◆過去と現在、そして長い未来+++Stage6





なんとか、結界と呪術で動きを抑え、ドルマとリュマが腕ごと身体を抑え込んでいる。

「放せっ!」

暴れるトーカ。だが、抑える力もカイトの結界の縛りも動かない。

「放せ…放せっ!」

その間に、俺は確かめたいことがあるので、彼等に任せて、それに話しかけた。

すると、言葉としてはこちらに敵意を向ける言葉が聞こえてくるのに、ダブって別の声が聞こえてくる。違う意思を持つその声は確実にトーカを心配しているし、トーカのことを知っている様子だ。

「あんた、誰なんだ?」

「我等に名称などない。」

『私はあの子の…あの子に名乗る名前はもうない。』

「あいつのこと、知ってるのか?」

「知っているに決まっている。あれはかつて我等を惨殺した力の主。喰らえばその力は我等のものだ。」

『私がお腹を痛めて生んだ子…なのに、何もしてあげられなかった。だから名乗る名前はもうない。きっと、恨んでる。それでも、あの子が無事で良かった。だから、もう苦しめたくない、殺したくない。』

嫌だというはっきりとした哀しみと拒絶。

「そっか。わかった。…その黒い奴が原因でいいんだな。」

「何を言っている?原因なんてものはない。我らが『魔王』になる。ただそれだけだ!」

その為の力を得ようとしただけだと、再び飛びかかってきたそれを、ラウナが魔術で押さえつけて止めた。

「残念だが、お前では魔王にはなれない。…なぜなら、お前は魔王の存在意味を理解していないし、俺が魔王であることすら気づかない愚か者だからな。」

急に変わる、纏う空気とオーラ。言葉とその実力を理解するころには、黒い影は実力の違いを嫌と言う程理解していた。

「何故、何故…今の魔王は、いない。何もしない。そう言われてきた…お前、何者だ?」

「だから、言ってるだろう。魔王だ、と。」

噂だけで、表にでない魔王の存在を彼等とて知っていた。だが、何もしない魔王を力がないただの飾りだと思っていたことも事実だ。

だから、こんなところに出てくるはずがない。そして、これだけの力があるはずがない。

魔物である彼等もまた、人間と同じように勘違いしているのだ。魔王の役割の本当の意味を。

「ありえない。ありえない!」

動揺する相手に、隙を逃さずカイトの呪文が入る。

「なっ、しまった…!」

その隙にドルハは弱ったここの主を回収し、引き離す。

「さて、決着といこうか。…大事な部下を二度も陥れようとしたこと、後悔してもらおう。」

目の前で次々と起こる、華麗な連携に、やはり彼等はお互いをよく知っているのだと認識する。だからこそ、やっぱり戻ってくるべきだ。だから、もう一度トーカの方を見る。

「ちゃんと話をつけてからにしろ。」

勝手に死ぬことを許さない連中と、ずっと会いたくて絶望までしている奴と。どっちもトーカが関わり、きっちり形をつけなければいけない。

「俺は勝手についてくるのも勝手に抜けるのも好きにしたらいいと思っていた。だが、本気でどっか行く気なら、一言ぐらい声をかけていけ。」

今は仲間なのだから、いなくなったら心配するだろう。そう言って、頭突きをかましたら、鈍い変な音がした。

何気にこっちもいたい。かなりの石頭だなと思っていたら、痛そうにして、目に涙をためながら、こっちを睨むトーカがいた。

「な、何するのさ、ひどいじゃないか!」

やっと正気に戻った彼女に、他の連中もほっとしたようだ。その後も、ぽかぽかと背中をなぐられるし、さんざんではあったが、よしとしておこう。

背後で、黒いオーラを背負って魔物をつぶしている魔王のことは見ないふりをしながら。

 

 

 

ひと段落ついて、思いきりすがすがしい笑顔で戻ってきたラウナ。ドルハの笑顔より、今日は彼の笑顔の方が不気味だ。

「さて、とりあえず討伐依頼は完了だし、部下も取り戻したし。それで、トウカはどうするつもりだ?」

「うっ…なっちゃん意地悪だ。」

「でも、そろそろ決めてほしいんですよ。彼もただ、心配してるだけなんですよ。」

「わかってるよ…あの時だって、結構聞こえてたから。」

でも、まだ整理できてないし、納得できていないから何とも言えないのだと小さな声で応えるトウカに、諦めろと一括するラウナ。

そして、とうとう強硬手段に出た。

最初から彼等ならやりそうではあったが、一応遠慮ということを知っていたようで、そのせいで今回みたいな面倒なことになったみたいだ。

「…っ、な、殺す気ナノ?!」

無理やり口に放り込まれた液体。つまりかけて、せき込むトウカ。だが、楽しそうなラウナ達には、その睨みは怖くない。

「オルデール作だから、死なないだろ。ま、成分からして、死ななくなるから、どっちでもいいけど。」

「…うぅ、詐欺にあった気分だよ。ドルハと会った時みたいに。」

「ちょっと、それはないんじゃない?」

「ドルハとならぶ不審者としてはトウカも似たり寄ったりだろ。」

「なっちゃんひどい!」

いつの間にか、いつもの彼等に戻っている。やはり、彼等は一つ欠けたらだめなのだ。そういう、強い絆の関係が少しだけうらやましく思う。

「とりあえず、おかえり。」

「う、君も言う様になったよね。」

「最初に言っただろ。それに、さっきも。ついてくるのも離れるのも好きにしたらいい。だけど、礼儀としてどっちも一言声をかけていくべきだろ。」

だから、それを聴くためにきたと言うと、このまま、どこまでもついていってやると恨めしく返事を返された。

けれど、思ったより彼等との旅を気に入っていたようだ。

気付いたらここにいて、勇者と言う肩書があることだけ。そんな自分が出逢ったのは、勇者が倒すはずの魔王一行で、そろそろ勇者という肩書を返上する必要があるなと思ったが、今ここでは言う必要はなさそうだ。

「さて、とにかく帰ろう。でも、その前に、あれ。」

「ん?…ああ、でも、今更話すことはないよ。」

それでも、確かに、何だかんだといって人のままでいて中途半端だった自分と改めておさらばするにも、話をする必要はありそうだとトーカも思ったようだ。

今は、すんなりと受け入れている。人ではない存在になったこと。あの薬品だけでそうなると到底思えはしないが、彼等が言うオルドールという人物はそれだけのことができる薬師なのだろう。なら、本当にたったあれだけで人ではない者に変わる。

そう言う意味では、恐ろしい力だ。

「久しぶり。でも、お互い違うものになった今だと初めましてっていう方が正しいね。」

そう言って、トーカが向き合った彼女の心は、先ほどまでの悲痛な叫びを覆い隠す程の喜びで溢れていた。

 

 

 

 

 

幕間

やっと会えた。昔のこと、今のこと、どう思っているのかはわからない。

けど、今は大事なものがあって、一人じゃないことを知ったから、もういいの。

今度は貴女自身の為に幸せになりなさい。そう、願っているから。

今さらだと貴女は言うかもしれないけど、願うことは自由よね。

「「ありがとう」」

私から貴女へ。そして、貴女から私へ。

互いが受け取った同じ言葉。だけど、まったく意味が違う言葉。

だから、私も今日から本当の意味で、ここを守る為に、新しい大事な『家族』の為に、生きていこうと思う。それを、今のあの子は許してくれる気がする。

本当に、ありがとう。

あの子と一緒にいてくれた、あの子の大事な人達。