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事の発端は、管理人から月に何度か住人に回される回覧板を届けに下の階のとある住人の部屋の前にきたことから始まる。いつも鍵がかかっていないし、留守であることが多いので、中においておこうと扉をあけた。ここまではいつものことなので良かった。だが、珍しく住人がいて、ちょうど彼女が大好きな卵かけごはんとオムレツと黒蜜白玉を食べようと机に並べていた。しかも、卵かけごはんに醤油をかけようとしているときに声をかけてしまった為、つい手を止めてしまった彼女は、ご飯に彼女が思っている以上の醤油をかけて黒くなってしまった。 さすがに間の悪さから謝ったが、普段怒らない温厚である彼女が、食べる事に関してはどの住人も邪魔するべからずという寮則を作ってもいいというぐらい、人が変わることを思い出し、諦めた。 だが、今思うと多少抵抗は必要だったかもしれない。1時間もこんなことに使うことを考えると。 「わかっとんのか?あーもう、せっかくの適量による絶品の昼飯が台無しや。ふざけんなや。」 「悪かった。」 まだ、終わりそうにない彼女の怒り。 「とにかく、話は聞くから先に食べたらどうだ?」 「何だと?誰のせいで台無しになったと思ってんねん。」 「俺です。だから、これ以上冷めて不味くなったら困るだろ?」 せっかくおいしそうなオムレツまで被害にあうぞというと、少し考えて、女はおとなしくなった。 「あと、これ、土産。さっきは本当に悪かった。これで勘弁してくれ。」 そういって出したのは霊鳥の卵。妖怪にとって、レアな卵である。 「これ…いいの?」 「だから、前から言ってたのが売ってたから土産にと思ってたけど、今日は悪かったから土産というよりお詫びになりかわったけどな。俺は興味ないからな。」 妖怪によっては、霊鳥の卵は美味な食材だが、この女にとっては別の意味がある。それも、重要な意味だ。 「ありがとう。わかった。今日のことは許す。次あっても…次ぐらいなら許す。けど、その次はない。」 「ありがとな。で、何でもいいってことだったし、適当にあったの手に入れたけど、良かったのか?」 「いい。私達のような四季の精霊は、パートナーとなる霊獣や霊鳥がいて初めて仕事をもらえる。そして、育てて共に仕事をこなせて一人前。どんな相手かわからないのはよくあること。だから、いいの。それが出逢いで、縁だから。」 「そっか。」 ふと、女は食べ終わって手をあわせ、改めて卵に向かう。礼をし、名乗る。これからよろしくという意味で名乗り、名を与える。最初に行う、大事な儀式。 「あっためたらいいのかな?」 「なら、新聞でくるめばいいだろ。いっぱいあるし。」 「嫌よ。あれはあくまで、空間を遮るための『目印』としてつるしているんだもの。」 「ま、何でもいいけどな。じゃ。俺は帰る。」 「ええ。ありがとうね。もう一度、頑張ってみるわ。」 「おお、がんばれよ〜。」 一度失った縁。二度と戻らないけれど、新しい縁は繋げられる。 「望まぬ縁ほど、複雑に絡んで抜けられない程…最後には何もなくなって終わりになるのにな。」 本当、望まぬ縁程、切れることなく深く絡みつく。 「今日は気分じゃねーから、帰ってくれっていったら、帰ってくれるか?」 取り囲む、黒い影。俺を狙うヴァンパイア。適当に相手して帰ってもらうことにして、『扉』を開く。向こうへ繋がる特定の者にしか扱えない、絶対の力、絶対の扉。 「さようなら。伝えておけ。戻る気はない、と。」 |