◆ 過去と現在、そして長い未来+++Stage5







倒れている人もいた。撤退を選ぶ人達もいた。それを通り過ぎ、シイナ達は奥へと進んでいた。

「近いな。だが、予想した通り、暴走モードだな。」

気配が変わってしまっている。そういうラウナに、シイナも気を引き締める。

「いました。前方…たぶん、依頼のターゲットと一緒です。」

「戦闘準備開始。」

「御意。」

「やれやれ。」

「やりましょう。」

「ああ。」

それぞれの得物を準備し、突っ込む。様子を伺う余裕なんてない。あの魔物から泉の精霊を引きずり出さないといけないし、トーカに魔物ごと消されても困るのだ。

間違いなく、トーカの気配の様子から、時間はない。

「乱入者…誰?」

ちらりと、視線をこちらへ向けるトーカ。その姿はシイナが知っているものとは違っていた。

「おい、何やってるんだ。帰るぞ。」

「…対象。…データ一致対象なし。誰…?」

会話をする状態ではあるようで良かったと思うが、いつもの雰囲気と違うから違和感がある。いろいろ面倒事はごめんだし、騒がしいと思っていたけれど、トーカはあれでいいのだと思う。だから、あのトーカを取り戻す。

「理解不能。敵と認識し、戦闘開始。…消えろ。私はもう、誰もイラナイ。何も望マナイ」

彼女の本音。だが、その望みを叶えるつもりはない。

いらないといいながら、彼女は仲間と共に騒いだ。その中にいることを許した。なら、これからも選べるはずだ。

「生憎、俺は勝手に仲間に入っておいて、理由もなく去る奴は今まで気にしたことないが、お前のことは気に入っていたし、お前が好き好んでそっちにいるわけじゃないだろうから、無理やりにでも、こっちに戻ってもらう。」

珍しく、自分から取り戻そうと選んだのだ。必ずとっつかまえて引き戻してやると、シイナは構える。

いく度目かの攻防を繰り返したとき、ふとシイナは声を聴いた気がした。すっと、周囲を見渡すが、声の主らしきものは見当たらない。

「ぼさっと立ってると危ないよ。」

「ああ。…何か、聞こえなかったか?」

「どうだろうな。音がいろいろありすぎてわからんが、それのことじゃないんだろ?」

「ああ。」

少しだけ、そう言って、シイナは周囲のことを任せ、もう一度見渡す。音も聞き洩らさないように注意を向ける。

そして、やはり聞こえた声にはっとなる。

声とずれて聞こえる別の声。

「邪魔をするなっ!殺す殺す殺すっ!」

『やめて、もう、やめて。あの子を傷つけないで。』

「黙れ。この世界にイラナイ。いい加減、消えなさい。」

『殺して、もう、殺して。生きるのは疲れた……ちゃん、殺して。』

二つの声。その声にぶれて聞こえる別の二つの声。

『愛しいわが子。』

『殺して、なっちゃん。』

はっきりと、聞こえる。被って聞きにくい二つの声。はっと、見た先にいる、シイナ達に襲い掛かるトーカと、暴れる魔物。

「ラウナっ!」

「お、どうかしたか?」

「よくわからんが聞こえた。まだ、トーカの意識がある。何でもいいから止めろ。」

「へぇ…なら、急いでとっつかまえることにしますか。」

「あと、そっちの奴、もしかしらたトーカの過去の知り合いかもしれない。」

それを聞いて、少し考える様子のラウナ。だが、わかったと答え、向き直る。きっと、これで彼等はあの魔物を殺さない。きっと、殺してしまったらいけない。そんな気がした。

ラウナの指示で動きを変える面々。バラバラであるにもかかわらず、バランスよく動きを変える彼等に、やはり同じ場所で共に戦ってきたのだろうと感じた。そして、やはりラウナが彼等にとっての主なのだとも。つまり、それは彼が魔王であるということに…と、考えて、今は横においておく。

彼が魔王かどうかはもうどうでもいい。敵ではなく、ともにこれからも進む仲間である事実だけあればいい。

全員で、敵である魔物を警戒して近づけさせないようにしながら、トーカの動きを止めるために動く。シイナは叫ぶ。

声がまだ聞こえるなら、届く可能性はある。そして、意識が勝てば、あの魔物も止まるかもしれない。

「殺したくないなら、止めろ。そいつだって、殺すぐらいなら殺されたいって言ってる。」

お前は本当に殺したいのか。もう、戻れないのか。唸り、殺すと繰り返す魔物。だけど、何度も言えば、少しだけ目の輝きが変わったことに気づく。

「なぁ、あんたは本当はどうしたいんだ?愛しい我が子って、トーカのことか?」

動きが止まる。名前がキーになったのか、まだ覚えていただけなのかはわからない。

「本当にいいのか?あいつは死にたがっている。だが、あんたの手で殺したら、結局どっちも後悔する。あんたは、トーカに生きてほしい。そうなんだろ?」

なら、俺たちと同じ。だから、生きるように説得するのを手伝ってくれよと言うと、目を閉じ、すうっと暗い影が遠のき、女は少し姿を変えた。

「私…あの子、守れなかった。守りたい。大事な、わが子。」

ごめんなさい。そう言う女が崩れ、泣く。

「私は…闇にとらわれた。取り返しのつかないことをしようとした。…私はまた、あの子を傷つけ…私は、駄目な母。」

どうやら、この魔物…いや、今はここの主である精霊のような女はトーカの母親であったようだ。どうりで、目の色が似ていると思った。

「あの子は…?」

「大丈夫。あっちにいるのは、トーカの仲間だ。トーカもいい加減観念して戻ってきたらいいんだ。」

観念して、人であるか、魔物であるか選べばいい。本気で人でいいと思うのなら、もうラウナだって止めないだろう。

「いい加減、戻れ。起きろ。認めろ。何がお前をかたくなに一線引かせるんだよ、トーカ。」

 

 

 

 

幕間

 

「表に出ない声が聞こえる、か。」

本当に面白い。トーカが見つけた人間は、思った以上に面白い。とても耳がいい呪術師としての素質があるのだろう。だから、彼が望むのなら、彼が望むままに、嘘が破れ、本心が聞こえる。

きっと、自分から言わなくても、いずれ彼は知るのだろう。違和感から、自然と持つ力によって、魔王という正体を聞いてしまうのだろう。

本当に、恐ろしい。

「でも、本心を一度ぐらい、ちゃんと言ってほしかったよ。」

普段の日常のものではなく、本当の本当の、奥深くに仕舞い込んだこと。

「言っても、殺してっていうお願いだけは聞けそうにないけどね。」

もう、君が何もであることはどうでもいい。ただ、失うつもりはない。大事な、仲間として。だから、戻ってきてもらう。

本心を言わないのなら、二度と逃げる隙はあげない。