| ◆ 過去と現在、そして長い未来+++Stage3 ギルドにおいて、今回の襲撃での攫われた人の救出と魔物退治の依頼がでており、何組かがその依頼を引き受け、町を出ていった。 もちろん、仲間が一人連れていかれているので、シイナ達もその依頼を受けて彼等から遅れること少し、町を出た。 その際に、知っているかとある昔話を始めたラウナ。 「別にこの先人は決して知ることはないだろうし、知る必要もないんだろうけど。君は知っておいた方がいいかもしれないと思ったから。」 聞きたいかといいながらも、勝手に話していくつもりなのであろう、彼の口から語られたのは、シイナが知らないこの世界の歴史の一つだった。 世界のはじまりは、暇つぶしに神が世界を一つ創ったことから始まった。 その世界こそ、シイナ達がいる『世界』だ。 この世界のことを、この世界で生きる人間は、彼等が考えている以上に何も知らない。そのことを改めて思い知らされる長いお話。何より、世界など創る存在がいることも、あくまでこの世界が暇つぶしという名目で、この世界以外にも同じような世界があったりするなんて、誰が信じられるというのか。 だが、それは本当の話で、ラウナが語ったのは、その神が使いとして監視者を一人この世界に置き、あとは放棄したということ。 そう、すでにこの世界は神の管轄下から外れた異質なものになっていたという現実。知らない間に歪みが広がり、いつか壊れるであろうこの世界のことなど、きっと誰も知らない物語のようなもの。 だが、神がこの世界の全てを放棄したとしても、その使いが世界の管理者として神として君臨していれば歪みが広がることもなく、変わらない『日常』が続いて行くだけの話。だが、それだけではないのが現状だ。 この世界は神が思っている以上に歪みが多く、そして可笑しな力の働きが起こってしまう不安定な世界だった。 けれど、よくも悪くも使いを補佐する役割である命を一つ、神はこの世界におとした。 その後、神は完全にこの世界から手を引いた。 歪みのことなど何も知らないまま、放棄された世界は、ただいつか壊れるのを待つだけのガラクタになりかわった。 けれど、残った神の使いは思ったよりこの世界のことを気にいっていた。だから、神が残した神に関わる命と共にこの世界の歪みを少しずつ直して壊れないようにしようとした。 「使いは、神が放棄した以降はこの世界の管理者でもある。だから、この世界の上で絶対の力を持っている。」 「会ったこと、あるのか?」 「俺の記憶が正しかったら、たぶん会っている。アイツが管理者だったんだと、今なら思ってる。」 とりあえず、今はどこにいるのかわからないし、もしかしたらという希望もあるが、絶対の確証がないのでこれは後だと言って話を戻す。 今はその神の使いの行方の有無を検討する時ではない。 「君になら話しても問題なさそうだから話しておくけれど、信じる気がないならそれでもかまわないが、一応これは他言無用だ。」 そう釘を指して話を続けた内容が、シイナにとって予想以上に今までの考え方を覆すものだった。この世界の始まりだけでも頭がおいついていないのに、思った以上に自分は厄介なことに巻き込まれているということに今更気付いた。 実は魔王が、本当は悪ではなく、神が最期に管理者の補佐としておとした命であること。 そして、魔王はただ破壊行為をしているわけではなく、世界の歪みによって人が人で制御できない力を手に入れた際に、その対処として力の元から消滅させていると言う事実と、それこそが魔王の存在理由であることを聞いた。 そして、歪みを正した後は、命が住めない大地を少しずつ浄化し、元に戻すということを繰り返していると言う、人が日常で見聞きすることとまったく違う内容に、少なからず動揺があった。 「なぁ、じゃあこの世界はそもそも間違っているのか?」 「ん?まぁ、欠陥だらけなのは事実だね。」 「違う。魔王を倒すと言う制度があり、その為に国が依頼をしている。」 「ああ、そのこと。」 何も知らない人にとって、魔王という存在は、存在そのものが悪で倒すべきものだ。何せ、知らない人間にとってはいきなりの襲撃で一瞬であの世行きにされるのだから。だが、真実をしった、魔王を倒すのが仕事である勇者の彼が迷うのも無理はない。 話した内容を理解できるのなら、魔王を倒すことに意味はない。そもそも、魔王を倒すことで反対に世界の崩壊が酷くなる可能性があるのならば、本末転倒だ。 「ま、魔王は倒してもまた生まれる。正確には、『魔王』という敬称で人が勝手に呼んでいるだけ。ちなみに、今の魔王は5代目らしいよ。」 「5代…。」 「結果から言えば、倒された魔王もいれば、本来の役割の為に命を差し出した魔王もいる。」 だけど、それを知っている人はいないし、人が本来知るべきものではない。そう言って、話を戻すけれどと言うラウナにまったをかけた。 「なぁ、本当のところはどうなんだ?」 「何が?」 肝心なところではぐらかすように話をあやふやにしているが、シイナも馬鹿ではない。