I promise that there is it with you.

 

その日、久しぶりにゆっくり休めた。部屋中がしんっと静まりかえり、何だか落ち着かない自分に苦笑する。いつも、朝になればいる賑やかな存在が今はここにいない。

布団を二つ折にしてベッドの端に腰掛ける。肌寒く、震える身体をさすりながら、着替えをつかむ。

ふと、窓の外を見た。

「雪か・・・。」

どうりで寒いわけだ。

はらりはらりと、色と音を吸収するような『白』が空を舞う。

「そう言えば、今日はクリスマスイブか。」

教会では神の生誕を祝い祈る日。自分にとっては、たった一人の妹の誕生日。妹が死んでからは何の楽しみもなくただ過ごしていただけの日。

意識してしまうと、つい思い出してしまう。まだ幸せだったあの頃のことを。そして、守れなかった自分の無力さと後悔。後悔しても取り戻せない時間。いつまでも後悔していても意味がないことぐらいわかっているつもりだ。それでも、未だに忘れることはできない。

あの、目に焼きつく赤は今も消えない。

この雪の白が、あの日の赤を消してくれればいいのに。そんなことを思い、頭をふる。

この日がいけない。さっさと着替えようと、グレンディスは袖を通し、服を着る。寒いからと用意された上着をちらりと見て、それにも袖を通す。

そして、部屋と同じように静まり返った廊下へと出た。カチャンと扉を閉めた音がやけに大きく聞こえる。

今日は、本当どうかしている。いつもうるさいのがちょろちょろしていては自分は怒鳴っていて、毎日構ってくるなと言うというのに。

実際、一人となると本当に一人だけになった気がする。気がすると思っても、実際一人だ。何せ、ここは悪魔が住まう城だ。決して人が住む場所ではないし、種族が違う。

別に、種族差別というわけではないが、魔王後継である彼等と共にいていいわけがない。全ての悪魔が人間に対していいように思っているわけではないし、何より彼等にとって人間は『餌』だ。

そんな自分が彼らと共にいて、彼らにとって得ることなんて何もない。つまり、自分がここにいるのは彼等の気まぐれ。面白い玩具を独り占めする子どものようなものだ。

元々、住まう場所が違うもので相容れるものではない。それに、最後に待つものは死。

彼等のうち誰かが魔王となり、この世界の王として君臨する。その際に人間が側にいることは足手まといだ。足手まといになるつもりはなくとも、自然とそうなってくるだろう。

毎日が賑やかで騒がしくなって、すっかり忘れていた。結局は、自分は一人なのだということを。

この先の階段を降りれば、キッチンのある1階まで降りられれる。しかし、今は行きたくなかった。

自分は、城の中でも侵入が難しい本館の最上階だ。ここにアルシファとエルディーの部屋があるからなのだろうが、実際は空は敵の侵入を突破されにくいから守られている。

二人の身を守ることでもあるが、自分もまた守られている事実が歯がゆい。

悪魔にとって、人間なんて簡単に殺せる。感情も悲しみも持たない。どちらかというと楽しんでいる。それでも、あれらも人間と同じように生きている。だから、臆病な自分は殺せず、自分で手を下さない。

そうやって逃げて、魔界に送り返すか、天界に強制送還してきた。世界のバランスを考えるとその方がいいのだが、自分の場合は逃げであることはわかっていた。

怖いのだ。あの日、はじめて悪魔と遭遇し、自分はその悪魔を消し去った。魔界と天界のどちらかに送ったのではなく、完全なる消滅。あれも生き物だ。たとえ家族を奪った化け物だとしても、人と同じ命あるものであり、自分は手を下した。そう、人殺し。相手が悪魔なので悪魔殺しという方が正しいのだろうが、あの日の感覚がずっと忘れられない。悪魔と同じように、自分もまた一つの命を奪ったという事実が、この日をさらに嫌な日にしていく。

