| ◆魔王の仕事と勇者の仕事、そして監視者の記録+++Stage3 その後、警戒していたような襲撃もなければ、山賊が出る気配もない。いたって平和な道中だった。 目的地の町…というよりも、城壁に囲まれた支配者が君臨する国と言った方が正しい、大きな門の前についた。 「ありがとうございました。」 そう言って、追加の報酬を商人から受け取り、来た道を戻ろうとした。その時だった。 トーカが足を止め、カイトも周囲の異変に気づいて警戒しだした。 あからさまな殺意を向けられたら、さすがのシイナですら気づいて警戒する。 それだけ、強い殺意がこちらへ向けられていた。ちらりと背後を確認すると、門を商人は潜り抜けた後だったようで少しだけほっとする。 「なぁ、これって…。」 「さっきの連中の仲間ってとこでしょ。」 「もしかして、あの商人の積み荷…まずいものだったんですか?」 「中身はわからない。けど、ろくでもないものであることは確かだろうね。」 嫌そうに言うトーカのことだから、やはりこの国と取引される商品のことについて、知っていることがあるのだろう。 「とりあえず、敵ってことでいいのか?」 「さぁ?向こう次第なんじゃない?…面倒だからさ、さっさとでてきてくんない?」 喧嘩を売るように、しかもかなり機嫌悪そうに殺意の対象に話しかけるトーカ。 すると、しばらくしてから、数人が三人の目の前に出てきた。 「お前達、何故邪魔をした。」 「仕事だから。そう言えば満足?」 「…あれがあの国に行く。その後の脅威を知らないとは言わせないぞ。」 集団のリーダーであるだろう男の確信を持った言葉。どういうことかわからずトーカの方を見るとさっきより面倒くさそうに返答した。 「そうだね。けど、もう回避できないところまでいった。なら、あとは時の流れに任せるだけ。それだけ。…私は、先に警告してあげたはずだよ?」 「…だがっ!」 「その警告を無視したのはそっち。そして、私を敵として攻撃したのも、追い出したのもそっち。…もう、私は貴方達に何もしない。最初から味方ではないけど、今はもう、何一つかかわりのない他人でしかない。」 はっきりとした拒絶。先日の事件に関わらなければ、トーカがここまではっきり拒絶する姿も、他人に対して嫌悪を向けるのも驚きだっただろう。 結局人と関わって、警告する優しさがあっても、人が嫌いである根本はなくなっていない彼女なりの想いを無下にしたのが彼等で、これから何かが起こるということだけはわかった。 「話は終わり?なら私達は行くから。」 行こう。そう言ってシイナとカイトに声をかけて先へ進もうとするトーカの前を、まだ隠れていた連中が通れないように道を塞ぐ。 「あのことを知る者を生かしておくわけにはいかない。あれは罪そのもの。…どこで知ったのかはわからないが、敵となるのなら、ここで…っ!」 「あーもう、うざい。」 すっと手を前に出す。 「好きで知ったわけではないし、あんた達があのことでこうなることに理解がないから罪を重ね続けた。そのことを人に押し付けられても困るんだよ。これ以上私の邪魔をするのなら、それこそ排除するよ。」 目の前に対峙すれば、殺される。それぐらいのプレッシャーが周囲を支配する。味方であるはずで隣にいてその殺意を受けていないはずのシイナですら動くのに抵抗がある。 いったい何がどうなっているのかまったくわからない。けれど、トーカをこのままにしておくといけないということだけはどうしてか思った。 「おい、帰るんだろ?」 そう声をかけると、すっと一瞬であれだけの気が四散した。 本気で敵でないことを良かったと思ったと同時に、どこかでこんなことがあったような、おかしな違和感を覚えたが、今は気にしないことにした。 「…全てが終わったら、必ず思い知ってもらうからな。」 先ほどの殺意で、今は出向くのを諦めたようだが、連中はしつこそうだ。 「…**********…きっと、二度と会うことはないと思うよ。」 ちらりと一度だけ、顔を向けてこの世界では聞かない言語で何かを言った後、つけたされた言葉。 とりあえず、今回は戦闘にならず、その後はスムーズに町へと戻った。 戻ったはいいが、あれからカイトも何かを考えているようだし、トーカはいつも以上にぼけーっとしている。しかも、ラウナはまだ合流には時間がかかるようで町に来ていない。 このまま合流まで待ちぼうけかと思われた。 「…おい、聞いたか?」 「何がだ?」 「近々戦争があるみたいだぜ。」 戦争。争いがまた起こるというその言葉に、つい話の元へ耳を向けてしまった。 そこにいたのは、この町の住人で噂を話しているだけの男二人組だった。 「何でも、魔王がでたんだと。」 「なんだと?」 「国の王が魔王と手を組んで、ずっとぎりぎりの均衡を保っていた力関係が崩れて、戦争が起こるんだと。」 その後もあることないこと続けられる噂話。だけど、いてもたってもいられず、その後を聞かずにトーカ達の元へと向かった。 今何が起こっているのか。間違いなく何かが起ころうとしている。そのことを知るために。 そして、いつもぼけーっと空を見上げているトーカが最近いるカフェのテラス。 そこにはトーカだけではなく、ラウナ…本物の魔王について別行動していたはずのドルハの姿もあった。 「そんなにあわててどうしたんだい?」 普段通りの彼の言葉。けれど、それよりも聞きたいことがあった。 