確かに必要以上のその情報は役に立つだろう。けれど、彼は最期の最期でまだ何かを隠している。それが何であるのか。 もし、このまま聞いておかないでいたら、二度と知ることができないだろうし、彼等と共にいることはできそうにない。 考えが正しければ、知らないままではなく、知っておかねばいけないに違いない。それが、彼らが話してくれる内容に応える為に必要なことだと思った。 今回のように、知らないままでいれば対応できないようなことになりかねない。それだけは、避けたいのだ。 結構、この連中と共にいることをよしと思っている自分がいるのにも驚きだが。 「そんなに詳しいのはおかしいだろう。そもそも、知っている人間がいるなら、他にも知っている人間がいてもおかしくないのに、俺の知る限り人はそんなことを知らない。だが、あんたは知っている。何故だ。いったい、何者なんだ?」 魔物の分類にも詳しい彼。いや、彼等と言った方が正しいのかもしれない。彼等はもしかしたら、『人』ではないのか。そんな疑問が湧いたのだ。これは、この先の付き合いの上でもかなり重要な意味を持ってくる。 別に、シイナにとって、彼らが魔物であるかどうかで今更付き合い方を変えるなんてことはしないが、この世界のつくりの上で、『情報』として知っておく必要性は感じるのだ。 今までと自分の考え方が少し変わったのを感じて苦笑しつつも、そろそろ選ばないといけないのだろう。そして、決めなければいけないのだろう。 このままこの世界の理のままに流されるか否かを。 きっと、彼らがどちらであると答えても、シイナの答えは決まっている。ただ、このまま彼らと一緒にいてもいいのかを確かめたい。 「基本的に気にしない主義だし、楽しければいいと思っていたし、そもそも、トーカの知り合いだからこれぐらいはありかもしれないと思ってた。」 確認することをせず、気付かないままでいれば、このまま続くかと思ったのも事実で、それが甘さだったのかもしれない。 だが、もう潮時、という奴なのだろう。 「人だと思ってた。けど、違うんじゃないか?」 その言葉に、少し言葉を詰まらせたラウナは少し困ったように笑いながら、だけど答えてくれた。「その通りだ」と。 「君の予想通り、人ではない。でもって、もっと言えば君にとって最悪の答えになるだろうけど、魔王の管轄下の『魔族』だ。」 これだけ詳しいのだから、今更そんなことを言われても驚きはそれ程大きくない。何より、少しだけほっとした気がした。 彼等が当事者であるからこそ、詳しいことが、彼の言葉に真実味を持たせる。別に彼等のことを信用していないわけではない。だが、今までの考え方を覆す真実に少しついていけていない部分と思ったより彼等が自分よりも長くこの世界に生きて世界を見てきたことに驚いているだけ。 少しだけ、人と相容れぬ存在として居続けながらも、人の為にいる彼等に申し訳なさと感謝と、ハチャメチャな日常になったが、出会えてよかったと思えた。 そして、彼らが強い理由がわかった気がしてどこか納得したところもあった。 「そうか。」 「感想がそれだけっていうのも、たいがい君は変わってる。だからこそ、トーカが気にいったんだろうけどね。そうでなければ、あれは気まぐれで自由過ぎるし、何より納得いかない状況に大人しくしている程可愛い性格してないからね。」 「それはわかる気がする。かなり自由人だよな。…アンタ等も含めて。」 「えー俺も含まれてるわけ?」 「ああ。ラウナもドルハも。あ、カイトだけは少しだけ普通に近いかもな。でも、アンタ等をどうにかできる時点で普通とは程遠いけどな。」 「おやおや。」 「言ってくれますね。でも、よく理解して下さっているようで良かったです。」 それならば、説明を続けやすい。そう言ったラウナが、話を戻すからねと言って、続けた内容は、思っていた以上に厄介なものだった。 幕間 「強い力。お前の心残り。そして、『我等』の敵。思ったより強い。」 『やめて。返して。自由にしてあげて。もう、嫌。あの子を失うのは。』 「血塗られた愚かな歴史の繰り返し。あれを失えば、お前は二度と我等から主導権を奪えないだろうな。」 『いや、いや…あの子と戦いたくない。やっと、やっと見つけたのに、会えたのに。』 「この木がもうすぐお前の血に連なる子らを喰らい尽くす。あれを喰らえば、お前の血は絶える。諦めろ。」 『いやよ、いや。貴方が生きているのを知った。だからもういい。私を殺して。そして、巻き込んだあの子たちを助けて。』 眠り、命が消えかける、木に絡まる人影達。その前に立つ唯一。 二つの言葉が聞こえるが、そこにあるのは一つ。 ドンっと空気が震える。酷い、圧迫感。かき消される一つの気配。 「何だ、これは…まさか、これは…あの死にぞこない、まさかここまで…。」 その場から離れる。かつてのこの場所で残虐な悪魔と化した少女とは比べ物にならないぐらい、強い化け物がこちらへ向かってくる。そこへ、向かう。 出逢えば、どうなるか。 彼等はまだわかっていない。 |