ふぅっと一息ついて、上へと続くはしごのある薄暗い部屋を訪れた。

こんな日は暗いことを考えてばかりで嫌になる。毎年のことだが、今年はより一層嫌になる。

ここは、家族を奪った悪魔が住まう場所なのだ。あの悪魔の身内がいてもおかしくない。

「・・・大分掃除してないな。」

部屋はほこりを被り、白くなっていた。誰も掃除しないなら毎日暇もあることだし掃除しようかと考えるグレンディスははしごを下ろして上へと上った。

小さい屋根にある扉を開けば、そこは城を見下ろせる一番高い屋根の上。

腰掛けて、ただぼんやりと外を眺めた。魔界と言われても人の世と何ら変わらない。

だから、いつも期待してしまう。父と母、そして妹も、人の世で生きられなくなり、違う世界で生きているのではないかという期待。

理由は、母から受け取った日記に隠された言葉に記されていたこと。

母は、人間ではなかった。リルムの母が元々は人間であったが、彼女の母となる前から魔族であったように。自分の母の場合は、はじめから人ではなかったのだが。

この、自分の中に流れる血が恨めしい。なくしてしまいたい。何も知らない愚かな人間のままでいたかった。

自分は、悪魔が・・・魔王が嫌う神族の血が流れている。あの力を扱えるのもその影響で、自分自身は何もないのだ。

知られてしまえば、きっとすぐに殺されるだろう。最近そう思う。裏切るも何もないが、彼等にとっては自分が彼等の『敵』側にいる者ならば知らせないまま共にいるのは裏切りだろう。

「どうやって殺されるんだろうな。」

あと、誰によって殺されるか。考えるだけで沈むが、誰なら自分を殺してくれるかと考えたら、少し楽しくなった。そんな自分がおかしいと思いながらも、考えてしまう。

誰がどうやって自分を殺すのか。大切な人に裏切られて殺される。それが一番こたえるのだろうけれど、大切な『家族』はもういない。だけど、自分の心の隙間にあの五人は入り込みすぎた。

きっと、誰に殺されても痛いだろう。同時に、笑ったまま死ねるかもしれないとどこかで思ってしまう。

自分の死に場所を探して選ぶなんてらしくないし、昔のようにもう死にたいとは思っていないはずなのに、変な感じだ。

ふっと立ち上がり、屋根の端に立つ。見下ろす下。ここから落ちたら死ぬだろうな。そんなことを思った。

「っ?!」

急に吹いた強い風。よろけた際に足を踏み外す。

「あ・・・。」

身体が傾くのがわかった。何もない宙に投げ出されるのを感じる。

ここで、このまま死ぬのだろうか。

意外と、速いはずなのに落ちるのはゆっくりだなと、そんな暢気なことを考えていた。

「何をしておるかっ!」

声と共に突如現れた何かに視界が塞がれる。

「・・・ドルフィーヌ王。」

「それはやめろと言っただろう?フィナでよいと言ったではないか。」

まったくといいながら、彼女に担ぎ上げられた格好のまま、地面へと着地する。

「それで、何故あのようなことになっておったのだ?危ないであろうが。」

「ああ・・・えっと。・・・誰に殺されるかとちょっと検討してました。」

何故かそんなことを答えていた。間違ってるわけではないが、言ったあとであっと口を押さる。

しかも、彼女の表情が曇ったため、まずいことを言ったかなと思って、何から言えばいいのかわからないが、とりあえず気に触ったのなら訂正しようとした時だった。

「馬鹿者。ここでお前の命を狙う者などおらん。そもそも、そのような輩がおれば、我等が始末しておる。」

はっきりそう言い切る。胸を張ってそう言い切る。味方であるのなら、何より心強い相手だが、相手が悪い。あくまでも自分は人間であり、悪魔を倒す側である。彼女達はそんな自分達が倒す対象である魔王と後継者だ。相容れるものではない。