「さっき、噂があった。またくだらないものだと思った。…戦争が始まる。魔王が関わる。…別行動の理由、本当は何が起こってるんだ?」 どこかで、彼等がそんなことをしないとは思っていた。けど、同時に不安もあった。 先日からいろいろ聞いていた、魔王の仕事と存在理由のことだ。 「もう、噂が出回ってるんだ。」 嫌になるなぁと苦笑するドルハは、それで自分たちが犯人だと思っているのと聞いてくる言葉に、違うときっぱり否定した。 「そっか。」 「お前達はこれだけ一緒にいたらわかるつもりだ。わざわざ争い起こして面倒なことをするより、楽しく過ごす方が好きだろ。」 「そうだねぇ。…本当、よくわかっているよね。」 だから、噂だと流さず、真意を確かめに来たんだねと困った風に言うドルハは、簡潔に今の事態を教えてくれた。 噂は本当だ、と。 「確かに争いは起きようとしてる。先日の荷物。あれが最後の引き金。別に君は悪くない。どうあっても、あれがあの国の手に堕ちるのは目に見えていた。別の方法を持ってしても。とっくの昔にアウト。だから、もうリミットがきたから、魔王が動く。ただ、渦中にいるのはラウナじゃなく、偽物さんだけどね。」 「結局、何だったんだ、あの積荷。」 「歪んだ力の塊。ある意味、この世界にとっての異物なんだけど、それを実験の繰り返しで、人の魂の中に取り込んだ、異物で異常な『人形』だね。」 「それって人体実験…っ?!」 「そうだね。…警戒してたんだけど、同じことを繰り返すんだよね。…先代魔王が死んだ争い。それも、今と同じようなことで、ね。だから、できれば関わりたくないし、なるべく起こってほしくないから皆それぞれの方向から働きかけてきたんだけど、無駄だったみたい。」 これから忙しくなるから、もう少し時間がかかる。そう言って謝ったドルハは町の中へと消えていった。 ふと、いつもは騒がしいトーカがそう言えば大人しかったことで気になってそっちを見ると、ドルハがいたことにも気づかないかのように変わらずボケーっとしていた。 「トーカ?」 「…何?」 「どうしたんだ?」 「別に、何でもないよ。ただ、やるせないだけ。」 何度も同じことを繰り返すことが。そうつぶやいた後、小さくて聞き取りづらかったが、確かに彼女は言った。 『魔王が好きな人間になればわかるかと思ったけど、やっぱりわからない』 その魔王が誰の事なのかわからない。けど、ラウナではないことだけは何となくわかった。ラウナのことを、トーカが魔王と呼ぶことがほぼないからだ。 「とにかく、宿に戻ろうか。」 そう言って、席を立つトーカ。 「明日はまた依頼受けて時間つぶしでもする?」 そう言いながら進む。 違和感が、何かを語ろうとする。 一瞬のことで、何がどうなのかはわからない。けど、前をトーカが進むその姿を、今以外で、知らないところで、知っている気がした。 少しずつ、大きくなる違和感。それが何なのか、まだわからなかった。 幕間 あの日、あの時。 いってらっしゃいと見送らなければ、『魔王』が命を落とすことはなかったのだろうか。 この世界は、常に異物が潜んだ歪んだ世界。ある意味、自分はその異物を回収するのが仕事だ。そして、それをこの世界の外へ出すこと。 魔王は、見つける為の役割を担っている。そういう世界に、創造主はした。 何度も、物語の終わりには、電源が消えるようにブラックアウトして、またすぐに物語が始まる。その度に、同じようで違う自分がいて、どうしてか『魔王』は魔王にとっての災厄かもしれない自分を見つけては一緒にいようとする。 だってそうだろう?異物を回収する為に見つけて、それに関わる全てを壊して悪者になる役を押し付けられたようなものである魔王が、それをさせている原因側にいる自分と一緒にいるのだ。 本当、そろそろ自分が嫌になってきた。 同じことを繰り返して歪みを広げる人間にも、面倒になってきた。 この世界を捨ててもいい。そう創造主は言っていた。だから、この世界の物語を閉じてもいい。だから、関わることをやめようと何度も思った。 きっと、この世界に生きる連中からしたら無責任だと言われそうだけど。 本当に、もうたくさんなんだ。同じことを繰り返して争い、奪うことを繰り返す人間を見る日々は。 そんなある日、人のように過ごして、人が好きな魔王がいた。 義務的に仕事をこなすだけの魔王や、怒りのまま動く魔王や、奪うことを悲しむ魔王や、いろいろいたけれど、結局最後まで人の意思に任せて干渉しない魔王ばかりだった。そんな中、人が好きで、人に働きかけて必死に回避しようと走り回る魔王ははじめてだった。 「嫌いな人間も、人間の『目』からみたら、何か変わるのだろうか。」 少しだけ、願った。結果、魔王が迎えに来るまで、私は記憶がないまま、『人間』として生きた。 思ったより、自分自身が魔王の側で回収を仕事しているというより、魔王に使われる人形として創造主につくられたみたいだと、知った。 この世界の理から魔王が逃げられないのと同じ、自身も魔王からは逃げられない。ならば、魔物や人間など区切り関係なく、楽しく生きないと、一度きりの物語は楽しめない。 そう踏ん切りがついてからの世界は、思ったより綺麗だった。 『先代魔王』はいつもこの世界を見ていたから、何事にも諦められず、人と関わることも諦められず、最後まで足掻こうとしていたのかもしれない。そう思った。 |