さん・・・誰かがどこかで何かを企んでいるようだ






その日、俺は月に一度の仕事の為に着替えていた。

ふだんごろごろ過ごしているが、生活するのに仕事は必要だ。それは、妖怪業界だって同じだ。普通の人間から見れば、ぐうたら過ごす俺が月に一度の仕事で一月過ごせるなんて羨ましいというよりふざけんなとか真面目に働くサラリーマンには言われそうだ。

だが、妖怪世界では事情が変わってくる。

確かに、人間と同じように毎日仕事をしている連中だっている。だが、俺のような…いや、このアパートの住人のような、力の強すぎる訳ありな存在は、かえって出歩きすぎると邪魔になってしまうのだ。

俺にその気がなくても、強すぎる力のせいで、周囲の弱めの連中は当てられて使い物にならなくなったりするのだ。

だから、7貴族という種族は、大抵地域管理とか、大きな職についてはいるが、あまり表だってでてくることはない。

話を戻すが、俺の月に一度の仕事。それは、先祖がヴァンパイアで親は完全な人間で覚醒した7貴族に入れないヴァンパイアへの指導だ。人の世に紛れて過ごす以上、ヴァンパイアの生態や状況によって応じる行動など、最低限のマナーとして教えるべきことを教えるのだ。

だいたいの貴族に名を連ねるヴァンパイアは興味を持たず放置して、暴走した彼等が犯罪を犯してしまういことが過去に多かった。それを回避する為の、妖怪の為の臨時学校。その講師なのだ。

普段、日差しを嫌う為に閉じているカーテンを開ける。今日は曇り。それなりに快適に過ごせそうで何よりだ。

「さて、行くか。」

鞄を持って、アパートの扉を出る。ふと、見慣れない小袋があるのに気づき、開けてみると、そこにはチョコレートが入っていた。紙には、がんばれの一言。お隣からの差し入れだ。

「また、血の代償で根こそぎ血を抜かれたらどうしようか。」

お隣だってわかっている。講師として俺が教えることに、必要に応じて血を摂取すること。その為に己の血を差し出すこともある。

同じ種族であれば、強い力を持つ者の血程、数量で空腹は満たされる。だが、全員となったら、先日の二の前だ。それに対して、このチョコレートなのだろう。

「何か、結局俺は血を取られる量の方が多くないか?」

何だかやるせない。だが、仕方ない。

俺は稼業を継ぐつもりはないし、7貴族のお堅い世界に戻るつもりは毛頭ない。むしろ、その連中とつるむつもりすらない。同じ7貴族でも、アパートの住人の方が気は楽だ。

「とにかく、今は帰るつもりはないからな。」

誰もいないその場所で一言。俺はそのまま仕事へ向かう。動く、気配。消えてなくなれば、そこには何もない。

所変わり、とある屋敷の中。

「やはり、戻る意思はないようです。」

報告する男。下がれともう一人の男が言うと、そのままそこから姿を消す。

「本当、そろそろ限界だ。戻ってもらわねば困る。」

男の苦悩。

その頃、渦中の男、あくびをしながら仕事先へのんきに歩いていた。

少しだけ、平和なアパート生活に異変が起きようとしている。

それがどういう結果になるかは、今の彼等の誰にもわからない。

だが、ひとつ言えるとすれば、良くも悪くも、結局人の世からは何事もなく終わっていく出来事となるぐらいか。