「なら、私が殺して下さいと願えば、貴方は殺してくれますか?」

冗談のつもりだが、どこかで願っていたのかもしれない。真剣に真っ直ぐ見つめ、心から叫ぶように訴えかける。

さすがに彼女も何かを感じたのか、先程までのお調子者のような笑みは消えていた。

「何故、そのようなことを考える?」

「今日という日がそうさせるのですね。きっと。」

だから、気を持ち直さないといけない。余計な心配をさせないために。隠してしまわなければいけない。これ以上、今という日常に慣れて抜け出せないようになる前に。

家族のことに捕らわれないようにするため、自分を立て直さないといけない。

慣れつつある日常と同じように朝を迎えられたらこんなことを思わなくて良かったのかなと思って、都合よく思う自分に苦笑する。

「人であるが故、魔界の空気は会わぬのか?」

「いえ。こっちはなれましたよ。それはもう、不思議なぐらい。・・・ただ、賑やかな中にいると、忘れてしまうんです。私は一人であるということを。」

一人残されてから、一人でいた。周囲にたくさん人がいたけれど、どこか距離を作ってきた。そうしないと、また失った時が怖いとどこかで思っていたからだろう。

「そんなこと、考える必要はなかろう?我等魔族は、一度交わした契約を違えたりはせぬ。我等はお前を気に入っておるから契約を交わした。まぁ、一方的だったがな。」

子どもに言い聞かせる母のようなドルフィーヌ。やはり、魔王であっても母親であるのには違いないのだなとどこかでそう感じた。

「魔族は気に入らぬことには納得せぬし屈服したりはせぬ。人と同じで誇りが無駄に高いから問題じゃが・・・我等はお主が望むのなら、望む全てを叶えよう。魔王の王座が欲しいのならくれてやるぞ?魔王が指名すれば誰も反対はせぬしな。何より、お前は十分強い。」

「そんなこと、ないですよ。ただの、弱い人間にすぎませんよ。」

「ただの弱い愚かな人間だったら、我等とて興味はもたぬ。神具が扱えるだけで興味を持ったわけでもない。お前自身に我等は興味を持ち、人で言うのなら共にありたいと、お前が好きだと思った、ただそれだけのことだ。お前は我等のことが嫌いか?」

その問いかけに、グレンディスは首を横にふる。悪魔なんて、自分の立場からして好きになるつもりはなかった。しかし、ここへ来てから、滅茶苦茶で話が通じない者達が多いが、人よりいい奴だっているのはすでに知っている。

何より、一人という囲いの中にいた自分を引っぱりだしたのがあの5人だ。最近は忘れていた、忘れるように言い聞かせていた寂しいという感情を引き出したのが彼等だ。

嫌いかときかれると、きっと首を横に振るだろう。それほどまでに、彼等は自分の胸のうちに入り込んでいた。

「何を悩んでおるのかは知らぬが・・・自分の命を粗末にすることだけは許さぬぞ?」

そう言い、ドルフィーヌは右手に触れる。そして、腕輪に刻まれた名前を一つ一つなぞりながら、とんでもないことを言い出したのだった。

「我等が魔族でお前が人であること。その違いが苦痛であるというのなら、魔族よりも上に立てばよい。」

ドルフィーヌは右腕の漆黒の腕輪に文字を刻んだ。それは彼女を示す名だった。

さすがに魔王までそんなことをするとは思わず、驚くグレンディス。

「これでお前は我の旦那候補だ。」

と、笑っているが、グレンディスにとっては笑い事ではない。すでに可笑しなのに懐かれているが、魔王となれば話の次元が違う。

「ちょっとっ、契約するつもりはないですので解約して下さい!」

変なことに巻き込まれたくないし頼むが、目の前の相手は聞いちゃくれない。

「それは無理じゃ。まぁ、話し相手となってくれればそれでよい。魔王は日々退屈なんでな。」

「そうではなくて・・・。」

「ん?友よりもやはり我の旦那となる方がよいか?」

「いえ、それはご遠慮させていただきます。」

「まぁ、硬く考えるな。これで、お前を殺しにくる馬鹿はいなくなった。まぁ、我に反抗する馬鹿が実際いるから全てにおいて安全というわけではないがな。何を思って死を望むのかは知らぬが、死を選べば悲しむものがいるということを忘れるなよ?魔族とは言え、人と同じで失えば悲しむ心を持つものだっておるのだからな。」

その腕輪に名を記した者達は彼を受け入れたこそ、契約を交わした。ただのモノであるのなら、意志や感情を消した人形としている。それをしないことの意味をまだ彼はわかっていない。

