかった。

そして、私の後の魔王も先代も、この繰り返される愚かな過ちによって消えていった。

「でも、現代を含め、魔王が三人なんて…とんでもないことになりそうだけど。」

そろそろ、覚悟して対策を立てないと、本当にどうにかなりそうだ。