◆ 過去と現在、そして長い未来+++Stage2





最初から違和感はあった。

誕生日で騒ぐということはただの理由で、楽しいことを楽しむのが好きなトーカが、珍しく難しい顔をしている。それに、どことなく他の面々もぎこちなさがあり、おかしな空気が流れていた。

きっと知り合いである彼等の間に何かあったのだろう。それは間違いないが、生憎彼等の繋がりの本当のところを知らない新参者であるシイナはどうしてこうなっているのか一向にわからなかった。

だから、ただ様子を見ていることしかできなかった。

どこか違う雰囲気の状態の為か、誰もが気付くのが遅れた。そして、どこか様子が違いすぎる故に、彼女自身にも隙ができていたのだろう。

いつもなら、彼等はこんな失態を絶対におかさない。

それだけの実力を持っていることを、シイナは身を持ってよく知っていたからだ。

響く、ガラスの割れる音と、壊れる大きな音。人々が慌てふためき、誰かが叫ぶ。

魔王の手の者の襲撃だ、と。

きっと、彼等は絶対ありえないことが今起こった為に、余計に動けなかったのだろうが、シイナは彼等のことを知らなすぎた。

咄嗟のことで反応が遅れたが、シイナが剣を抜き、敵に斬りかかる。

遅れながらも、他の面々も対応し始めたのだが、ただ一人、本日の主役であったトーカだけが、ある一点を見て固まっていた。

「おい、どうしたんだよっ!」

敵を斬り倒し、トーカの近くへ戻ると、顔色の悪さに反対に驚くことになった。

「な、なんで…。」

狼狽し、自我が保てていない彼女に、肩をつかんで名前を呼んでゆするが、まったくこちらに反応を返してこない。これはまずい。

咄嗟に誕生日だと教えてきたぐらい付き合いが長いのであろう、ラウナの方へ向き、呼ぶと、彼も気付いてこちらへ戻りながら目の前の襲撃者を倒していた。

その時、突如背後から黒い風が吹き荒れ、黒い影が姿を見せた。

間違いなく今回の黒幕だろう。これを倒せばと思い剣を構え直したが、それはすっとすり抜けて消えた。

何だと思ったが、そんなことはすぐに頭から消える。

「トーカっ?!」

今まですぐそばにいた彼女の姿がそこになかった。そして、敵は撤退していった。

その際、何人かの町人達が、誰がいないと騒いだりしていた。

「もってかれたな…。」

「うーん、結構面倒なことになりそうだねぇ。」

どこか遠くを睨みつけるように見ているラウナ。頭をかきながら、困った風に呟くドルハ。心配して悲しそうなカイト。

そこへ、ここにいなかったリュマというラウナの護衛の男が現れた。

「すまない。見失った。」

どうやら、近くにはいたようだ。だが、あの影の行方はわからないままのようだ。

「だが、どうもあの森付近で消えたことに理由はありそうだ。」

「成程、ね。」

「森?」

「そうですね。そろそろシイナさんにもお話しておかないといけませんね。」

どうやら、一人だけ状況が理解できていないようで寂しかった。あくまで少しだけ。

「悪いが、ガンちゃんつれて、森の中の様子さぐってきてくれないか。」

「御意。」

すっとそこから飛び出ていったリュマ。そして、シイナの方へ向き直ったラウナ。

「実はね、この街の先にトーカの故郷があるんだ。」

「そうなんですか。」

確かにこっち方向で過ごしていたのなら、元々シイナがいたところよりレベルが高くて当たり前だ。出てくる魔物の最低レベルが違いすぎる。

「まぁ、よくない風習をやってて…今もよくない風習の名残が残ってる、結論から言ってろくでもない閉鎖的な外の者に対して冷たい村だ。」

どういう扱いを受けていたかは話が長くなるから切ると言ったシイナは、その村は森に囲まれていて、その森はとても危険であることを言った。

「まぁ、近づかなければ問題ないけど、性質の悪い魔物が住んでるんだよね。」

「ああ。だが、数十年前に森の泉に番人と呼ばれる精霊がついてからは静かになった。」

だが、どうも状況が変わったようだと彼は言った。

「まさか、あの影…。」

「だろうな。その精霊を取りこんでしまっていたら、かなりの力を持つ魔物だ。ま、魔王の配下ではないだろうがな。」

どうしてそんなことがわかるのかと首をかしげると、彼は簡単に答えた。

「魔王は特定の条件下でしか動かないし、配下を差し向けない。その条件の基準を人はまだ知らない。だが、常に魔王が動くのは『影魔物』が関わる時か他に理由がある時か、だ。」

「何だ、その影魔物っていうのは?」

初めてきくものだった。

「魔物にも種類がある。さっきのがそうだ。魔物にも大きくわけて五つぐらいある。そのうち一つが魔王の配下。そして魔王の敵である影魔物。あとは人と混ざった奴等。まぁ、今はその説明すると長くなるから省くが、とりあえず、魔物にも人に害のないものと人にも『魔物』にも害のあるものがあるってことがわかっていればそれでいい。」

「そうなんだ。」

「ほら、愛玩動物的なものがあるでしょ。人が連れてる奴の半分ぐらいは魔物だよ。」

今では日常の中に普通にいるから、誰も魔物だと認識していないけれど、確かに魔物なのだ。種族という分類をするのならば。

「とりあえず、今回のは魔王の配下でもない。どの種族においても敵でしかない奴等、だ。つまり、一番面倒なのが現れたってところだな。」

本当、タイミング悪くて最悪だと言う彼等の常にない焦り具合から、もしかしてトーカとトーカの故郷で何かあったのだろうかという考えが過った。

 

 

 

 

幕間

本当に情けない。こんなことでこんなにも簡単に敵の手に落ちるなんて。

さっさとここから抜けて戻らないと、怒られてしまう。

だけど、さっきから動きたくても身体がまったく動かない。目も開かない。

最悪だなと思う。しかも、こんなところで。

思い出したくないあの日をまた思い出してしまう。もう、嫌なのに。

少しずつ、身体の奥底から湧き上がる抑えきれない力を感じる。

また、だ。あの日と同じ。あの日と同じように、また自分は自分でないものに成り果てて、全てが消えてなくなるまで壊してしまう。

少しは成長したと思ったのに、結局変わっていなかったようだ。

「ごめん。…なっちゃん…怖い、よ…怖いよ…もう、殺して。」

すっと髪が銀色に輝き、瞳が黄金と深紅の色に変わり、そこに光は消えていた。

『…これは、イラナイ。』

手にまとわりつく光。集まる力が周囲へと放たれる。

集まっていた影が悲鳴を上げて消えていく。

『逃がさナイ。…敵、認識。全ての破壊を開始します。消えなさい、我の前に現れるな。』