違うものである。それでも結局は聖なるものも人も魔なるものも、同じものなのだ。

「その腕輪に刻まれた名はただ縛るものではないぞ。共にあることを誓うものでもある。」

支配と誓いは違う。

「それよりも、今晩はパーティだ。皆すでに集まっておる。」

部屋におらぬから騒いでおったぞと言われ、ポカンとしていたグレンディスを肩に荷物のように担ぎ上げる。

バランスを崩してついドルフィーヌの首に抱きつく。

もう、なんだかどうでもいい気がしてきた。

「ディー!」

「母様!」

向こうからアルシファとフェンがやってきた。

「どこにいってたんですか?しかもこんなに冷えて。」

アルシファはドルフィーヌからグレンディスを奪いとり、自分の上着をきせた。

そんな世話をやくアルシファ。自分の日常に割り込んできた彼等。手放せないのは彼等悪魔ではなく自分かもしれない。

最悪だと思う。それが顔にでていたのか、フェンがしゅんとする。

「ディー様。パーティは嫌い?」

そんな彼女の問いかけに、変な心配させてしまったなと苦笑する。

「何でもないよ。で、パーティって何をやるんだ?」

「もちろん、食べて騒いで・・・ゲームをやる!」

「行きますよ、ディー。」

帰れば迎えてくれる人がかつていた。だけど、失ってから二度と自分の元にはないものだと思っていた。

自分を引っ張る二人。ちらりと右後ろを歩くドルフィーヌを見ると、笑みを向けられた。

「あ、やっと戻ってきた。」

シーラスカが近づいてきて、相変わらずフェンに何か言ってはふられながら、席について全員で乾杯する。

賑やかになった。朝の色あせた世界から色づいた世界へと変わる。

彼等が望むのなら、もうしばらくここにいようかと思った。

 

 

 

 

間違って飲ませてしまったソーダ水。おかげで酔っ払いと化したグレンディスを宥めて部屋に戻ったアルシファ。

酔っ払うと甘えるのか、人が恋しくなるのか、普段とは違って近寄ってくる彼。

「片付けは終わった。」

部屋にイルドゥカが入ってきたが、アルシファはわかったとだけ返し、振り返りもしない。

「・・・魔界で、心細いのかもしれないぞ?」

「・・・うるさいですよ。」

まったくとため息をつくイルドゥカは寝顔をじっとみていいるアルシファに言う。

「構い倒して嫌われないようにしておけ。」

「・・・。」

ちらりとイルドゥカを振り返って睨むアルシファ。

「彼が嫌がっても、側にいるつもりです。」

「相変わらずだな。・・・時期魔王がふらふらしていたら、彼に迷惑がかかることだけは覚えておけ。」

「貴方にだけは言われたくありません。」

「それもそうだな。」

くすくすと珍しく笑うイルドゥカに腹立たしさを覚えるアルシファ。

「我とて、彼とは契約を交わした身。何かあれば手助けをしてやる。」

「・・・。」

「一人で背負い込むのだけはやめておけよ?お前の悪い癖だ。」

昔から、様々なことを一人抱え込んでは悩み、それでも解決してきた。それ故に隠すのはとてもうまい。

今回、彼が人を連れてきたのは驚かなかったが、人を殺さずそばにおいているというのに驚いた。彼は、側に誰かを置くことを嫌っているからだ。

全てはイルドゥカが王座に着かぬ故、次期魔王として肩に責任がのしかかっている。

それは自分が悪い。わかっているからこそ、気にかけていた。それが、少しずつ変わりつつあるのに気付き、嬉しい限りだ。

だが、彼は大切なものを守ろうとするが、同時に壊してしまうことがある。それは、わからないからだろう。彼は常に周囲に偽りで塗り固められた者達しかいなかったから。

「いくら、我等の印を受けたと言えども、神具を持つ以上、危険なのは変わりない。お前も不器用だからな。せめて、エルディーには頼るようにしたらどうだ?」

頼らないという点では、グレンディスも似ているとイルドゥカは思う。

「グレンディスはかつて、悪魔によって家族を奪われた。その日から一人きりだった。」

イルドゥカの言葉にはっと顔をあげる。

「今日、妹の誕生日だったそうだ。以前、彼が持つ日記を見せてもらった。賑やかに過ごしていた記憶から、反動で人が恋しくなるのだろう。なら、我等がそんな寂しいと感じる暇もないほど楽しませればよかろう?」

お前がそんな顔をしていたら楽しめるものも楽しめんと言われ、何かを考えたままアルシファはグレンディスの寝顔を見ていた。

「目を覚ましたら彼に言ってやれ。『もう一人ではないのだから、一人抱え込まずに頼って欲しい。』とな。お前にも言えることだが。」

それだけ言って、イルドゥカは部屋から立ち去った。

「お話は終わったの?」

「ああ。」

「兄貴、また悩んでたのか?」

「まぁな。すぐに復活するだろう。シーラスカに関してはもう少し反省してほしいものだがな。」

「何でそこで俺がでてくるんだよ。」

四人で賑やかに会話を繰り広げながら、広間へと歩く。

 





あとがき
ソーダ水・・・私はあまり好きではないが、これで酔うような感じになれる人いるのだろうか。